Bill Evans / A Simple Matter Of Conviction ( 米 Verve V6-8675 )
1962年に "Empathy" で共演したシェリー・マンと4年後に再会したアルバムで、ベースはレギュラー・メンバーのエディ・ゴメス。
"Empathy" の素晴らしさを知る者は期待して聴くけれど、少し肩透かしを喰う。
冒頭のアルバム・タイトル曲はエヴァンス自作の良い曲で、演奏にもキレがあって素晴らしいのだが、なぜかすぐにフェイド・アウトされて
拍子抜けする。その後にスタンダードとなり、演奏は闊達でよくできているが、どうもあまり新鮮味がない。エヴァンスのオリジナル曲は
どれもいいのだが、スタンダードの解釈に冴えがなく、これが足を引っ張っているような印象だ。
エヴァンスのピアノはしっかりとしたタッチで、リズム感も相変わらず見事だ。ただ、シェリー・マンが前作と比べると大人しく、
あまり前へ出てこないのがもったいない。これであれば、他のドラマーと大差ない。全体的には中途半端な印象に終わる。
このレコードはヴァン・ゲルダー録音で、ステレオ、モノラル共に彼の刻印がある。ところが、これがヴァン・ゲルダーの悪い面が
全面に出ているように思う。曇りガラスのようなピアノの音はまるでブルー・ノートのソニー・クラークにそっくりで、エヴァンスの
ピアノの音色の良さが出ていない。どうしてこういう音にしてしまうのか理解に苦しむが、その代わりにステレオ盤の方はベースの音に
輪郭があり、シンバルの音に輝きがあって、そこに救われる。空間を意識できる残響もあり、このアルバムはステレオ盤の方がいい。
Bill Evans / A Simple Matter Of Conviction ( 米 Verve V-8675 )
モノラル盤は音圧は十分にあるが空間が表現されておらず、その部分で不満が残る。更にピアノの音が不自然な曇り方をしているので、
アルバム全体が暗い印象だ。エヴァンスの良さを殺してしまうヴァン・ゲルダーは、はっきり言って邪魔な存在だ。このアルバムは
彼の刻印が無い盤を探して聴く方がいいのかもしれない。