Chet Baker / Smokin' ( 米 Prestige PR-7449 )
黒人ジャズのイメージが強いルディ・ヴァン・ゲルダーだが、ちゃんとチェットも録っている。 1965年8月の3日間でアルバム5枚分の録音が行われている。
それらを例の "~ing"シリーズとして、ひどいセンスのジャケット・デザインで5枚もリリースしている。 そのせいで誰も見向きもしないレコードになって
しまったけれど、この時の演奏は極めて良質なミディアムハード・バップで、実はとてもいい演奏なのだ。 この時期トランペットが盗難に遭ったせいでフリューゲル
ホーンを吹いていたから、ブラインドでこれを聴けばきっとアート・ファーマーのクインテット作品だと思うだろう。
そして何より、ジョージ・コールマンのテナーが抜群にいい。 理知的で、上手くて、魅力的な音色だ。 この2人はガツガツとした野心がなく、音楽を自分の
手許に手繰り寄せるようにして演奏をして、形式的にはハード・バップではあるけれど地に足の着いた音楽になっていて、一聴してすぐにこれはいい音楽だと
直感的にわかるようなところがある。 この辺りが一流の証であろうと思う。
ヴァン・ゲルダーの録音もクセのないナチュラルでクリアな音で、とても好ましい。 このグループの音楽にはよく合っている。 ヴァン・ゲルダー・サウンドは
何もブルー・ノートのような大袈裟にデフォルメされた音だけだった訳ではなく、実際はもっと多種多様なのであって、アレはアレ、コレはコレなのだ。
あまりにもパシフィック・ジャズの音楽のイメージが強い人だけど、本人はもっと本流のモダン・ジャズをやることを元々望んでいた。 だから、この録音は
本人にとっては嬉しかったのではないだろうか。 聴く側も表面ヅラだけに囚われず、もっとこのセッションのことを見直すべきではないだろうか。