Matthew Gee / Jazz by Gee ! ( 米 Riverside RLP 12-221 )
50年代のアメリカ国内のジャズシーンの実態なんて今の我々にはわかるわけがないので、なぜこのレコードが制作されたのかはよくわからない。 レーベルが
立ち上がってまださほど時間が経っていない1956年という時期の録音で、オリン・キープニュースもセールス度外視でアンダーレイテッドな演奏家を世に出そうと
いう熱い志をまだしっかりと持っていた頃だったからかもしれない。 なにせ、レナード・フェザーが「バップの洗礼を受けたトロンボーン奏者の中でも最も優秀で
且つ最も過小評価されている1人」と言っていたそうだから、この当時ですら知る人ぞ知る存在だったようだ。
マシュー・ジー名義のアルバムはこれ以外にはアトランティックのグリフィンとの共同名義のアルバムしかないはずだけど、基本的にはビッグ・バンドを渡り歩いた人
として実際は他にもいくつかのレコードでその演奏は聴けるようで、例えばカウント・ベイシーのヴァーヴ盤 "Basie In London" のトロンボーン・セクションの中にも
この人は入っている。 そうやって無意識の内に、私たちはこの人の演奏を実はどこかで聴いているのかもしれない。
A面はアーニー・ヘンリーを加えたクインテットの演奏で、アーニー・ヘンリーはこれが初レコーディングになる。 そしてこの翌日に彼のデビュー作を録音することに
なるのだからこれはいい肩慣らしになったはずだけど、それでもその演奏はまるでデビューしたてのコルトレーンのように覚束なく、フレーズもたどたどしい。
一方のマシュー・ジーは何となくソロを取り慣れていない感じで、単発的に大きな音を出すけれど長いフレーズでは音量が小さく弱々しい。 フロントの2管が
そんな感じだからバックの楽器の音がよく聴こえて、ウィルバー・ウェアーのベースやアート・テイラーのドラムが生々しく前へ出てくる。 各楽曲はどれも一応は
ハードバップだけど尺は短めで、レコーディングに慣れていない2人のための習作という雰囲気が漂う。
B面はケニー・ドーハム、フランク・フォスター、セシルペインが加わったセプテットで、こちらは先のクインテットの1か月前の収録。 ビッグ・バンド畑の彼に
合わせるために多管編成にしたようだ。 即席アンサンブルにしては一糸乱れぬ纏まりようで、さすがに上手い。 ここでもアート・テイラーのリズム・キープが
しっかりしていて、それがとてもいい。
第2作が作られなかったのはレーベルの意向というよりは、本人の意思によるものだったんじゃないだろうか。 他のレーベルが手を出さないアーティストだから、
後発のリヴァーサイドとしては自分が育てたという形にすることを望んだはずだけど、このレコードで聴く限りではトロンボーンの演奏に感銘を受けるような
ところは感じられない。 それはマシュー・ジー本人が一番よくわかっていたことだろう。 でも、マイルスもコルトレーンもレコードデビューしたての頃は
似たような感じだったんだから、マシューもここで諦めなくてもよかったのになあと思う。 音楽自体は意外と真っ当なハードバップになっていて、バップファンには
歓迎される内容だし、録音の場数さえ踏んでいればきっといい作品が残っただろう。 そういう可能性みたいなものを感じるところはあると思う。