Jim Hall / ...Where Would I Be ? ( 米 Milestone MSP 9037 )
ジム・ホールは70年代に入ってからは、まるで人が変わったかのようにギターを弾きまくるようになった印象がある。 それまでの演奏は音数少なく、ジワ~と
ぼかしたトーンで空気を淡く染めるような感じだった。 引っ込み思案な性格も手伝って、常に後ろのほうへ隠れるような印象があったが、70年代以降は
ギターアルバムの制作のされ方が変わってきたこともあり、前面に立ってしっかりと弾くようになった。 だから、彼の代表作は70年代に集中している。
その中でも、この地味なアルバムは1,2を争う内容となった。 一般的にこの時期の名盤と言われるものはライヴ録音が多いが、スタジオでしっかりと作り込まれた
この作品は、当時ブラジル音楽に興味を持っていた彼の嗜好がにじみ出ている。 露骨に南米音楽をやってはいないところが如何にも彼らしいが、それでも
それが趣味のいいアクセントになっている。
バックのピアノトリオもジム・ホールのデリケートなスタイルにきっちりと合わせていて、彼の小さめなギターの音を決して邪魔しない。 彼は大きな音でグループを
制圧するのではなく、小さな音でバンドを統率するのだ。 まるで「北風と太陽」を地で行くかように。
タイトル曲の繊細なバラードや彼の有名な自作 "Careful" など、収録されている楽曲はどれもが魅力的で、それらが精緻な演奏で展開される。 落ち着いた
演奏が多いにも関わらず、聴き終えた後に残る充実感としての手応えは大きい。 60年代のアメリカ芸術界のミニマリズム運動のことを意識していたのかどうかは
定かではないけれど、ジャズ界では早くからこのミニマリズムの先駆者のようなことをやっていたジム・ホールの音楽は、この70年代に完成したのかもしれない。