Roy Ayers / Virgo Vibes ( 米 Atlantic SD 1488 )
ハード・バップをやらないミュージシャンは相手にしてもらえないこの偏狭な世界において、ロイ・エアーズは当然のように認知してもらえない。
ただ、デビュー後の数年間は良い仲間にも出会えて、しっかりとジャズをしていた。世代的にはハード・バップをやるには生まれたのが遅過ぎた
世代なので音楽の感性も次世代的なものだったが、初期のアルバムは内容がとてもいい。
チャールズ・トリヴァーとジョー・ヘンダーソンが加わるサイドと、トリヴァーに加えてハロルド・ランド、ジャック・ウィルソンに代わるサイドに
分かれるが、この2つのセッションがまるで違う雰囲気になっているのが面白い。演奏家の個性がそのまま音楽に反映されている。
ジョー・ヘンダーソンが入るサイドは明るい演奏で程よくファンキーだが、サイドが代わるとグッとシブく深みのあるブルース感が溢れ出す。
ハロルド・ランドとジャック・ウィルソンの組み合わせはこれ以外では知らないが、これがすごくいい。ミルト・ジャクソンのように誰とやろうが
全てを自分色に染めるタイプとは違って、共演者の色に上手く溶け込んでその都度違う音楽を生み出すのがこの人の才能のようだ。A面とB面で
こんなにも雰囲気が変わるアルバムも珍しい。
ハロルド・ランドの太く重い音色、トリヴァーの気怠い旋律がゆったりと流れる中、ジャック・ウィルソンの独得のピアニズムが音楽を主導する。
そして、その流れがロイ・エアーズに引き渡されて曲が静かに終わる様は素晴らしい。よく考えられた構成になっていて、全編通して聴き終わった
あとには深い余韻が残る。50年代のジャズにはなかったメロウ感が取り込まれるようになったのはこの辺りからかもしれない。