Milt Jackson & John Coltrane / Bags & Trane ( 米 Atlantic 1368 )
ミルト・ジャクソンが作るブルージーな空間にコルトレーンの重厚なテナーが響く。墨を流したような漆黒の世界が拡がる。
コルトレーンはフレーズを吹いてはいるが、それよりはテナーの音色そのもので音楽を創出しているような感じだ。それはミルト・ジャクソンも
同様で、アドリブが命とされるジャズの本線からは外れるような印象すらある。2人はその唯一無二の音色を幾重にも重ねることで音楽を
描いているようだ。コルトレーンがヴィブラフォン奏者と演奏しているレコードはこれしかないが、彼の重たい音色がヴィブラフォンと
こんなにも相性がいいというのは驚きだ。
そして、フロントの2人以上に耳を奪われるのはポール・チェンバースのベースだ。ベースの音が上手く録れているということもあるが、
チェンバースのベースが唸りをあげている。この音楽を引っ張っているのは、このチェンバースかもしれない。いつもの後乗りではなく、
イン・テンポでリズムをキープしながら、一音一音が唸り声を上げている。温厚なチェンバースが牙をむいた凄みに身がすくむ。
コルトレーンはミルト・ジャクソンを立てたバランスのいい演奏をしており、全体的にうまく纏まった音楽になっているが、どの楽器も
よく鳴っていて、骨太で極めて硬派なジャズに仕上がっている。あまりに本格派過ぎて、聴いていてちょっと怖くなる。
コルトレーンのアルバムとしてはいつも奥の方に隠れているが、これは非常によくできている。キャリアとしてはだいぶ格上の大先輩と
がっぷり四つに組んだ様が素晴らしく、コルトレーンが自立したことをはっきりと示すシンボリックなアルバムと言っていい。