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Kenny Barron / At The Piano ( 米 Xanadu 188 )
ケニー・バロンのような音の美しいピアニストの演奏は音のいい媒体で聴いて初めてその真価がわかる。 そういう意味では、このレコードは彼のピアノの
素晴らしさを味わうにはうってつけだ。 ザナドゥという廉価レーベルは基本的に高音質とは無縁のレーベルで、カタログのラインナップは地味ながらも
愛好家が密かに愛するタイトルがたくさんある優良レーベルながら、サウンドの心地よさを求める向きには評判が芳しくない。 よく知っている愛好家なら
このレーベルのレコードには初めからそういう面での期待は放棄してかかるのが普通だろうと思うけど、このレコードは珍しい例外作品になっている。
レコードから流れてくる音の質感はクラシックのピアノのレコードのようだ。 ホールに響く心地好い残響の中でアコースティック・グランド・ピアノが
深みのある音で鳴っている。 静かに聴き入りたい音。
ただ、そう感じるのは音質のせいだけではない。 この人のピアノは基本的に非常にクラシック的だ。 ジャズっぽくなく、クラシックのマナーが前面に出る。
それがこの録音の特質とマッチして、アコースティック・ピアノの快楽を味合わせくれる。
ソロ・ピアノでジャズの巨匠たちに想いを馳せた作品だが、白眉はストレイホーンの "The Star-Crossed Loves" と自作の "Enchanted Flower"。
前者は物思いに沈んだような思索的な表情が素晴らしく、これはこの曲の筆頭の演奏だろう。 後者はキースが弾いた "My Back Pages" のような
フォーク調のメロディーを持った愛らしい曲で、これも忘れ難い余韻を残す。
これを聴いていると、自分の中で知らず知らずのうちに歪んでしまった何かがゆっくりと矯正されていくような気がしてくる。
このアルバムは、いずれは自分にとって特別な1枚となっていくのだろうと思う。