Shirley Scott / Oasis ( 米 Muse MR 5388 )
CDを聴いて良かったらレコードも買ってしまうというのは、我々おっさん世代特有の現象なのかもしれない。 つまり、CDというのはあくまで
かりそめの姿であり、正しくはレコードで聴くもの、という意識がどこかにこびりついている。 しかも、2000年以前の録音については
レコードの方が音がいいものが多い、という面倒くさい話もある。 ストリーミングやダウンロードで音楽を聴くことが普及すると、
CDというのはデータを貼り付けたただのボードじゃん、という認識が進み、ますます有難みが薄れていったりする。 だからそれが高じて、
最近の録音物はCDの音が良くなっていてアナログとの差はないのに、つい同じことをしてしまう。
そういうおっさんの純情を弄ぶかのように、先行リリースはCDのみでアナログ発売は数か月後にずらしたりして、しかもそこにはダウンロード用の
コードが付いていたりするもんだから、気が付くと3種類の音源が手許に残っていて、俺は何をやってるんだと首を振ることになる。
この作品は何年か前にCDで聴いて内容の良さに驚いて愛聴していたが、最近になって安レコを見つけて聴いてみたらCDとの音質のあまりの差に
愕然とした。1989年録音なのでレコードのプレス枚数がもともと少ない上に、シャーリー・スコットのレコードなんて日本では誰も買わないから、
これが流通量が少なくて意外にも入手困難盤になっている。 レコードで聴いてしまうと、もうCDには戻れない。
これは極めて上質で品が良くカッコいいモダン・ハードバップの傑作。 何と言っても、冒頭の "Oasis" が刑事物の映画のテーマ曲にピッタリ
くるようなビターな味わいと深い哀愁を湛えた名曲で、これがカッコいい。 シャーリー・スコットのオルガンはアーシーやファンキーとは無縁の
穏やかな雰囲気で、これが都会の夜の雰囲気を濃厚に醸し出している。 サックスやトランペットも音数少なく大人の表情で、クールで苦み走った
雰囲気がやたらとカッコいい。シャーリー・スコットがオルガン・トリオで弾くスタンダードもスマートで洗練されていて、アルバム全体がこのまま
サウンドトラックに使えそうな雰囲気だ。
レコード売り場のCDとレコードの設置面積が逆転したこの時期にリリースされたレコードは、安価だが弾数が少なく、なかなか見つからない。
こうやって猟盤の新たな愉しみが増えていくのだ。