Jimmy Heath / On The Trail ( 米 Riverside RM 486 )
ジミー・ヒースはリヴァーサイドにたくさんレコードを残していて、我々にとってはエサ箱の常連なので見る機会の多いアーティスト。 私も結構たくさん
聴いてきたけど、結局手許に残っているのはこのアルバムだけになってしまった。 ウィントン・ケリー、ケニー・バレルらがバックを支えるワンホーンで、
ジミーのテナーは冴え渡っている。 このアルバムはこの人の実像をヴィヴィッドに伝えてくれる素晴らしい内容だと思う。
抜群に上手いテナーを吹くし、作品もたくさん残っているから、もっと人気があっても良さそうなものなのにイマイチなのは、モダンの主流からは微妙に
外れたアーシー一歩手前の音色と感覚を持った独特の位置感のせいだろう。 その音色とフレーズはどこかテキサス・テナーを連想させるけれど、決して
そこまでバタ臭くなく、かと言って都会的ということもなく、音楽的にも目立った特徴が見られることもく、全体的にグレーゾーンにいた人だ。
マイルスはバンドメンバーに穴が開いた時によくこの人を臨時で使ったけど、常設メンバーに抜擢されなかったことからもその感じがよくわかる。
でも、ここでは目から鱗が落ちるような明快なハードバップを披露している。 何にも気兼ねすることもなく、自然体で非常に上質な音楽で圧巻の仕上がり。
なまじ作曲や編曲ができたからアルバムには色々と趣向を凝らしたものが多い中、このワンホーンはプレーヤーとしての力量がそのまま発揮されている。
サックス1本で全曲最後まで飽きさせずに聴かせるのは難しいことで、それができたのは限られたビッグネームだけだろうと思うけど、このアルバムは
そういう名盤群に入れても何の遜色もない。
中でも、サラ・ヴォーンが好んで歌った "Vanity" と "I Should Care" のバラードが最高の出来。 この人にはバラード・アルバムを作って欲しかった。
これを聴けば、誰しもそう思うだろう。
おまけに、このレコードは最高に音が良い。 オルフェウムはこういうのがあるから、決してバカにしちゃいけない。