Bengt Hallberg / S/T ( 米Epic LN 3375 )
金曜日の夕刻、du cafe 新宿に立ち寄った後に拾った安レコ。 20年以上前に聴いた時は至極つまらないという印象だったが、今聴くとどうだろう、
という興味で拾ってみた。 こんなレコードでも昔はそこそこの値段が付いたものだが、イマドキはジャンク扱いらしい。 オランダ・フィリップス盤が
オリジナルだからということなんだろうけど、提携関係にあったこのエピック盤も同時期の発売だし、こちらのジャケットの方が秀逸だ。
エピック社は発売にあたり、アメリカでは無名だったベンクト・ハルベルグを紹介するためにレナード・フェザーにライナーノーツを書かせているが、
相変わらずこの人の文章は読みにくい。 悪文という程ではないにしても、もっと素直に書けないのかとうんざりしながらいつも読むことになるが、
ピアノのタッチが際立っているという的確な評価がされていて、おかしな内容ではなかった。 欧州の状況をレポートするために1951年の夏には既に
渡欧していて、その際に現地でハルベルグを知ったということだから、評論家としてはまともな人だったんだろう。
今の耳で聴いてみるとかつて感じたほどつまらないということはなく、アメリカ人以上にアメリカらしい正統派のピアノトリオで、汚れ知らずの端正
極まりない音楽になっていることに感心させられる。 "I'm Coming, Verginia" や "Sweet Sue,Just You"、"Dinah" のような古い曲が中核になっていて、
まるでビング・クロスビーやミルス・ブラザーズのインスト版という感じだが、古臭さは全くなく、すっきりと整理された新鮮さがある。
ピアノのタッチもしっかりとしていて、音の粒立ちが良く、歯切れもいい。 北欧のアイデンティティのようなものを見せることなく、アメリカの音楽に
自らを完全に同化させていて、ひとまずはジャズという音楽への敬意を表したということだったのかもしれない。 そして、それは成功している。
スタン・ゲッツの北欧滞在時のパートナーとしての重責をきちんと果たし、同じく北欧を訪れたクインシー・ジョーンズを「ジャズを理解している若い
ピアニストがいる」と喜ばせた優秀な才能が、ここには記録されていた。 かつての印象は間違っていた、と反省した週末だった。