Cannonball Adderley / Plus ( 米 Riverside RLP 388 )
ファンクへと舵を切る前に、ハード・バップの総決算として録音したキャノンボールの傑作。音楽の雰囲気は完全にブルー・ノートで、リヴァーサイド
のイメージとはあまり合わない。マイルスに倣って自己のバンドを作ったが、メンバーがまだ安定せず、バンドとしての音楽ポリシーが固まる前の
時期だが、それが却って功を奏したかたちになっている。
キャノンボールはビル・エヴァンスとの共演でそのピアノが気に入ったのだろう、まずはヴィクター・フェルドマンに声を掛けている。黒人ピアニスト
にはないフィーリングをバンドの中に入れたかったのは明白で、フェルドマンは期待を裏切らない見事なピアノを弾いている。この時期、他にも
ボビー・ティモンズやバリー・ハリス、このアルバムのようにウィントン・ケリーなどリヴァーサイドお抱えのピアニストも試しているけれど、
私はフェルドマンとのコラボが1番良かったと思う。だから長続きしなかったのは残念だ。
フェルドマンはピアニストとしては独特の和声感を持っていて、それが彼の演奏を他から一段上へと際立たせているけど、ヴィブラフォンに回ると
没個性的になってさほど面白くない。このアルバムでもケリーがピアノを弾く曲ではヴァイブに回っているけれど、これはちょっともったいない。
ケリーに罪はないけれど、同じポジションに2つの才能を置くのは作り方としてはあまり上手いやり方とは言えない。フェルドマンだって自分の
存在意義に疑問を持ってしまうだろう。
このアルバムのいいところは、楽曲のテーマ部にリフだけで済ますことなくきちんとオリジナルのメロディーがあり、それらにハード・バップ
固有の哀感が込められていることや、メンバーのソロがしっかりとしていて、演奏全体が上手く纏まっているところだ。パーカーの愛奏曲を
両面に取り入れるなど、構成の意図も明確。リヴァーサイドのいろんなアルバムで存在感を見せるサム・ジョーンズのベースの音もうまく録れて
おり、サウンド面も良好だ。
音楽教師でもあり、有能なプロデューサーでもあったキャノンボールの知性が上手くブレンドされた良質なハードバップとして、もっと評価
されていいアルバムだと思う。