Hal McKusick Quintet / Fraturig Art Farmer ( 米 Coral CRL 57131 )
アート・ファーマー、エディ・コスタを迎えたマイルドなハードバップ・セッションだが、このメンツならではのサムシングに欠ける。 やはりファーマーの
存在感が強く、実質的にはアート・ファーマー・クインテットという感じになっている。 マクシックの良さは奥に引っ込んでいて、全体的にはファーマーが
ジジ・グライスとやったクインテットの音楽によく似ている印象だ。 あのバンドの音楽監督はジジ・グライスかと思っていたが、案外ファーマーが中を
仕切っていたのかもしれない。
これを聴いていると、マクシックの弱点が見えてくる。 バンドという形になった時に音楽的リーダーシップをとれないということだ。 エディ・コスタは
得意の低音域を強打する奏法を封印してサポートに徹しているので管楽器がどう演奏するかに焦点が集まるけれど、先陣を切るのは決まってファーマーだし、
楽曲のアレンジもファーマーのアルバムで聴けるものだから、マクシックの音楽を聴いているという感じがまったくしないのだ。 私自身はファーマーが
好きだからこれはこれで何も問題ないけれど、ハル・マクシック・クインテットと言われると「そうはなってないんじゃない?」と言わざるを得なくなる。
我が俺がと前に出ようとする個性がすべていいとは言えないにしても、個人商店として活動していくには向いていなかったんだろうなと思う。
とは言え、演奏者はみんな腕利きばかりが揃っていて、闊達な演奏が聴けるいいアルバムに仕上がっている。 コーラルは一般大衆向けレーベルだから
もともとシリアスなジャズを録音する意図などなかったはずで、そのラインにうまく沿った本流のハードバップとして上質な演奏に十分満足できる。
ミュージシャンというのはある程度の大物でない限り、録音するレーベルの意向に沿うことが必要だったのだから、こちらもそれを前提にして聴かなければ
いけなくて、その印象が自分好みじゃないからと言って切って捨てるのは拙速。 いつの時代も世の中はいろいろとややこしい。