Art Farmer / Farmer's Market ( 米 Prestige PRLP 8203 )
アート・ファーマーは何をやらせても上手過ぎる。 どの演奏を聴いてもいとも簡単そうにやってのけるから、その凄さがこちらに伝わってこない。
長い演奏活動の中で残した作品数は膨大で、そのクオリティーに出来不出来の差があまりないことから、中堅扱いされることすらある。
でも、それは改めて言うまでもなく、間違っている。
50年代のトップランナー集団の中で激動の時代を乗り越えて長く最後まで第一線で活躍して、リーダー作品を安定して残したのはほんの僅かしかいない。
マイルス、ロリンズは別格としても、スタン・ゲッツくらいとは同格の扱いをされていいはずなのに、そうはなっていないのが気に入らない。
ファーマーの凄さの一片に触れることができるのがこのアルバム。 1956年11月に録音されたが発売は後回しにされ、イエローレーベル最終期の1958年に
リリースされたが、彼のプレスティッジの作品ではこれがダントツで群を抜いている。 そして、彼のハードバップの最終完成形がここに出来上がっている。
ファーマーのくすんだ音色やおだやかなスタイルと同系統のハンク・モブレーと組んでいることで、アンサンブルの統一感が完璧。 そして、ケニー・ドリューが
絶品のソロを連発している。 この時期のドリューの演奏としてはこれが最高ではないだろうか。 楽曲の選曲も良く、演奏全体のキレの良さが他の物とは
一線を画している。 そしてヴァン・ゲルダーが触ると手が切れるようなサウンドをレコードに刻み込んでいる。 ファーマーのプレスティッジのレコードの中では
これが一番音がいい。
大抵は笑顔で写真に写っているし、作品も身近なところにたくさんあるので親近感が高いミュージシャンだが、そういうのも考え物なのかもしれない。
ゲッツくらい偉そうにしていればもっと畏敬の念を持たれたのかもしれないけど、人柄の良さがそうはさせなかったのがある意味、もったいない。