Billy Taylor / A Touch Of Taylor ( 米 Prestige Records PRLP 7001 )
レコードがたくさん残っているビリー・テイラーも、そのキャリアのスタート当時はダウンビート誌のナット・ヘントフが「今日のニューヨークで
最も過小評価されているピアニスト」と嘆くような感じだった。これと言って話題になるような活動をしているわけでもないことから人々の目に
留まることがないだけなんだろうが、そんな彼にレコーディングの機会を提供したのがボブ・ワインストックだった。彼が栄光の12インチ時代の
幕開けとなる7000番台の記念すべき第1号に選んだのはマイルスでもなければスタン・ゲッツでもなく、ビリー・テイラーだった。ブルーノートは
マイルス・デイヴィス、リヴァーサイドはセロニアス・モンク、サヴォイはチャーリー・パーカーだったことを考えると、ワインストックが如何に
ビリー・テイラーに期待していたかがよくわかる。
プレスティッジを巣立った後はいろんなレーベルに録音を残し、知名度も上がっていくにつれて演奏の表情は明るくなっていき、その印象が
一般的なものとして定着しているけれど、プレスティッジ時代はそういうのとは雰囲気が少し違っている。どことなく遠慮気味で謙虚さがあり、
「私のことはご存知ないかもしれませんが、少しでいいでの私の演奏を聴いていってもらえませんか?」と言っているような雰囲気がある。
そして、その演奏は控えめながらも上質で品格があり、エレガントにスイングしている。それでいて音楽の核心へと真っ直ぐに切り込んで
いくような率直さもあって、安っぽいエンターテインメントには決して堕することもなく、才能の飛沫を感じる。
特にこのアルバムはスタンダードを入れず、ほとんどを自作で固めているお陰でいつ聴いても新鮮で、ありふれたピアノ・トリオのアルバムとは
一線を画している。どの曲も耳当たりが良く、穏やかな曲想のものが多い。 自作の "A Bientot" を聴いていると、この人の澄み切った心象風景が
目の前に浮かび上がってくる。誰もそうは思わないかもしれないが、このアルバムは3大レーベルの一角を占めるレーベルの第1号に相応しい。