廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ESP が残してくれたもの (2)

2015年08月16日 | Free Jazz


■ Burton Greene Quartet  ( ESP-1024 / Venus Records TKCZ-79110 )

何となくグレン・グールドを思わせる風貌のバートン・グリーンはシカゴ出身のピアニストで、50年代はシカゴ周辺のローカルミュージシャンとして
アイラ・サリヴァンらと共演しながら過ごし、60年代に入るとニューヨークに出て、63年にアラン・シルヴァと "Free From Improvisation Ensemble"
という完全即興専門のグループを組み、65年にいきなりこのアルバムで表舞台に出てきました。

不協和音のブロックコードを壁に打ち付けるかのように鳴らし続けて行く演奏で、そこにマリオン・ブラウンやフランク・スミスらサックス陣が覆い被せて
いきます。 子供の頃にクラシックの専門教育をみっちり受けた人らしく演奏の中に楽理の匂いがしますが、当時のフリージャズ擁護派の評論家たちは
その破壊衝動の強さを褒める意見と黒人奏者たちの表現衝動との質的相違に嫌悪を示す意見に分かれたそうです。 私もどちらかと言えば頭でっかちな所が
あるなあという印象で、そういうところにカチンとくる人が出てくるのはわかるような気がします。 ただ、ESPに吹き込んだ黒人奏者らに共通するある種の
艶めかしさとは完全に異質な、硬派でスピード感のあるこの演奏にはそれなりにオリジナリティがあって素晴らしいとも思います。

1969年になるとバートンは完全に仕事が無くなったそうで、生活ができなくなったため欧州に渡り、それ以降アメリカには戻りませんでした。
渡欧してからのこの人の音楽は少し内容が変わったそうで、どんな音楽なのか聴いてみたいと思っています。 割と最近まで新作を出していたようですが、
まだご健在なのかどうかはわかりません。 ニューヨーク時代は白人ジャズマンということで色々と嫌な思いをしたようです。 フリージャズのような
特殊で狭い世界ではさぞや生き辛かったことでしょう。


■ Frank Wright Trio  ( ESP-1023 / Venus Records TKCZ-79133 )

クリーヴランドでR&Bバンドのエレクトリックベースを弾いていたのに、アイラーに出会ったおかげでベースを捨てて、テナーサックスでこうして
フリーをやるようになった、というんだから、アイラーが当時どういう感じだったかがよくわかります。

1965年のデビュー作がこれになりますが、アイラーをお手本にここまで来たのがよくわかる内容です。 ピアノレスのトリオが作りだす音楽は
意外にも落ち着いた風情があり、デビュー作の割には大人びているなあという好印象があります。 サックスの音が太くてそれでいてクセのあまりない
テナーらしい音で、楽器から出てくる音が良さが音楽にもいい影響を及ぼすという当たり前のことを実感させられます。

アイラーを踏まえながらもそのコピーにはならず、音楽の中にこの人独自の何かが明確にあり、なぜかスマートなところがあります。 これはこの人が
持って生まれたセンスなのかもしれません。 もちろん典型的なESPらしいフリージャズですが、他の演奏家の音盤には感じられない良さがあります。
これはなかなかいいと思いました。

この後も90年に亡くなるまでに数多くのビッグネームたちと共演を果たし、作品もコンスタントに出し続けたようなので、テナーに持ち替えたのは
この人にとっては良かったのかもしれません。 





■ Charles Tyler Ensemble  ( ESP-1029 / Venus Records TKCZ-79123 )

アイラーのエピゴーネンとしてこれ以上のアルバムは他にはないだろうと思える内容です。 レコーディングデビューがアイラーの "Bells" だった
ことからもわかるように、アイラーの取り巻きの一人だったことは間違いない。 もう出だしからアイラーがアルトを吹いているのかと錯覚するような
演奏で、楽曲もアイラーの曲を下敷きにしたようなものばかりで、ここまでアイラーに心酔した様子を録音したものは他にないんじゃないでしょうか。

チェロやヴィブラフォンを加えているので全体のサウンドはESPにしてはカラフルで厚みがあって工夫の跡が見られるし、演奏はしっかりしているので
よくできたフリージャズの作品に聴こえるんでしょうが、精神的にはアイラーから自立できていないようなところがあって、そこが引っかかります。

まあ、フリージャズ演奏家としてデビュー間もない時期なのでここは大目に見るべきで、この後の作品を聴いていくべきなんだろうと思います。
この人もこの後も作品を出し続けた人なので、そちらに本懐があるのかもしれません。


■ Gato Barbieri / In Seach Of The Mystery  ( ESP-1049 / Venus Records TKCZ-79114 )

一応これはガトー・バルビエリの公式デビュー作ということになりますが、これまでの他のミュージシャンとは違って、ここに来るまでのプロとしての
演奏歴の長さとその充実度は別格です。 だからここで聴かれる音楽は完全にこの人だけのオリジナリティで固められた素晴らしさがあります。

この人はフリー寄りの人という印象が一般的にはあるのかもしれませんが、私の印象は少し違います。 表面的には確かに攻撃的で激しい演奏ですが、
そのフレーズにはかなり濃厚な歌謡性があり、一般的なフリーがやる無調感とはこの部分において決定的な違いがあります。 そして、その歌謡性というのが
明らかに南米の音楽独特のそれであり、アルゼンチンタンゴなどと強烈に共有される雰囲気がこの人の音楽すべてを覆っている。

だから、この作品も全編に渡って激しく鋭いサックスが鳴り続けますが非常に聴きやすく、他のESPの音盤たちとは大きく距離を置いた毛色の違う、
そういう意味ではかなり異色の作品です。 また、そのサックスはとにかく上手くて、タイプは違うものの、エヴァン・パーカーやブランフォード・マルサリスを
聴いた時に感じる上手さと共通した上手さを感じます。 楽器のコントロール力の凄さが他の人とは違います。

だから、私はこの作品がとても好きです。 70年代の日本のジャズ喫茶的世界を席巻したおかげでコルトレーン、ガトーとその名前を聴くだけで拒否反応が
起きる人もいるのでしょうが、そういう体験をしていない私はこの人は天賦の才を持った素晴らしい音楽家だと思います。

これはレコードで買い直してもいいと思う1枚です。 ジャケットもかっこいいですしね。


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