廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ドン・バイアスの子守唄のような演奏

2019年05月06日 | Jazz LP (Savoy)

Don Byas / Tenor Sax Solos  ( 米 Savoy MG 9007 )


1946年、渡仏直前にサンフォード・ゴールド、マックス・ローチらと吹き込んだSP録音をLPへ切り直したもので、アルバムとしてのコンセプトなどはなく、
ドン・バイアスのバラード・プレイをただ堪能するレコード。 パーカーがビ・バップを始めた頃とは言え、まだまだジャズは難しいことを考える必要の
ない、ある意味では幸せな時代でこれはこれで十分だった。 

このサヴォイ・セッションのすぐ後にドン・レッドマンのビッグ・バンドの一員として欧州ツアーに出かけ、そのままパリに居を構えてアメリカには戻る
ことなく、72年にオランダで亡くなっている。 黒人が生きづらかったアメリカにさっさと見切りをつけたわけだが、それにしてもずいぶんと早い
決断だったものだ。 その代償としてアメリカのレーベルで50年代に新録のアルバムを作ることなく生涯を終えた珍しいジャズ・ミュージシャンで、
フランスで録音された音源が少し逆輸入されてポツポツと10インチが残っている程度だから、当然認知度は低いままだし、実像もよくわからない。

ベン・ウェブスターと同系統のバラード系だけど、ベンよりも更に深く暗い音色でゆったりと吹く人で、そこに少しゴルソンのようなうねり感が混ざる。
そういう強烈な個性があったので、アメリカで活動していればそれなりにレコードはたくさん残っていただろうし、名盤として後世に残る作品もきっと
作れたはずだから、何とも残念なことだ。 当時のアメリカに人種差別とドラッグが無ければ、ジャズという音楽はもっとマーケット規模の大きな音楽に
なっていたのに、と嘆かざるを得ない。 ローランド・カークのように「ドン・バイアス命」を公言するフォロアーももっとたくさん生まれただろう。

LP化にあたってはヴァン・ゲルダーは関与しておらず、元の音源をあまりいじらずにトランスファーしているようだけど、音質は極めて良好だ。
アドリブは少なく、メロディーをそのまま吹き流しているだけの短い演奏で、何とも素直でおだやかで子守唱のような心地いい音楽。 こういうのを
聴いていると面倒臭い日々のあれやこれやが何だかすべてもうどうでもいいや、という気分になる。 当時の人もそうだったんじゃないだろうか。 
その頃の音楽に求められていたのは、きっとこういう効能だったんだろうと思う。 

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