Don Byas / April In Paris ( 米 Battle BS 96121 )
デトロイトのレコード店オーナーのジョー・フォン・バトルがゴスペルやR&B専門レーベルとして1948年に立ち上げたマイナー・レーベルをリヴァーサイドの
オーナーだったビル・グロアーが1962年に買い取ったせいで、このレコードはジャケットも盤もリヴァーサイド仕様の造りになっている。 録音は1962年5月に
パリで行われていて、フランスの管弦楽団が豪華なバックを付けているが、なぜこれをリヴァーサイドからではなくバトル・レーベルのほうから出したのかは
よくわからない。 そのせいで、この作品はジャズ・ファンの意識からは大抵の場合抜け落ちている。
全編が歌物のゆったりとしたスタンダードのバラードで、一本調子ではあるけれど深みのある雄大な音楽になっている。 コールマン・ホーキンスや
ベニー・カーターからの影響を隠さないスタイルで朗々と謳う様が素晴らしい。 あの小柄な身体つきからは想像できない大きく深いトーンだ。
この音さえ聴ければ、アドリブとか音楽の形式みたいなものはどうでもいいな、と思う。 例えそれがムード音楽の一歩手前のような内容であっても。
早い時期に欧州に移住してアメリカには戻らなかった彼の孤独がその音楽に強く作用しているのがよくわかる。 そういう雰囲気を聴く音楽だ。
このレコードにはモノラルとステレオの2種類があるけれど、ステレオの方が音の鮮度が高く、音場感にも奥行きがあってずっといい。 最近は60年代に
入ってからの録音のものはモノラルプレスよりもステレオプレスのほうがずっといい、と感じることが多い。 モノラルプレスのレコードはオーディオの未熟さや
アラを隠してくれるから総じていい音だと多くの人に好まれるけれど、こういうステレオ技術が成熟する前にプレスされたステレオ盤がいい雰囲気で鳴った時に
感じる魅力には代えがたいものがあるなあと最近つくづく思うようになった。 そうなってくると音楽鑑賞の幅もグッと拡がっていくような気がする。
もちろん、それに合わせてお財布の口もグッと開いてしまうんだけれど。