廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ジャズテットの隠れた傑作

2018年02月10日 | Jazz LP (国内盤)

The Jazztet / Voices All  ( 日 Eastworld EWJ 90016 )


1982年にジャズ・フェスティバルに出演するためにジャズテットを再結成して来日した際に録音されたアルバムで、"Whisper Not"、"Killer Joe"、
"I Remember Clifford" など代表曲と新曲がブレンドされている。 正直、こういうのは恥ずかしい。 古き良き時代にいつまでもしがみつく姿は
みっともない。 もちろんそれはアーティストのことではない。 こういうレコードを作るレコード会社のことである。

Eastworldは東芝EMIのレーベルで、売れる見込みのあるレコードしか作らない。 社員の中にはもっと違うことをやりたいと考えている人もいただろうけど、
会社の方針には逆らえない。 だから、こういうタイプのレコードが出来上がる。 手放しで喜んだ人もいれば、同じ数だけ顔をしかめた人もいただろう。
でも、レコード会社はそんなことは気にしない。 喜んで買う人のほうが多いだろうという見込みがあったから、この企画が承認されたのだ。

かく言う私も、そういうアンビバレンツな感情を持つ一人だ。 よくもまあ何の臆面もなくこんなレコードを作ったな、という軽い嫌悪感を覚えながらも、
ジャズテットの聴いたことのない音源となると飛びついてしまう。 いくらカッコつけて能書きを垂れても、本能が逆らうことを許さない。
なぜなら、ジャズテットは最高だから。

ゴルソン、ファーマー、フラーによるゴルソン・ハーモニーに包まれたサウンドがとにかく素晴らしい。 そして、アート・ファーマーが最高の名演を聴かせる。
極めつけはデジタル録音が優良で、演奏の良さを最良の形で再現してくれる。 ハードバップは死んでないじゃないか、と思う。
結局のところ、ハードバップはそれ自体が消費されて内部崩壊的に廃れていったのではなく、時代がより刺激的な他のものに目移りしているうちにただ単に
忘れられただけだったのかもしれない。 ここで聴かれる音楽には他のジャズにはない風格みたいなものがあって、そんなことを考えさせられる。

50~60年代の演奏よりもはるかに洗練されていて、ずっとマイルドで、ハーモニーにも深みがあって、音楽的にはより進化しているような感じすらある。
音楽家としての経験をよりたくさん積んだメンバーが再度集まって演奏する音楽からは、以前とは違う声が聴こえてくるような気がする。

最後に置かれた "Park Avenue Petite" では、ファーマーのバラード・プレイの極致が聴ける。 いくら人前で褒めるのは恥ずかしくても、これは傑作である。


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