Thelonious Monk / Genius Of Modern Music Volume One ( 米 Blue Note BLP 1510 )
スティーヴ・レイシーによると、モンクが "Round About Midnight" を作曲したのは彼が18歳の時だったらしい。 他にも諸説いろいろあるみたいだけれど、
いずれにしてもそういう若い時期に書かれたのはどうやら間違いないようで、これは驚くべき話だろう。 ジャズという音楽の中で最も優れた楽曲の1つである
この曲を作った、というこの1点だけでモンクの「ジャズの殿堂」入りは確定だと思う。
モンクのレコーディングデビューがこのブルーノート・セッションで、彼が30~35歳の5年間に計6回に分けて録音されている。 既にこの時点でモンクの代表作の
ほぼすべてが収録されていて、作曲家としての天才性は明らかだ。 その多くがSP期の録音だったが、後にこうして12インチLP2枚に纏められたのは幸運だった。
後のミュージシャンはみんなこれを聴いて、モンクの楽曲を勉強したに違いないからだ。
短い演奏時間ながらも様々なフォーマットで演奏されたこれらの楽曲は聴いていて楽しく、飽きることはない。 時代感のある古めかしい録音をRVGがリマスターした
音場感も適度な残響を施されたなかなかいいムードに仕上がっていて、ノスタルジー感すら漂っている。
モンクは既にモンクらしい演奏をしていて、遅いデビューのせいで楽曲も演奏も完成した形でお披露目されたのは却ってよかったんじゃないかと思う。
徹底した不協和音の層を積み上げながら最終的にまとまった1つの楽曲に仕上っている驚異。 B面の最後に置かれた "Humph" なんて、後のフリージャズの
原始の姿としか思えない。 オリジナリティーという言葉で括っていいのかすらよくわからないこの戸惑い感。 それが40年代終わり頃には既に完成していた
ということの凄さ。 そんな中でひときわ美しく響く "Ruby My Dear" の旋律。
解釈や批評を拒み続けるモンクス・ミュージックは、既にここから始まっている。 その後の快進撃はこれまでに見てきた通りだ。
なんと凄い、孤高の音楽家だったのだろう。 そういう感想しか出てこない。 <終わり>