Lee Konitz, Michel Petrucciani / Toot Sweet ( 仏 OWL 028 )
コニッツは当然フランスでもレコードを作っている。当時の欧州で最高のピアニストの1人だったペトルチアーニとデュオを残すことができたのは
我々愛好家にとって僥倖の極みだった。そして、それがOWLレーベルだったことも。
フランスのOWLレーベルはECMとはまた違ったテイストの高音質を誇るレーベルだ。ECMは透明度を追求し、音の粒度の細かさと精緻さを上げる
ことを至上命題とするような音質だが、OWLはややふっくらとした深い残響をもたらして楽器の音楽性を極限まで押し上げるような音響だ。
だから、OWLのレコードで聴く音楽はそのアーティストの他の作品のものとは感動の質が違う。欧州の人々は大きな劇場やホールで音楽を聴く
文化の中で生きているから、いい音質を目指すとなった場合の考え方が他の地域の国々とは根本的に発想が違う。
そういう深い残響の森の中で、コニッツとペトルチアーニが静かに音を重ね合う、究極のバラードアルバムが出来上がっている。ペトルチアーニの
ピアノは本当に美しく、ジャズというよりはクラシックの響きへと傾倒している。この人の凄さは、バラードの中に甘ったるい情感がなく、
キレの良さとビターな後味の大人の感情でしっかりと弾き切るところだ。一部の隙もない、この意識の高さと集中力の維持が圧倒的に素晴らしい。
そして、コニッツは何十年も積み上げてきたバラード演奏の総決算的な仕上がりをみせる。長尺な楽曲にあっても、滾々と湧き上がり、尽きること
のない泉の清水のようにフレーズが出てきて、この演奏はこのまま永久に終わることがないんじゃないか、と思ってしまうくらいだ。
スタンダードの原メロディーが出てこないいつものアプローチながら、コード感を大事にした演奏なので、何の曲を吹いているかが常に聴き手に
わかる。すべてがインプロヴィゼーションだが、フレーズは柔らかく、とてもやさしい表情をしている。そして、アルトの響きが深く、美しい。
ゲッツとバロンの "People Time" を自然に思い出すのは、私だけではないだろう。そして、こちらはもっと静かな音楽だ。40年代から活動して、
現代まで生き残ることができた巨匠たちは、みんなこういう境地に達するんだな、と思う。音楽が音楽としてのバランスを保ちながら、演奏家の
情感がすべて映されている、コニッツの最高傑作の1つ。聴けばわかる。