Tony Scott / South Pacific Jazz ( ABC-Paramount ABC 235 )
ブロードウェイ・ミュージカル「南太平洋」の音楽を取り上げたアルバムで、トニー・スコットがクラリネットとバリトンを持ち替えながらワンホーンで
見事に仕上げた傑作。 リチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタインⅡ世の黄金のコンビなので、音楽の素晴らしさは折り紙付きだ。
とにかく全編がデリケートで丁寧に演奏されていて、ものすごく洗練されていて、優雅な雰囲気に驚いてしまう。 クラリネットは穏やかで典雅で幽玄、
バリトンは従前のイメージを覆すペッパー・アダムス系の骨太さ。 アドリブラインもなめらかで自然でこんなに上手い演奏をするのか、と目から鱗だ。
クラリネットやバリトンは人気がないんだろうけど、まあ、そういう意識は聴いているうちにどこかへと消えてしまうだろうと思う。
バックのトリオの演奏も繊細さも素晴らしく、ディック・ハイマンはピアノとオルガンを効果的に使い分け、ジョージ・デュ・ヴィヴィエのベース、ドラムは
グラッセラ・オリファントとオジー・ジョンソンで分担している。 トニー・スコットの演奏を邪魔することなく、完璧なサポートぶりが素晴らしい。
ABCパラマウントという総合レーベルなので録音やレコードプレスの品質もよく、音質の良さも保証されている。 レコーディング・スタジオ内の雑音のない
静かな空間の中で演奏されている雰囲気がよく伝わってきて、そういう音場感の高級さが素晴らしい。
美麗で洗練されているけれど、実際はどこをどう切っても血の滴るような本格的なジャズであることがわかる。 そういう芯のしっかりとしたジャズを
ゴリゴリのマニアでなくても愉しめるよう絶妙に甘美なコーティングを施して提出出来たところに一流の仕事の痕跡を感じる。 購買意欲の全然湧かない
ジャズらしさを感じないジャケットデザインも、案外意図的にそうしたんだろうなということもわかってくる。
安レコ漁りは単なる安物買いの為だけにやっているのではなく、こういうレコードに出会う為の違いの分かる男の孤独な営みである、ということにしておく。
仰る通り、バリトンが非常にインパクトがあります。トニー・スコットがバリトンを吹くなんて認識がありませんでしたから、驚きました。
トニー・スコットはなぜか相手にされないですね。なぜだろう?