Milt Jackson / S/T ( 米 Prestige PRLP 7003 )
ミルト・ジャクソンの古い時期のレコードだが、再発がたくさん出ており、よく聴かれている作品だ。
スタンダードがメインとなっていて平易な内容であることから、地味ながらも一定の人気がある。
ビ・バップ期に頭角を現して、そのままスムースにハードバップ期に移行できたヴィブラフォンの第一人者で、この後に出てきた
他のヴァイブ奏者たちは同じことをやっても勝ち目はないということで、そのすべてが独自路線に走るしかなかった。
ある者は実験的な音楽を、ある者はピアノと併用するなど、図らずも後継者をシャットアウトしてしまった感がある。
黒人ミュージシャンに至っては、この楽器で世に出ること自体、最初から諦めていたようなフシがあるくらいで、
その存在感は計り知れないところがあったのだろう。
デクスター・ゴードンなんかと同じで、フレーズのすべてが何分の1拍か遅れる後ノリの演奏スタイルで、これが独特の寛ぎ感を
もたらしている。こういうのは意識してできることではないので、天性のものなんだろう。よく"ブルージー”という言葉が使われるけれど、
私にはこれが適切な表現だとはあまり思えない。その洗練された音色の影響もあるけれど、彼の演奏から感じるのはもっとすっきりとした
ある種の爽やかさのようなもので、こってりとしたものは感じない。
ホレス・シルヴァーの伴奏の上手さのおかげで、このアルバムはヴィブラフォンとピアノという同系統の楽器が互いに喧嘩することなく
共存できている。この人はなぜか褒められることが少ない人だけど、特にこのアルバムは彼の上手く制御されたピアノに気を配って聴くと、
この音楽の良さをより深く感じることができるだろう。ヴィブラフォンのフレーズだけを聴いていると、変化に乏しく起伏の弱い音楽に
聴こえるかもしれないけれど、パーシー・ヒースとコニー・ケイのまったくブレることない鉄壁のリズムも含め、聴き所のたくさんある
滋味深い内容だと思う。全員が互いの音をよく聴き、抜群のバランス感で合奏を志向していることがとてもよくわかる。