Jakob Bro Trio / Who Said Gay Paree ? ( EU Loveland Records LLR010 )
2008年5月にコペンハーゲンの Sweet Silence Studios で録音されたギター・トリオによるアルバムで、スタンダード集だ。
アルバム・タイトルの "Who Said Gay Paree?" というのはコール・ポーター作だそうが、他では聴いたことがない。
また、コルトレーンの "Fifth House" なんかもやっていて、ちょこっと捻りが効いている。
2015年にECMと契約する前は地元の "Loveland" というレーベルから毎年1作程度のペースをアルバムをたくさん出しているが、
日本では当時は「知る人ぞ知る」という感じだったような印象が残っている。ECM契約後はレーベル・パブリシティーの違いから
ようやく認知度が上がったのではないだろうか。私がこれを中古で拾ったのは10年以上前のことで、当時は何の予備知識もなかったが、
純粋なギター・トリオでスタンダードをやっているということと、何となく良さそうな予感を感じるジャケットに惹かれてのことだった。
全編ミディアム~スロー・バラードとして演奏されており、深夜の静まり返った街の風景を思わせる音楽となっている。
ぼんやりとした薄明りの中に浮かび上がる光と影、誰もいない石畳の道、そういう静けさを表現しようとする音楽。
こういう音楽を求める人は多いのではと思うけれど、その存在自体が静かすぎる。
ECM契約後の音楽とは雰囲気が違う。ECMは良くも悪くも音楽をECMの色に染めてしまい、それがアーティストの隠れた個性を
引き出す場合もあれば、ECMの色彩に塗りつぶされてしまう場合もある。このアルバムはそういう懸念とは無縁で、
おそらくこちらの方が彼の素の姿なんだろうと思う。
彼のギターは他の誰にも似ていない。強い個性がある訳ではないが、没個性ということでもない。
古いメロディーを歌うことに没頭しているけれど、音楽自体は現代的な雰囲気に仕上がっていて、その辺りの匙加減が絶妙。
深夜の静けさの中で、誰もが抱えている古い記憶を慈しむような、滋味深い音楽が流れてくる。