Anne Phillips / Live at the Jazz Bakery ( 米 Conawago Records 1014 )
レコード漁りが絶不調の中でCD棚を漁っていると、怪我の功名か、思わぬ作品に出合う。私がほぼ唯一(と言っていい)聴く
白人女性ヴォーカルのアン・フィリップスのライヴCDもその1つ。
彼女は1959年にルーレットから "Born To Be Blue" をリリースして、心あるヴォーカル・ファンの気持ちを鷲掴みにしてきたが、
いわゆるジャズの範疇に入るアルバムはこの1作のみ。70年代にもアルバムはあるようだが、どうも内容的にはジャズではなさそうだ。
1作だけでジャズ界隈からは消えたのかと思っていたが、引退したのではなく、裏方としてコマーシャル・ソングを歌ったり、
クラブなどで歌ったりしていたそうだ。そんな地道な活動の1コマとして、2019年に突然このCDがリリースされたらしい。
録音日時は不明だが、割と近年の歌唱なのではないだろうか。ロジャー・ケラウェイのピアノ、夫のボブ・キンドレッドの
テナーとベースによるトリオをバックにスタンダードを歌っているのだが、これが落涙モノ。
それなりに声は枯れてはいるものの、基本的には59年時の歌声の印象とあまり変わらない。当時のストレートな歌い方を土台にして
技巧的に進んだ、それでいて鼻につくことのない「経験を自然に積みました」感の漂う歌唱になっていて、素晴らしい。
ライヴなので、前作よりはくだけた歌い方に当然なっているが、前作の残り香は感じられる。
ケラウェイのピアノが絶品で、夜の静寂の中でゆっくりと静かに進む音楽の印象は "John Coltrane & Johnny Hartman" を想い出す。
観客に語りかける親密な雰囲気、音質の良さなど音楽の背景も申し分なく、しばらく行っていないライヴ特有の情感に酔わされた。
夜、部屋の灯りを落として、酒を飲みながら聴くのにうってつけである。