廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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ウィルバー・ハーデンのことを語ろう(1)

2020年02月08日 | Jazz LP (Savoy)

Wilbur Harden / Mainstream 1958  ( 米 Savoy MG-12127 ) 


私が一番好きなトランペッター、ウィルバー・ハーデンのことを語ろう。

1969年に45歳という若さで亡くなってしまったせいもあって、リーダー作は1枚しか残っていないし、その他のレコーディングもコルトレーンの陰に
隠れてしまって表立って見えることもない。遅咲きで活動時期も短かかったこともあり、まったく陽の当たらなかったトランペッターだった。
それでも、私はコルトレーンの横で吹く彼の音を初めて聴いた時から、問答無用で惹かれてしまった。

ハーデンの美質は何と言ってもその伸びやかで美しい音色だ。こんなに美感際立つ音色を出す人は他にはいない。音程も正確で高い技術力もあった。
この人がコンボの中にいるだけで、そのサウンドは清流化されていく。

1958年3月18日にハッケンサックのヴァン・ゲルダー・スタジオで録音されたこのアルバムで、既に彼のフリューゲルホーンは美音をまき散らしている。
コルトレーンの硬く濁りのある音との対比でそれがいっそう引き立っている。ソロのスペースはコルトレーンの方が長いけれど、ハーデンのソロの方が
断然印象に残る。この時のコルトレーンは上手くはなっているけれど、まだ独りよがりなところが目立つ。

ダグ・ワトキンスのウォーキング・ベースが圧巻で、この時の演奏の要となっている。ヴァン・ゲルダーはワトキンスの音を照準にして録音していた
ような感じがする。まあ、この人の前乗りのリズム感は凄い。

スタンダードが含まれておらず、地味な楽曲が並んでいることもあって人目を惹かないアルバムだが、タイトル通り58年当時の主流派ハードバップが
凝縮された演奏で、内容は1級品だ。長年ジャズを聴いてきた人には愛される内容である。

コルトレーンとの最初の録音だったこともあり、ハーデンは少し遠慮気味な立ち位置にいるけれど、この後の数か月の共演の中で徐々にその存在感は
増していくことになる。そういう軌跡を感じ取ることができるのが面白い。この2人は相性も良かったと思う。コルトレーンはこの後の数か月で
別人のように急激な成長を見せる訳だけど、ハーデンはその様子を目の前で見ていた唯一の人だったのかもしれない。

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