Michel Petrucciani / Cold Blues ( 仏 OWL Records OWL 042 )
この美しい音で彩られた音楽の素晴らしさを一体どう説明すればいいのかがわからず、既に1ヵ月以上が過ぎようとしている。 ただ音が美しい
というだけではないし、何よりその美音が最終的に音楽としての素晴らしさに結実していることを語れなければ意味を為さないではないか。
美しい音というのは既にそれだけで完結してしまっているかのように思いがちだが、この音楽を聴いているとそれは少し違っていて、その美しさは
なぜ美しいのか、というよりなぜそうまで美しくあらねばならないのか、という風に意味論から存在論へと疑問が質的転換を起こし始める。
美しい音が鳴らせるから素晴らしい音楽が出来上がったのではなく、この音楽を成立させるためにその音は美しくなっていった、若しくは
かくも美しくならざるを得なかった、というように。 音と音楽の関係性を根本から問い直す必要に迫られている。
ペトルチアーニの最高傑作は "赤ペト" だと思っていたが、その認識も今では揺らぎ始めている。 冒頭の "Beautidul, But Why?" が流れ始めると、
"赤ペト" の記憶はこちらに取って代わって上書きされる。 どんなに素晴らしいと思っていたものにも、更に上をいく感動があり、自身の音楽体験
というものは常に更新され続けていくのだと思う。 私たちが何千、何万ものレコードやCDを聴いていても、それでもなお未知なる音盤を聴こうと
するのは、そういう記憶の更新、新たな感動の途切れることのない継続を求めているからに他ならない。
一体どれだけレコードを買えば気が済むの? とあきれ顔で問われても、臆することは何もないのだ。
このレコードを聴いて、改めてそう思った。
仏OWLの録音は素晴らしい。 ペトルチアーニとこのレーベルの組み合わせは、キースとECMの組み合わせにも負けていない。