[3月25日11:00.全日空2153便機内 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
成田を20分遅れで離陸した飛行機が水平飛行になった。
シートベルト着用サインが消えるものの、突然の揺れに備えてシートベルトの着用を推奨される。
その後でCA達がドリンクを配り始めた。
3人席の通路側に座るユタは、
「マリアさん、僕が飲み物取ってあげますよ」
「ありがとう。じゃあ、オレンジジュースがいい」
「分かりました。イリーナさんは、何がいいですか?」
「んあ……?」
ユタに話し掛けられ、鼻提灯を割るイリーナ。
「アップル・ジンジャー」
「アップル・ジンジャー1丁……」
「あるかい!」
師匠のボケと、それに乗っかる弟弟子内定の友達以上彼氏未満(だと思っている)のユタにツッコむマリアだった。
ところで座席にはオーディオ・サービスがある。
簡易的なヘッドホンを耳に当てると、
{「大胆不敵に♪ハイカラ革命♪磊々落々♪反戦国家♪……」}
歌が聴こえてきた。
「ほら、キミの歌だよ」
ユタはマリアの膝の上に座るミク人形の耳にヘッドホンを当てた。
「千本桜〜♪世に紛れ♪キミの声も♪聞こえないよー♪」
「わあっ!歌わなくていいから!」
大声で歌い出すミク人形。
急いでヘッドホンを外すユタだった。
{「以上、初音ミクで“千本桜”でした。続きましては、少し昔のボカロ曲をお送りしましょう。ボーカロイドといえば、今では多くの種類がありますが、初音ミクは今やかなり知られた存在となりました。これからお送りする曲は、その初音ミクがまだ有名になる前にリリースされたものです。“初音ミクの消失”です。どうぞ」}
(これ聴かせたら、ミク人形ブッ壊れるだろうなぁ……)
ユタはマリアの席からヘッドホンを繋いで聴くミク人形をちらっと見てそう思った。
チャンネルを見ると、幸いクラシック曲を聴いているようだ。
ユタのヘッドホンからは、人間の口では到底歌えない、超早口の歌が聴こえてきた。
[同日12:20.新千歳空港 上記メンバー]
離陸が20分遅れなら、着陸も20分遅れである。
鉄道と違い、回復運転とかいうのは無いのだろう。
着陸はスムーズで、思ったほど衝撃は無かった。
「3月も下旬なのに、まだ雪があるんだな」
「まあ、北海道だし、それに今年は雪が多いからね」
「そういえば天気予報でそんなこと言ってような……」
搭乗口が開いて、乗客達は飛行機を降り始めた。
「師匠、着きましたよ」
マリアがイリーナを揺り起こす。
「んあ?……ああ、着いたのね」
ユタはハットラックから荷物を下ろした。
「じゃあ、降りましょう」
搭乗口からターミナルへ向かう通路を歩いている時、
「おー、やっぱり予想通り、雪が多いねー」
イリーナが感心したかのように言った。
「今年は雪が多いそうですね」
「んー、まあね。原因は分かってるんだけど……」
「は?」
「それより、お腹空いたから、何か食べてから札幌行こう」
「そ、そうですね。ちょうどお昼時ですし……」
ターミナル内のレストランで昼食を取ることにした。
「夜はジンギスカンでも食べようって思ってる」
「意外と観光する気満々ですね」
「まあね」
というわけで、昼は普通に食事をした。
その際、
「今年は大魔王バァル戦の影響で、異常気象が起こるからね。覚悟のほどよろしくね」
イリーナがそう言った。
「あれだけ魔界から揺さぶられて影響が無いわけないし、バァルを魔界から追い出したから、それで終わりってわけではないのよ」
「具体的にはどんな?」
「世間一般からは、異常気象の一言で片付けられるレベルには抑えられそうだけどね。例えば今年の冬は雪が多いとか、夏は台風がやたら多いとか、そういうことかな」
「ふーん……?まあ、普通のような……」
「放っておいたら、北海道なら夏が来ない年になるだろうし、首都圏は首都圏で12月に台風が来る状態になってたでしょうね」
「異常気象ってレベルじゃないんじゃ……」
「大師匠も何だかんだいって、冥界側から何か操作してくれたみたいね。だからこの北海道でも、せいぜい、いつもより少し春の訪れが遅いとか、その程度で済むでしょう」
「通りで埼玉や東京も、いつもより寒いわけですね」
「そう。で、夏は夏で暑いと」
「マジですか……」
「大丈夫だって。その頃にはユウタ君、涼しい長野で修行してくれてるから」
「ははは……」
内定というより、ほぼ決定なのだった。
[同日13:32.JR新千歳空港駅・プラットホーム 上記メンバー]
〔「1番線、ご注意ください。札幌行きの快速“エアポート”137号の到着です。お下がりください。……」〕
地下ホームで電車を待っていると、トンネルの向こうから電車がやってきた。
京成に引き続き、新型の電車がやってきたが、ユタにはあまり嬉しくない電車だった。
何故なら……。
〔「ご乗車ありがとうございました。新千歳空港、新千歳空港、終点です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕
折り返し、先頭車となる車両に乗り込む。
733系と呼ばれる、指定席車以外はロングシートの通勤タイプだ。
旅情は無い。
〔「ご案内致します。この電車は13時48分発、札幌行きの快速“エアポート”137号です。これから先、南千歳、千歳、恵庭、北広島、新札幌、終着札幌の順に止まります。中ほど4号車は指定席“uシート”です。ご利用には指定席券が必要となります。発車まで、しばらくお待ちください」〕
北海道の草原をイメージしたという緑色の座席は、埼京線や山手線のそれよりも明るい色をしている。
「大師匠方の動向ですが、ゴルフ場から今度はカジノを作るつもりらしいです」
弟子の報告にイリーナは、
「悠悠自適もいい所だわ、あのジジィ達……」
と、愚痴った。
(で、私やユウタ君が1人前になった頃には、今度は師匠が自由奔放の生活をして、私に愚痴られると……)
マリアは心の中でそう思った。
ダイヤが遅れた航空機だったが鉄道はダイヤ通りで、ユタ達を乗せた快速電車は定刻通りに発車した。
〔ご乗車、ありがとうございます。千歳線、函館線直通、快速“エアポート”号、札幌行きです。次は、南千歳に止まります。千歳線、苫小牧方面と石勝線はお乗り換えです〕
発車すると、すぐ抑揚の無い男声の自動放送が流れて来た。
JR東日本の新幹線で流れているものとは、違う声優のようだ。
その後流れて来た英語放送は、新幹線のものと同じ。
抑揚の無い声というのは、悪く言えば暗いということなのだが……。
とにかく、まず一行は札幌を目指すことになった。
イリーナの話によると、札幌市内にも知り合いが住んでいるらしい。
成田を20分遅れで離陸した飛行機が水平飛行になった。
シートベルト着用サインが消えるものの、突然の揺れに備えてシートベルトの着用を推奨される。
その後でCA達がドリンクを配り始めた。
3人席の通路側に座るユタは、
「マリアさん、僕が飲み物取ってあげますよ」
「ありがとう。じゃあ、オレンジジュースがいい」
「分かりました。イリーナさんは、何がいいですか?」
「んあ……?」
ユタに話し掛けられ、鼻提灯を割るイリーナ。
「アップル・ジンジャー」
「アップル・ジンジャー1丁……」
「あるかい!」
師匠のボケと、それに乗っかる弟弟子内定の友達以上彼氏未満(だと思っている)のユタにツッコむマリアだった。
ところで座席にはオーディオ・サービスがある。
簡易的なヘッドホンを耳に当てると、
{「大胆不敵に♪ハイカラ革命♪磊々落々♪反戦国家♪……」}
歌が聴こえてきた。
「ほら、キミの歌だよ」
ユタはマリアの膝の上に座るミク人形の耳にヘッドホンを当てた。
「千本桜〜♪世に紛れ♪キミの声も♪聞こえないよー♪」
「わあっ!歌わなくていいから!」
大声で歌い出すミク人形。
急いでヘッドホンを外すユタだった。
{「以上、初音ミクで“千本桜”でした。続きましては、少し昔のボカロ曲をお送りしましょう。ボーカロイドといえば、今では多くの種類がありますが、初音ミクは今やかなり知られた存在となりました。これからお送りする曲は、その初音ミクがまだ有名になる前にリリースされたものです。“初音ミクの消失”です。どうぞ」}
(これ聴かせたら、ミク人形ブッ壊れるだろうなぁ……)
ユタはマリアの席からヘッドホンを繋いで聴くミク人形をちらっと見てそう思った。
チャンネルを見ると、幸いクラシック曲を聴いているようだ。
ユタのヘッドホンからは、人間の口では到底歌えない、超早口の歌が聴こえてきた。
[同日12:20.新千歳空港 上記メンバー]
離陸が20分遅れなら、着陸も20分遅れである。
鉄道と違い、回復運転とかいうのは無いのだろう。
着陸はスムーズで、思ったほど衝撃は無かった。
「3月も下旬なのに、まだ雪があるんだな」
「まあ、北海道だし、それに今年は雪が多いからね」
「そういえば天気予報でそんなこと言ってような……」
搭乗口が開いて、乗客達は飛行機を降り始めた。
「師匠、着きましたよ」
マリアがイリーナを揺り起こす。
「んあ?……ああ、着いたのね」
ユタはハットラックから荷物を下ろした。
「じゃあ、降りましょう」
搭乗口からターミナルへ向かう通路を歩いている時、
「おー、やっぱり予想通り、雪が多いねー」
イリーナが感心したかのように言った。
「今年は雪が多いそうですね」
「んー、まあね。原因は分かってるんだけど……」
「は?」
「それより、お腹空いたから、何か食べてから札幌行こう」
「そ、そうですね。ちょうどお昼時ですし……」
ターミナル内のレストランで昼食を取ることにした。
「夜はジンギスカンでも食べようって思ってる」
「意外と観光する気満々ですね」
「まあね」
というわけで、昼は普通に食事をした。
その際、
「今年は大魔王バァル戦の影響で、異常気象が起こるからね。覚悟のほどよろしくね」
イリーナがそう言った。
「あれだけ魔界から揺さぶられて影響が無いわけないし、バァルを魔界から追い出したから、それで終わりってわけではないのよ」
「具体的にはどんな?」
「世間一般からは、異常気象の一言で片付けられるレベルには抑えられそうだけどね。例えば今年の冬は雪が多いとか、夏は台風がやたら多いとか、そういうことかな」
「ふーん……?まあ、普通のような……」
「放っておいたら、北海道なら夏が来ない年になるだろうし、首都圏は首都圏で12月に台風が来る状態になってたでしょうね」
「異常気象ってレベルじゃないんじゃ……」
「大師匠も何だかんだいって、冥界側から何か操作してくれたみたいね。だからこの北海道でも、せいぜい、いつもより少し春の訪れが遅いとか、その程度で済むでしょう」
「通りで埼玉や東京も、いつもより寒いわけですね」
「そう。で、夏は夏で暑いと」
「マジですか……」
「大丈夫だって。その頃にはユウタ君、涼しい長野で修行してくれてるから」
「ははは……」
内定というより、ほぼ決定なのだった。
[同日13:32.JR新千歳空港駅・プラットホーム 上記メンバー]
〔「1番線、ご注意ください。札幌行きの快速“エアポート”137号の到着です。お下がりください。……」〕
地下ホームで電車を待っていると、トンネルの向こうから電車がやってきた。
京成に引き続き、新型の電車がやってきたが、ユタにはあまり嬉しくない電車だった。
何故なら……。
〔「ご乗車ありがとうございました。新千歳空港、新千歳空港、終点です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕
折り返し、先頭車となる車両に乗り込む。
733系と呼ばれる、指定席車以外はロングシートの通勤タイプだ。
旅情は無い。
〔「ご案内致します。この電車は13時48分発、札幌行きの快速“エアポート”137号です。これから先、南千歳、千歳、恵庭、北広島、新札幌、終着札幌の順に止まります。中ほど4号車は指定席“uシート”です。ご利用には指定席券が必要となります。発車まで、しばらくお待ちください」〕
北海道の草原をイメージしたという緑色の座席は、埼京線や山手線のそれよりも明るい色をしている。
「大師匠方の動向ですが、ゴルフ場から今度はカジノを作るつもりらしいです」
弟子の報告にイリーナは、
「悠悠自適もいい所だわ、あのジジィ達……」
と、愚痴った。
(で、私やユウタ君が1人前になった頃には、今度は師匠が自由奔放の生活をして、私に愚痴られると……)
マリアは心の中でそう思った。
ダイヤが遅れた航空機だったが鉄道はダイヤ通りで、ユタ達を乗せた快速電車は定刻通りに発車した。
〔ご乗車、ありがとうございます。千歳線、函館線直通、快速“エアポート”号、札幌行きです。次は、南千歳に止まります。千歳線、苫小牧方面と石勝線はお乗り換えです〕
発車すると、すぐ抑揚の無い男声の自動放送が流れて来た。
JR東日本の新幹線で流れているものとは、違う声優のようだ。
その後流れて来た英語放送は、新幹線のものと同じ。
抑揚の無い声というのは、悪く言えば暗いということなのだが……。
とにかく、まず一行は札幌を目指すことになった。
イリーナの話によると、札幌市内にも知り合いが住んでいるらしい。