報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 番外編 「卒業旅行 The 3名様」 4

2015-02-04 19:39:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月25日11:00.全日空2153便機内 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 成田を20分遅れで離陸した飛行機が水平飛行になった。
 シートベルト着用サインが消えるものの、突然の揺れに備えてシートベルトの着用を推奨される。
 その後でCA達がドリンクを配り始めた。
 3人席の通路側に座るユタは、
「マリアさん、僕が飲み物取ってあげますよ」
「ありがとう。じゃあ、オレンジジュースがいい」
「分かりました。イリーナさんは、何がいいですか?」
「んあ……?」
 ユタに話し掛けられ、鼻提灯を割るイリーナ。
「アップル・ジンジャー」
「アップル・ジンジャー1丁……」
「あるかい!」
 師匠のボケと、それに乗っかる弟弟子内定の友達以上彼氏未満(だと思っている)のユタにツッコむマリアだった。

 ところで座席にはオーディオ・サービスがある。
 簡易的なヘッドホンを耳に当てると、

{「大胆不敵に♪ハイカラ革命♪磊々落々♪反戦国家♪……」}

 歌が聴こえてきた。
「ほら、キミの歌だよ」
 ユタはマリアの膝の上に座るミク人形の耳にヘッドホンを当てた。
「千本桜〜♪世に紛れ♪キミの声も♪聞こえないよー♪」
「わあっ!歌わなくていいから!」
 大声で歌い出すミク人形。
 急いでヘッドホンを外すユタだった。

{「以上、初音ミクで“千本桜”でした。続きましては、少し昔のボカロ曲をお送りしましょう。ボーカロイドといえば、今では多くの種類がありますが、初音ミクは今やかなり知られた存在となりました。これからお送りする曲は、その初音ミクがまだ有名になる前にリリースされたものです。“初音ミクの消失”です。どうぞ」}

(これ聴かせたら、ミク人形ブッ壊れるだろうなぁ……)
 ユタはマリアの席からヘッドホンを繋いで聴くミク人形をちらっと見てそう思った。
 チャンネルを見ると、幸いクラシック曲を聴いているようだ。
 ユタのヘッドホンからは、人間の口では到底歌えない、超早口の歌が聴こえてきた。

[同日12:20.新千歳空港 上記メンバー]

 離陸が20分遅れなら、着陸も20分遅れである。
 鉄道と違い、回復運転とかいうのは無いのだろう。
 着陸はスムーズで、思ったほど衝撃は無かった。
「3月も下旬なのに、まだ雪があるんだな」
「まあ、北海道だし、それに今年は雪が多いからね」
「そういえば天気予報でそんなこと言ってような……」
 搭乗口が開いて、乗客達は飛行機を降り始めた。
「師匠、着きましたよ」
 マリアがイリーナを揺り起こす。
「んあ?……ああ、着いたのね」
 ユタはハットラックから荷物を下ろした。
「じゃあ、降りましょう」
 搭乗口からターミナルへ向かう通路を歩いている時、
「おー、やっぱり予想通り、雪が多いねー」
 イリーナが感心したかのように言った。
「今年は雪が多いそうですね」
「んー、まあね。原因は分かってるんだけど……」
「は?」
「それより、お腹空いたから、何か食べてから札幌行こう」
「そ、そうですね。ちょうどお昼時ですし……」

 ターミナル内のレストランで昼食を取ることにした。
「夜はジンギスカンでも食べようって思ってる」
「意外と観光する気満々ですね」
「まあね」
 というわけで、昼は普通に食事をした。
 その際、
「今年は大魔王バァル戦の影響で、異常気象が起こるからね。覚悟のほどよろしくね」
 イリーナがそう言った。
「あれだけ魔界から揺さぶられて影響が無いわけないし、バァルを魔界から追い出したから、それで終わりってわけではないのよ」
「具体的にはどんな?」
「世間一般からは、異常気象の一言で片付けられるレベルには抑えられそうだけどね。例えば今年の冬は雪が多いとか、夏は台風がやたら多いとか、そういうことかな」
「ふーん……?まあ、普通のような……」
「放っておいたら、北海道なら夏が来ない年になるだろうし、首都圏は首都圏で12月に台風が来る状態になってたでしょうね」
「異常気象ってレベルじゃないんじゃ……」
「大師匠も何だかんだいって、冥界側から何か操作してくれたみたいね。だからこの北海道でも、せいぜい、いつもより少し春の訪れが遅いとか、その程度で済むでしょう」
「通りで埼玉や東京も、いつもより寒いわけですね」
「そう。で、夏は夏で暑いと」
「マジですか……」
「大丈夫だって。その頃にはユウタ君、涼しい長野で修行してくれてるから」
「ははは……」
 内定というより、ほぼ決定なのだった。

[同日13:32.JR新千歳空港駅・プラットホーム 上記メンバー]

〔「1番線、ご注意ください。札幌行きの快速“エアポート”137号の到着です。お下がりください。……」〕

 地下ホームで電車を待っていると、トンネルの向こうから電車がやってきた。
 京成に引き続き、新型の電車がやってきたが、ユタにはあまり嬉しくない電車だった。
 何故なら……。

〔「ご乗車ありがとうございました。新千歳空港、新千歳空港、終点です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 折り返し、先頭車となる車両に乗り込む。
 733系と呼ばれる、指定席車以外はロングシートの通勤タイプだ。
 旅情は無い。

〔「ご案内致します。この電車は13時48分発、札幌行きの快速“エアポート”137号です。これから先、南千歳、千歳、恵庭、北広島、新札幌、終着札幌の順に止まります。中ほど4号車は指定席“uシート”です。ご利用には指定席券が必要となります。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 北海道の草原をイメージしたという緑色の座席は、埼京線や山手線のそれよりも明るい色をしている。
「大師匠方の動向ですが、ゴルフ場から今度はカジノを作るつもりらしいです」
 弟子の報告にイリーナは、
「悠悠自適もいい所だわ、あのジジィ達……」
 と、愚痴った。
(で、私やユウタ君が1人前になった頃には、今度は師匠が自由奔放の生活をして、私に愚痴られると……)
 マリアは心の中でそう思った。

 ダイヤが遅れた航空機だったが鉄道はダイヤ通りで、ユタ達を乗せた快速電車は定刻通りに発車した。

〔ご乗車、ありがとうございます。千歳線、函館線直通、快速“エアポート”号、札幌行きです。次は、南千歳に止まります。千歳線、苫小牧方面と石勝線はお乗り換えです〕

 発車すると、すぐ抑揚の無い男声の自動放送が流れて来た。
 JR東日本の新幹線で流れているものとは、違う声優のようだ。
 その後流れて来た英語放送は、新幹線のものと同じ。
 抑揚の無い声というのは、悪く言えば暗いということなのだが……。

 とにかく、まず一行は札幌を目指すことになった。

 イリーナの話によると、札幌市内にも知り合いが住んでいるらしい。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“ユタと愉快な仲間たち” 番外編 「卒業旅行 The 3名様」 3

2015-02-04 10:18:05 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月25日09:08.成田空港駅→成田空港第1ターミナル 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 ユタ達を乗せた特急電車は、再び地下トンネルを走行していた。
 京成成田からは厳密に言えば京成電鉄ではなく、成田空港高速鉄道という別の鉄道会社の線路を走る。
 但し、その成田空港高速鉄道、車両も乗務員も駅員もいない鉄道会社(第3種鉄道事業者)なので、乗客にはそのような案内はしていない。
「さすがに普通の特急だと時間が掛かりましたかね」
「いや、私は別に……。師匠もそれでいいって言ってるし」

〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、成田空港、成田空港でございます。到着ホーム3番線、お出口は右側です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。本日も京成をご利用頂き、ありがとうございました。……」〕

 新型電車であろうとも、本線内の日本語放送は車掌による肉声。
 英語放送のみ自動という不思議。
 但し、スカイアクセス線では日本語も自動放送になるらしい。
 電車が地下ホームに滑り込むと、2人はキャリーバッグを手にホームに降りた。
「ミク達に歩かせると、目立ちますよ」
 と、ユタの指摘に、
「確かに。この中に入ってて」
 マリアはミク人形達をバッグの中に入れた。
(金属探知機で引っ掛からないだろうか……)
 と、一瞬ユタは不安になったが……。

 この成田空港駅、羽田空港駅とは違う所がある。
 それは検問所があること。
「身分証を拝見します」
 駅員とは違う制服を着た警備員が手荷物検査場よろしく、ここでチェックしている。
 但し、金属探知機とかはさすがに無い。
「来港の目的は?」
 大抵は身分証の提示と来港目的を聞かれる。
 外国人や海外へ向かう日本人はパスポートを見せれば良い。
 マリアはそうした。
 海外へ向かうわけではなく、パスポートを持っていない場合は、それに代わるものを見せれば良い。
 ユタは運転免許証を出した(※本編では運転免許を取得しているシーン、実際に運転しているシーンは無いが、スピンオフ“妖狐 威吹”では運転している)。
「札幌まで行きます」
 飛行機に乗る場合は、航空チケットを見せれば良い。
 まだ持っていない場合は口頭のみでもOK。
 因みに飛行機に乗るわけではない場合は、空港見学とか、送迎とか言っておけば良い。

「確かに羽田より不便かも、ですね……」
 ユタは駅を出てターミナルへ向かう最中、マリアに言った。
「いやー……羽田空港がユルいんだと思うよ」
 と、マリアは違った見方をしている。
 因みにパスポートには、ちゃんと本名が書かれている。
 いや、以前に使用していた魔道師のミドルネーム『ベルゼ』が入っていないだけだ。

 で、やっとターミナルの待ち合わせ場所に着くと、
「やあやあ。良く来てくれたねぇ」
「師匠は遠くからでも目立ちますね」
 と、マリアは笑みを浮かべて言った。
(そのセリフ、どこかで聞いたなぁ……)
 ユタはそう思った。
「イリーナさんがモデル体型で、魔道師のローブを羽織っていると尚更ですね。……あれ?杖は無いんですか?」
「さすがにそんなもん機内に持ち込めないし、預かってもくれないよ。ここ、ここ」
 イリーナは自分の左手に着けているブレスレッドを指さした。
「上手い事やるもんですねぇ……」
「どうする?1時間前だけど、もう中へ入る?」
「そうですね……」
 ユタが手にしている航空チケットには、10時15分発、ANA2153便と書かれている。
「中に入りましょう」

[同日09:45.成田空港第1ターミナル 国内線出発ロビー ユタ、マリア、イリーナ]

「あれ!?あれ!?」
 どうした、ユタ?
「ズボンのベルトじゃないでしょうか?」
 金属探知機に引っ掛かりまくっていた。
 警備員が訝しがる。
「ええっ!?」
 先に通過した魔道師師弟。
「師匠、やっぱり飛行機ではない手段の方が良かったのでは?」
「うーん……。列車や船舶は作者が取材していない……もとい、敵に狙われやすいんだよぉ」
 で、
「お、お待たせしました」
 やっと通過できたユタ。
「ご苦労さま」
「帰りも思いやられるなぁ……」
 ユタは頭をかいた。
「まあまあ。気を取り直して、まだ搭乗まで時間あるし、一服でもしてきたら?」
 因みに誰もタバコは吸わない。
 軽食スタンドで、コーヒーでも飲んで来いということだろう。
「荷物は私が見てるからさ」
 イリーナは空いている椅子に座った。
「じゃあ、お願いします。ユウタ君、行こ」
「は、はい」
 ユタはマリアに手を引かれるようにして行った。
「若いっていいねぇ……。ん?」
 その時、マリアのバッグの中からミク人形がよいしょっと出て来た。
「なぁに?お前も散歩したいの?いいよー。迷子にならないようにねー」
 イリーナはミク人形をバッグの中から出してやった。
 人形形態で、よちよちと歩く姿はどことなくペンギンに似ている。
 だが、すぐに戻って来た。
「はいはい。不安になったのねー。お前のご主人、すぐ戻って来るからねー。それまでおとなしく待っときなー」

〔「10時15分発、全日空2153便、札幌・新千歳行きをご利用のお客様にお知らせ致します」〕

「ん?」

〔「全日空2153便は折り返し機材の到着遅れのため、搭乗時間が変更となります。……」〕

「あっちゃあ……。来るとは思っていたけど……。ねぇ?ミカエラ?」
「?」
 弟子の人形に話し掛けるイリーナ。
 無論、人形自身にそのようなことは分からない。
 放送によると、20分ほど遅延するそうだ。

[同日10:35.全日空2153便・エアバス320-200機内 ユタ、マリア、イリーナ]

 ようやく機上の人となるユタ達。
 羽田から出発するものとは異なり、あまり大きくない機体だった。
 中央の通路を挟んで、両側に3人席が並んでいるだけ。
「観光バス並みに狭い座席が何とも……」
 そんな座席にも関わらず、イリーナは窓側でグースカ寝ている。
 ようやく機体が動き出した。
「飛行機あんまり乗らないからなぁ……」
 と、ユタ。
「前に乗ったのはいつ?」
「確か……高校の修学旅行の時だったような……。あとはずっと地べたを走る鉄道でした」
「ユウタ君らしい」
「マリアさんは飛行機に乗り慣れていますか?」
「ユウタ君よりは乗ってると思う」
「そりゃ凄い」
「さすがにエア漏れ上等のロシアの国内線はカンベンだわ……」
「えっ!?」
「師匠がなまじ東欧の生まれなもんだから、よくそこに連れて行ってもらったものだけどね……」
 イリーナという名前からして、確かにそうだろう。
「もっとも、1番危険なのは暴走飛行のエレーナのホウキだけどね」
「た、確かに……。ハリー・ポッターもびっくりだ」

 そんなこと話しているうちに、飛行機は一気に加速。
「……こ、この重圧が何とも……」
 そして離陸。
「うう……!……ん?」
「クカー……」
「す、凄い人だ……」
 ユタが手に汗握っている中、マリアが無表情な中、イリーナは鼻提灯膨らませていた。
「まあ、1000年も生きてるからね」
 マリアがフォローにならないフォローをした。

 こうして魔道師2人と人間1人は、本州から旅立って行った。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする