※なんか、普通に番外編がシリーズ化しているような……?気のせいか。
[3月26日07:30.札幌市・すすきののビジネスホテル 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]
「あ、マリアさん、おはようございます」
「おはよ……」
朝食会場に行く前に、ユタは隣のマリア達の部屋に行った。
出て来たのは眠そうな顔をするマリアだけ。
ユタの予想通り、イリーナは出てこなかった。
取りあえず、エレベーターまで一緒に行く。
「あの、聞かなくても分かりますが一応……イリーナさんは?」
「言わなくても分かると思うが、師匠は『あと5分』を1時間以上繰り返していたので放っておいた」
「やっぱり……」
「もはや、ベタな法則だな」
「ええ……」
ピンポーン♪
〔下に参ります〕
「取りあえず、朝食はバイキングのようです」
「だろうな」
エレベーターで1階に下り、レストランに向かう。
「朝食券をお預かりします」
「はーい」
入口でチェック・インの時にもらった朝食券を店員に渡した。
「イリーナさん、このまま起きて来ないと朝食券無駄になっちゃいますね」
「なに、いつものことだ」
「はあ……」
こういうホテルのバイキングに行くと、ユタはかつて自分を“獲物”にしていた妖狐の威吹を思い出すのだ。
大食漢の妖狐は皿に山盛りの料理を乗せると、一心不乱に食べるのだった。
「今日は旭川に行く。師匠はその先まで行くとは言っていたけども、恐らく市外には出ないと思う」
「へえ……」
「まあ、予測不能の師匠の言動・行動だから、絶対とは言えないけどね」
「そうですね。電車の時間までは、まだ時間がありますよ」
「10時ちょうど発だっけ?」
「はい。しかし、マリアさんも強いですね」
「え?」
「時刻表でイリーナさんを引っ叩くなんて、凄いですよ」
「……そんなことしてないぞ?覚えてない。知らない。身に覚えが無い」
「いや、僕がこの目で見ましたが?」
「……師匠には内緒ね。多分、肝心の師匠も覚えてないから」
「はあ……。(そうなのか?)」
ユタ達が食べ終わって、部屋に戻ろうとした時、二日酔い状態のイリーナが降りて来た。
ので、朝食券は無駄にはならなかったようである。
[同日09:15.札幌市地下鉄南北線すすきの駅 ユタ、マリア、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
朝ラッシュもそろそろ終わる頃の時間帯ではあるが、それでもまだ繁華街の駅は混んでいた。
〔まもなく2番ホームに、麻生(あさぶ)行きが到着します。ホームドアより下がって、お待ちください〕
「イリーナさん、二日酔いは大丈夫なんですか?」
「こういう時の為に、ちゃんと薬は用意してるからね。大丈夫だよ」
確かに、今のイリーナはいつもの調子である。
「悪酔い防止の薬は無いのかなぁ……」
「何か言った、マリア?」
「いえ、別に。電車の風切り音じゃないですかぁ」
「んん?」
電車がやってくる。
〔降りる方の為に、ドアの前を広く開けてお待ちください〕
「ま、まあまあ。5分で着きますから、早く乗っちゃいましょう」
「そうね」
3人は電車に乗り込んだ。
〔2番ホームから、麻生行きが発車します。ご注意ください〕
(意外とマリアさんも、はっきり言う人なんだなぁ……)
と、ユタは吊り革に掴まりながら思った。
グググッと体が持って行かれる加速度で、電車が走り出した。
さすがのマリアも、空いた手すりに掴まって、体が持って行かれないようにしている。
〔次は大通、大通。お出口は、左側です。東西線、東豊線はお乗り換えです。ホーム中央の連絡階段をご利用願います〕
「今度会うヒーラーさんと、お約束は?」
「もちろん取り付けてるよ。上手い事、在庫があるといいんだけどねぇ……」
「ええっ?」
「まあ、新品の方がいいか」
「???」
[同日09:45.JR札幌駅・プラットホーム 上記メンバー]
乗車予定の“スーパーカムイ”11号は、まだ入線していなかった。
折り返し先頭車となる1号車が来る乗車位置で待つ。
北海道一のターミナル駅だが、大宮駅よりも喧しいのは、気動車の発着が多いからだろう。
事実、それが停車している最中は放送も聞き取りにくい。
その為か、放送の音量も明らかに大宮駅よりデカい。
〔「今度の旭川行きL特急“スーパーカムイ”11号は、6番線から10時ちょうどの発車です。停車駅は岩見沢、美唄(びばい)、砂川、滝川、深川、終点旭川の順です。5両編成で参ります。……」〕
「冬場だったら、もっと寒いだろうなぁ……」
時折外から吹いてくる風が冷たい。
「桜が咲くのも遅いからねぇ……。早く魔道師のローブができるといいねぇ……」
イリーナはしっかりローブを羽織り、フードまで被っている。
耳の保護も、それで完璧だという。
対するマリアは、フードまでは被っていない。
「いいっすね……。(僕はローブが似合うんだろうか……)」
一応昨日、山田テーラーで既製品を試着してみたが、あんまりパッとした感じはしなかった。
あくまで試着であって、既製品をそのまま着るわけではない。
そこは山田店長も考えて、ユタに合うローブを作るという。
見た目だけ見れば、確かに腕は確かそうなのだが、何ぶん、イリーナとの掛け合い漫才を見ていると、どうしても不安が残るのだった。
〔お待たせ致しました。まもなく6番ホームに、10時ちょうど発、旭川行きL特急“スーパーカムイ”11号が入線致します。……〕
ホームに中年女声の自動放送が鳴り響いたのは、発車の5分くらい前だった。
東北地方でも仙台駅以外の比較的大きな駅で流れてそうな声だ。
入線してきたのは、新型の789系と呼ばれる車両。
既に車内整備が終わった状態でやってきた。
自由席車であっても、オレンジ色の蛍光灯を用いた温かみのある雰囲気を醸し出している。
「よいしょっと」
ユタが向かい合わせにしようと、座席下のペダルを踏もうとすると、
「あ、いいよ、ユウタ君」
と、マリアが止めた。
「師匠はどうせ着くまで爆睡するだろうから」
「そう、ですか?」
「さすがは私の弟子ねー……」
「師匠はこちらにどうぞ」
マリアが指し示した座席は1人席。
しかも窓には『優先席』と書かれている。
特急列車で優先席なんて珍しいと思うが、これは札幌〜新千歳空港間の快速“エアポート”として運用する時のみ有効。
札幌〜旭川間での特急においては、優先席は無効である。
とはいえ、
「お年寄りに席を譲りましょうってかい。マリアは優しいねぇ……」
「いえいえ」
(何かちょっと、空気が……)
ユタは少し背筋が寒くなったような気がした。
いち早くその空気を読んだマリアの人形達が、ユタの肩や背中に掴まって避難してきている。
しかし列車の運行には影響が無く、ユタ達を乗せた特急は定刻通りに発車した。
[3月26日07:30.札幌市・すすきののビジネスホテル 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]
「あ、マリアさん、おはようございます」
「おはよ……」
朝食会場に行く前に、ユタは隣のマリア達の部屋に行った。
出て来たのは眠そうな顔をするマリアだけ。
ユタの予想通り、イリーナは出てこなかった。
取りあえず、エレベーターまで一緒に行く。
「あの、聞かなくても分かりますが一応……イリーナさんは?」
「言わなくても分かると思うが、師匠は『あと5分』を1時間以上繰り返していたので放っておいた」
「やっぱり……」
「もはや、ベタな法則だな」
「ええ……」
ピンポーン♪
〔下に参ります〕
「取りあえず、朝食はバイキングのようです」
「だろうな」
エレベーターで1階に下り、レストランに向かう。
「朝食券をお預かりします」
「はーい」
入口でチェック・インの時にもらった朝食券を店員に渡した。
「イリーナさん、このまま起きて来ないと朝食券無駄になっちゃいますね」
「なに、いつものことだ」
「はあ……」
こういうホテルのバイキングに行くと、ユタはかつて自分を“獲物”にしていた妖狐の威吹を思い出すのだ。
大食漢の妖狐は皿に山盛りの料理を乗せると、一心不乱に食べるのだった。
「今日は旭川に行く。師匠はその先まで行くとは言っていたけども、恐らく市外には出ないと思う」
「へえ……」
「まあ、予測不能の師匠の言動・行動だから、絶対とは言えないけどね」
「そうですね。電車の時間までは、まだ時間がありますよ」
「10時ちょうど発だっけ?」
「はい。しかし、マリアさんも強いですね」
「え?」
「時刻表でイリーナさんを引っ叩くなんて、凄いですよ」
「……そんなことしてないぞ?覚えてない。知らない。身に覚えが無い」
「いや、僕がこの目で見ましたが?」
「……師匠には内緒ね。多分、肝心の師匠も覚えてないから」
「はあ……。(そうなのか?)」
ユタ達が食べ終わって、部屋に戻ろうとした時、二日酔い状態のイリーナが降りて来た。
ので、朝食券は無駄にはならなかったようである。
[同日09:15.札幌市地下鉄南北線すすきの駅 ユタ、マリア、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
朝ラッシュもそろそろ終わる頃の時間帯ではあるが、それでもまだ繁華街の駅は混んでいた。
〔まもなく2番ホームに、麻生(あさぶ)行きが到着します。ホームドアより下がって、お待ちください〕
「イリーナさん、二日酔いは大丈夫なんですか?」
「こういう時の為に、ちゃんと薬は用意してるからね。大丈夫だよ」
確かに、今のイリーナはいつもの調子である。
「悪酔い防止の薬は無いのかなぁ……」
「何か言った、マリア?」
「いえ、別に。電車の風切り音じゃないですかぁ」
「んん?」
電車がやってくる。
〔降りる方の為に、ドアの前を広く開けてお待ちください〕
「ま、まあまあ。5分で着きますから、早く乗っちゃいましょう」
「そうね」
3人は電車に乗り込んだ。
〔2番ホームから、麻生行きが発車します。ご注意ください〕
(意外とマリアさんも、はっきり言う人なんだなぁ……)
と、ユタは吊り革に掴まりながら思った。
グググッと体が持って行かれる加速度で、電車が走り出した。
さすがのマリアも、空いた手すりに掴まって、体が持って行かれないようにしている。
〔次は大通、大通。お出口は、左側です。東西線、東豊線はお乗り換えです。ホーム中央の連絡階段をご利用願います〕
「今度会うヒーラーさんと、お約束は?」
「もちろん取り付けてるよ。上手い事、在庫があるといいんだけどねぇ……」
「ええっ?」
「まあ、新品の方がいいか」
「???」
[同日09:45.JR札幌駅・プラットホーム 上記メンバー]
乗車予定の“スーパーカムイ”11号は、まだ入線していなかった。
折り返し先頭車となる1号車が来る乗車位置で待つ。
北海道一のターミナル駅だが、大宮駅よりも喧しいのは、気動車の発着が多いからだろう。
事実、それが停車している最中は放送も聞き取りにくい。
その為か、放送の音量も明らかに大宮駅よりデカい。
〔「今度の旭川行きL特急“スーパーカムイ”11号は、6番線から10時ちょうどの発車です。停車駅は岩見沢、美唄(びばい)、砂川、滝川、深川、終点旭川の順です。5両編成で参ります。……」〕
「冬場だったら、もっと寒いだろうなぁ……」
時折外から吹いてくる風が冷たい。
「桜が咲くのも遅いからねぇ……。早く魔道師のローブができるといいねぇ……」
イリーナはしっかりローブを羽織り、フードまで被っている。
耳の保護も、それで完璧だという。
対するマリアは、フードまでは被っていない。
「いいっすね……。(僕はローブが似合うんだろうか……)」
一応昨日、山田テーラーで既製品を試着してみたが、あんまりパッとした感じはしなかった。
あくまで試着であって、既製品をそのまま着るわけではない。
そこは山田店長も考えて、ユタに合うローブを作るという。
見た目だけ見れば、確かに腕は確かそうなのだが、何ぶん、イリーナとの掛け合い漫才を見ていると、どうしても不安が残るのだった。
〔お待たせ致しました。まもなく6番ホームに、10時ちょうど発、旭川行きL特急“スーパーカムイ”11号が入線致します。……〕
ホームに中年女声の自動放送が鳴り響いたのは、発車の5分くらい前だった。
東北地方でも仙台駅以外の比較的大きな駅で流れてそうな声だ。
入線してきたのは、新型の789系と呼ばれる車両。
既に車内整備が終わった状態でやってきた。
自由席車であっても、オレンジ色の蛍光灯を用いた温かみのある雰囲気を醸し出している。
「よいしょっと」
ユタが向かい合わせにしようと、座席下のペダルを踏もうとすると、
「あ、いいよ、ユウタ君」
と、マリアが止めた。
「師匠はどうせ着くまで爆睡するだろうから」
「そう、ですか?」
「さすがは私の弟子ねー……」
「師匠はこちらにどうぞ」
マリアが指し示した座席は1人席。
しかも窓には『優先席』と書かれている。
特急列車で優先席なんて珍しいと思うが、これは札幌〜新千歳空港間の快速“エアポート”として運用する時のみ有効。
札幌〜旭川間での特急においては、優先席は無効である。
とはいえ、
「お年寄りに席を譲りましょうってかい。マリアは優しいねぇ……」
「いえいえ」
(何かちょっと、空気が……)
ユタは少し背筋が寒くなったような気がした。
いち早くその空気を読んだマリアの人形達が、ユタの肩や背中に掴まって避難してきている。
しかし列車の運行には影響が無く、ユタ達を乗せた特急は定刻通りに発車した。