報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「今度のデビューは……」

2015-02-28 19:33:20 | アンドロイドマスターシリーズ
[3月3日10:10.東京・秋葉原→都営新宿線・岩本町駅 Lily&未夢]

 財団の崩壊に伴い、今年度末で閉鎖されることになってしまったボーカロイド劇場。
 Lilyは新たな引き取り先である敷島エージェンシーへ移籍のため、それを待たずして劇場を離れることになった。
 劇場では固定客も付いていただけに、財団の崩壊と劇場の閉鎖は彼女にとって大きな痛手になったことは間違いない。
 JR秋葉原駅の中央口に佇むのは、一緒に新たな事務所でデビュー予定のガイノイド仲間を待つ為である。
 駅前のロータリーからは路線バスが発着し、道路の向かい側からは大型家電量販店のテーマソングが流れて来る。
「遅い……」
 Lilyは自身の体内に搭載された電波時計が、既に約束の時間を過ぎていることに苛立ちを感じていた。
 相方の未夢は自分と違って、最初からボーカロイドとして製造されたわけではなく、どちらかというとガテン系の産業ロボットとして製造されたと聞いている。
 何故そんな、いかにもゴツそうなヤツがボーカロイドに転向したのかは分からない。
(きっと、時間に正確じゃないから、人間達に捨てられたのね)
 そんな風に思っていると、
「す、すいません、遅れちゃって!」
 つくばエクスプレスの乗り場の方から、バタバタと階段を駆け上がって来る女性がいた。
 そして最後の一段の所で、
「ぅあっち!」
 派手にスッ転ぶ。
「…………」
 Lilyは呆れてポカンと口を開けていた。
「大丈夫です。私に損傷はありません」
 Lilyのメモリーには、彼女がどうしても、待ち合わせ相手の未夢としか出なかった。
 いくらスキャンしても。
「いや、聞いてないから」
 その代わり、スッ転んだ場所の地面にヒビが入っていたことは内緒である。
「あなたがLilyさんですね?」
「ええ。そういうあなたが、元ガテン系の未夢さん?」
「がてん……?何ですか?」
「知らないならいいわ。まあ、確かに私より体大きいし、力もありそうね」
「はい!ダンスには自信があります!」
「だから、そういうことは聞いてないって。それより、12分42秒遅刻よ?」
「ご、ゴメンなさい。つくば駅で、区間快速に乗り遅れちゃって……。その後の快速に乗って来たんですけど……」
「言い訳はいいから。これから私も含めてあなたも飛び込む世界は、秒単位で動く仕事なんだから、遅刻は許されないよ」
「ゴメンなさい……」
「まあ、いいわ。行きましょう。新しい事務所はこの先、岩本町駅から都営新宿線に乗って行くみたい」
「はい」

 昭和通りを南進する2人のガイノイド。
「あの……Lilyさんは、財団運営のボーカロイド劇場の専属だったんですよね?」
 未夢が話し掛けた。
「それがどうしたの?」
「劇場が閉鎖されることになっちゃって、寂しいんじゃないですか?」
「……寂しくないって言ったら、嘘になるわね。だけど、閉鎖理由は人間都合のもので、私達の問題のせいで閉鎖されるわけじゃないから。新たな引き取り先があるだけ、私達はマシよ」
「それもそうですね」
「寂しくなんか……」

[同日10:25.都営新宿線・岩本町駅 Lily&未夢]

〔3番線の電車は、各駅停車、本八幡(もとやわた)行きです。当駅で、急行の通過待ちを致します。発車まで、しばらくお待ちください〕

 ホームに降りると、各駅停車が止まっていた。
「間に合いましたね」
「ていうかアンタ、階段の昇り降り遅過ぎ!本当にダンスが得意なわけ?」
「ゴメンなさい。段差が苦手で、よく転んだりしていたもので……。あれ?そういうLilyさんも、随分後ろ髪を引かれてたんじゃありません?」
「そ、そんなこと……ないよ。私は……」

〔まもなく4番線を、電車が通過致します。危ないですから、白線の内側まで、お下がりください〕

 轟音を立てて本線を通過していく急行電車。
 その音に紛れて、Lilyはポツリと言った。
「さようなら……秋葉原」

〔「お待たせ致しました。10時30分発、各駅停車の本八幡行き、まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

「さあさあ、電車に乗りましょう」
 未夢はLilyを促した。

〔3番線、ドアが閉まります〕

 2人のボーカロイドを乗せた電車は、ゆっくりと岩本町駅を発車した。

〔次は馬喰横山(ばくろよこやま)、馬喰横山。都営浅草線、JR線はお乗り換えです。お出口は、左側に変わります〕

「そういえば、あと1機、新しい仲間が入るんですよね?Lilyさんは聞いてます?」
 空席が目立つ車内。
 だがボーカロイド達は座ることなく、最後尾の車椅子スペースの所に立っている。
「製造されたばかりの新品だって聞いたわ。製造元から直接来るみたいだから、私達と違って箱詰め状態で来るんじゃない?」
「本当に出来立てホヤホヤなのね」
「財団が崩壊して、研究費用の助成が受けられなくなった研究所が悉く閉鎖されていった。ボーロカイドも量産体制に入ろうとしていた矢先の出来事だから、せっかく作られても、1曲も歌えないまま廃棄処分にされる個体も出て来るだろうって……」
「それは悲しいわね……」

[同日10:45.東京都墨田区菊川 敷島エージェンシー Lily、未夢、シンディ]

「着きましたね」
 事務所は辛うじて新大橋通りに面しているものの、ビル自体は決して大きいものではなかった。
「……本当に、こういう事務所で大丈夫なのかしら?」
「行ってみないと分かりませんよ。ほらほらー」
 未夢はLilyの背中を押した。
「ちょっ……!押さないでよ」
 一応、ビルは築浅なのか、そんな古めかしく見える所は無かった。
 それどころか、バリアフリーを意識してか、片開きの自動ドアは広く、車椅子対応エレベーターもあった。
「あなた達が新人ボーカロイドさん達かしら?」
 すると、エントランスに自分達より長身の女性が立っていた。
「あ、はい!」
 スキャンすると、マルチタイプと出た。
「事務所はこのビル最上階の5階よ。来なさい」
 エレベーターのボタンを押す。
「私の名はシンディ。一応、事務所とあなた達の身辺警備を任務としている。よろしく」
「み、未夢です!よろしくお願いします!」
「Lilyです。劇場ではお世話になりました」
「劇場?」
「そこでお会いしたことがあるわ」
「ふーん……」

〔上に参ります〕

 サイドオープン式のドアが開くと、3機のガイノイド達はエレベーターで上がった。
「あの、どうしてエレベーターで上がるんですか?別に私達、階段で上がってもいいんですよ?」
「ああ、ゴメン。私の都合」
「えっ?」
「マルチタイプは自重が重いもんだから、階段の昇り降りの時に、衝撃で階段を傷つける恐れがあるんでね」
「ええー……」
「財団があった頃は、高層ビルの高層階で、必然的にエレベーターを使用するしか無かったから、そんなに目立ってもいなかったんだけどね」
「はー……」

 こうして、Lilyと未夢は無事に敷島エージェンシーに辿り着いた。
「社長、新人2人を連れて来ましたよ」
 シンディが奥にいる敷島を読んだ。
「やあやあ、よく来てくれたねぇ」
「お、お世話になります!経産省つくば研究所から参りました未夢です!」
「ボーカロイド劇場から来ましたLilyです。敷島参事……もとい、敷島社長」
「そうか。Lilyとは財団時代に会ってるな」
「まあ……」
「社長、もう1機は航空便が遅れて到着は後日になるみたいよ」
 と、シンディ。
「マジか。向こうで起動してもらって、旅客便に乗せた方が良かったかなー」
「それだと費用が掛かるってんで、あくまで起動はこっちでやるから、貨物便にしろってメーカーにゴネたの社長じゃない」
「ぅあっと!そうだった……」
「あの……先輩方はいらっしゃらないのですか?」
「ああ。皆、出払ってるよ。ボーカロイドのいい所は、自分でスケジュール管理ができることだな。とはいうものの、さすがにあの6人体制だけでは……なもんで、キミ達を引き取ってデビューしてもらう。Lilyの場合は再デビューになるのかな」
「まあ……。使って頂けるのなら、何でもやります」
「新しいプロデューサーも入れるつもりだから、来年度のデビューを目指して、まずは調整だな」
「はい!」
(本当に大丈夫なのかしら?)
 シンディは腕組みをして、敷島と新人ボカロ達のやり取りを聞いていた。
(まあ、廃棄処分になるよりかはマシか……)
コメント (9)
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“新アンドロイドマスター” 「始まりの始まり」

2015-02-28 11:00:45 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月28日21:00.埼玉県さいたま市岩槻区 実家 井辺翔太]

「俺、大学卒業したら、就職しないで世界一周旅行行ってきます!キリッ」
「……」(両親)

 尚、この日、岩槻区内の某住宅で、激化した家族間トラブルにより、付近の交番から警察官が出動する騒ぎがあったと、町内会長の鈴木道夫さん(72歳)は述懐しておられる。

[3月2日11:00.東京都区内にある某大学 就職相談室 敷島孝夫]

「いやー!まさか、ここで私の母校のお世話になるとは思いませんでしたよー。はっはっはっ」
「この前、『業界の裏の裏まで知り尽くした敏腕プロデューサーをスカウトするから結構』とか言ってませんでした?
 相談室長は取りあえず敷島に茶を出しながら、しかしこめかみには怒筋を浮かべて言った。
「や、やっぱり、新卒者を採用して、業界のことを一から教えて育てていくという方針に変更になったのです」
 敷島は冷や汗を拭きながら答えた。
「何とかなりませんでしょうか?」
「そんなこと言ったって、敷島社長。もう卒業生のほとんどは就職活動は終わってるんですよ?ここ最近、景気が上向きになって、大学生の就職率も上昇していることはご存知でしょう?」
「……ということで、他の大学からは断られまくりでして……。もう頼るのは、我が母校しかないのです!」
「都合のいい話ですね。まあ、求人票はお預かりしておきますが……」
「よろしくお願いします」

[同日12:00.同場所 キャンパス内 井辺翔太&敷島孝夫]

「くそ……。『あと1ヶ月以内に就職先見つけないと、家追い出す!』『ニートなんて許しませんからね!』とか、ワケわかんねー」
「くそ……。『あと1ヶ月以内に後任プロデューサー見つけないと、会社潰す』って、なんだよ、アリスのヤツ……ワケわかんねー」
 ぶつくさ言いながら、すれ違う2人。
「ん?」
「ん?」
 『ワケわかんねー』の所が妙にハモったため、立ち止まる2人。
「あ、あははは!もしかして、聞こえちゃいました!?」
「ここ、こちらこそ、恥ずかしい!」
 2人とも、ばつの悪そうな顔になる。
「……もしかしてキミ、ここの学生さん?就職先探してるの?」
「え、ええ、まあ……」
「!」

[同日13:00.都区内某所・某カフェ 井辺翔太&敷島孝夫]

「……というわけで、まだ事務所を立ち上げたばかりなんだけど、既に前途洋々ってヤツで、売れっ子アイドル達はもう確保してある。何の心配もない」
「でも、俺……いや、私に芸能プロデューサーなんて、いきなり……」
「人間のアイドルを売り込むんじゃないさ。とにかく、普通に『営業』の仕事だと思ってもらえればいい。もちろん、しばらくの間は私が一緒につくよ」
「願っても無い話ですけど、全く自分が考えていた就職先と違うので、考えさせてもらってもいいですか?」
「ああ、いいよ。御両親とも、十分に相談してもらって……」
 しかし井辺は、
(今から探したって、非正規雇用の仕事しか無いだろうしなぁ……)
 と、思った。
 敷島が持ってきた募集要項には、ちゃんと正規雇用の文字が踊っている。
 両親の様子からして、正規登用ありきの非正規雇用以外の非正規雇用でも微妙なくらいだ。
(英語力堪能で世界旅行を企てているくらいのアグレッシブ性が素晴らしい。ボカロを将来、世界に売り出すためにはこれくらいでないと……)

[同日同時刻 埼玉県さいたま市西区 デイライト・コーポレーション技術開発研究所 アリス敷島&シンディ]

 只今、鋭意再建中の研究所。
「死亡者がいないのが、せめての救いでしたが……」
「シンディ!あの大バカ野郎の行方はまだ分からないの!?」
「も、申し訳ありません。東北にいるエミリーとも共同して捜しているのですが、どうもGPSを切っているようで……」
「朴訥な執事ロボットかと思ったら、とんでもないヤツだったわ!」
「さようで……。お体に障りますので、取りあえず引き上げましょう」
 シンディは身重のアリスの体を支えるように歩き出した。
「執事用途改め、テロリズム用途のキール・ブルー、発見したらどうしたらよろしいですか?」
「捕獲してここに連れてきなさい。それが困難だったら、破壊してもいいから」
「かしこまりました」
「全く……。タカオのヤツも会社立ち上げたはいいけど、ボカロとトラブル引き起こすし……ブツブツ……」
(マタニティ・ブルーってヤツかしら……???)

[同日14:00.東北工科大学・教授室 平賀太一&七海]

「……そうですか。候補者を見つけられましたか」
 平賀は自分のケータイで、敷島と喋っていた。
「毎度ながら、敷島さんの強運には舌を巻きますよ。運について研究している学者に紹介したいくらいです。ところで、一海の調子はどうですか?……そうですか、順調ですか。それは何よりです。量産先行機ですので七海とは多少性能の違いはありますが、事務作業用途としては申し分無い作りにしているつもりです。……ええ。……いや、まだキールは見つかりませんね。もちろん、十条博士もです。一体、どこへ行ったのやら……。国外へ行こうとすれば、すぐに分かるわけだから、まだ国内に潜伏していると見るべきだと思うんですが……何とも。……ああ、エミリーは大学の記念館に保存・展示しています。ボディの耐用年数がかなりオーバー状態ですので、新しいボディに交換する必要があります。ただ、いくら設計図が現存していて、その通り作れってなったって、相当な手間暇が掛かりますので、すぐにはムリですよ。それまでも、相当ムリな戦いをしてきたわけですからね。正直、よくもったなと思っているくらいです。さすが、南里先生の最高傑作なだけありますよ」
{「直弟子のあなたが新しいボディを作る。しっかり技術が継承されているってことで、南里所長もお喜びですよ」}
「……だと嬉しいんですけどね。とにかく、十条達はどこかの悪い組織に匿われている恐れもありますので、油断の無いようにお願いしますよ。ボーカロイドが1番目立ちますし、それはつまり、1番テロの標的になりやすということですからね」
{「分かってますよ。幸いアリスがシンディを貸してくれているので、いい護衛になります」}
「何だったら、一海も使ってください。一応、ボーロカイド以上の馬力と腕力は持たせてますから」
{「ありがとうございます」}
 ここで電話を切る。
 そこへ、メイドロボットの七海がお茶を持ってきた。
 研究所での事務作業用では事務服を着ていたが、ここではメイドロボットらしく、メイド服を着ている。
「おっ、ありがとう。……テロとの戦いは終わらないか……」
 ズズズと紅茶を啜る平賀。
「ぶっ!?何だこれ!?変な味!……あっ、ミルクティーじゃないのか!?この色!?」
「太一様、先ほど私が『紅茶とコーヒー、どちらになさいますか?』とお伺いましたら、『どっちでもいい』ということでしたので、ブレンドしてみました♪」
「くぉらっ!お前、ソフトウェア更新したばっかだよな、ああっ!?」
 直後、平賀は再び敷島に電話を掛け、一海に茶を入れてもらう場合、曖昧な返事をしないように注意事項を申し伝えたが、既に後の祭りだったという。
コメント (2)
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