報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「冬のペンション殺人事件」 クローズド・サークル

2017-12-16 19:58:45 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月10日08:00.天候:冬 ペンション“ドッグ・アイ”1F食堂]

 敏子:「おはようございます。早朝は申し訳ありませんでした」
 愛原:「いえいえ……」

 私達は朝風呂を浴びると、それから食堂へ向かった。
 高野君がロビーにいたので、彼女を呼ぶ。

 高野:「ねぇ。外、大変なことになってるよ」
 愛原:「え?」

 外は一面銀世界だった。
 これのどこが大変なのだろう?

 男子大生A:「うわっ、雪ヤベェじゃん!」
 男子大生B:「ちょw 車埋まってんよwww」
 女子大生A:「雪かきからしないと出れねんじゃね?」

 若者グループはお気楽なものだったが、私も暢気だったか。

 高野:「いや、何て言うかさ……。このペンションに通じる一本道、ちゃんと除雪されてるかなぁ……って」
 愛原:「ああ、なるほど。村道とはいえ、公道だろ?ちゃんとしてくれるよ」
 高野:「……だといいんだけど……」

 だいたい皆、夕食と同じ席に座った。
 今度は名札は無い。
 席に座ると、朝食が運ばれて来た。

 愛原:「おっ、いいねぇ」

 ふわとろのオムレツにベーコンが目を引く。

 高野:「! ねぇ、先生。ケチャップいい?」
 愛原:「はいよ」
 高野:「ありがとう」
 高橋:「ケチャップくらい自分で取れよ」
 高野:「うるさいな」

 高野君はケチャップの蓋を開けると、それをオムレツに掛けた。
 ……自分のではなく、私のにだ。

 高野:「はい、完成
 愛原:「うおっ!?」
 高橋:「!」

 愛原君はケチャップで器用に、『愛原先生へ』と書いた。
 まるでメイドカフェのオムライスだな。

 愛原:「はは……ありがとう。そう言えば前に映画で、女版ターミネーターが主人のメイド役をやるヤツで、似たようなことをしていたな……」
 高橋:「ケチャップ、俺にも貸せ!」

 高橋は高野君からケチャップを引っ手繰った。
 そして……。

 高橋:「先生!俺のも食べてください!」

 高橋は器用に、『愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生愛原先生【以下、無間ループ】』と細かく書いた。
 何て器用過ぎるヤツだ!……って!

 愛原:(怖っ!)
 高野:(ヤンデレ!?)
 高橋:「さあ、先生。食べてください。さあ!さあ!」
 愛原:「あ、うん。頂くよ……」

 食べないと、後で私が推理される側になってしまう。
 せっかくの美味しいオムレツが、何だか喉を通りにくかった。

 安沢:「おはようさん。おやおや?何だかメイドカフェみたいなことになってるじゃないの」
 愛原:「何とでも言ってくれ」
 安沢:「助手の方、もしかしてLGBTのGの方?今は差別がどうのこうのとかうるさいから気をつけた方がいいよ」
 高橋:「あ!?誰がGだ!」

 高橋は安沢氏にくって掛かった。
 だがまあ、こんなヤンデレ書法見られたら、疑われるのも無理は無い。

 高野:「気をつけないと、この小説のジャンルがBLにされちゃうからね」
 愛原:「それは困る!」
 安沢:「ほーらほら。大好きな先生様が困ってるよ?」
 高橋:「キサマ……!雪の下に埋めてやろうか?あ?」
 安沢:「そしたらこの事件の犯人はキミで決定だ。おめでとう!」
 高橋:「表へ出ろ!」
 愛原:「高橋君、やめないか!」
 高橋:「ですが先生!」
 愛原:「いいから!」

 そして私は安沢氏の前に出た。

 愛原:「高橋君が、からかいがいのある人間だということは認めるよ。だが、分を弁えてくれないか?」
 安沢:「……オーケー、オーケー!取りあえず今は、朝食を頂くとしよう」

 安沢氏は両手を振った。
 だが席に戻る時、こう言い放った。

 安沢:「バカなヤツだ。この状況を把握し切れていないとは……」
 愛原:「何だと?」

 そこへオーナーの大沢氏が自ら、コーヒーのお代わりを持って来てくれた。

 大沢:「愛原先生、おはようございます。先ほどはジョージが失礼しました。今、ゲージの中に入れて反省させてますので、どうか穏便に……」
 愛原:「私は構いませんよ」
 高野:「ゲージに閉じ込めちゃってるんですか?何か、かわいそう……」
 大沢:「お客様の安眠を妨害してしまう。宿泊業者として恥ずべきことですからね。ジョージはただの飼い犬ではありません。当ペンションのサイトでも、看板犬として紹介している以上、それを汚すようなことはあってはなりません」
 高橋:「チワワにでもしときゃいいんじゃないのか?」
 愛原:「高橋君」
 高野:「チワワでも吠える時は吠えるから……」
 高橋:「その時は俺のショットガンで軽〜く、あの世に送ってやるぜ」
 愛原:「全く……」

 チワワのような超小型犬で、動きも素早いヤツに弾が当たるかねぇ?
 尚、バイオハザードたけなわのあの町で、チワワやトイプードルのゾンビがいなかったのは、人間のゾンビに食い殺されたり、ドーベルマンやシェパードなどの大型犬ゾンビに食い殺されたり、或いはカラスに食い殺されたりしたからだとされている。
 尚、カラスがゾンビ化しなかったのは、カラスに限らず、鳥類はTウィルスに感染してもゾンビ化することは無く、その身体能力はそのままに凶暴性だけが増すという効果があるのだそうだ。

 安沢:「全く。お気楽な人達だな」
 愛原:「安沢さん……」
 高橋:「キサマ、先生にインネン付けんのか?」
 安沢:「あなたは黙っててくれ。愛原さん、この食堂からして何かおかしいことに気がつかないのか?」
 愛原:「え……?」

 私は周囲を見回した。
 特に何か構造が変わっている様子は無い。
 私達の他にいるのは、この安沢氏と、桂山夫妻、そして若者グループだ。
 オーナーの大沢夫妻は厨房とかにいるだろう。
 アルバイトのコ達は帰ったのかな。

 高橋:「先生。あの田中一郎ってヤツと、河童勝治って爺さんがいません」
 愛原:「あ、そうだ!」

 あまりにも影が薄かったので忘れていた。
 いや、存在感だけなら強かったかな。
 ただ、桂山氏とは風呂場で話す機会があったし、若者グループは常に賑やかなので目立つ。

 愛原:「まだ寝てるんじゃないのか?」
 安沢:「もう8時半だぜ?このペンションのチェックアウトは10時。そろそろ食べないと、時間無くなるぞ?」
 愛原:「うーむ……」

 と、そこへロビーから大沢氏が首を傾げながら入ってきた。

 愛原:「大沢さん、どうかしたんですか?」
 大沢:「ああ、いえ……。205号室の田中様方のお部屋に内線を入れてたんですが、全くお出にならないんですよ。朝食の時間ですので、モーニングコールってわけでもないんですが……」
 愛原:「直接起こしに行っては?」
 大沢:「そうですねぇ……。実は正直、チェックアウトの時間を無料で延長させて頂こうかと思っているんです」
 愛原:「どういうことですか?」
 安沢:「全く。お気楽な先生様だ。村道の一本道が今、雪で通行止めなんだよ。昨夜からの猛吹雪で、除雪が追い付かないんだと」
 大沢:「そうなんです。ですので……」
 安沢:「ゆっくり寝てて良かったってことさ」

 安沢氏は肩を竦めた。

 愛原:「でも一応、朝食が無駄になっちゃうから直接起こしに行くのはいいんじゃないですかね?後で文句言われるよりは……」
 大沢:「それもそうですね」
 愛原:「何でしたら、食べ終わったら一緒に行きますよ」
 大沢:「ああ、すいません。お手数お掛けします」

 私は焼きたてだったが、すっかり冷めてしまったパンにバターを塗った。
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“私立探偵 愛原学” 「冬のペンション殺人事件」 ジョージの奇行

2017-12-16 10:53:23 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月10日04:34.天候:雪 ペンション“ドッグ・アイ”]

 私達、事務所のメンバーは、日付の変わる12時まで見張りをしていた。
 だが、ペンション内では何も起こらなかった。
 試しに交替で見回りをしてみたが、怪しい人物など全くいない。
 2Fの客室フロアも回ってみた。
 若者グループは4人。
 ツインの部屋を2部屋借りて泊っているようだが、犯行予告時間になってもまだ起きていると思われるのは、私達以外にこの若者グループだけだった。
 起きていると分かったのは、このグループの部屋からは何か盛り上がるような声が聞こえて来たからだ。
 ゲーム機でも持ち込んで、ゲームでもしているのだろうか。
 ハスキー犬のジョージも、夜間はオーナー夫妻の住居エリアにあるゲージに入って寝ているようだ。

 何も起こらなかったことを確認した私達は結局解散して、就寝することにしたのだが……。

 愛原:「ん……?」

 ワン!ワン!ワンッ!ウ〜!ワンワンッ!ワン!

 部屋の外から犬の鳴き声が聞こえて来た。
 もちろん、このペンションで飼われているジョージだろう。

 高橋:「先生、何か様子が変ですよ?」
 愛原:「ん……何だよ?昨日あれだけ見張ってて……何も無かったんだぞ……?」
 高橋:「ちょっと俺、見て来ます。先生は寝ててください」
 愛原:「ああ。気をつけてな……」

 高橋は部屋を出た。
 とはいえ、私も彼に任せきりにするわけにはいかない。
 何とか寝ぼけた頭を回転させて、ようやく起き上がった。
 そして私は高橋の後を追うことにした。
 ……まあ、追うまでも無かったが。

 熟年客:「おい、ジョージ。どないしたん?近所迷惑やないか。静かにせぇ」

 廊下に出ると常連の熟年夫婦客と高橋と高野君がいた。

 愛原:「一体、どうしたんだ?」
 高橋:「あ、先生。この犬ですよ。さっきからうるさいのは!おい、バカ犬!うるせぇ!静かにしろ!!」
 ジョージ:「ウ〜……!!」
 愛原:「いや、高橋。オマエが静かにしろ」
 高野:「そうよ。あんたが今一番うるさい」
 高橋:「あ!?」
 大沢:「も、申し訳ありません、皆さん!」

 オーナーの大沢氏が1階から昇ってきた。

 大沢:「ジョージ、何をしてるんだ!お客様方の迷惑だろ!」
 ジョージ:「キゥ〜ン……!」
 大沢:「敏子、ゲージのドアをちゃんと閉めてなかったな!?」
 敏子:「ごめんなさい……」
 大沢:「申し訳ありませんでした。今後、このようなことが無いように致しますので、どうか1つ……」
 熟年客:「ええよ、ええよ。しかし、このジョージ君がなぁ……。こりゃ、天変地異の前触れとちゃうか?」
 熟女客:「アンタ、そないな縁起でもないこと言うたらアカン」
 熟年客:「さ、もう一眠りしよ。ほな」
 大沢:「すいません、桂山さん」

 この熟年常連客は桂山というらしい。
 2人は部屋に戻っていった。
 若者グループの部屋は、さすがに静かだ。
 ジョージがあんなにワンワン吠えたというのに、とても静かである。
 おおかた、遊び疲れて寝ているのだろう。
 そして……。

 安沢:「愛原さんよ。あの犬がどうして吠えていたのかの推理はしないのかい?」
 愛原:「は?」
 安沢:「1階で寝ていた犬が、わざわざ2階に上がって来てまでワンワン吠えてたんだぜ?普段は躾のなっている犬として通っているあれが、わざわざこんな嫌がらせみたいなことをすると思うか?」
 愛原:「そりゃ、確かに怪しいと思うな。だが、その理由が分からない。せめて、ジョージに事情を聞ければいいんだがな……」

 ジョージは大沢氏に首輪を掴まれて、引きずられるように連れて行かれた。
 その間、何度も後ろを振り返った。

 ジョージ:「ワン!ワン!」

 私達に向かって吠えた。

 高橋:「あ?何か俺に文句あんのか?」
 愛原:「やめろって、高橋」
 大沢:「やめなさい、ジョージ」

 恐らく今、事件が発生してはいるのだろう。
 だけどそれは今、私達の目には現れていない。
 ジョージが大沢氏の躾を破ってまで、私達に何かを伝えに来たことがそれを如実に物語っている。
 ジョージは一体、私達に何を伝えようとしていたのだろうか。
 それが為、私は部屋に戻って再びベッドに入ったものの、まんじりともせず夜を明かすことになったのだ。

[同日07:00.天候:雪 ペンション“ドッグ・アイ”1階]

 私は目覚ましを7時にセットしていた。
 ホテルではないので、備え付けのアラームだとか電話によるモーニングコールは無い。
 一応部屋に内線電話はあるのだが、フロントへの直通専用だ。

 愛原:「辺り一面、銀世界だな」

 私はカーテンを開けて窓の外を見ると、殆ど視界が白くなっているのを確認した。

 愛原:「朝から温泉気分でも味わって来るか」
 高橋:「お供します!」

 高橋はそれまでベッドの中で丸くなっていたのだが、私の独り言に、まるでバネ仕掛けの人形のように反応したのだった。

 大浴場に行くと、桂山という名の熟年常連客が先に入っていた。

 桂山:「おーっ、探偵の兄さんやないか」
 愛原:「あ、どうも……。おはようございます」
 高橋:「探偵の兄さん……先生と呼べ!」
 愛原:「まあまあ。お隣よろしいですか?」
 桂山:「おうっ、一緒に入りーや」

 私達は温かいお湯に浸かることにした。
 だがまずは、体を洗ってからだ。

 愛原:「どうして、私達が探偵だって知ってるんですか?」
 桂山:「大沢君から聞いたで。あ、大沢君はな、ワシの会社の元社員や。10年前、脱サラしてペンションやる言うて、びっくりしたもんや」
 愛原:「へえ……。社長さんだったんですか」
 桂山:「大阪で、ちょっとした土建屋やっとる桂山っちゅうもんですわ。大沢君、実家が長野や言うて、このペンションが建っとる土地も、大沢君の実家が持っとる山なんやて」
 愛原:「土地持ちかぁ……。なるほどねぇ……」
 桂山:「このペンションも、ワシらが格安で建ててやったんやで。ま、彼の退職金代わりやがな」
 高橋:「格安は結構だが、手抜き工事はしてないだろうな?材料費ケチったりとか……」
 愛原:「高橋君」

 しかし桂山社長は、カラカラ笑うだけだ。

 桂山:「心配あらへん。見てみいや。外は猛吹雪やのに、全然ビクともせんやろ?築10年で、まだまだ老朽化の『ろ』の字もあらへんよ」
 高橋:「俺が言ってんのは老朽化の話じゃなく、手抜き工事……」
 愛原:「高橋君、やめなさい。……てか、外は猛吹雪なんですか?」
 桂山:「ああ。せっかくやから、外散歩して来ようかちゅうて、家内を連れ出そうとしたんやが……ありゃ、数歩歩いただけで死ぬで」
 愛原:「そ、そんなに……!?」

 だが、高橋は私にそっと耳打ちする。

 高橋:「先生、関西人は大ゲサに言うんです。言葉半分に捉えた方がいいですよ」
 愛原:「あ、ああ……」
 桂山:「もしかしたら今日は、このペンションに缶詰にされるのとちゃうか?あの若い子達、今日もまたスキーに行くっちゅうて張り切っとったが、死亡フラグ立ちまくりやがな〜!はっはっは!」

 そう。
 もう既に、死亡フラグは立っているのだ。
 若者グループだけでなく、私達全員に……。
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