[12月9日11:30.天候:曇 長野県白馬村 某スキー場]
村内のバスターミナルでバスを降りた私達は、依頼主がオーナーを務めるペンションのチェックインまでの間、スキーに興じることにした。
高野:「私が手取り足取り教えてあげますからね」
愛原:「あ、ああ……」
もちろん、そんなこと高橋が許すわけが無かった。
私は高橋がどんな反応をするのか、いくつか予想してみた。
1:「キサマ、勝手なことをするな!俺が先生に教えて差し上げるんだ!」
2:「オマエが教える?バカか!オマエに教えられんでもパラレルターンくらい、先生ならできる。余計なことをするんじゃねぇ」
3:「ケッ!キサマが先生をどれだけ上達させられるのか、お手並み拝見と行こうじゃないか」
だいたいこの辺りか。
で、高橋は……。
高橋:「キサマ……」
おっ、やっぱり嫌そうな顔をしてきた。
はてさて、高橋はどんな反応をしてくれるかな?
高橋:「俺は先生の一挙手一投足全てが勉強なんだ。余計なことはしないでもらおうか」
んんっ?2番にも似ているが、何かちょっと違う……。
高野:「あんた、何言ってんの。先生はスキー初級者なんだから、そんなのを見たって勉強にならないでしょ?」
そ、そんなの……。
高野君も、なかなか辛辣なコだ………。
高橋:「俺は先生のスキーを見に来たんじゃない。スキー場でも冴え渡る探偵としての力を見学しに来たんだ。発揮してくれますよね、先生?」
愛原:「ああ、うん……そうだな」
うおっ、まぶしっ!
高橋は私に対し、眩いばかりの希望の瞳を向けて来た。
これを無下に否定すると、後でどう爆発するか分かったものではない。
それにしても、探偵の力を発揮しろと言われても、まだクライアントに会ったわけでも、事件に巻き込まれたわけでもないのに、何をどうしろというのやら……。
探偵とて1人の人間である、ということを教えてやった方がいいのか?
まあ、いいや。
愛原:「とにかく、スキード下手の俺は初級者コースでも回ってるよ。高野君は俺に気にせず、上級者コースでも滑ってきて」
高橋:「そうだそうだ。先生は俺に任せろ」
高野:「しょうがないねぇ。チェックインは16時でしょ?その前にペンションに着いて、オーナーに話を聞く必要がありそうだから、15時にあのレストハウスの前で待ち合わせでいい?」
愛原:「ああ、そうしよう。ま、何かあったら電話くれ」
私は自分のスマホを翳した。
高野:「分かりました」
高野君はスイーっと上級者コースのリフトの方へ滑って行った。
愛原:「結構滑り慣れてるな。まあ、あのバイオハザードを生き抜いたくらいだから、運動には自信があるのかもな」
高橋:「先生、それを仰るなら俺もです」
愛原:「まあとにかく、キミは俺よりも上手そうだ。キミ、先に滑ってくれよ」
高橋:「は?ですが……」
愛原:「いいから。俺は後からついて行く」
高橋:「それだと、俺は先生の動きを見られませんが……」
高橋は不満そうだ。
そこで私は一計を案じた。
愛原:「いいか、高橋?これは訓練だ。いかに背後に神経を集中させ、追跡対象者の目を欺けるかどうかだ。張り込みの最中、不覚にも相手に後ろを取られ、襲撃されることも十分あり得る。その際、それに如何に早く気づけるかがデッド・オア・アライブの境目なんだ。分かるか?」
我ながら無茶苦茶なことを言ってる。
背後の気配を悟る力があることに越したことは無いが、別にそれだけを持って探偵稼業が務まるわけではない。
高橋:「わ、分かりました!この高橋正義、見事先生の目を欺いて見せます!」(`・ω・´)ゞ
高橋はビシッと答えた。
チョロいイケメン、略してチョロメン。
愛原:「まあ、今回は俺を先導してくれればいい。引き離し過ぎてもダメだし、接近し過ぎてもダメだ。いいな?」
高橋:「分かりました」
そういうわけで、私は高橋とリフトの列に並んだ。
愛原:「高橋君、気づいているかい?」
高橋:「何がですか?まさか犯人!?」
愛原:「何の犯人だよ……。そうじゃなくて、周りの女の子の視線がキミに集中してるってことさ。さすが、イケメンだね」
高橋:「イケメンですか。まあ、昔からそう言われてはいましたけどね。俺は別に、好きでそんなこと言われる顔に生まれたわけじゃないですよ」
愛原:「その言葉、モノホンのイケメンが言うと、ブサメン達にはクリティカルヒットなんだよなぁ……。ま、俺がいい引き立て役かな」
あいにくと、私は生まれてこの方、イケメンだと言われたことがない。
高橋:「も、申し訳ありません、先生!」
愛原:「いや、いいんだよ」
高橋:「サングラスしておきます!」
高橋はサングラスを掛けた。
それで顔を隠したつもりなのだろうが、イケメングラサンは更にモテ要素だ。
短髪を金色に染め、耳にピアスという時点でヤンキーっぽいのだが、彼には何かが足りないような気がした。
やっぱり、白ギャルの彼女かな?
そんなことを考えているうちに、私達はリフトに乗り込んだ。
愛原:「高橋君、キミは今まで女の子と付き合ったことは無いの?」
高橋:「はあ……。まあ、無いと言ったらウソになります」
愛原:「だろうな。こんなモテ要素満載のイケメンを、女の子は放っておかないよ」
高橋:「そうですね。昔は、よく逆ナンされたものです」
愛原:「おっ、いいなぁいいなぁ。今でも付き合おうと思えばすぐできるだろ?」
高橋:「それはそうかもしれません。でも俺は、今は女よりも、先生の下で早く一流の探偵になることが夢なんです」
愛原:「俺よりももっと優秀で、大事務所を展開している探偵なんて何人もいるよ?中には探偵養成学校なんて作っちゃった人もいる。そういう所に通えば?」
高橋:「俺は学校は嫌いです。それに、俺は愛原先生にビビビッと来たのです。だからどうか、先生の下で学ばせて頂きたいのです」
まあ、学校は嫌いだった方という感じはするけどね。
それにしても、アレだ。
高橋の見た目はチャラ男だ。
但し、その中身は一本気のある漢だと思う。
恐らく、それまでの高橋のライフスタイルからして、彼と付き合ったことのある女の子達というのは、彼の見た目だけにホイホイやってきた面食い達ばかりだったのだろう。
しかし、それでは彼の心を掴むことはできなかった。
そして当の高橋本人も、そんな女の子達ばかりに辟易してしまった……と考えるのは不自然かな。
愛原:「まあ、好きにすればいいさ」
高橋:「はい。好きにさせて頂きます」
私達はリフトを降りた。
高橋:「それでは先生。俺が先に滑りますので、後から付いて来てください」
愛原:「了解。お手並み拝見と行かせてもらうよ」
高橋:「はい!」
やはり私の予想通り、高橋の運動神経は素晴らしいものがあった。
そんな私は彼に付いて行くのがやっとのことであり、あとのことは【お察しください】。
村内のバスターミナルでバスを降りた私達は、依頼主がオーナーを務めるペンションのチェックインまでの間、スキーに興じることにした。
高野:「私が手取り足取り教えてあげますからね」
愛原:「あ、ああ……」
もちろん、そんなこと高橋が許すわけが無かった。
私は高橋がどんな反応をするのか、いくつか予想してみた。
1:「キサマ、勝手なことをするな!俺が先生に教えて差し上げるんだ!」
2:「オマエが教える?バカか!オマエに教えられんでもパラレルターンくらい、先生ならできる。余計なことをするんじゃねぇ」
3:「ケッ!キサマが先生をどれだけ上達させられるのか、お手並み拝見と行こうじゃないか」
だいたいこの辺りか。
で、高橋は……。
高橋:「キサマ……」
おっ、やっぱり嫌そうな顔をしてきた。
はてさて、高橋はどんな反応をしてくれるかな?
高橋:「俺は先生の一挙手一投足全てが勉強なんだ。余計なことはしないでもらおうか」
んんっ?2番にも似ているが、何かちょっと違う……。
高野:「あんた、何言ってんの。先生はスキー初級者なんだから、そんなのを見たって勉強にならないでしょ?」
そ、そんなの……。
高野君も、なかなか辛辣なコだ………。
高橋:「俺は先生のスキーを見に来たんじゃない。スキー場でも冴え渡る探偵としての力を見学しに来たんだ。発揮してくれますよね、先生?」
愛原:「ああ、うん……そうだな」
うおっ、まぶしっ!
高橋は私に対し、眩いばかりの希望の瞳を向けて来た。
これを無下に否定すると、後でどう爆発するか分かったものではない。
それにしても、探偵の力を発揮しろと言われても、まだクライアントに会ったわけでも、事件に巻き込まれたわけでもないのに、何をどうしろというのやら……。
探偵とて1人の人間である、ということを教えてやった方がいいのか?
まあ、いいや。
愛原:「とにかく、スキード下手の俺は初級者コースでも回ってるよ。高野君は俺に気にせず、上級者コースでも滑ってきて」
高橋:「そうだそうだ。先生は俺に任せろ」
高野:「しょうがないねぇ。チェックインは16時でしょ?その前にペンションに着いて、オーナーに話を聞く必要がありそうだから、15時にあのレストハウスの前で待ち合わせでいい?」
愛原:「ああ、そうしよう。ま、何かあったら電話くれ」
私は自分のスマホを翳した。
高野:「分かりました」
高野君はスイーっと上級者コースのリフトの方へ滑って行った。
愛原:「結構滑り慣れてるな。まあ、あのバイオハザードを生き抜いたくらいだから、運動には自信があるのかもな」
高橋:「先生、それを仰るなら俺もです」
愛原:「まあとにかく、キミは俺よりも上手そうだ。キミ、先に滑ってくれよ」
高橋:「は?ですが……」
愛原:「いいから。俺は後からついて行く」
高橋:「それだと、俺は先生の動きを見られませんが……」
高橋は不満そうだ。
そこで私は一計を案じた。
愛原:「いいか、高橋?これは訓練だ。いかに背後に神経を集中させ、追跡対象者の目を欺けるかどうかだ。張り込みの最中、不覚にも相手に後ろを取られ、襲撃されることも十分あり得る。その際、それに如何に早く気づけるかがデッド・オア・アライブの境目なんだ。分かるか?」
我ながら無茶苦茶なことを言ってる。
背後の気配を悟る力があることに越したことは無いが、別にそれだけを持って探偵稼業が務まるわけではない。
高橋:「わ、分かりました!この高橋正義、見事先生の目を欺いて見せます!」(`・ω・´)ゞ
高橋はビシッと答えた。
チョロいイケメン、略してチョロメン。
愛原:「まあ、今回は俺を先導してくれればいい。引き離し過ぎてもダメだし、接近し過ぎてもダメだ。いいな?」
高橋:「分かりました」
そういうわけで、私は高橋とリフトの列に並んだ。
愛原:「高橋君、気づいているかい?」
高橋:「何がですか?まさか犯人!?」
愛原:「何の犯人だよ……。そうじゃなくて、周りの女の子の視線がキミに集中してるってことさ。さすが、イケメンだね」
高橋:「イケメンですか。まあ、昔からそう言われてはいましたけどね。俺は別に、好きでそんなこと言われる顔に生まれたわけじゃないですよ」
愛原:「その言葉、モノホンのイケメンが言うと、ブサメン達にはクリティカルヒットなんだよなぁ……。ま、俺がいい引き立て役かな」
あいにくと、私は生まれてこの方、イケメンだと言われたことがない。
高橋:「も、申し訳ありません、先生!」
愛原:「いや、いいんだよ」
高橋:「サングラスしておきます!」
高橋はサングラスを掛けた。
それで顔を隠したつもりなのだろうが、イケメングラサンは更にモテ要素だ。
短髪を金色に染め、耳にピアスという時点でヤンキーっぽいのだが、彼には何かが足りないような気がした。
やっぱり、白ギャルの彼女かな?
そんなことを考えているうちに、私達はリフトに乗り込んだ。
愛原:「高橋君、キミは今まで女の子と付き合ったことは無いの?」
高橋:「はあ……。まあ、無いと言ったらウソになります」
愛原:「だろうな。こんなモテ要素満載のイケメンを、女の子は放っておかないよ」
高橋:「そうですね。昔は、よく逆ナンされたものです」
愛原:「おっ、いいなぁいいなぁ。今でも付き合おうと思えばすぐできるだろ?」
高橋:「それはそうかもしれません。でも俺は、今は女よりも、先生の下で早く一流の探偵になることが夢なんです」
愛原:「俺よりももっと優秀で、大事務所を展開している探偵なんて何人もいるよ?中には探偵養成学校なんて作っちゃった人もいる。そういう所に通えば?」
高橋:「俺は学校は嫌いです。それに、俺は愛原先生にビビビッと来たのです。だからどうか、先生の下で学ばせて頂きたいのです」
まあ、学校は嫌いだった方という感じはするけどね。
それにしても、アレだ。
高橋の見た目はチャラ男だ。
但し、その中身は一本気のある漢だと思う。
恐らく、それまでの高橋のライフスタイルからして、彼と付き合ったことのある女の子達というのは、彼の見た目だけにホイホイやってきた面食い達ばかりだったのだろう。
しかし、それでは彼の心を掴むことはできなかった。
そして当の高橋本人も、そんな女の子達ばかりに辟易してしまった……と考えるのは不自然かな。
愛原:「まあ、好きにすればいいさ」
高橋:「はい。好きにさせて頂きます」
私達はリフトを降りた。
高橋:「それでは先生。俺が先に滑りますので、後から付いて来てください」
愛原:「了解。お手並み拝見と行かせてもらうよ」
高橋:「はい!」
やはり私の予想通り、高橋の運動神経は素晴らしいものがあった。
そんな私は彼に付いて行くのがやっとのことであり、あとのことは【お察しください】。