[12月9日21:00.天候:雪 ペンション“ドッグ・アイ”1F食堂]
食事も終わり、宿泊客が引き上げていく。
尚、やはりというべきか、あのグラサンスーツの男『田中一郎』とマナー最悪ジジィ『河童(かわらべ)勝治』が真っ先に引き上げて行った。
最後には食後のコーヒーなどが出るのだが、それを殆ど一気飲みして行くほどに慌てていた。
高橋:「何だか怪しい奴らですね。何かこれから事件が起きるとしたら、あいつらが犯人じゃないですか?」
愛原:「そうだなぁ……」
推理小説なんかでは、1番怪しい人物が実は潔白で、1番怪しくなかった人物が実は真犯人なんてことはザラなのだが……。
最後まで残っていた熟年夫婦が引き上げて行くと、オーナーは私達にコーヒーのお代わりとデザートを持って来た。
愛原:「あれ?デザートならもう頂きましたよ?」
大沢:「いえ、これはサービスです。うちの家内が焼いたケーキです」
高野:「へえ!ベイクドチーズケーキ!?美味しそー!」
確かに壁には、食事とは別売りになっていることが書いてあった。
注文したのは私が知っている限り、若者グループの女子大生風なのと、熟年夫婦の奥さんの方だったかな。
やっぱりこういうのは、女性に人気があるのかな。
でもまあ、私も別に嫌いではない。
せっかくの御好意、ありがたく頂戴するとしよう。
大沢:「実は今回の御依頼の件なんですが、先日うちのペンションにこういう物が届きまして……」
それは1枚の茶封筒だった。
定形郵便なので、切手1枚で済む。
だが、差出人を見ると、こんなことが買いてあった。
愛原:「『若鷹軍団』?何ですか、これ?」
大沢:「私にもさっぱり分かりません」
私は封筒の中身を開けた。
すると中には便箋が1枚だけ入っていた。
愛原:「『こんや 12じ だれかが しぬ』?何ですか、これ?」
大沢:「だから、私もさっぱり分からないのです」
消印を見ると先月になっていた。
大沢:「もちろん気味が悪いので、すぐに警察に通報しました。ですが結局何も起こらず、ただのイタズラということで終了してしまったのです」
高橋:「サツは事件が起こらないと動かないからな。当然だ」
高野:「それで私達に依頼して頂いたのですね?」
大沢:「ええ、まあ……」
ん?何か、オーナーの歯切れが悪い。
大沢:「最初は安沢様にご依頼しようかと思ったのです。安沢様は当ペンションにお泊りになるのは、今回が2度目です」
高橋:「先生をいきなり犯人呼ばわりするようなポンコツ探偵に依頼するとは……」
高橋はバカにしたような笑いを浮かべた。
愛原:「高橋君、失礼だぞ。……それが安沢さんに依頼せず、私達に依頼したというのは?」
大沢:「安沢様が最初にお泊りになったのは、この脅迫状?のようなものが届いてから、しばらく経ってからのことでした。警察が事件性なしと判断してからそんなに経たずに、お泊りになったのです。『旅行好きで、ヒマさえあればよく一人旅をしてるんだ』とのことでした」
愛原:「……んー、まあおかしい所は無いですね」
大沢:「なかなか話好きの方ということもあってか、私はあの脅迫状のことについてお話ししてみたのです。そしたら最初は、『警察がそう判断したのなら、そういうことでしょう』ということだったのですが……」
愛原:「それで?」
大沢:「その後で全世界探偵協会日本支部の職員さんを名乗る方から電話があり、愛原様を御紹介して下さったのです」
愛原:「いきなりそんな所から電話が掛かってくるなんて、驚いたでしょう?」
大沢:「ええ。ただ、そうなってくると、これはただ事ではないと思い、依頼してみることにしたのです」
高野:「でも、安沢さんに直接依頼はしなかったんですね」
大沢:「安沢様は警察の見解を信じてらしたので……」
愛原:「消印が先月……。この手紙が届いて以来、何も起きていないんですね?」
大沢:「はい」
愛原:「安沢さんが今日泊まる理由というのは?」
大沢:「全世界探偵協会日本支部より、こちらに向かうよう指示されたとのことでした」
愛原:「ええっ?そんなこと聞いてないぞ?」
高野:「どういうこと?」
高橋:「先生、ボスに聞いてみては?あのポンコツ探偵に、先生の邪魔をされたら……」
愛原:「いや、もうこんな時間だ。それに、俺はボスの連絡先を知らないんだ」
高野:「それもそうですね」
安沢氏に派遣を指示したのが、あのボスとは限らないだろう。
もしボスが私達の担当なのだとしたら、別の担当『ボス』が安沢氏に指示したのかもしれない。
ということは……。
愛原:「……マジで、今夜12時何かが起こるってことか?」
高橋:「ええっ?」
全世界探偵協会は何か知ってるのだろうか?
他の事務所に送られたという振り込め詐欺の手紙以外に、手紙爆弾なんかも送り付けられた事務所があったという。
そして私に送り付けられたのは、リサ・トレヴァーから送られたカードキーのようなもの。
これは私だけなのか……。
大沢:「ほ、本当ですか、愛原先生!?」
愛原:「いや、何の確証も無いですよ。ただ、協会が何人も探偵を送り込むなんて普通は無いなと思いました」
協会が、そもそも特定の事務所をクライアントに斡旋するなんてことは無いからな。
大沢:「た、大変だ!今からでも警察に……!」
愛原:「何で電話するつもりですか?」
大沢:「あの脅迫状が本物かもしれないと……」
愛原:「1度、イタズラということで終了したものを、警察は蒸し返したリはしませんよ。実際に警察が動くのは、あの脅迫状通りに事件が起きてからです」
大沢:「そ、そんな……」
高橋:「なるほど。そこで先生の出番というわけですか」
大沢:「しかし……脅迫状の通りになってしまったら、このペンションは……」
高野:「確かに、『殺人事件の起きたペンション』なんて、とんだ事故物件ですね」
愛原:「よし分かった。取りあえず、今夜12時まで起きていよう。外から侵入者が入って来ないよう、戸締りはきちんとしてもらって、あとは見回りだな。オーナーも、他の宿泊客に警戒を呼び掛けておいてください」
大沢:「わ、分かりました!」
愛原:「いざとなったら、武闘派の高橋君と高野君の出番だよ」
高橋:「任せてください!」
高野:「敵が銃を持っていたら、お手上げですけどね」
高野君が肩を竦めると、オーナーは何かを思い出したかのように奥へと引っ込んだ。
そして、何と猟銃を持って来たのである。
ショットガンタイプとライフルタイプだ。
大沢:「もちろん、許可は取っています。もし脅迫状通り、殺人犯が現れたらこれでどうか……!」
愛原:「いや、あのオーナー、落ち着いて。それはそれで、後で事故物件になりますよ?」
しかしまあ、これを殺人犯に取られては元も子も無い。
私達は取りあえずこれを預かり、ロビーに移動するとソファの下に隠した。
何も知らぬ他の宿泊客が見たら、そりゃ驚くだろうから、それを防止する為だ。
さあ、果たして脅迫状通りになるか……?
食事も終わり、宿泊客が引き上げていく。
尚、やはりというべきか、あのグラサンスーツの男『田中一郎』とマナー最悪ジジィ『河童(かわらべ)勝治』が真っ先に引き上げて行った。
最後には食後のコーヒーなどが出るのだが、それを殆ど一気飲みして行くほどに慌てていた。
高橋:「何だか怪しい奴らですね。何かこれから事件が起きるとしたら、あいつらが犯人じゃないですか?」
愛原:「そうだなぁ……」
推理小説なんかでは、1番怪しい人物が実は潔白で、1番怪しくなかった人物が実は真犯人なんてことはザラなのだが……。
最後まで残っていた熟年夫婦が引き上げて行くと、オーナーは私達にコーヒーのお代わりとデザートを持って来た。
愛原:「あれ?デザートならもう頂きましたよ?」
大沢:「いえ、これはサービスです。うちの家内が焼いたケーキです」
高野:「へえ!ベイクドチーズケーキ!?美味しそー!」
確かに壁には、食事とは別売りになっていることが書いてあった。
注文したのは私が知っている限り、若者グループの女子大生風なのと、熟年夫婦の奥さんの方だったかな。
やっぱりこういうのは、女性に人気があるのかな。
でもまあ、私も別に嫌いではない。
せっかくの御好意、ありがたく頂戴するとしよう。
大沢:「実は今回の御依頼の件なんですが、先日うちのペンションにこういう物が届きまして……」
それは1枚の茶封筒だった。
定形郵便なので、切手1枚で済む。
だが、差出人を見ると、こんなことが買いてあった。
愛原:「『若鷹軍団』?何ですか、これ?」
大沢:「私にもさっぱり分かりません」
私は封筒の中身を開けた。
すると中には便箋が1枚だけ入っていた。
愛原:「『こんや 12じ だれかが しぬ』?何ですか、これ?」
大沢:「だから、私もさっぱり分からないのです」
消印を見ると先月になっていた。
大沢:「もちろん気味が悪いので、すぐに警察に通報しました。ですが結局何も起こらず、ただのイタズラということで終了してしまったのです」
高橋:「サツは事件が起こらないと動かないからな。当然だ」
高野:「それで私達に依頼して頂いたのですね?」
大沢:「ええ、まあ……」
ん?何か、オーナーの歯切れが悪い。
大沢:「最初は安沢様にご依頼しようかと思ったのです。安沢様は当ペンションにお泊りになるのは、今回が2度目です」
高橋:「先生をいきなり犯人呼ばわりするようなポンコツ探偵に依頼するとは……」
高橋はバカにしたような笑いを浮かべた。
愛原:「高橋君、失礼だぞ。……それが安沢さんに依頼せず、私達に依頼したというのは?」
大沢:「安沢様が最初にお泊りになったのは、この脅迫状?のようなものが届いてから、しばらく経ってからのことでした。警察が事件性なしと判断してからそんなに経たずに、お泊りになったのです。『旅行好きで、ヒマさえあればよく一人旅をしてるんだ』とのことでした」
愛原:「……んー、まあおかしい所は無いですね」
大沢:「なかなか話好きの方ということもあってか、私はあの脅迫状のことについてお話ししてみたのです。そしたら最初は、『警察がそう判断したのなら、そういうことでしょう』ということだったのですが……」
愛原:「それで?」
大沢:「その後で全世界探偵協会日本支部の職員さんを名乗る方から電話があり、愛原様を御紹介して下さったのです」
愛原:「いきなりそんな所から電話が掛かってくるなんて、驚いたでしょう?」
大沢:「ええ。ただ、そうなってくると、これはただ事ではないと思い、依頼してみることにしたのです」
高野:「でも、安沢さんに直接依頼はしなかったんですね」
大沢:「安沢様は警察の見解を信じてらしたので……」
愛原:「消印が先月……。この手紙が届いて以来、何も起きていないんですね?」
大沢:「はい」
愛原:「安沢さんが今日泊まる理由というのは?」
大沢:「全世界探偵協会日本支部より、こちらに向かうよう指示されたとのことでした」
愛原:「ええっ?そんなこと聞いてないぞ?」
高野:「どういうこと?」
高橋:「先生、ボスに聞いてみては?あのポンコツ探偵に、先生の邪魔をされたら……」
愛原:「いや、もうこんな時間だ。それに、俺はボスの連絡先を知らないんだ」
高野:「それもそうですね」
安沢氏に派遣を指示したのが、あのボスとは限らないだろう。
もしボスが私達の担当なのだとしたら、別の担当『ボス』が安沢氏に指示したのかもしれない。
ということは……。
愛原:「……マジで、今夜12時何かが起こるってことか?」
高橋:「ええっ?」
全世界探偵協会は何か知ってるのだろうか?
他の事務所に送られたという振り込め詐欺の手紙以外に、手紙爆弾なんかも送り付けられた事務所があったという。
そして私に送り付けられたのは、リサ・トレヴァーから送られたカードキーのようなもの。
これは私だけなのか……。
大沢:「ほ、本当ですか、愛原先生!?」
愛原:「いや、何の確証も無いですよ。ただ、協会が何人も探偵を送り込むなんて普通は無いなと思いました」
協会が、そもそも特定の事務所をクライアントに斡旋するなんてことは無いからな。
大沢:「た、大変だ!今からでも警察に……!」
愛原:「何で電話するつもりですか?」
大沢:「あの脅迫状が本物かもしれないと……」
愛原:「1度、イタズラということで終了したものを、警察は蒸し返したリはしませんよ。実際に警察が動くのは、あの脅迫状通りに事件が起きてからです」
大沢:「そ、そんな……」
高橋:「なるほど。そこで先生の出番というわけですか」
大沢:「しかし……脅迫状の通りになってしまったら、このペンションは……」
高野:「確かに、『殺人事件の起きたペンション』なんて、とんだ事故物件ですね」
愛原:「よし分かった。取りあえず、今夜12時まで起きていよう。外から侵入者が入って来ないよう、戸締りはきちんとしてもらって、あとは見回りだな。オーナーも、他の宿泊客に警戒を呼び掛けておいてください」
大沢:「わ、分かりました!」
愛原:「いざとなったら、武闘派の高橋君と高野君の出番だよ」
高橋:「任せてください!」
高野:「敵が銃を持っていたら、お手上げですけどね」
高野君が肩を竦めると、オーナーは何かを思い出したかのように奥へと引っ込んだ。
そして、何と猟銃を持って来たのである。
ショットガンタイプとライフルタイプだ。
大沢:「もちろん、許可は取っています。もし脅迫状通り、殺人犯が現れたらこれでどうか……!」
愛原:「いや、あのオーナー、落ち着いて。それはそれで、後で事故物件になりますよ?」
しかしまあ、これを殺人犯に取られては元も子も無い。
私達は取りあえずこれを預かり、ロビーに移動するとソファの下に隠した。
何も知らぬ他の宿泊客が見たら、そりゃ驚くだろうから、それを防止する為だ。
さあ、果たして脅迫状通りになるか……?