報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「冬のペンション殺人事件」 長野入り編

2017-12-09 19:25:52 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 12月9日16:12 from.多摩準急

 何だよ、「冬のペンション殺人事件」ってw
 もちっとマシなタイトルは思いつかんのかい。
 「かまいたちの夜」とか「ペンション“クローズド・サークル”」とか、「愛原学、ガチ推理」とかさ。

 ……というメールを多摩準急先生から頂戴した。
 話ごとのタイトル付けがヘタなのは昔からである。
 最初の「かまいたちの夜」は明らかにパクリだと思うのだが。
 大きなお世話なので、ガン無視することにした。
 では早速、物語の続きを……。

[12月9日08:40.天候:曇 JR長野駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、長野です。北陸新幹線、富山、金沢方面、篠ノ井線、飯山線、しなの鉄道線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 私達を乗せた新幹線が終点駅に近づいた。
 窓の外には、首都圏ではまだ見られない雪が見える。
 まだ12月も上旬のせいなのか、そんなに深く積もっているわけではないようだ。

 愛原:「ここで乗り換えか……」
 高橋:「今度はバスに」
 愛原:「そうだな」

 列車は定刻通りに長野駅に到着した。

 愛原:「おー、やっぱり東京より寒い」
 高野:「スキーが楽しみですね」
 愛原:「ああ。……って、ええっ!?」
 高橋:「遊びに来たんじゃないんだぞ、キサマ?」
 高野:「でもペンションのチェックインは16時なんでしょう?随分早くに到着したんじゃありません?」
 愛原:「はは、まぁな。ボスが言うには、ただ単に目的地に着いたんじゃあれだろうから、スキーの1つでもしろってさ」
 高野:「さすがはボスぅ〜!」
 高橋:「いいんですか、先生?」
 愛原:「まあ、ボスがそう言うことだし。俺は運動はあまり得意な方じゃないから、温泉にでも……」
 高橋:「先生。ボスの命令には絶対服従なんじゃなかったでした?」
 愛原:「そりゃそうだけど、高野君がスキーをするには止めないけど、俺まではちょっと……」

 私はそもそも、あまり運動が得意な方ではない。

 高野:「あら?スキー一式レンタル、先生の分も予約してしまいましたよ?」
 愛原:「なにっ!?」
 高橋:「先生、俺とスキーしてくれますね?」

 外堀を埋められてしまった!

[同日09:05.天候:曇 JR長野駅東口→アルピコ交通バス]

 私達はトイレ休憩などを済ますと、ボスから送られたバスの乗車券を手にバス乗り場に向かった。

 愛原:「長野駅から善光寺に行けるんだな。交通アクセスは良さそうだ」
 高野:「有名な観光名所ですもんね。帰りにお参りして行きますか?」
 愛原:「そうだな。時間があったら寄って行くか」

 尚、長野県南部を走るJR飯田線には元善光寺という駅があるが、これは今の善光寺にある本尊が元善光寺(坐光寺)にあったからである。

 愛原:「こうやって今はバスを待っているけど、昔は電車で白馬まで行けたらしいな?」
 高橋:「いえ、先生。善光寺白馬電鉄のことを仰っているのなら、それは違います」
 愛原:「違う?」

 高橋は手帳をめくった。

 高橋:「確かに長野市内から白馬村まで、鉄道を通すという計画があったようですが、部分開業した後で頓挫しています」
 愛原:「……その部分開業したのが、今の長野電鉄か」
 高橋:「いえ、その部分開業も廃止になっています。今、善光寺白馬電鉄という会社はトラックだけをやっている状態です」
 愛原:「マジか」
 高橋:「はい」
 愛原:「何だなー。実現していれば、今は観光やスキー輸送で儲けられただろうになぁ……」
 高橋:「そうですね」

 そんなことを話しているうちにバスがやってきた。
 バスは普通の路線バスではなく、観光バスタイプのものだ。

 係員:「9時10分発、白馬八方経由、白馬乗鞍行きです」

 私達は乗車券を手にバスに乗り込んだ。
 運賃は先払いとのことで、乗車券を持っている客も先に運転手に渡すことになる。
 3人一緒に座る為か、私達は1番後ろの席に座った。

 高橋:「あれ?普通に乗れたぞ?」
 愛原:「えっ、何が?」
 高橋:「シーズン中のメチャ混みの日は、何か特別な整列の仕方で乗せるみたいなことがサイトに書いてあったんですよ」
 愛原:「なるほど」
 高野:「まあ、シーズンって言っても、まだそれが始まったばかりだからね。これから行くスキー場も、まだ全部のゲレンデがオープンになっているってわけじゃないみたいだし。ま、特別な列整理をするのは、来週とか再来週辺りからじゃないの」
 愛原:「それはあり得るな。そうか。まだ全部のゲレンデで滑れるわけじゃないんだ」
 高橋:「先生、何かホッとしてませんか?」
 愛原:「えっ?いやいや……。それより高橋、キミは随分と調べて来たんだねぇ?」
 高橋:「事前の情報収集が後の事件解決に繋がると、先生は仰せでしたが?」
 愛原:「そ、そうだったっけ?」

 覚えてない。
 酒の席で言ったのか?
 しかしそれにしても、善光寺や善光寺白馬電鉄のことまで調べる必要もあるまいに。

 特別な列整理を必要としなくては良いものの、それでもバスは9割ほどの乗客が乗り込んだ。
 そしてこちらは、定刻より2〜3分ほど遅れで出発したのだった。

〔「皆様、おはようございます。本日もアルピコ交通をご利用頂き、ありがとうございます。このバスは9時10分発、白馬乗鞍行き特急バスでございます。これから先の停車停留所と、到着時刻をご案内致します。次は、千見に止まります。千見9時45分、美麻ぽかぽかランド9時58分、サンサンパーク白馬10時8分、白馬五竜10時15分、白馬駅10時20分、白馬八方バスターミナル10時25分、【中略】終点の白馬乗鞍到着は10時55分の到着予定です。……」〕

 愛原:「ん?何でサンサンパーク白馬だけ太字なんだ?ここで降りるわけじゃないだろ?」
 高橋:「はい。何ででしょうね?」
 高野:「んっ?さんにでも聞けば分かるんじゃない?」
 高橋:「誰だ、それ?」

 うちのメンバーのたまのメタ発言、申し訳無い。
 今のところ、私達は順調だ。
 特に、何か事件が発生しそうな様子は無い。
 無いのだが……。

 愛原:「ま、今日は高野君が来てくれて良かったかもしれない」
 高野:「お気づきになりましたか?」
 高橋:「なっ……!?先生、どうしてですか!?」
 愛原:「周りを見てみろ、高橋。やっぱりカップルや男女のグループが多い。男2人で来たんじゃ、俺達の方が怪しいオッサンと兄ちゃんだよ」
 高橋:「俺達は探偵ですよ!?」
 愛原:「周りはそうは見てくれんよ」
 高野:「でも先生だけスーツ姿なんで、それだけが思いっ切り怪しいですね」
 愛原:「まさか、俺までスキーするとは思わなかったんだよ!」

 クライアントのペンションオーナーと話をするつもりでいたから、身だしなみには気をつけていたのだ。
 もっとも、高橋が1度もスーツを着たことなど無いのだが。
 それにしても高橋は私に心酔しているとはいえ、元ヤンだった頃は女の子に興味を持たなかったのだろうか?
 短く刈り上げた髪を金色に染め、ピアスをしている所はさすが元ヤンといったところだ。
 チャラ男のような恰好であるが、今の彼の言動や行動を見ると、とてもチャラ男とは程遠い。
 でも、男の私から見てもお世辞ではなく、彼はイケメンの部類に入ると思う。
 元ヤンのイケメンが、女の子と付き合ったことが無いとも思えないのだが……。
コメント (1)
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“私立探偵 愛原学” 「冬のペンション殺人事件」 出発編

2017-12-09 10:11:50 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月1日10:00.天候:晴 東京都23区内某所 愛原学探偵事務所]

 ボスが言っていた手紙と思しきものが届いた。
 しかしその手紙は、私の予想を大いに裏切るものであった。
 何故なら、ボスは『招待状が届く』と言っていた。
 いや、確かに中身は招待状だったので、ボスは嘘をついていない。
 だが、半分は嘘だっただろう。
 どうしてそう思うのかというと、招待状に書かれた場所がそもそも全世界探偵協会日本支部の名前で書かれていない。
 ……恐らくボスは、この全世界探偵協会の幹部なのかもしれない。
 それがどうして、こんな弱小事務所を気に掛けるのかは今でも知らない。
 招待状に入っていたのは、とあるスキーペンションの宿泊券とそこへ向かうまでの新幹線のキップ、それからバスの乗車券だ。

 高橋:「先生、ボスから電話です」
 愛原:「ああ、分かった」

 私はボスからの電話に出た。

 ボス:「私だ」
 愛原:「ボス!」
 ボス:「出発まであと1週間強だが、準備の方は整っているかね?」
 愛原:「そのことなんですが、一体全体どういうことなんですか?全世界探偵協会のパーティーに参加させて頂くはずなのに、スキーペンションって……」
 ボス:「まあ、そう焦るな。件のパーティーには参加させてやる。だがその前に、一仕事してもらう。それだけのことだ。1週間もずっと待ち惚けでは、退屈だろう?」
 愛原:「このスキーペンションが今度の依頼先なんですか?」
 ボス:「そうだ。ここ最近、このペンションに妙なことが起こっているらしい。詳細は直接、クライアントのオーナーより聞きたまえ。そのクライアントの抱える問題をクリアできた場合、多額の報酬が期待される」
 愛原:「多額の報酬……」

 私はゴクリと唾を飲み込んだ。

 ボス:「探偵とは信頼の積み重ねだ。それがやがて大きな信頼を築いていく。お金はその後で付いて回るということだ。つまり、言い換えればキミ達も頑張れば、北区のボロ事務所からもっと都内の綺麗な事務所へ引っ越しができるというわけだ」
 愛原:「ぼ、ボス!?」
 ボス:「何かね?」
 愛原:「私の事務所は読者には内緒で、23区内某所ってしてるのに、北区ってバラしちゃってますよ!?」
 ボス:「……コホン。それはつまり、あれだ……。そう。要はキミ達が頑張ってなるべく早く、そのもっと広くて綺麗な事務所に引っ越せば良い話だ。分かるかね?」
 愛原:「いや、しかし……」
 ボス:「愛原君。ここで納得してもらわねば、私との縁はこれまでということになってしまうが……」
 愛原:「あぁあぁあぁ!すすす、すいません!分かりました!正しくボスの仰る通り!よっ、大統領!」
 ボス:「今、『よ』って言ったな?アクサ生命の調査によると、“社長の好きなひらがな1位”は『あ』」
 愛原:「あ!?あ……あ〜!」

 その電話の様子は、隣の応接室に筒抜けだ。

 クライアント:「随分と賑やかな事務所ですね?」
 高野:「申し訳ありません。ボスに遊ばれているようで……」
 クライアント:「は?」

[12月9日06:21.天候:晴 JR王子駅]

〔まもなく2番線に、各駅停車、大船行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 愛原:「まだ暗いねぇ……」
 高野:「もう冬ですものね。でも、少しずつ明るくなってますよ」
 愛原:「そうだな」
 高橋:「先生、どうぞ」

 高橋は強力なマグライトを出した。

 愛原:「いや、別にそこまで暗いわけじゃないから……」

 電車が入線してくる。
 週末早朝の電車は空いている。
 電車のドアが開くと、私達は電車に乗り込んだ。

 高橋:「それにしても先生、新幹線に乗るのに、わざわざ都心まで戻るとは……」
 愛原:「ああ、そのことか……」

 確かに王子駅の上には新幹線が通っているが、ホームが無い為にそれは素通りして行く。
 なるほど。
 埼京線沿線の人々が反対運動をしたのも頷ける。
 しかしいざ開通してみると、200系は思ったよりも静かで、むしろ開通反対の大きな理由にしていた騒音を撒き散らしていたのは、一緒に開通した埼京線を走行していた103系の方であったという。
 『反対しやがって、この野郎!』という旧国鉄側のプチ復讐だったか。
 そしてそのプチ復讐は、私と高橋が乗り込んだ“最終電車”の205系まで続く。

〔次は上中里、上中里。お出口は、右側です〕
〔The next station is Kami-Nakazato...〕

 私は走り出して揺れる電車の座席に腰を預けながら、ボスから送られた新幹線のキップを取り出した。
 王子駅はこの新幹線乗車券で改札口を通った。
 東京側は『東京都区内』とある。

 愛原:「ここに東京都区内とあるだろう?これは『東京23区内のJR駅から乗り降りできます』って意味なんだ。恐らく高橋君は京浜東北線を大宮駅まで行って、そこから乗った方がいいと思ったんだろうが、乗車券がこういう制約では、上野か東京から乗った方がいいんだよ」

 私の講釈(?)にハッとした高橋は急いでノートを取り出し、ババッとペンを走らせた。

 高橋:「勉強になります!」
 高野:「てか、常識だし、それ……」

 高野君は呆れていた。

[同日06:57.天候:地下なので不明 JR上野駅・新幹線ホーム]

 京浜東北線を上野で降りた私達は、新幹線乗り場に足を進めた。
 途中で朝食となる駅弁を購入する。

 高野:「ボスが取ってくれたチケット、指定席で良かったですね」
 愛原:「そうだな」

 しかし、帰りのチケットは新幹線自由席回数券しか無い。
 恐らく今度の仕事は、帰りがいつになるか分からないぞという意味なのだろう。
 ボスとしては、一応帰りの足も確保したという責任を明確にしたかったのかもしれない。
 まあ、長野駅始発の“あさま”でも狙えば着席可能か。
 或いは報酬の一部を前払いしてもらって、その金でグリーン車……いや、無駄使いは良くない。

 高橋:「何だか思い出しますね、先生?」
 愛原:「何が?」
 高橋:「霧生市の電車ですよ」
 愛原:「ああ」

 トンネルの中に位置する駅から、電車で脱出したことがあったな。
 それにしても、こんな地下深くにある新幹線乗り場もそうそう滅多にあるものではないだろう。

〔19番線に、6時58分発、“あさま”601号、長野行きが12両編成で参ります。この電車は途中、大宮、熊谷、高崎、高崎から先の各駅に止まります。グランクラスは12号車、グリーン車は11号車、自由席は1号車から7号車です。まもなく19番線に、“あさま”601号、長野行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 愛原:「そう言えば北陸新幹線に乗るのは初めてだ」
 高野:「私もです。ガーラ湯沢への上越新幹線なら、学生の頃に乗ったことがありますけど」
 愛原:「そうか。高橋君は?」
 高橋:「長野新幹線時代しか乗ったこと無いです」
 愛原:「あ、でも一応乗ったことあるんだ?」
 高橋:「はい。10代の頃、警察に連行された時にワッパ掛けられながら移送……」
 愛原:「悪い。今のは聞かなかったことにする」

 高橋は少年鑑別所どころか、少年院にまで入っていたらしい。
 今でも時々その時の話をしてくれることがあるが……。

 地下ホームということもあり、列車が轟音と強風を巻き起こしながらやってきた。
 しかしホームドアは無い為、上野駅を通過する列車であっても、速度は落として通過するのだという。

〔「上野、上野です。19番線に到着の電車は6時58分発、“あさま”601号、長野行きです。次は、大宮に止まります。……」〕

 私達は指定席の特急券を手に、10号車に乗り込んだ。
 案の定、3人席が確保されており、私達はそこに座った。

 愛原:「ま、取りあえず寛ごうよ」
 高橋:「そうですね」

 私達はテーブルを出してそこに駅弁や飲み物を置いた。
 尚、真ん中の席に座っている高橋がボソリと呟く。

 高橋:「あの時も真ん中席に座らされて、両横を刑事が……」
 愛原:「帰りは高速バスにするか」
 高橋:「バス。護送車……金網の付いた窓……」
 愛原:「キミは何回警察に捕まってるんだい?」

 少なくとも書類を見る限りでは、殺人などの凶悪犯罪に手を染めていたことは無いはずなんだが……。
 あくまでも、罪状は暴行や傷害ばっかりだ。
 ああ、あと交通事犯も入っていたかな。

 愛原:「俺の事務所にいる間、警察のお世話になるのは勘弁してくれよ」
 高橋:「もちろんです!先生!」

 私は駅弁に箸を付けた。
 列車は既に走り出し、上野駅のトンネルを出た。
 車内には朝日がさんさんと差し込んで来た。
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