報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“戦う社長の物語” 「四季グループの仕事納め」

2017-12-28 19:30:45 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月28日18:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 エミリー:「社長、準備ができました」
 敷島:「よし、行こう」

 敷島は社長室の外に出ると、会議室に向かった。
 そこでは椅子と机が片付けられ、代わりにケータリングで注文した料理と飲み物が乗っていた。

 井辺:「社長、全員揃っております」
 敷島:「ありがとう。えー、それでは……」

 敷島は社員達の前に立った。
 今では各ボーカロイド達に1人の専属マネージャーが付くまでになっている。
 総合プロデューサーの井辺以下、各マネージャー達は人間である。

 敷島:「今年1年、皆さんのおかげで無事に乗り切ることができました。あいにくとNHK紅白には出れませんでしたが、年末特番やお正月特番の仕事はありますし、その収録も無事に終わっています。来年はもっと新しいことにチェレンジして行きたいと思いますので、皆さんの協力をお願いします。それでは……無礼講とは敢えて言いません。自分もこれで本社に行ったら、『無礼講という名の気づかい』をさせられるんでw」

 社員達が笑いが漏れる。

 敷島:「それでは、まずは乾杯しましょう。かんぱーい!」

 因みにボカロ達が飲むのは機械オイルだったり、或いは人間でも飲めるエチルアルコールだったり……。

 篠里:「社長、何かあったんですか?最後のコメント」

 初音ミクのマネージャーが眼鏡をキラッと光らせてやってきた。

 敷島:「いや、何でも無いよ、うん。何でも」
 鏡音リン:「今年の本社の新年会、無礼講だってんで、酔っ払った勢いで大草専務のヅラを取っちゃったんだよね〜」
 敷島:「コラコラコラ!」
 KAITO:「社長、そんなことやっちゃったんですか?」
 MEIKO:「それでしばらくの間、役員会を出入り禁止になったんですって」
 敷島:「だから俺は役員なんてツラじゃないって、何度も社長や会長に言ったんだけどねぇ!」
 井辺:「しかし、いくら当社が子会社だからといっても、今やグループの有力企業になりました。そこの社長が本社の役員になっていないというのは、対外的にも問題があると判断されたのでしょう」
 敷島:「よく、役員一覧紹介ってのが会社の公式サイトや社内報に出て来たりするだろ?うちもそうなんだけど、それがピラミッド形式で紹介されるわけだ。今のトップは敷島峰雄会長と俊介社長だ。その更に上に、敷島孝之亟最高顧問がいたわけだが……」

 孝之亟はシンディの膝の上で、眠るように臨終した。

 敷島:「俺は最下層の執行役員だよ」
 エミリ―:「最下層でも役員は役員です」
 敷島:「その最下層の執行役員が、社長達の下の雛壇にいる専務のヅラを取っちゃったってんじゃ……な?」
 緒方:「よく、無事でしたね」

 と、巡音ルカのマネージャーの緒方。

 敷島:「幸い、敷島HAHAHAプロダクションの代表さんがツッコミ入れてくれたから良かったけどさ……」

 四季グループに所属しているお笑い事務所である。
 お笑い芸人専門プロダクションということもあって、そこの代表役員もボケとツッコミに長けた人物であったようだ。

 敷島:「とにかく、役員であっても『無礼講という名の気づかい』は付いて回るということだ。だから、俺は皆にそう名言するつもりはないよ」
 リン:「だってさ。じゃあ、レン外して」
 レン:「うん」

 リン、右手に装着したマシンガンの取り外しに掛かる。

 敷島:「何をするつもりだったのかな?」
 井辺:「社長の御英断のおかげで、騒ぎにはならずに済みそうです」
 敷島:「これでも、こいつらとは長い付き合いだからさ」

 敷島は苦笑してクイッとビールを煽った。

[同日19:30.天候:晴 敷島エージェンシー→タクシー車内]

 最後に一本締めをした後、敷島とエミリーは事務所をあとにした。

 エミリー:「『良いお年を』という挨拶、これで何度目でしょうか?」
 敷島:「カウントしてたら、キリが無いよ」

 エレベーターに乗り込んで、車寄せと地下駐車場のある地下階へ向かう。
 他の企業も入居しているビルである為、車寄せにはそこの役員車やハイヤーなどが待機していることも多々ある。
 そんな中、黒塗りタクシーが1台止まっていた。

 敷島:「あれかな?」
 エミリー:「そうです」

 専用の役員車を与えられていない敷島。
 他のそういった役員はハイヤーを定期契約しているのだが、敷島は「成金みたいだから嫌だ」と頑なに拒否している。
 因みに役員で、専用の役員車を割り当てられている場合、その役員車を運転するのはタクシー会社から派遣されているドライバーであることが多い。
 もちろん、ドライバー専門の派遣会社なるものも存在する。
 四季グループでは、一括して運転手の派遣からハイヤーからタクシーまで、1つの会社で済むことができる大手タクシー会社と契約していたりする。

 運転手:「敷島様ですか?」
 敷島:「そうです。お願いします」
 運転手:「どうぞ」

 タクシーに乗り込む敷島とエミリー。

 エミリー:「東京駅までお願いします」
 運転手:「東京駅ですね。東京駅はどちらに着けましょう?」
 エミリー:「八重洲口でお願いします」
 運転手:「かしこまりました」

 丸の内口だと反対側になる。
 日本橋口だと東海道新幹線に乗る分には便利だが、JR東日本やJRバスに乗ろうとすると不便である。
 タクシーが走り出す。

 敷島:「この分なら、東京駅始発の上野東京ラインに間に合うな」
 エミリー:「社長、そろそろハイヤー契約をなさった方が……」
 敷島:「何言ってるんだ。俺なんか都営バスでも十分なくらいだよ。このタクシーでも贅沢なくらいだ」

 知らない人は本当に知らないみたいなので解説しておくが、都内で走る黒塗りタクシーはそれ以外の塗装のタクシーと料金は同じである。

 エミリー:「それに、新幹線定期は使わないのですか?」
 敷島:「ただでさえ学生は冬休みで新幹線は混んでるんだ。ましてや、世間様は俺達と同じで今日が仕事納め。中にはそれが終わってから、すぐに新幹線に乗る客もいるだろう。混雑を避ける為、むしろ今日は在来線の方がいいくらいだ」
 エミリー:(ハイヤー契約すれば、そんなこと考えなくてもいいのに……)

 ドア・ツー・ドアで、会社から自宅まで直行である。
 まあ、渋滞の心配をしなくてはならなくなるが。

 敷島:「明日は本社の仕事納めに顔を出さなくちゃな……」
 エミリー:「本社は一日遅いのですね」
 敷島:「本社は何だかんだ言って忙しいんだよ。明日はシンディにも出てもらう」
 エミリー:「コンパニオン代わりですね」
 敷島:「役員のオッサン達、俺の秘書を何だと思ってるんだ。また大草専務のヅラでも取ってやるかな」
 エミリー:「その大草専務の御指名なんですよね、シンディは?」
 敷島:「シンディの放つ祝砲の風圧で、ヅラを飛ばしてやるってのはどうだろう?」
 エミリー:「どう計算しても絶望的なシミュレーションしかできませんので、賛同しかねます」
 敷島:「ちっ……」

 タクシーは夜の東京を疾走した。
 尚、四季エンタープライズの仕事納めは無事に終わったことだけは報告しておく。
 敷島個人のことについては、【お察しください】。
コメント (9)
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“私立探偵 愛原学” 「探偵達のクリスマス」

2017-12-28 10:16:10 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月22日15:00.天候:晴 東京都北区王子 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。

 ボス:「ほお……?他の者達は自分の家や事務所でクリスマスパーティーをやっているというのに、キミ達は店を使うとは……。なかなかやるねぇ……」
 愛原:「この前のペンション“ドッグ・アイ”の事件解決で高い報酬も頂きましたし、高橋君や高野君にも何か労いをと思いまして……」
 ボス:「まあ、良かろう。25日は休業か」
 愛原:「いや、ちゃんと営業しますよ。パーティーはその後」
 ボス:「そこはしっかりしているか。まあ、良かろう。最近のキミ達の働きぶりには、私も一目置かせてもらっている」
 愛原:「ありがとうございます」
 ボス:「キミ達のことは信用している」
 愛原:「ははっ、ありがとうございます。よろしくお願い致します」
 ボス:「まあ……キミ達の年末年始は洋上になるし、今のうちに楽しんでおきたまえ」
 愛原:「は、はい。……それでは、失礼致します。……はい」

 私は電話を切った。

 愛原:「よし!ボスからのお許しが出たぞ!」
 高橋:「おおっ!」

 いつもはクールなイケメンを振る舞う高橋君、テンションが上がると年齢相応に見える。
 書類上は20代前半なのだが、未成年に見えることもあるし、30歳過ぎに見えることもある。

 高野:「ていうかクリスマスの計画は立てたのに、ボスに連絡忘れたって、どういう天然ですか」
 愛原:「いやあ、ボスからの電話で忘れてた」

 私が頭をかいていると、インターホンが鳴った。

 高野:「はい、どちら様でしょう?」

 高野君がインターホンに応対する。

 配達員:「こんにちはー!宅急便です!」
 高野:「はい、どうぞ」

 高野君は今やうちの事務所の事務員として、しっかりやってくれている。

 配達員:「ありがとうございましたー!」
 高野:「お疲れ様です」

 高野君が持って来たのは、明らかに書類が入っているであろう物。

 高野:「先生宛てです」
 愛原:「誰からだい?」
 高野:「全世界探偵協会日本支部」
 愛原:「もしかして、年末年始絡みかなぁ……?」

 私は厚紙のパックを開けた。
 すると、やはりそうだった。

 愛原:「全世界探偵協会日本支部主催の船旅だ。年末年始は豪華客船を貸し切って船旅だとよ」
 高野:「凄い……!」
 高橋:「どういう経緯でこんなことを?」
 愛原:「知らん。えーと……船の名前が……。大日本汽船“顕正”号」
 高橋:「ちょっと調べてみます」

 高橋君はすぐにネットで調べてみた。
 大日本汽船と言えば、有名な船会社ではあるが……。

 高橋:「! 先生、何かおかしいですよ!?」
 愛原:「何が?」
 高橋:「大日本汽船は当然今でも存在していますが、顕正号なる船は在籍していません!」
 愛原:「どういうことなんだ?」
 高野:「大日本汽船は大きな船会社だから、その関連企業がいくつも存在するよ。その関連企業なんじゃないの?よくあるじゃん。親会社の名前を使うっての」
 愛原:「なるほど」
 高橋:「……いや、そんなことはない……です。……これ、見てください。顕正号の写真です」
 愛原:「おおっ、立派な船じゃないか。“飛鳥”くらいの大きさかな?それより一回りは小さいか?」
 高橋:「それは問題じゃないです。これを見てください」

 高橋が更に画面を下にスクロールさせる。
 すると……。

 愛原:「『2012年3月31日を以って、弊社の籍より離脱。同年4月1日より、アメリカの船会社スターオーシャン・カンパニーに引き取られる。2017年4月1日より再度弊社に買い取られ、現役就航中』……変な経歴」
 高野:「大日本汽船は東日本大震災の影響で、一時期経営が傾いたそうです。それで所有していた船をいくつか手放さないといけなくなったって、当時のニュースで言ってましたね」
 愛原:「それで今は経営が安定している?」
 高野:「インバウンド事業が今は盛んなので、それに上手く乗れたようです。それで、あの時手放した船を買い戻したんだと思いますね」
 愛原:「なるほどなぁ……」
 高橋:「それでですね、先生。ちょっとヤバそうな話があるようでして……」
 愛原:「何だ?」
 高橋:「この船を数年所有していたスターオーシャン・カンパニーなんですが、アンブレラの後を継いだネオ・アンブレラの関連会社らしいんですよ」
 愛原:「な、何だってー!?何で製薬会社が船会社なんてやってるんだ?」
 高橋:「そ、それは分かりません」
 愛原:「何だか嫌な予感しかしないな。ロクでもない年末年始になりそうだ」
 高橋:「どうします?バックレますか?」
 愛原:「家で炬燵にみかん食いながら、紅白観てる方が楽しそうだなぁ……」

 私は考え込んだ。
 もちろん、考え過ぎと言えば考え過ぎだ。
 今はちゃんとした日本の船会社が所有して、今でも鋭意運行中なのだから。
 それに、豪華客船なんて一生に一度乗れるかどうかだからなぁ……。

 愛原:「ま、いいや。とにかく、クリスマスパーティーやるのが先だ。それから決めよう」
 高野:「は、はい」

 もちろんドタキャンなんてしようものなら、ボスからもそっぽを向かれて、2度と仕事を斡旋してもらえなくはなるだろうな。

[12月25日19:00.天候:晴 東京都北区王子 某飲食店]

 私の行き着けの小料理屋に行く。

 愛原:「女将さん、今日はよろしくー!」
 女将:「どうぞどうぞ。もう準備できてますよ」

 私はホールのケーキを買ってきた。

 高橋:「クリスマスパーティー……。少年院以来です」
 愛原:「少年院でもやるんだ」
 高橋:「ヤクのいいのでキメたり……いや、何でもないです」
 愛原:「聞かなかったことにする。女将さん、取りあえずビール!」
 女将:「はい。もうピッチャーに入れてありますよ」
 高橋:「先生、どうぞ」

 高橋が私のグラスにビールを注ぐ。

 愛原:「それでは始めよう!メリークリスマース!」
 高野:「因みにこれ、忘年会だったりします?」
 愛原:「どうかな?顕正号がちゃんとした船旅であるのなら、あっちがむしろ忘年会兼新年会になるだろう」
 高野:「ですよね」
 愛原:「ま、ま。とにかく今年一年間、お疲れさん。高橋君も高野君も、よく頑張ってくれた」
 高橋:「俺こそ、先生から色々教わりました。ありがとうございます」
 高野:「私は言われたことをやってるだけなんて、大したことないです」

 私の事務所としての忘年会は、実質これだったと思う。
 結局のところ、私達は協会主催のツアー、顕正号への乗船を決めたのである。
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