報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「冬のペンション殺人事件」 ペンション“ドッグ・アイ” 2

2017-12-12 19:26:12 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月9日16:15.天候:雪 長野県白馬村郊外 ペンション“ドッグ・アイ”1Fロビー]

 外は雪がしんしんと降り積もる状態だが、ペンション内はとても温かい。
 中に入ると出迎えて来たのは……。

 ハスキー犬:「ハッ、ハッ、ハッ」
 愛原:「うわっ、犬だ!」
 高野:「シベリアンハスキーね」
 愛原:「なるほど。それで“ドッグ・アイ”」

 ハスキー犬は目の色に特徴がある。
 ここで飼われているものは、青白い瞳が特徴だった。

 大沢:「うちで飼っているハスキーのジョージと言います」

 オーナーの大沢氏がジョージの頭をナデナデしてやると、ジョージはお座りをした。
 パタパタと尻尾を振っているので、ちゃんと大沢氏を主人と認識しているのだろう。
 目つきが鋭いので犬嫌いには近寄りがたい犬種のようだが、実は柴犬よりも番犬に向いていないとされるほど人間には友好的な犬種なのだという。
 大沢氏の躾もあるのだろうが、事実初対面の私達には全くと言っていいほど吠えな……。
 と、思ったら!

 ジョージ:「ワン!ワンワンッ!!」
 高橋:「あ?何だ?文句あんのか、コラ?」

 高橋には吠えた。

 大沢:「やめなさい!お客様だぞ!」
 ジョージ:「ウウウ……!」
 高野:「あんたの目つきの悪さに警戒したんでしょ?」
 高橋:「何だと?」
 高野:「よろしくね。ジョージ君」

 高野君がジョージの顔の両脇をわさわさやると、ジョージは舌を出して機嫌を直したようだ。

 高橋:「こう見えても俺は、霧生市でゾンビ犬を蜂の巣に……」
 愛原:「別に今、バイオハザードが起こっているわけじゃないだろ?」

 私は呆れてチェックインの手続きを行った。

 愛原:「えーと……。宿泊代ですが、全世界探偵教会日本支部の名義でクーポン券があるんですが……」
 大沢:「はい、もちろん愛原先生方からはお代は頂きません。その代わり、是非とも事件を解決して頂きたいのです」
 愛原:「分かりました。どんな事件でしょう?」
 大沢:「それは夕食後にお話しさせてください。今、先生方は長旅でお疲れでしょう。まずはお寛ぎください」
 愛原:「あー、そうか……」

 そういえば私は翌日の筋肉痛を覚悟しなければならない体になっていたのだ。

 愛原:「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらいましょうか」
 大沢:「では館内について、軽くご説明致します」

 大沢オーナーの説明を受ける。
 このペンション、1階の奥に男女別の大浴場があるらしい。
 時間を問わず、いつでも入れるとのこと。
 その代わり、ホテルと違って部屋にバスルームは無い。
 トイレと洗面所があるだけ。
 ここからでも見えるが食堂があって、今夜の夕食と翌日の朝食はそこで出る。

 大沢:「これではこれがルームキーです」

 客室は2階に集中しており、ツインルームしか無い。
 エキストラベッドを使って3人部屋とすることもできるらしいが、さすがにそれはお断わりした。

 高野:「じゃ、私はこっちの部屋ね」

 高野君は私の隣の部屋に入った。
 部屋番号は202号室とある。
 私と高橋で、201号室に入った。
 角部屋だ。

 愛原:「おーっ、なかなかいい部屋だな!」
 高橋:「そうですね」

 シングルベッドが2つ置かれており、マットレスは普通だが、掛け布団は羽毛だった。

 愛原:「俺がこっちのベッドを使うから、高橋はこっちを使って」
 高橋:「分かりました」
 愛原:「ついつい仕事であることを忘れそうな部屋だ」
 高橋:「そうですね」

 私はコートや上着を取り、ネクタイも取った。

 愛原:「せっかくだから一っ風呂浴びてくるか。何しろ明日は筋肉痛だ。今のうち、温泉にでも浸かっておこう」
 高橋:「でもさっき、オーナーが人工温泉だとか言ってましたよ。全く、フザけた話だ。先生に人工温泉に入れとは!」
 愛原:「まあまあ」

 ここから徒歩数分の所には、天然温泉の日帰り浴場があるらしいが……。
 窓の様子からして、どんどん雪が強くなって来ている。
 今日はもう下手に外に出ない方がいいかもしれない。

 愛原:「とにかく、体を温めるのが先だ」
 高橋:「分かりました」

 私と高橋が入浴の準備をすると、ちょうど高野君も同じことを考えていたようだ。

 愛原:「3人で行くか」
 高野:「ええ」

 私達は吹き抜けの階段を下りてロビーに出ると、折り返して1階奥の大浴場へ向かった。
 途中、ジョージに見張られながら……。

 高野:「ジョージ君、一緒に入る?」
 ジョージ:「ハッ!……!……!!」

 ジョージは前足だけを何度か上げて、大浴場へ通じる通路までは来なかった。
 恐らく、これ以上進むと大沢氏に叱られることを十分に知っているのだろう。
 なので、「一緒に入りたいのは山々だけども、そんなことすると後で御主人様に怒られるので遠慮しておくでござる」ということだな、おおかた。

[同日17:00.天候:雪 同ペンション1F 大浴場]

 愛原:「ふぅ……。湯加減はちょどいい……」( ´Д`)=3
 高橋:「あんまり広くないですね」

 女性用がどんなものなのかは後で高野君に聞くとして、男性用は岩風呂になっていた。
 とはいえ、露天風呂ではない。

 愛原:「最大でも十数人しか泊まれない宿だ。これで十分だよ」

 どうやら一番風呂のようである。
 それに入れただけでも良しとしなければ。

 高橋:「先生、お背中お流しします」
 愛原:「えっ?いや、別にいいよ」
 高橋:「先生、前、俺にキレイにしてもらうのが嬉しいとか言ってませんでしたか?」
 愛原:「う……そう来たか。分かったよ。じゃあ、頼むよ」
 高橋:「はい!」

 もちろん、変な意味ではない。
 高橋は私の住むアパートでも一緒に暮らしているが、家事全般は殆ど彼がやってくれるのだ。
 いや、ほんと上手いの何のって。
 彼の経歴はグレたものとしか知らないだけに、女子力ならぬ、男子力の強さは私も驚きであった。
 イケメンで高い家事力を誇る男子。
 普通、女の子は放っておかないよな。
 本人曰く、「少年院で教わりました」とのことだが、いやいや、少年院では教えないだろう。

 愛原:「それにしても、他の宿泊客がいないな。まさか、俺達だけってこともあるまいに……」
 高橋:「俺達はチェックイン受付開始時間に来たんですよね?てことは、後から他の客が来るってことですよ」
 愛原:「それもそうか」

 始まったばかりとはいえ、今はシーズン中だ。
 閑散としているはずが無いのだ。

 高橋:「それにしても、このペンションで起きる事件ってのは一体何なんでしょうね?」
 愛原:「さあな」

 私は高橋に背中を流してもらった後、他の場所は全部洗った。

 愛原:「そういえばさ、ヤンキーってロン毛にしてるヤツとかいるけど、高橋はそうしなかったの?」
 高橋:「ロン毛ですか?いや、昔はしていましたね」
 愛原:「そうか。今はしないんだ」
 高橋:「少年院に入ったら切られるじゃないですか。いざ切られてみたらスッキリしたんで、それ以来ずっとこのままです」
 愛原:「そうか」

 と、一瞬納得し掛けたが、髪を金色に染める習慣だけは抜けなかったようである。

 愛原:「どれ、そろそろ上がるか」
 高橋:「ダメですよ、先生。ちゃんと100まで数えてからでないと、体が温まりません」
 愛原:「えー?うるさいなぁ……」

 しかし、高橋は真顔である。
 ほんと、見た目に反して一本気で頑固な所があるよなぁ……。
 でも一応、彼の言う通りにはした。

 で、風呂から上がる。
 脱衣所で服を着ていると、ロビーの方から大きな音がした。
 何か、ガラスが割れるような音だ。

 愛原:「んっ!?」
 高橋:「何でしょう?まさか事件!?」
 愛原:「ええっ!?」

 おいおい!このタイミングかよ!?
 私達は急いで服を着ると、音のした方へ向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「冬のペンション殺人事件」 ペンション“ドッグ・アイ”

2017-12-12 11:56:23 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月9日15:00.天候:雪 長野県白馬村 某スキー場レストハウス]

 愛原:「くそ……!これ絶対……!」
 高橋:「先生、大丈夫ですか?しっかりしてください!」

 わ、私の名前は愛原学……っく!
 と……都内のある場所で……探偵事務所を……経営している!
 今日は……。

 高橋:「先生!無理してナレーションしなくていいですから!」
 愛原:「何でこの小説だけ俺の一人称かなぁ!?」
 高野:「何やってんの、あんた達?」
 愛原:「た、高野君……」
 高野:「ダメじゃない、マサ!初級者の先生を連れ回したんでしょう!?先生の歳を考えなさい!」
 高橋:「くっ……!」

 高野君はまるで弟を叱り付ける姉のように振る舞った。
 いや、これはもう傍から見たら姉弟に見えるかもだ。

 愛原:「いや、いいんだ、高野君。これで俺の運動不足が露呈したってわけだ」
 高野:「でもこれからクライアントさんへのヒアリングとかあるのに、それで大丈夫ですか?」
 愛原:「まあ、そこは『何とかなる精神で何とかする』さ!」
 高橋:「『何とかなる精神で何とかする』……!?探偵の心得ですね!メモっておきます!」

 高橋はババッと分厚い手帳に、今の私の言葉を書き込んだ。

 高野:「あんた、レンタルのスキーウェアにまでそんなもの持ってきて……。この分じゃ先生、明日は筋肉痛よ。どこかで筋肉痛の薬でも調達しないとね」
 高橋:「アンメルツなら持って来ている」
 高野:「マジで!?」

 さすが用意のいい男、高橋だ。

 愛原:「さすが高橋君だな。だけど、何かまるで俺の運動不足を予見されたみたいで、複雑だなぁ……」
 高橋:「そ、そんなことないです!この女が筋肉痛になると思って!」
 高野:「何でだよ!」
 高橋:「ブボッ!?」

 高野君は高橋にボディブローを食らわせた。
 ダウンする高橋。
 た、確か高野君は高野君で武道の有段者だったな。
 それであの霧生市のバイオハザードを生き残れたわけだ。

 高野:「とにかく先生、早いとこ着替えて行きましょう」
 愛原:「あ、ああ。そうだな」

 今度は私が高橋を担いで歩くハメになった。
 それにしても、うちの事務所には武闘派が2人もいるのだなぁ……。

 車を持っていない私達は、スキー場からタクシーでペンションに向かうことにした。
 そのタクシー乗り場に向かうのに、駐車場の中を通る。

 高野:「そういえば私が滑っているコースに、変なジジィがいたんですよ」
 愛原:「変なジジィ?」
 高野:「ゴンドラの列に割り込みしやがって、注意したスタッフに、『あのねぇ、僕はチーム・キューレスの幹部なんだよ?列に並ばず、すぐに乗れる特権があるの。知らないの?』なんて開き直ってたね」
 愛原:「何だそりゃ」
 高橋:「老害クソジジィだな。そんなチーム名、俺は知らん」
 愛原:「キミが所属していた半グレのチームとは別だと思うよ?」

 どこにでもいい歳してマナーの悪い年寄りはいるものだ。
 本当、最近は若者の手本になるような年寄りがいないねぇ……。

 高野:「あ……」
 愛原:「ん?」
 高橋:「何だ?」

 高野君が何か見つけたようだ。
 その視線の先には障がい者用駐車場がある。
 そこに車が止まっていて、その車の持ち主と駐車場のスタッフが何やらモメていた。

 高野:「あの列割り込みのジジィ!」
 愛原:「ええっ!?」

 どうやらその老人は障がい者手帳を持っているという。
 それなら確かにその駐車スペースに駐車できる権利があるが……。

 高橋:「おい……姐さん、あのジジィはフツーに滑ってたのか?」
 高野:「ええ、そうよ」

 ついに高橋、高野君を『おい』から『姐さん』に格上げした。
 この2人、彼氏と彼女の関係にはなれなかったか。

 高橋:「フツーな足取りで、しかもフツーに滑ってたとは。不正受給か?」
 愛原:「障がい者=身体障がい者とは限らないからね。中身に障がいを抱えている人なのかもしれないよ」

 多くの場合、障がい者手帳を持っていればその内容の如何を問わず、障がい者スペースへの駐車が許される。

 高野:「あーあ、行っちゃった」
 愛原:「ま、これで1台空いたってわけだ」

 私達はタクシー乗り場に辿り着くと、そこからタクシーに乗り込んだ。

[同日16:00.天候:雪 長野県白馬村郊外 ペンション“ドッグ・アイ”]

 スキー場からタクシーで20〜30分ほど。
 白馬駅やバスターミナルからもだいぶ離れた山奥に、そのペンションはあった。
 これで佇まいが洋館風なら正しく“バイオハザード”を彷彿とさせるところだが、いざ着いてみたらログキャビン風の佇まいだった。
 “アルプスの少女ハイジ”的な?

 愛原:「だんだん雪が強くなってきたな……」
 運転手:「そうですね。今夜から大寒波がやってきて、大雪になるって話ですよ」
 愛原:「東京じゃ、せいぜい寒風が吹いたり、冷たい雨が降るくらいなのにねぇ……」

 タクシーはペンションの前で止まった。

 高野:「ここは私が払っておきますね」
 愛原:「ああ、すまない」
 高野:「領収証お願いします」
 運転手:「はい」

 私がタクシーを降りると、この時降っている雪は、まだしんしんと降り続けるものであった。

 高橋:「予報によると、長野県北部は吹雪になるかもとのことです」
 愛原:「へえ、東京じゃ考えられないねぇ……」

 支払いの済ませた高野君が降りると、タクシーは急ぐように出て行った。

 愛原:「ん?どうしたんだ?」
 高野:「この村道、除雪が遅いんですって。もしかしたら除雪が間に合わず、通行止めになるかもしれないから、早く戻るんですって」
 高橋:「チキン野郎だな」
 愛原:「もっと別の心配しろよ」

 確かこのペンション、今タクシーが通って来た道が一本しか無かったよな。
 それが通行止めになるってことは……。
 私が不安に駆られていると、中から誰かが出て来た。

 オーナー:「もしかして、東京の愛原先生でいらっしゃいますか?」
 愛原:「あ、はい。私が愛原です」
 オーナー:「当ペンションのオーナーの大沢と申します。遠い所、どうもありがとうございます。さ、どうぞ中へ」
 愛原:「お世話になります」
 高野:「お邪魔しまーす」
 高橋:「厄介になろう」

 こうして、私達はペンションの中に入って行った。
 そして、事件は始まる……!
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