報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「斉藤家へ向かう」 2

2021-05-06 18:53:59 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月10日15:10.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

〔まもなく大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、宇都宮線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです〕

 私達を乗せた高崎線電車は、定刻通りに大宮駅に接近した。

 愛原:「日本の鉄道はダイヤ通りでいいねぇ」

 電車がホームに入線すると、私は席を立った。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。8番線の電車は高崎線の普通列車、高崎行きです。終点、高崎までの各駅に止まります」〕

 10両編成だと大宮駅でもホームの中ほどに止まるせいか、実は改札階へ向かうエスカレーターが比較的近い場所にある。

 愛原:「!?」

 その時、11番線に湘南新宿ラインからやってきた下り電車が入線してきた。
 その電車がけたたましい警笛を上げた。
 と、同時に『ゴキュッ……!』という鈍い音。
 私はこの鈍い音に聞き覚えがあった。

 愛原:「人身事故だ!!」

 2ちゃんねる(今は5ちゃんねる)に人身事故の音を表現すると、『グモッチュイーン!』というのがあり、それが転じて鉄道人身事故が起こることを、『グモる』と言うことがある。
 といっても、今は死語だろうか。
 しかし、実際は飛び込み自殺の場合は、『ゴキュッ……!』という鈍い音なのである。
 もちろん、ぶつかり方やぶつかった場所にもよるだろう。
 時速100キロ以上で飛び込んだら、ガラスの割れる音もするだろうか。

 高橋:「ゾンビ無双してた俺が言うのも何スけど、グロいすね……」

 9番線には電車は止まっていない。
 また、10番線はホームの無い中線である。
 当然、そこにも電車はいない。
 つまり、11番線の電車は8番線・9番線ホームから丸見えなのである。
 しかも、私達が降りた所の前で電車が事故った。
 事故った電車の運転席からは、けたたましい防護無線のピピピピという音が聞こえてくる。
 因みにこの音、一部の炊飯器が炊き上がった時に鳴る音とか、一部のIHコンロの電源が自動で切れる音とか、そういうのに似ている。

 リサ:「ウゥウ……!フーッ、フーッ……!」
 愛原:「り、リサ!?」

 頭の潰れた死体を見て、リサはギリギリのところで第1形態への変化に耐えていた。
 だが、目は金色に光り、両手の爪も少し長く鋭く尖っている。
 周囲のコロナ対策に合わせてマスクを着けてはいるが、血に飢えた涎でマスクがビショビショに濡れてしまっている。

 愛原:「見るな、リサ!」

 私はリサを掴むと、事故現場から目を反らせた。

 高橋:「先生、無理っスよ!」

 普通の人間でも分かる異様な臭い。
 死体の臭いだ。
 その中には血の臭いも……。

 リサ:「フーッ!フーッ!ウゥウ……!」
 愛原:「こっちへ来い!」
 高橋:「とっとと離脱っス!」

 私達は大騒ぎになっているホームから急いでエスカレーターに乗り、コンコースへ向かった。

〔「湘南新宿ライン、宇都宮線ご利用のお客様に、お知らせ致します。先ほど当駅11番線ホームで、人身事故が発生しました。この為、湘南新宿ラインから参ります宇都宮線下り電車は、しばらく運転を見合わせます。また、上り電車につきましても、安全の確認が取れるまで運転を見合わせます。尚、上野東京ラインからの高崎線、京浜東北線につきましては、まもなく運転を再開致します。……」〕

 まずはリサを、なるべく現場から離れている京浜東北線ホームのベンチに連れて行き、そこに座らせて落ち着かせた。
 そして自販機でトマトジュースを買って来て、リサに飲ませる。
 マスクを取って口を開かせると、既に第1形態時と遜色無い牙が生えていた。

 愛原:「ほらリサ、飲め」
 リサ:「ち……血が欲しい……!飲みたい……!」

 以前何かのマンガで、吸血鬼がどうしても人の血を我慢しなくてはならない時、トマトジュースで誤魔化すという話を聞いたことがあり、リサにそれを試したところ、まあまあ上手くいったもので。
 トマトジュースは血の色ほど赤くはないが、そこに塩分が入っていると、『赤くてしょっぱいもの』=『血液』みたいなイメージになり、一応の誤魔化しになるのだろうと。

 リサ:「トマトジュースじゃヤダ……」

 とは言いつつ、リサはトマトジュースをゴクゴク飲んでいる。
 都合良く駅の自販機でトマトジュースなんか売ってるものだなぁ!(2021年5月6日現在、ガチです!ガチでJR東日本駅の自販機で売ってます!)

 愛原:「どうだ?落ち着いたか?」
 リサ:「うん……」
 愛原:「よく耐えたな。偉い偉い」

 私はリサの頭を撫でた。

 リサ:「うん……」
 高橋:「先生。そろそろ行かないと、バスの時間っス」
 愛原:「ああ、分かった。じゃあ、行くぞ」

 私はリサを立たせた。
 さすがに涎でグショ濡れになったマスクは交換した。

[同日15:30.天候:晴 JR大宮駅東口→西武バス大38系統車内]

〔「15時30分発、上落合経由、大宮駅西口行きです」〕

 同時発車の別のバス会社と誤乗してはいけない。
 私達は週に1度しか運転されないレアなバスに乗り込んだ。
 他に乗客はいない。
 私達は中型バスの1番後ろの席に座った。

〔「15時30分発、上落合経由、大宮駅西口行き、発車致します」〕

 同時発車のもう1台のバスの後ろを出発する。
 もう1台のバスは総合病院に向かうが、土曜日は外来診療が休みだし、恐らくコロナ禍なので入院患者への見舞いも制限されていることだろう。
 それでも途中停留所への需要は多いのか、7~8人ほどの乗客が大型バスに乗っているように見えた。

〔ピン♪ポン♪パーン♪ 大変お待たせ致しました。ご乗車ありがとうございます。このバスは住宅前、中並木、上小町経由、大宮駅西口行きです。次は仲町、仲町。……〕

 私達が乗らなかったら、このバスは乗客ゼロで出発したというわけか。

 愛原:「リサ、大丈夫か?」
 リサ:「うん、大丈夫……」

 リサの目は通常の黒に戻っている。
 リサが変化する時、瞳の色が金色になったり、赤色になったりする。
 その違いはよく分からない。
 今回は金色だったが……。

 愛原:「あ、そうだ。俺も今、向かっていることを連絡しておくか」

 バスがスクランブル交差点の赤信号で止まった時、私はスマホを取り出した。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家へ向かう」

2021-05-06 11:34:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月10日14:20.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅→上野東京ライン1876E列車10号車内]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は秋田での報告書を手に、斉藤社長の自宅へ向かうところである。
 都営バスで東京駅に到着した私は、高橋とリサを伴って東京駅の構内に入った。
 バスは丸の内北口が終点なので、必然的にレンガ造りの丸の内側から入構することになる。
 ガイドブックには必ず登場するステンドグラスの真下を歩くことになるわけだな。
 佇まいといい、場所が場所なら“バイオハザードシリーズ”に登場する洋館や古城のエントランスホールといった感じだ。
 リサは私服ではなく、制服を着ていた。
 午前中だけ学校があった為。
 それならば上野駅で落ち合っても良かった気がするが、リサは一度帰って来た。
 そして、斉藤家で夕食を御馳走になるならと、ラフな私服ではなく、制服を着て来た次第。
 リサもそういうのを気にするようになったということか。
 夕食を御馳走になるというのは、斉藤社長の誘い。
 私から仕事の話を聞く為である。
 実際はその前には到着し、報告書を渡す際に詳細を説明するのだが。

 高橋:「先生、電車は上野東京ラインですか?」
 愛原:「そうだよ。まさか、斉藤さんみたいに新幹線で行くわけにはいかんだろ、大宮まで」
 高橋:「それもそうっスね」

 手持ちのSuicaまたはPasmoを使って自動改札口を通る。

 愛原:「せっかくだから、斉藤社長に何か手土産でも買っていこう。いつも仕事を斡旋してくれるわけだし」
 高橋:「はい。きっとゴールディンウィークは、またあのレズガキのお守りを押し付けられますよ?」
 愛原:「そういう言い方しないの。あれでも高額報酬くれるんだから」
 高橋:「そもそも探偵の仕事じゃないっスよ、あんなの」
 愛原:「表向きは絵恋さんの護衛になるから……まあ、どちらかというと身辺警備に近いか」

 となると探偵業者ではなく、警備業者の仕事になる。
 警備業が世界で初めて生まれたアメリカでは、それは探偵業から分業したものである。
 日本ではそのような歴史は無く、探偵業は探偵業、警備業は警備業である。
 アメリカみたいに探偵業から分業したわけではない(日本初の警備会社、セコムは最初から警備業として発足したものであり、アメリカのようにどこかの探偵会社から分業したわけではない)。

 愛原:「ま、いいじゃないか。俺達みたいな弱小事務所に、固定客が付くのって素晴らしいことなんだから」
 高橋:「はあ……」
 愛原:「それに斉藤社長も、バイオハザードと戦っておられる。大企業家としての豊富な資金、人脈を借りられるというのは大きいぞ」
 高橋:「なるほど」

 私は駅構内にある土産物店で菓子折りを購入すると、早速ホームに向かった。

 リサ:「美味しそうなお菓子」
 愛原:「ダメだよ。これは斉藤社長へのお土産なんだから」
 リサ:「はーい」

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の7番線の列車は、14時39分発、普通、高崎行きです。この列車は、10両です。グリーン車が付いております。……〕

 短い10両編成か。
 ダイヤが改正されてからというもの、上野始発の電車が昼間は無くなってしまった。
 上野始発は概して空いているので10両編成でも良かったが、上野東京ライン直通となると厳しいのではないか。
 JR東日本も、なるべく空いている電車は整理したいようだ。
 コロナ禍でその動きが一層加速したように思える。
 もしも善場主任の予言通り、ゴールデンウィークに緊急事態宣言が発出されたら、もっと鉄道ダイヤの動きが変わることだろう。

〔まもなく7番線に、普通、高崎行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側まで、お下がりください。この列車は、10両です。グリーン車が付いております。……〕

 自動放送が流れた後で、単調な接近メロディが流れる。
 短調ではない。
 単調だ。
 JR西日本だともっと賑やかな接近メロディが流れるだろうに、JR東日本ではそこは控えめである。
 その代わり、発車メロディが賑やかなのだが。

〔「7番線、ご注意ください。14時39分発、高崎線直通、普通列車の高崎行き、短い10両編成で参ります。ホームの中ほどに停車致します。停車位置にご注意ください」〕

 7~10番線の有効長は15両編成分。
 そこに10両編成が来るのだから、確かにホームは余る。
 東京駅はターミナル駅ではあるが、新幹線と京葉線ホーム以外は通過式ホームである。
 頭端式(櫛形ホーム)だと、編成両数不問で停止位置を固定することができる。
 しかし通過式ホームだと、どうしてもホーム中央に停止位置を揃えたがるので、停止位置が編成両数によってまちまちになってしまう。
 東京駅でもそのような光景が見られる。
 但し、編成両数そのものが固定化されている通勤電車(いわゆる国電)ではそのような現象は見られない。

 愛原:「なるほど……」

 BSAAとの取り決めに従い、先頭車となる10号車の位置で待っていると、そこに先頭車がやってきた。
 この10号車、車両の所属によって内部構造が違う。

〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。7番線の列車は14時39分発、高崎線普通列車、高崎行きです。終点の高崎まで各駅に止まります。次の停車駅は上野です。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 国府津車両センター所属だと10号車はトイレとボックスシートが付いたタイプ、小山車両センター所属だとトイレ無しのロングシートのみとなる。
 で、今回は後者だった。
 旅行気分は全く無いが、こちらとしても大宮までなので、どちらでも良い。
 土曜日の午後ということもあってか、そんなに混んではいなかった。
 それでも余裕を持って15両は欲しいところ。
 特に、三密対策としては。
 本数を減らすなら、両数を増やして欲しいところだ。
 初期型なのか、空いているロングシートに座ると、座席は硬かった。
 なるほど。
 これで高崎まで行こうとするとキツいだろうな。
 なので、グリーン車か新幹線に誘導したいのだろう。

〔「14時39分発、高崎線直通の普通列車、高崎行き、まもなく発車致します」〕

 停車時間はおよそ1分。
 発車メロディが鳴った後、電車は賑やかにドアを閉めて発車した。

 リサ:「サイトーにLINE送っといた。『今、電車が発車した』って」
 愛原:「ほおほお。それで?」
 リサ:「サイトーのヤツ、迎えに行きたいんだけど、お父さんがダメだって」
 愛原:「俺達の方から出向くことになっているのに、娘さんだけ迎えに来られてもねぇ……」
 リサ:「今、メイドさん達が総出でサイトーを押さえているところ」
 高橋:「首に縄付けて繋いどけ」

 高橋が吐き捨てるように言った。
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