報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「ゴールデンウィークの平日」

2021-05-26 20:05:49 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月30日10:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は善場主任の方から足労してくれた。

 善場:「今日は貴重な情報を提供して下さり、ありがとうございます」
 愛原:「リサが少し人間だった頃の記憶を取り戻しましたので、その分だけではありますが……」

 この前のように、応接室で応対している。
 高橋は、また襲撃者が現れては困るとばかりに、防弾チョッキと対バイオテロ用のマグナムを用意していた(当局の許可済み)。

 善場:「結構です。教えてください」

 私はリサがフラッシュバックを起こした部分を紹介した。

 善場:「……なるほど。分かりました」
 愛原:「少しずつ人間だった頃の記憶を取り戻していますね」
 善場:「そしてそれはつまり、日本アンブレラ……引いては、白井の都合の悪い部分が蘇りつつあるということです。今のところはまだのようですね」
 愛原:「最後のグレーの建物というのが気になります」
 善場:「恐らくはアンブレラの研究所かもしれません。アンブレラは1987年に日本研究所を国内に数ヶ所建設しました。そのうちの1つが『北関東支所』で、栃木県にありましたから」
 愛原:「でも、気になるのは駅名です。東那須野駅は1982年に那須塩原駅に改名されているんです。日本アンブレラが設立されたのは1984年ですね」
 善場:「いえ、おかしくはないですよ」
 愛原:「えっ?」
 善場:「リサの本籍地は今も不明です。東那須野駅を訪れたのが、白井に連れ去られる前だとしたら、何らおかしくはないです」
 愛原:「あ、そうか。施設に入る前の話かもしれないんだ」

 そうだとしたら、リサには申し訳無いが、あまり役に立たない情報だったかもしれない。

 善場:「この『115系』って何ですか?」
 愛原:「ああ。当時、JR宇都宮線を走っていた3ドアの旧型電車のことです。東海道本線を走っていた湘南電車みたいな色をしていた電車ですよ。今はもう全廃されましたが」

 東海道本線を走っていた車両は113系。
 しかし塗り分けが違うだけで、素人目にはそれ以外の区別があまり付かなかったと思う(強いていえば手動式半自動ドアの機能が115系にはあったので、手動で開閉する為の取っ手がドアに付いていたことくらいか)。

 愛原:「リサがフラッシュバックの中で現れたシーンは、東那須野駅のホームです。そこから降りたのか、それともたまたまホームにいたらやってきた電車だったのか分かりませんが、その時にこの115系らしき電車がいたということです」
 善場:「フラッシュバックはカラーでしたか?それとも白黒でしたか?」
 愛原:「そこまでは聞いていませんが……。ただ、白黒であったとしても、115系湘南色であることには変わらないと思いますよ」
 善場:「確か、このようなタイプには、横須賀線で走っているような色もあったと思いますが……」
 愛原:「いわゆる、『スカ色』ですね。でも、宇都宮線でスカ色の115系が運転されたことは恐らく無いはずなので……」
 善場:「そうですか。このタイプの電車が運転されていたのは、どこからどこまでですか?」
 愛原:「1980年代ですと、上野~黒磯間ですね。当時はまだ上野東京ラインなど無かったので、全部の電車が上野……ああっと、湘南新宿ラインはあったのか。ただ、池袋とか……新宿までも行ってたのかなぁ……?普通電車はそこまでですよ。あとはもしかしたら、JR日光線にも乗り入れていたかもしれません。あと栃木県内で言えば、両毛線とか……」
 善場:「なるほど。当時としては一般的な電車だったというわけですね」
 愛原:「そういうことです」

 今でいうE231系みたいものだ。

 善場:「分かりました。他に情報はありますか?」
 愛原:「これは……多少オカルト話になるんですが、リサの通う高校には幽霊が棲んでましてですね……」
 善場:「ああ。愛原所長も巻き込まれた、あの話ですか」
 愛原:「そこに巣くうトイレの花子さんは生前、白井と同級生だったそうです。幽霊になって何十年も経ったことで、リサと同じく人間だった頃の記憶は薄れつつあるようです。が、もしかしたら、これもリサの影響なんですかね。1つ思い出したことがあるらしいんですよ。もちろん、白井のことで」
 善場:「何ですか?」
 愛原:「白井は天長会という宗教団体に入信していたようです」
 善場:「天長会。旧約聖書の独自解釈を教祖が教え広めたことで、他のカソリック系教団から異端組織扱いされている教団です。また、信者の勧誘方法も比較的強引なので、度々警察が呼ばれるトラブルを起こしていることでも有名です。キリスト教版顕正会
 愛原:「そこに白井が入信しているという情報は既に握っていますか?」
 善場:「いえ、そこまではまだです。ヴェルトロも日本支部では、旧約聖書にダンテの神曲を織り交ぜた独自の教義でもって活動していたと聞きます。もしかしたら、白井は宗教繋がりでヴェルトロに接近したのかもしれませんね」
 愛原:「日本支部なんてあったんですか!」
 善場:「元々地下組織化されていたようです。最近になって、その存在が明るみになってきました。愛原所長のその情報も、有効活用させて頂きます。天長会とヴェルトロの関係が洗えれば万々歳です」
 愛原:「それにしても、科学的なこと以外は全く信用しなさそうなイメージの科学者が神を信じているなんて、何だか意外ですね」
 善場:「そういったケースはよくありますよ。最近ですと、オウム真理教の幹部が理系のエリートだったのは有名です。そのスキルを利用してサリンやらVXガスを作ったことは有名ですね」
 愛原:「あ、そうか」

 後者は創価学会の池田会長に対しても使われたことで有名である。

 善場:「早速、天長会と白井の関係について調べてみます。今日はありがとうございました」
 愛原:「いえいえ。お役に立てて何よりです」
 善場:「所長は明日からの連休、どうされるんですか?」
 愛原:「斉藤社長から仕事の依頼がありまして、今度はその栃木に娘さんを連れて旅行の思い出を作らせてあげることになりますよ。ほら、前に行った八丈島の……今度は栃木ですね」
 善場:「さすがに緊急事態宣言中とあらば、遠出はできないということですか」
 愛原:「でしょうね」

 距離的には今度行く栃木の方が近いのだが、遠いはずの八丈島の方が同じ東京都だという不思議。

 愛原:「奇しくも那須塩原市内ですよ」
 善場:「そうですか……」
 愛原:「偶然でも何か分かったら連絡しますね」
 善場:「……お願いします。私もゴールデンウィーク中はどこへも行けませんので、恐らくこの事務所にいる日の方が多いと思いますので」
 愛原:「お土産、買って来ますね」

 私は仕事とはいえ、旅行に行くことに多少の罪悪感を感じてしまった。
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“私立探偵 愛原学” 「ゴールデンウィーク初日」

2021-05-26 16:42:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月29日10:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 リサの記憶が少し戻った点と、トイレの花子さんがもたらしてくれたという情報を、私は善場主任に報告した。
 後者については善場主任は半信半疑であったが、詳しい話を30日にしたいという。
 さすがに今日みたいな祝日は、善場主任も休みのようだ。
 因みに天長会について、ネットで調べてみた。
 恐らく名前からして、何かの神を拝む宗教だろうと思っていたが、実際その通りだった。
 キリスト教の一派の新興宗教らしいが、正直他の団体とどこか違うのかは分からなかった。
 ただ、本部が栃木にあるというのが引っ掛かったが。
 リサが入所していた児童養護施設は埼玉県の北部、栃木県に程近い場所……。

 高橋:「先生、ちょっと俺、出てきます」
 愛原:「ああ、行ってらっしゃい。霧崎さんとデートかい?」
 高橋:「『デートしないとコロす』というLINEが来たんで……」
 愛原:「ああ、そう。大変だな。どこへ行くんだ?」
 高橋:「取りあえず、アキバでもウロウロしてますよ」
 愛原:「そうか、分かった。じゃあ、気をつけて。回復薬とグリーンハーブは持って行けよ」
 高橋:「うス」
 リサ:「何で、デートに行くのに回復薬とハーブ?」

 高橋が出て行くと、私もリサに向き直った。

 愛原:「今日は俺も旅行の準備をしてこないと……」
 リサ:「どこか行くの?」
 愛原:「ネット予約してた新幹線のキップを発券してくるよ」
 リサ:「私も行く」
 愛原:「そうか?じゃあ、準備してくれ」
 リサ:「分かった。どこの駅まで行くの?東京駅?アキバ?錦糸町?」
 愛原:「秋葉原は高橋達とカブるからやめておこう。錦糸町方面にでも行くか」
 リサ:「行こう行こう。すぐ準備するね」

 リサは急いで自分の部屋に向かった。

[同日10:55.天候:晴 同地区内 菊川一丁目バス停→都営バス錦11系統車内]

 愛原:「今度のバスは亀戸行きか……。よし。せっかくだから、亀戸まで行ってみるか」
 リサ:「おー!」

 しばらく待っていると、バスがやってくる。

〔「錦糸町駅前経由、亀戸駅前行きです」〕

 前扉からバスに乗り込む。
 今度は偽バスではないようだ。
 後ろに行って、空いている2人席に座った。
 1番後ろの席と違って狭いので、リサとは密着する感じになる。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスが発車する。

〔ピンポーン♪ 次は菊川駅前、菊川駅前でございます。都営バス、とうきょうスカイツリー駅前、新橋、東京駅丸の内北口方面、都営地下鉄新宿線をご利用のお客様は、お乗り換えでございます。次は、菊川駅前でございます〕

 愛原:「しかし緊急事態宣言が出てるというのに、出掛けちゃっていいのかな……」
 リサ:「サイトーのお父さんからの仕事の依頼だからしょうがない」
 愛原:「うん、それもそうだな」

 まずは新幹線のキップを手に入れなければ。
 指定席券売機のある所ならどこでもいいので、まずはJRの駅に向かわなくてはならない。

[同日11:08.天候:晴 東京都江東区亀戸 JR亀戸駅]

〔「ご乗車ありがとうございました。亀戸駅前、終点です。お忘れ物、落とし物にご注意ください」〕

 愛原:「ここに来るのは初めてだな……」

 というのは、錦糸町駅前から更に延長して亀戸駅まで向かうバスの本数は少ないからである。
 たまたま今回、亀戸駅行きに乗れたというだけの話だ。
 中扉からバスを降り、亀戸駅に向かう。
 緊急事態宣言中であっても、駅前や駅構内は賑わっていた。

 愛原:「あったあった」

 指定席券売機を見つける。
 そこに行って、ネット予約した新幹線のキップを発券した。
 “なすの”号なので空いているだろうが、指定席も設定されており、それを購入した。
 指定席だとBSAAとの取り決め通り、先頭車または最後尾には乗れない。
 今のうちにその旨、善場主任を通して連絡しておかないとダメということだ。

 愛原:「キップは当日渡すよ。それまでは、これは預かっておく」
 リサ:「分かった。サイトーの分もあるでしょ?」
 愛原:「もちろん。なんで30日、絵恋さんと一緒に事務所まで来てくれるかな?」
 リサ:「いいよ」

 往復分のキップだから、枚数は相当なものとなった。
 乗車券だけは『東京山手線内→那須塩原』と『那須塩原→東京山手線内』となる。
 特急券は下りだけ、私と高橋が東京駅からなのに対し、リサと絵恋さんは上野駅からとなる。
 乗車券の『東京山手線内』というのは文字通り、山手線全線とその内側を通るJR線という意味で、乗車券の距離が片道100km以上200km未満の時に適用されるものである。
 今回の場合を例に取ると、新幹線に乗ろうとする場合、スタート地点が東京駅とは限らない。
 東京駅や上野駅に向かう場合、東京山手線内の駅からなら、どの駅からでもスタートして良いという意味である。
 もちろん、逆にゴール地点も東京山手線内の駅ならどこでも良い。
 尚、これが片道200km以上になると、『東京都区内』となる。
 名前の通り、東京山手線内にプラスして東京23区内のJRの駅からならどこからでもスタート(またはゴール)して良いということになる。
 もっとも、私達は東京駅や上野駅からスタートし、ゴールは一応東京駅の予定だから、あんまり乗車券の恩恵は受けられそうにない。

 愛原:「どれ、せっかく来たんだし、アトレにでも行ってみるか」
 リサ:「うん」

 因みにリサは制服ではなく、私服である。
 フード付きのパーカーは、いつでも変化した時に頭を隠すアイテムになる。

 愛原:「お昼でも食べて帰れば御の字だろう」
 リサ:「夜はどうするの?」
 愛原:「高橋達のことだから、帰りは夜になるだろう」

 きっとラブホで一発ヤってくるんだろうなぁ……。

 愛原:「夜は何かデリバリーでも頼むさ」
 リサ:「分かった」

 私達は駅からアトレへと移動した。
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“愛原リサの日常” 「ゴールデンウィーク前日」

2021-05-26 14:36:58 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月28日13:00.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校・教育資料館(旧校舎)]

 トイレの花子さん:「ほお、明日からゴールデンウィークか。あれから何十年経ったのやら……」

 旧校舎に巣くう“トイレの花子さん”。
 死亡当時の旧制服だった、半袖のセーラー服を着ている。
 そして、日本版リサ・トレヴァーと同じ、目の部分だけ横長に空いただけの白い仮面を着けている。
 実はイジメを苦に自殺した女子生徒の幽霊であり、死後何十年も経っているせいか、自分の本当の名前は記憶から無くなってしまった。

 リサ:「ついに3度目の緊急事態宣言に入ってしまいました。この学校の行事も、軒並み中止です」

 リサもまた仮面を着けている。

 花子さん:「幽霊とはいえ、悠久の時を生きてみるものだな。私が生きていた頃には考えられなかったことが起きている……」
 リサ:「でしょうね」

 花子さんの行動範囲は基本的に2階の女子トイレを拠点として、校舎内全てを移動できるようだ。
 やろうと思えば校舎の外にも出られるようだが、そこまではしない。

 花子さん:「しかし、修学旅行に行けなくなるとは……哀れな……」

 中等部3年生の時に行われるはずの修学旅行は中止。
 その分、高等部1年生のゴールデンウィーク期間中にその代替となる行事をしようという話もあったが、3度目の緊急事態宣言のせいで、これまた流れてしまった。

 リサ:「でも、オリンピックはやるんだって」
 花子さん:「……季節外れのエイプリルフールか?」
 リサ:「分かんない」
 花子さん:「まあ、それよりも、例の話なんだが……」
 リサ:「後で放課後、うちの坂上先生が設置してくれますよ」
 花子さん:「おお!こりゃすまない!」
 リサ:「(幽霊なのにテレビが観たいって……)電気は1階にしか通ってないから、テレビは多分、旧・校長室かどこかに設置するみたいです」
 花子さん:「そうかそうか!まさか死して尚、オリンピックが観れるとは思わなかった!成仏など、するものではないな!」
 リサ:「いや、成仏はした方がいいと思います」

 恐らく今度は、『最近、旧校舎では夜な夜な旧・校長室からテレビの音が聞こえて来る』なんて怪奇話の噂が立つことだろう。

 花子さん:「楽しみだ」
 リサ:(幽霊なのに、仮面の下は絶対爽やかな笑顔)

 見ると外は、柔らかい日差しが照っている。

 リサ:「幽霊なのに昼間から堂々と出て大丈夫なんですか?」
 花子さん:「私みたいに霊力の強い幽霊となるとだな、昼間でも関係無いよ。もっとも、昼間から悪さをするつもりは無いがな。オマエが来てくれたから姿を現しただけで、普通は昼間から姿を現したりはせんよ」
 リサ:「それならいいんですが……」
 花子さん:「オマエこそ、鬼なのに昼間から人間のフリして授業受けられるなんていいな」
 リサ:「だから、鬼じゃないですって。たまたま鬼のような姿をしているだけの生物兵器なんですよ」
 花子さん:「似たようなものだ。昼間から活動して大丈夫なのか?」
 リサ:「私は大丈夫です。まあ、他の個体ではアウトな奴もいましたが」
 花子さん:「そうそう。白井のことだが、少し思い出したことがある」
 リサ:「えっ!?」

 何を隠そう、あの白井伝三郎と花子さんは同級生なのだ。
 白井が60代前半の歳なので、つまりはここにいる花子さんも、生きていたらその歳というわけだ。
 リサとは、親子以上に歳が離れている。
 白井は直接イジメには加担しなかったが、花子さんがイジメられているのは知っていて、何もしなかった傍観者である。
 それでも、花子さんからは復讐の対象者となった。
 が、白井だけ生涯独身を貫いている為、花子さんの復讐法(イジメ加害者達の子供達を呪い殺す)では復讐できずにいる。
 リサが今でも花子さんと交流を持っているのは、花子さんから白井の情報を聞き出す為である。

 花子さん:「あいつ、確か家が独特の宗教に入っていたはずだ」
 リサ:「ヴェルトロ?」
 花子さん:「いや、違う。そんな横文字の名前じゃなく、確か『天長会』という所だ」
 リサ:「天長会?……うっ!」

 その時、リサに強烈な頭痛とフラッシュバックが起きた。

 花子さん:「おい、大丈夫か?」
 リサ:「私の名前は……上野暢子……そんなのどうでもいい。だけど……」
 花子さん:「今思い出した記憶、メモにしておくといい。必ず役に立つ」

[同日16:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 リサは学校から帰ると、愛原の事務所に立ち寄った。

 愛原:「お帰り。明日は休みか?」
 リサ:「でも30日はまた学校」
 愛原:「飛び石になって大変だな。30日、夕方また来れるか?」
 リサ:「どうしたの?」
 愛原:「いや、連休に入る前に掃除をしようかと思って」
 リサ:「いいよ。サイトーも連れて来る」
 愛原:「悪いな」
 リサ:「ちょっと、机借りるね」
 愛原:「いいよ」

 少し前まで高野芽衣子が使っていた机。
 今はたまにリサが使っている。
 そこで宿題でもやるのかと思いきや、リサはメモ帳に何かを書いていた。

 愛原:「何を書いてるんだ?」
 リサ:「少し人間だった頃の記憶が戻ったから、忘れないようにメモしてるの」
 愛原:「それは凄い!どんなことを思い出したんだ?」
 リサ:「私がもっと小さかった時。そうそう、花子さんから聞いたんだけど、白井伝三郎って、天長会っていう宗教団体にいたらしいよ」
 愛原:「天長会か。それって確か、リサが人間だった頃に入っていた児童養護施設を運営していた宗教団体じゃなかったか?」
 リサ:「うん」

 宗教団体、特にキリスト教系の団体が児童養護施設を運営することは何も珍しいことではない。
 だが、天長会の場合は少し違った。
 日本アンブレラと手を組み、入所している子供達を実験台に使わせたのだ。
 リサもその1人。
 そしてリサは極めて良好と言えるほど、ウィルスに体が馴染んだ為、日本版リサ・トレヴァーとしての開発を進められることになった。

 リサ:「私がその時の施設に入っていた頃の記憶」
 愛原:「おおっ!何か白井に繋がる情報が?」
 リサ:「……分かんない」
 愛原:「ん?」

 リサはいくつか発生したフラッシュバックのうち、最後の3つが分からないような書き方をしていた。

 愛原:「東那須野駅?そんな駅あったかな?」

 愛原は自分の机に戻って、PCで調べ始めた。

 愛原:「ああ!那須塩原駅のことだ!東北新幹線が開業したと同時に、今の名前になったとある。リサ、オマエ、東北新幹線開業前……あっ、そうか!」
 リサ:「私の……人間としての年齢は、本来なら先生よりずっと年上……」
 愛原:「そうだよな!」

 次は那須インターの横を通るシーン。
 恐らく車だろう。
 しかし、そこから東北自動車道に入ることはなかったようだ。
 尚、あのヴェルトロと思しき男達が降りようとした黒磯板室インターチェンジは2009年の開業なので、リサが人間だった頃にはまだそれは存在していなかった。
 最後は灰色の建物。
 これは研究所か何かだろう。
 しかし、フラッシュバックというのは、記憶の順番が曖昧であることが多い。
 児童養護施設で過ごしていた頃の記憶は置いといて、その外の記憶だ。
 多分、『東那須野(現・那須塩原)駅』→『那須インターチェンジ前』→『灰色の建物』だと思う。
 まあ、分からない。
 実際は那須インターから東北自動車道に入ったのかもしれないし、車でそこまでやってきて、逆に旧・東那須野駅から電車に乗ったのかもしれない。
 灰色の建物は1番後の記憶だろう。

 愛原:「奇しくも俺達は、これからその那須塩原に向かう。何かまた記憶が掘り起こされることがあったりしてな?」
 リサ:「どうだろうね……」
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