[4月30日10:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は善場主任の方から足労してくれた。
善場:「今日は貴重な情報を提供して下さり、ありがとうございます」
愛原:「リサが少し人間だった頃の記憶を取り戻しましたので、その分だけではありますが……」
この前のように、応接室で応対している。
高橋は、また襲撃者が現れては困るとばかりに、防弾チョッキと対バイオテロ用のマグナムを用意していた(当局の許可済み)。
善場:「結構です。教えてください」
私はリサがフラッシュバックを起こした部分を紹介した。
善場:「……なるほど。分かりました」
愛原:「少しずつ人間だった頃の記憶を取り戻していますね」
善場:「そしてそれはつまり、日本アンブレラ……引いては、白井の都合の悪い部分が蘇りつつあるということです。今のところはまだのようですね」
愛原:「最後のグレーの建物というのが気になります」
善場:「恐らくはアンブレラの研究所かもしれません。アンブレラは1987年に日本研究所を国内に数ヶ所建設しました。そのうちの1つが『北関東支所』で、栃木県にありましたから」
愛原:「でも、気になるのは駅名です。東那須野駅は1982年に那須塩原駅に改名されているんです。日本アンブレラが設立されたのは1984年ですね」
善場:「いえ、おかしくはないですよ」
愛原:「えっ?」
善場:「リサの本籍地は今も不明です。東那須野駅を訪れたのが、白井に連れ去られる前だとしたら、何らおかしくはないです」
愛原:「あ、そうか。施設に入る前の話かもしれないんだ」
そうだとしたら、リサには申し訳無いが、あまり役に立たない情報だったかもしれない。
善場:「この『115系』って何ですか?」
愛原:「ああ。当時、JR宇都宮線を走っていた3ドアの旧型電車のことです。東海道本線を走っていた湘南電車みたいな色をしていた電車ですよ。今はもう全廃されましたが」
東海道本線を走っていた車両は113系。
しかし塗り分けが違うだけで、素人目にはそれ以外の区別があまり付かなかったと思う(強いていえば手動式半自動ドアの機能が115系にはあったので、手動で開閉する為の取っ手がドアに付いていたことくらいか)。
愛原:「リサがフラッシュバックの中で現れたシーンは、東那須野駅のホームです。そこから降りたのか、それともたまたまホームにいたらやってきた電車だったのか分かりませんが、その時にこの115系らしき電車がいたということです」
善場:「フラッシュバックはカラーでしたか?それとも白黒でしたか?」
愛原:「そこまでは聞いていませんが……。ただ、白黒であったとしても、115系湘南色であることには変わらないと思いますよ」
善場:「確か、このようなタイプには、横須賀線で走っているような色もあったと思いますが……」
愛原:「いわゆる、『スカ色』ですね。でも、宇都宮線でスカ色の115系が運転されたことは恐らく無いはずなので……」
善場:「そうですか。このタイプの電車が運転されていたのは、どこからどこまでですか?」
愛原:「1980年代ですと、上野~黒磯間ですね。当時はまだ上野東京ラインなど無かったので、全部の電車が上野……ああっと、湘南新宿ラインはあったのか。ただ、池袋とか……新宿までも行ってたのかなぁ……?普通電車はそこまでですよ。あとはもしかしたら、JR日光線にも乗り入れていたかもしれません。あと栃木県内で言えば、両毛線とか……」
善場:「なるほど。当時としては一般的な電車だったというわけですね」
愛原:「そういうことです」
今でいうE231系みたいものだ。
善場:「分かりました。他に情報はありますか?」
愛原:「これは……多少オカルト話になるんですが、リサの通う高校には幽霊が棲んでましてですね……」
善場:「ああ。愛原所長も巻き込まれた、あの話ですか」
愛原:「そこに巣くうトイレの花子さんは生前、白井と同級生だったそうです。幽霊になって何十年も経ったことで、リサと同じく人間だった頃の記憶は薄れつつあるようです。が、もしかしたら、これもリサの影響なんですかね。1つ思い出したことがあるらしいんですよ。もちろん、白井のことで」
善場:「何ですか?」
愛原:「白井は天長会という宗教団体に入信していたようです」
善場:「天長会。旧約聖書の独自解釈を教祖が教え広めたことで、他のカソリック系教団から異端組織扱いされている教団です。また、信者の勧誘方法も比較的強引なので、度々警察が呼ばれるトラブルを起こしていることでも有名です。キリスト教版顕正会」
愛原:「そこに白井が入信しているという情報は既に握っていますか?」
善場:「いえ、そこまではまだです。ヴェルトロも日本支部では、旧約聖書にダンテの神曲を織り交ぜた独自の教義でもって活動していたと聞きます。もしかしたら、白井は宗教繋がりでヴェルトロに接近したのかもしれませんね」
愛原:「日本支部なんてあったんですか!」
善場:「元々地下組織化されていたようです。最近になって、その存在が明るみになってきました。愛原所長のその情報も、有効活用させて頂きます。天長会とヴェルトロの関係が洗えれば万々歳です」
愛原:「それにしても、科学的なこと以外は全く信用しなさそうなイメージの科学者が神を信じているなんて、何だか意外ですね」
善場:「そういったケースはよくありますよ。最近ですと、オウム真理教の幹部が理系のエリートだったのは有名です。そのスキルを利用してサリンやらVXガスを作ったことは有名ですね」
愛原:「あ、そうか」
後者は創価学会の池田会長に対しても使われたことで有名である。
善場:「早速、天長会と白井の関係について調べてみます。今日はありがとうございました」
愛原:「いえいえ。お役に立てて何よりです」
善場:「所長は明日からの連休、どうされるんですか?」
愛原:「斉藤社長から仕事の依頼がありまして、今度はその栃木に娘さんを連れて旅行の思い出を作らせてあげることになりますよ。ほら、前に行った八丈島の……今度は栃木ですね」
善場:「さすがに緊急事態宣言中とあらば、遠出はできないということですか」
愛原:「でしょうね」
距離的には今度行く栃木の方が近いのだが、遠いはずの八丈島の方が同じ東京都だという不思議。
愛原:「奇しくも那須塩原市内ですよ」
善場:「そうですか……」
愛原:「偶然でも何か分かったら連絡しますね」
善場:「……お願いします。私もゴールデンウィーク中はどこへも行けませんので、恐らくこの事務所にいる日の方が多いと思いますので」
愛原:「お土産、買って来ますね」
私は仕事とはいえ、旅行に行くことに多少の罪悪感を感じてしまった。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は善場主任の方から足労してくれた。
善場:「今日は貴重な情報を提供して下さり、ありがとうございます」
愛原:「リサが少し人間だった頃の記憶を取り戻しましたので、その分だけではありますが……」
この前のように、応接室で応対している。
高橋は、また襲撃者が現れては困るとばかりに、防弾チョッキと対バイオテロ用のマグナムを用意していた(当局の許可済み)。
善場:「結構です。教えてください」
私はリサがフラッシュバックを起こした部分を紹介した。
善場:「……なるほど。分かりました」
愛原:「少しずつ人間だった頃の記憶を取り戻していますね」
善場:「そしてそれはつまり、日本アンブレラ……引いては、白井の都合の悪い部分が蘇りつつあるということです。今のところはまだのようですね」
愛原:「最後のグレーの建物というのが気になります」
善場:「恐らくはアンブレラの研究所かもしれません。アンブレラは1987年に日本研究所を国内に数ヶ所建設しました。そのうちの1つが『北関東支所』で、栃木県にありましたから」
愛原:「でも、気になるのは駅名です。東那須野駅は1982年に那須塩原駅に改名されているんです。日本アンブレラが設立されたのは1984年ですね」
善場:「いえ、おかしくはないですよ」
愛原:「えっ?」
善場:「リサの本籍地は今も不明です。東那須野駅を訪れたのが、白井に連れ去られる前だとしたら、何らおかしくはないです」
愛原:「あ、そうか。施設に入る前の話かもしれないんだ」
そうだとしたら、リサには申し訳無いが、あまり役に立たない情報だったかもしれない。
善場:「この『115系』って何ですか?」
愛原:「ああ。当時、JR宇都宮線を走っていた3ドアの旧型電車のことです。東海道本線を走っていた湘南電車みたいな色をしていた電車ですよ。今はもう全廃されましたが」
東海道本線を走っていた車両は113系。
しかし塗り分けが違うだけで、素人目にはそれ以外の区別があまり付かなかったと思う(強いていえば手動式半自動ドアの機能が115系にはあったので、手動で開閉する為の取っ手がドアに付いていたことくらいか)。
愛原:「リサがフラッシュバックの中で現れたシーンは、東那須野駅のホームです。そこから降りたのか、それともたまたまホームにいたらやってきた電車だったのか分かりませんが、その時にこの115系らしき電車がいたということです」
善場:「フラッシュバックはカラーでしたか?それとも白黒でしたか?」
愛原:「そこまでは聞いていませんが……。ただ、白黒であったとしても、115系湘南色であることには変わらないと思いますよ」
善場:「確か、このようなタイプには、横須賀線で走っているような色もあったと思いますが……」
愛原:「いわゆる、『スカ色』ですね。でも、宇都宮線でスカ色の115系が運転されたことは恐らく無いはずなので……」
善場:「そうですか。このタイプの電車が運転されていたのは、どこからどこまでですか?」
愛原:「1980年代ですと、上野~黒磯間ですね。当時はまだ上野東京ラインなど無かったので、全部の電車が上野……ああっと、湘南新宿ラインはあったのか。ただ、池袋とか……新宿までも行ってたのかなぁ……?普通電車はそこまでですよ。あとはもしかしたら、JR日光線にも乗り入れていたかもしれません。あと栃木県内で言えば、両毛線とか……」
善場:「なるほど。当時としては一般的な電車だったというわけですね」
愛原:「そういうことです」
今でいうE231系みたいものだ。
善場:「分かりました。他に情報はありますか?」
愛原:「これは……多少オカルト話になるんですが、リサの通う高校には幽霊が棲んでましてですね……」
善場:「ああ。愛原所長も巻き込まれた、あの話ですか」
愛原:「そこに巣くうトイレの花子さんは生前、白井と同級生だったそうです。幽霊になって何十年も経ったことで、リサと同じく人間だった頃の記憶は薄れつつあるようです。が、もしかしたら、これもリサの影響なんですかね。1つ思い出したことがあるらしいんですよ。もちろん、白井のことで」
善場:「何ですか?」
愛原:「白井は天長会という宗教団体に入信していたようです」
善場:「天長会。旧約聖書の独自解釈を教祖が教え広めたことで、他のカソリック系教団から異端組織扱いされている教団です。また、信者の勧誘方法も比較的強引なので、度々警察が呼ばれるトラブルを起こしていることでも有名です。キリスト教版顕正会」
愛原:「そこに白井が入信しているという情報は既に握っていますか?」
善場:「いえ、そこまではまだです。ヴェルトロも日本支部では、旧約聖書にダンテの神曲を織り交ぜた独自の教義でもって活動していたと聞きます。もしかしたら、白井は宗教繋がりでヴェルトロに接近したのかもしれませんね」
愛原:「日本支部なんてあったんですか!」
善場:「元々地下組織化されていたようです。最近になって、その存在が明るみになってきました。愛原所長のその情報も、有効活用させて頂きます。天長会とヴェルトロの関係が洗えれば万々歳です」
愛原:「それにしても、科学的なこと以外は全く信用しなさそうなイメージの科学者が神を信じているなんて、何だか意外ですね」
善場:「そういったケースはよくありますよ。最近ですと、オウム真理教の幹部が理系のエリートだったのは有名です。そのスキルを利用してサリンやらVXガスを作ったことは有名ですね」
愛原:「あ、そうか」
後者は創価学会の池田会長に対しても使われたことで有名である。
善場:「早速、天長会と白井の関係について調べてみます。今日はありがとうございました」
愛原:「いえいえ。お役に立てて何よりです」
善場:「所長は明日からの連休、どうされるんですか?」
愛原:「斉藤社長から仕事の依頼がありまして、今度はその栃木に娘さんを連れて旅行の思い出を作らせてあげることになりますよ。ほら、前に行った八丈島の……今度は栃木ですね」
善場:「さすがに緊急事態宣言中とあらば、遠出はできないということですか」
愛原:「でしょうね」
距離的には今度行く栃木の方が近いのだが、遠いはずの八丈島の方が同じ東京都だという不思議。
愛原:「奇しくも那須塩原市内ですよ」
善場:「そうですか……」
愛原:「偶然でも何か分かったら連絡しますね」
善場:「……お願いします。私もゴールデンウィーク中はどこへも行けませんので、恐らくこの事務所にいる日の方が多いと思いますので」
愛原:「お土産、買って来ますね」
私は仕事とはいえ、旅行に行くことに多少の罪悪感を感じてしまった。