報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「襲撃者」

2021-05-18 20:14:30 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月17日15:35.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家→西武バス上落合八丁目バス停]

 昼食会が終わり、仕事の話も終わった後は斉藤家をあとにすることにした。

 斉藤秀樹:「申し訳ないですね。新庄がコロナに感染しなければ、愛原さん達をホテルまでお送りできましたのに……」
 愛原:「いえ、大丈夫ですよ。大宮駅近くのホテルですから、バスで行きます」
 リサ:「それじゃサイトー、また学校で」
 斉藤絵恋:「リサさんだけでも泊まってってよォ~」

 絵恋さんは半ば泣き顔で言った。

 リサ:「ムリ。善場さんからの命令」
 絵恋:「そんなぁ……」
 愛原:「あー……と。それじゃ、私達はこれで」
 秀樹:「気を付けてくださいね。来月の件、よろしくお願いします」
 愛原:「こちらこそ、よろしくお願いします。それじゃ、失礼します」

 私達は斉藤家をあとにすると、大宮駅に向かうバスに乗る為、バス停に向かった。
 県道沿いのバス停に行くと、時刻表は毎週土曜日に一本だけという、田舎のバスもびっくりの本数だった。
 いわゆる、免許維持路線というヤツである。
 廃止まで風前の灯といったところだが、西武バスが唯一大宮駅東口に乗り入れる路線の為、これを廃止してしまうと、そこへ乗り入れる権利を失ってしまうので残しているのだろう。
 そこでバスを待っていると、それは時刻表通りにやってきた。
 車体全部に渡ってラッピングをしているので、元の塗装が何なのか分からない。
 しかし、オレンジ色のLED表示器には、ちゃんと『大宮駅西口』と出ていた。
 免許維持路線なので中型バスで運行されるところだが、何故か大型バスがやってきた。
 それはちゃんとバス停に止まる。

〔「大宮駅西口行きです」〕

 中扉から乗ってICカードを読取機に当てる。
 意外にもバスには乗客が乗っていた。
 といっても、数人程度だが。
 私達は乗り込むと、1番後ろの席に座った。
 乗り込むと同時にバスが中扉を閉めて、走り出した。
 バスは最初の交差点の赤信号で止まる。
 不思議と車内放送は流れない。
 私はふと後ろを見た。

 愛原:「!?」

 先ほどのバス停に、もう1台のバスがやってきたのだ。
 そのバスはフルカラーLEDで、ちゃんと『大38』という系統番号を表示し、『中並木→大宮駅西口』という表示をしていた。
 このバスは、ただ単に『大宮駅西口』と表示していただけのような気がする。
 側面には主な経由地を表記する表示板があるが、あれにもただ単に『大宮駅西口』と書かれていただけだったような……?
 そして信号が青になり、バスが走り出した。
 次の瞬間、私は乗るバスを間違えたことに気づく。
 何故なら、バスは右車線に入ると、そのまま首都高速さいたま新都心線の新都心西入口に入ってしまったのである。

 愛原:「ちょ……!」

 私は驚いて席を立った。

 高橋:「先生?」
 愛原:「駅に行くのに、どうして首都高に入るんだ?!おかしいだろ!」
 高橋:「そ、そういえば……!」
 愛原:「乗るバスを間違えたようだ!」

 私は席を立って運転席に向かおうとした。
 だが、そのタイミングを待っていたかのように、他の乗客達も一斉に立ち上がった。
 その数は5人。
 20代から50代くらいの男達であるが、全員が手にハンドガンやショットガンを持っていた。

 男A:「おっと!走行中、席の移動はご遠慮くださいってマナーを知らねぇのか?愛原さんよ」
 愛原:「な、なに!?」

 他の男達はガスマスクを着けた。

 愛原:「ヴェルトロか!?」
 男A:「さあ、どうだろうな。おい、カーテンを閉めろ!」

 男Aが他の男達に命令する。
 どうやらこの男がリーダー格のようだ。
 他の男達は窓のカーテンを閉め始める。

 男A:「ああ。愛原さん達も、そこのカーテンを閉めてくれ」

 普通の路線バスにカーテンが付いてるのなんて珍しい。
 これはワンロマだ。
 ワンロマというのは、主に深夜急行バスのような中距離路線や、路線バスを格安で貸し切りたいという需要に応じて設計された路線バス車両のことである(大石寺登山バスにも高確率で運用される)。
 普通の路線バスと違うのは、まず座席数がそれより多いこと。
 それに対応する為、ツーステップまたはワンステップバスであることが多い。
 それと網棚が設置されていたり、座席が一般路線用よりもハイバックシートになっていたり、ジュースホルダーが付いていたり、そしてカーテンが付いていたりするものだ。
 あとはシートベルトもあったりする。

 愛原:「リサ。閉めてくれ」
 リサ:「うん……」

 リサは眉を潜めたままた私の指示に従った。

 男A:「よし。ちゃんと言う事を聞いてくれたら、危害を加えたりはしねぇからな。それと、スマホを貸してもらおうか。なぁに。壊したりはしねぇ。バッテリーを外すだけだ」
 愛原:「分かったよ」

 最近のバスジャックのベタな法則だな。
 乱暴なジャッカーだと壊したりするのだが、このグループはそこまでではないようだ。

 リサ:「どうしてスマホを渡すの?」
 愛原:「スマホの中にはGPSが入っている。それで俺達がどこにいるのか、捜査当局に気づかれないようにする為だよ」
 男A:「それもあるし、俺達の目を盗んでこっそり警察に通報したりするのを防ぐ為でもあるな」

 1番最後にガスマスクを被った男Aは、私達からスマホを没収した。
 そして予告通り、バッテリーを抜いて行く。

 男A:「これはバスが目的地に到着したら返してやるよ。それまでは俺が預かっておく」
 愛原:「分かったよ」
 男A:「それじゃ、さっき話した乗車マナーの続きだ。今は高速道路を走っている。バスの中では、高速に入ったらどうするんだっけ?」
 愛原:「『シートベルトを締めろ』だな」
 男A:「その通り。では、そうしてくれ」
 高橋:「けっ、だったらオメェらもしろってんだ」
 男A:「座ってるヤツはそうしてるよ。言われるまでもねぇ」
 高橋:「だったらオメェも座れよ」
 男A:「心配御無用。事故の時は自己責任だと思っている」
 高橋:「つまんねぇギャグ言いやがって」

 少なくともこのジャッカー達の特徴。
 メンバー達は、それぞれの役割を果たしている。
 恐らくこのバスの運転手も奴らの仲間だ。
 別の男が前扉後ろの席に座って、運転手と何かやり取りをしている。
 さすがに運転手は運転に集中しないといけないからか、ガスマスクは被っていない。
 リーダー格の男は口は悪いが、冷静な性格。
 高橋に悪態つかれてもキレることなく対応している。

 愛原:「これからどこへ行こうってんだ?このバスの行き先は『大宮駅西口』行きのはずだが?」
 男A:「残念だが、今は『貸切』の表示になってるよ。行き先不明のミステリーツアーだ。外の様子は絶対に見るなよ。ああ、でもおしゃべりくらいはしてていいぜ。こっちも色々とやることがあるからよ」
 男B:「サーセン、ちょっといいっスか?」
 男A:「何だ?」

 私達を直接見張っていた男Aが、恐らく高橋並みに若い男Bに何か言われて運転席の方に向かった。
 代わりに別の男がハンドガンを私達に向けた。

 リサ:「先生、どうするの?」
 愛原:「今のところは、言う事を聞いておいた方がいいだろうな」

 私はリサの服装に注目した。
 リサは学校の制服を着ている。
 この男達は1つ見落としている。
 そしてこの1点が、いま私達には非常に有利となっているのだ。
 私達が気を付けるべき点は、リサの制服に隠された仕掛けを奴らに気づかれないようにすることだ。

 高橋:「先生、奴らバカですよ」
 愛原:「高橋……!」
 高橋:「いくら横の窓を塞いだところで、フロントガラスは丸見えっスよ?」
 愛原:「そりゃそうだろ!フロントガラスまで隠したら運転できねーべや」
 高橋:「でもおかげで、この位置からも少しは前が見えるんですよ」
 愛原:「ああ、まあ、そうだな」
 高橋:「今、埼玉大宮線の上り線を走行中です。このまま都内に行くんじゃないスかね」
 愛原:「そうなのか。この分だと、せっかくのホテルはキャンセルだな」

 私は肩を竦めた。
 男Aにおしゃべりはしていいと言われたので、お言葉に甘えているだけだ。
 あとはリサの制服に仕掛けられたあるモノが作動して、BSAAが出動するのを待つだけだ。
コメント (1)
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家の昼食会」

2021-05-18 11:16:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月17日12:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区上落合 斉藤家]

 上落合公園前バス停でバスを降りると、その足で斉藤家に向かった。
 門扉のインターホンを押すと、メイドさんや斉藤絵恋さんが変わらぬ対応で出迎えてくれた。

 斉藤絵恋:「一緒に学校行けなくて寂しかったのよォぉぉぉ……!」
 リサ:「う、うん。それはまあ……その……襲撃者に文句言ってくれる?」
 メイド(オパール):「それでは愛原様、ダイニングへご案内させて頂きます」

 前回は食事会の前に社長と話す機会があったが、今回は先に昼食会のようだ。

 斉藤秀樹:「やあ、愛原さん。今日も来てくれましたか」
 愛原:「仕事の御依頼とあらば、日本全国どこへでも馳せ参じますよ?」
 秀樹:「それは頼もしい!では早速……と言いたいところですが、お腹が空いているコか若干1名いらっしゃるようですので、先に昼食と行きますか」

 私は咄嗟にリサを見た。

 リサ:「に、肉の焼ける匂い……!」
 高橋:「リサのマスクがまた涎で使えなくなってるので、交換していいっスか?」
 愛原:「やっぱり……」

 普段の斉藤家の食事がどんなものなのかは知らないが、このように来客がある場合は、コース料理になるようだ。
 前回のスープはビーフ&オニオンコンソメスープだったが、今回はクラムチャウダーだった。
 魚料理メインかなと思ったが、フルコースにはある魚料理は無くて、ちゃんとメインディッシュとして肉料理が出て来た。
 但し、前回のフルコースが牛肉だったのに対し、今回は鶏肉である。
 鶏の一枚肉を使ったグリルで、チーズソースが掛かっていた。

 リサ:「んー、イけるぅ!」
 絵恋:「これも美味しいわよ」
 高橋:「味と盛り付けの趣味が違うな。おい、今日のコック担当はパールじゃねーだろ?」
 メイド(ルビー):「はい。本日はジェイドでございます」

 ジェイドとは翡翠のことだ。
 ここのメイドさん達は、コードネームというか、源氏名というか、とにかくそれぞれに宝石の名前を付けて呼び合っている。
 基本的に本名に因んだ宝石名らしい。
 例えば霧崎真珠さんは、正に本名通り、メイドネームも『パール』となった。

[同日13:30.天候:晴 同地区内 斉藤家]

 昼食会が終わると、私と高橋は、斉藤社長と共に応接間へと移動した。
 リサは絵恋さんと一緒に地下の運動室へ。
 食後の運動と称してプールにでも入るのだろうか。
 それとも、ランニングマシンでも使うか。
 いずれにせよ、リサもどちらかというと体は動かしたいタイプなので、食後の運動は良い発散になるだろう。

 愛原:「美味しい昼食でした。ごちそうさまでした」
 秀樹:「ご満足頂けたようで何よりです。コロナ禍で来客も減りましたからね。メイド達も接客や料理の腕を振るう良い機会となったようです」
 愛原:「それで社長。お仕事の御依頼とは?」
 秀樹:「ゴールデンウィーク、私共は温泉地へ向かうつもりです。愛原さん方には、是非とも同行をお願いしたいのです」
 愛原:「わ、分かりました。そのようなことでよろしれば……」

 つまり、斉藤家の護衛か。
 警備会社の仕事であって、探偵の仕事ではないと思う。
 が、斉藤社長に対してそれは愚問である。

 愛原:「詳しいお話をお伺いできますか?」
 秀樹:「秘密事項にも触れるので、現時点で全てをお話しすることはできませんが……」

 という前置きがあって、私は斉藤社長から話を聞いた。
 それは、斉藤社長もまた襲撃者達から狙われており、その対策としての内容だった。

 秀樹:「愛原さんの事務所が襲撃を受けたという話を伺い、私もうかうかしてはいられないなと思いまして……」
 愛原:「それは理解できます。この御自宅は安全なのですか?」
 秀樹:「一応、セコムは入れています。しかし、愛原さん達の事務所の襲撃者と同じ装備で来られたら、民間の警備会社では太刀打ちできないでしょうな」

 確かに、この家の門扉やら玄関やら、これでもかといった具合にセコムの赤いステッカーが貼られまくっている。

 秀樹:「しかし、今は襲撃される恐れは小さいでしょう。今は」
 愛原:「と、仰いますと?」
 秀樹:「愛原さんも御存知の通り、近所は高所得者ばかりです。そういう人達は、例えコロナ禍でもゴールデンウィークは自宅に留まるとお思いですか?」
 愛原:「た、多分、上級国民の皆様方はコロナ疎開されると思います」

 何しろ官僚やら政治家やらは、あれだけ国民にステイホームを呼び掛けてる割には会食とかやってるしなぁ……。

 秀樹:「はい。試しに私も御近所の皆様方にゴールデンウィークの予定を聞いてみたのですが、ステイホームされる方は【お察しください】」
 愛原:「な、なるほど」
 秀樹:「何が言えるのかと言いますと、ゴールデンウィーク中はこの家が襲われたとしても、御近所の目が無いということです。御近所の中には、敷地内や玄関に向かって防犯カメラを仕掛けている所もありますが、当然ながらこの家が映っているわけもなく……」

 そんなことしたらプライバシーの侵害で訴えられる。
 本物の上級国民様は、そのようなヘマはなさらないだろう。
 世間を騒がせ、中・下級国民からの反発を招いているのは、エセ上級国民だ。

 愛原:「ですよねぇ。一応、この家にもカメラはあるようですね?」
 秀樹:「ええ、一応……。ですが、それだけで襲撃者達に対する抑止効果になるかというと……少々疑問ですね」
 愛原:「確かに。少なくとも、うちの事務所を狙った奴らは警察の目は気にしているようでした。もしも社長を狙っているのがそれと同じ輩共だとしたら、やはり警察に通報されるのを一番嫌うでしょうな」

 実際の実行犯にあっては、直接組織とは関係の無い人間をカネで雇って使うのだろう。
 しかし、それでも背後関係などを洗われた際に組織のことがバレる恐れはある。
 組織はそれを恐れているのだろう。
 1番いいのは、その実行犯が警察に捕まらないことだ。

 秀樹:「こちらにも色々と考えがあります。愛原さん達にあっては、それに協力して頂きたいのです」
 愛原:「分かりました。そういうことでしたら、お任せください」

 私は自分の胸を叩いて大きく頷いた。
 斉藤社長の依頼は、自分達の護衛。
 御近所がゴールデンウィーク中コロナ疎開する為、斉藤家もその期間中は別の意味で疎開しなくてはならない。
 その護衛というわけだ。
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