[4月17日15:35.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家→西武バス上落合八丁目バス停]
昼食会が終わり、仕事の話も終わった後は斉藤家をあとにすることにした。
斉藤秀樹:「申し訳ないですね。新庄がコロナに感染しなければ、愛原さん達をホテルまでお送りできましたのに……」
愛原:「いえ、大丈夫ですよ。大宮駅近くのホテルですから、バスで行きます」
リサ:「それじゃサイトー、また学校で」
斉藤絵恋:「リサさんだけでも泊まってってよォ~」
絵恋さんは半ば泣き顔で言った。
リサ:「ムリ。善場さんからの命令」
絵恋:「そんなぁ……」
愛原:「あー……と。それじゃ、私達はこれで」
秀樹:「気を付けてくださいね。来月の件、よろしくお願いします」
愛原:「こちらこそ、よろしくお願いします。それじゃ、失礼します」
私達は斉藤家をあとにすると、大宮駅に向かうバスに乗る為、バス停に向かった。
県道沿いのバス停に行くと、時刻表は毎週土曜日に一本だけという、田舎のバスもびっくりの本数だった。
いわゆる、免許維持路線というヤツである。
廃止まで風前の灯といったところだが、西武バスが唯一大宮駅東口に乗り入れる路線の為、これを廃止してしまうと、そこへ乗り入れる権利を失ってしまうので残しているのだろう。
そこでバスを待っていると、それは時刻表通りにやってきた。
車体全部に渡ってラッピングをしているので、元の塗装が何なのか分からない。
しかし、オレンジ色のLED表示器には、ちゃんと『大宮駅西口』と出ていた。
免許維持路線なので中型バスで運行されるところだが、何故か大型バスがやってきた。
それはちゃんとバス停に止まる。
〔「大宮駅西口行きです」〕
中扉から乗ってICカードを読取機に当てる。
意外にもバスには乗客が乗っていた。
といっても、数人程度だが。
私達は乗り込むと、1番後ろの席に座った。
乗り込むと同時にバスが中扉を閉めて、走り出した。
バスは最初の交差点の赤信号で止まる。
不思議と車内放送は流れない。
私はふと後ろを見た。
愛原:「!?」
先ほどのバス停に、もう1台のバスがやってきたのだ。
そのバスはフルカラーLEDで、ちゃんと『大38』という系統番号を表示し、『中並木→大宮駅西口』という表示をしていた。
このバスは、ただ単に『大宮駅西口』と表示していただけのような気がする。
側面には主な経由地を表記する表示板があるが、あれにもただ単に『大宮駅西口』と書かれていただけだったような……?
そして信号が青になり、バスが走り出した。
次の瞬間、私は乗るバスを間違えたことに気づく。
何故なら、バスは右車線に入ると、そのまま首都高速さいたま新都心線の新都心西入口に入ってしまったのである。
愛原:「ちょ……!」
私は驚いて席を立った。
高橋:「先生?」
愛原:「駅に行くのに、どうして首都高に入るんだ?!おかしいだろ!」
高橋:「そ、そういえば……!」
愛原:「乗るバスを間違えたようだ!」
私は席を立って運転席に向かおうとした。
だが、そのタイミングを待っていたかのように、他の乗客達も一斉に立ち上がった。
その数は5人。
20代から50代くらいの男達であるが、全員が手にハンドガンやショットガンを持っていた。
男A:「おっと!走行中、席の移動はご遠慮くださいってマナーを知らねぇのか?愛原さんよ」
愛原:「な、なに!?」
他の男達はガスマスクを着けた。
愛原:「ヴェルトロか!?」
男A:「さあ、どうだろうな。おい、カーテンを閉めろ!」
男Aが他の男達に命令する。
どうやらこの男がリーダー格のようだ。
他の男達は窓のカーテンを閉め始める。
男A:「ああ。愛原さん達も、そこのカーテンを閉めてくれ」
普通の路線バスにカーテンが付いてるのなんて珍しい。
これはワンロマだ。
ワンロマというのは、主に深夜急行バスのような中距離路線や、路線バスを格安で貸し切りたいという需要に応じて設計された路線バス車両のことである(大石寺登山バスにも高確率で運用される)。
普通の路線バスと違うのは、まず座席数がそれより多いこと。
それに対応する為、ツーステップまたはワンステップバスであることが多い。
それと網棚が設置されていたり、座席が一般路線用よりもハイバックシートになっていたり、ジュースホルダーが付いていたり、そしてカーテンが付いていたりするものだ。
あとはシートベルトもあったりする。
愛原:「リサ。閉めてくれ」
リサ:「うん……」
リサは眉を潜めたままた私の指示に従った。
男A:「よし。ちゃんと言う事を聞いてくれたら、危害を加えたりはしねぇからな。それと、スマホを貸してもらおうか。なぁに。壊したりはしねぇ。バッテリーを外すだけだ」
愛原:「分かったよ」
最近のバスジャックのベタな法則だな。
乱暴なジャッカーだと壊したりするのだが、このグループはそこまでではないようだ。
リサ:「どうしてスマホを渡すの?」
愛原:「スマホの中にはGPSが入っている。それで俺達がどこにいるのか、捜査当局に気づかれないようにする為だよ」
男A:「それもあるし、俺達の目を盗んでこっそり警察に通報したりするのを防ぐ為でもあるな」
1番最後にガスマスクを被った男Aは、私達からスマホを没収した。
そして予告通り、バッテリーを抜いて行く。
男A:「これはバスが目的地に到着したら返してやるよ。それまでは俺が預かっておく」
愛原:「分かったよ」
男A:「それじゃ、さっき話した乗車マナーの続きだ。今は高速道路を走っている。バスの中では、高速に入ったらどうするんだっけ?」
愛原:「『シートベルトを締めろ』だな」
男A:「その通り。では、そうしてくれ」
高橋:「けっ、だったらオメェらもしろってんだ」
男A:「座ってるヤツはそうしてるよ。言われるまでもねぇ」
高橋:「だったらオメェも座れよ」
男A:「心配御無用。事故の時は自己責任だと思っている」
高橋:「つまんねぇギャグ言いやがって」
少なくともこのジャッカー達の特徴。
メンバー達は、それぞれの役割を果たしている。
恐らくこのバスの運転手も奴らの仲間だ。
別の男が前扉後ろの席に座って、運転手と何かやり取りをしている。
さすがに運転手は運転に集中しないといけないからか、ガスマスクは被っていない。
リーダー格の男は口は悪いが、冷静な性格。
高橋に悪態つかれてもキレることなく対応している。
愛原:「これからどこへ行こうってんだ?このバスの行き先は『大宮駅西口』行きのはずだが?」
男A:「残念だが、今は『貸切』の表示になってるよ。行き先不明のミステリーツアーだ。外の様子は絶対に見るなよ。ああ、でもおしゃべりくらいはしてていいぜ。こっちも色々とやることがあるからよ」
男B:「サーセン、ちょっといいっスか?」
男A:「何だ?」
私達を直接見張っていた男Aが、恐らく高橋並みに若い男Bに何か言われて運転席の方に向かった。
代わりに別の男がハンドガンを私達に向けた。
リサ:「先生、どうするの?」
愛原:「今のところは、言う事を聞いておいた方がいいだろうな」
私はリサの服装に注目した。
リサは学校の制服を着ている。
この男達は1つ見落としている。
そしてこの1点が、いま私達には非常に有利となっているのだ。
私達が気を付けるべき点は、リサの制服に隠された仕掛けを奴らに気づかれないようにすることだ。
高橋:「先生、奴らバカですよ」
愛原:「高橋……!」
高橋:「いくら横の窓を塞いだところで、フロントガラスは丸見えっスよ?」
愛原:「そりゃそうだろ!フロントガラスまで隠したら運転できねーべや」
高橋:「でもおかげで、この位置からも少しは前が見えるんですよ」
愛原:「ああ、まあ、そうだな」
高橋:「今、埼玉大宮線の上り線を走行中です。このまま都内に行くんじゃないスかね」
愛原:「そうなのか。この分だと、せっかくのホテルはキャンセルだな」
私は肩を竦めた。
男Aにおしゃべりはしていいと言われたので、お言葉に甘えているだけだ。
あとはリサの制服に仕掛けられたあるモノが作動して、BSAAが出動するのを待つだけだ。
昼食会が終わり、仕事の話も終わった後は斉藤家をあとにすることにした。
斉藤秀樹:「申し訳ないですね。新庄がコロナに感染しなければ、愛原さん達をホテルまでお送りできましたのに……」
愛原:「いえ、大丈夫ですよ。大宮駅近くのホテルですから、バスで行きます」
リサ:「それじゃサイトー、また学校で」
斉藤絵恋:「リサさんだけでも泊まってってよォ~」
絵恋さんは半ば泣き顔で言った。
リサ:「ムリ。善場さんからの命令」
絵恋:「そんなぁ……」
愛原:「あー……と。それじゃ、私達はこれで」
秀樹:「気を付けてくださいね。来月の件、よろしくお願いします」
愛原:「こちらこそ、よろしくお願いします。それじゃ、失礼します」
私達は斉藤家をあとにすると、大宮駅に向かうバスに乗る為、バス停に向かった。
県道沿いのバス停に行くと、時刻表は毎週土曜日に一本だけという、田舎のバスもびっくりの本数だった。
いわゆる、免許維持路線というヤツである。
廃止まで風前の灯といったところだが、西武バスが唯一大宮駅東口に乗り入れる路線の為、これを廃止してしまうと、そこへ乗り入れる権利を失ってしまうので残しているのだろう。
そこでバスを待っていると、それは時刻表通りにやってきた。
車体全部に渡ってラッピングをしているので、元の塗装が何なのか分からない。
しかし、オレンジ色のLED表示器には、ちゃんと『大宮駅西口』と出ていた。
免許維持路線なので中型バスで運行されるところだが、何故か大型バスがやってきた。
それはちゃんとバス停に止まる。
〔「大宮駅西口行きです」〕
中扉から乗ってICカードを読取機に当てる。
意外にもバスには乗客が乗っていた。
といっても、数人程度だが。
私達は乗り込むと、1番後ろの席に座った。
乗り込むと同時にバスが中扉を閉めて、走り出した。
バスは最初の交差点の赤信号で止まる。
不思議と車内放送は流れない。
私はふと後ろを見た。
愛原:「!?」
先ほどのバス停に、もう1台のバスがやってきたのだ。
そのバスはフルカラーLEDで、ちゃんと『大38』という系統番号を表示し、『中並木→大宮駅西口』という表示をしていた。
このバスは、ただ単に『大宮駅西口』と表示していただけのような気がする。
側面には主な経由地を表記する表示板があるが、あれにもただ単に『大宮駅西口』と書かれていただけだったような……?
そして信号が青になり、バスが走り出した。
次の瞬間、私は乗るバスを間違えたことに気づく。
何故なら、バスは右車線に入ると、そのまま首都高速さいたま新都心線の新都心西入口に入ってしまったのである。
愛原:「ちょ……!」
私は驚いて席を立った。
高橋:「先生?」
愛原:「駅に行くのに、どうして首都高に入るんだ?!おかしいだろ!」
高橋:「そ、そういえば……!」
愛原:「乗るバスを間違えたようだ!」
私は席を立って運転席に向かおうとした。
だが、そのタイミングを待っていたかのように、他の乗客達も一斉に立ち上がった。
その数は5人。
20代から50代くらいの男達であるが、全員が手にハンドガンやショットガンを持っていた。
男A:「おっと!走行中、席の移動はご遠慮くださいってマナーを知らねぇのか?愛原さんよ」
愛原:「な、なに!?」
他の男達はガスマスクを着けた。
愛原:「ヴェルトロか!?」
男A:「さあ、どうだろうな。おい、カーテンを閉めろ!」
男Aが他の男達に命令する。
どうやらこの男がリーダー格のようだ。
他の男達は窓のカーテンを閉め始める。
男A:「ああ。愛原さん達も、そこのカーテンを閉めてくれ」
普通の路線バスにカーテンが付いてるのなんて珍しい。
これはワンロマだ。
ワンロマというのは、主に深夜急行バスのような中距離路線や、路線バスを格安で貸し切りたいという需要に応じて設計された路線バス車両のことである(大石寺登山バスにも高確率で運用される)。
普通の路線バスと違うのは、まず座席数がそれより多いこと。
それに対応する為、ツーステップまたはワンステップバスであることが多い。
それと網棚が設置されていたり、座席が一般路線用よりもハイバックシートになっていたり、ジュースホルダーが付いていたり、そしてカーテンが付いていたりするものだ。
あとはシートベルトもあったりする。
愛原:「リサ。閉めてくれ」
リサ:「うん……」
リサは眉を潜めたままた私の指示に従った。
男A:「よし。ちゃんと言う事を聞いてくれたら、危害を加えたりはしねぇからな。それと、スマホを貸してもらおうか。なぁに。壊したりはしねぇ。バッテリーを外すだけだ」
愛原:「分かったよ」
最近のバスジャックのベタな法則だな。
乱暴なジャッカーだと壊したりするのだが、このグループはそこまでではないようだ。
リサ:「どうしてスマホを渡すの?」
愛原:「スマホの中にはGPSが入っている。それで俺達がどこにいるのか、捜査当局に気づかれないようにする為だよ」
男A:「それもあるし、俺達の目を盗んでこっそり警察に通報したりするのを防ぐ為でもあるな」
1番最後にガスマスクを被った男Aは、私達からスマホを没収した。
そして予告通り、バッテリーを抜いて行く。
男A:「これはバスが目的地に到着したら返してやるよ。それまでは俺が預かっておく」
愛原:「分かったよ」
男A:「それじゃ、さっき話した乗車マナーの続きだ。今は高速道路を走っている。バスの中では、高速に入ったらどうするんだっけ?」
愛原:「『シートベルトを締めろ』だな」
男A:「その通り。では、そうしてくれ」
高橋:「けっ、だったらオメェらもしろってんだ」
男A:「座ってるヤツはそうしてるよ。言われるまでもねぇ」
高橋:「だったらオメェも座れよ」
男A:「心配御無用。事故の時は自己責任だと思っている」
高橋:「つまんねぇギャグ言いやがって」
少なくともこのジャッカー達の特徴。
メンバー達は、それぞれの役割を果たしている。
恐らくこのバスの運転手も奴らの仲間だ。
別の男が前扉後ろの席に座って、運転手と何かやり取りをしている。
さすがに運転手は運転に集中しないといけないからか、ガスマスクは被っていない。
リーダー格の男は口は悪いが、冷静な性格。
高橋に悪態つかれてもキレることなく対応している。
愛原:「これからどこへ行こうってんだ?このバスの行き先は『大宮駅西口』行きのはずだが?」
男A:「残念だが、今は『貸切』の表示になってるよ。行き先不明のミステリーツアーだ。外の様子は絶対に見るなよ。ああ、でもおしゃべりくらいはしてていいぜ。こっちも色々とやることがあるからよ」
男B:「サーセン、ちょっといいっスか?」
男A:「何だ?」
私達を直接見張っていた男Aが、恐らく高橋並みに若い男Bに何か言われて運転席の方に向かった。
代わりに別の男がハンドガンを私達に向けた。
リサ:「先生、どうするの?」
愛原:「今のところは、言う事を聞いておいた方がいいだろうな」
私はリサの服装に注目した。
リサは学校の制服を着ている。
この男達は1つ見落としている。
そしてこの1点が、いま私達には非常に有利となっているのだ。
私達が気を付けるべき点は、リサの制服に隠された仕掛けを奴らに気づかれないようにすることだ。
高橋:「先生、奴らバカですよ」
愛原:「高橋……!」
高橋:「いくら横の窓を塞いだところで、フロントガラスは丸見えっスよ?」
愛原:「そりゃそうだろ!フロントガラスまで隠したら運転できねーべや」
高橋:「でもおかげで、この位置からも少しは前が見えるんですよ」
愛原:「ああ、まあ、そうだな」
高橋:「今、埼玉大宮線の上り線を走行中です。このまま都内に行くんじゃないスかね」
愛原:「そうなのか。この分だと、せっかくのホテルはキャンセルだな」
私は肩を竦めた。
男Aにおしゃべりはしていいと言われたので、お言葉に甘えているだけだ。
あとはリサの制服に仕掛けられたあるモノが作動して、BSAAが出動するのを待つだけだ。