報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「避難生活の終わり」 2

2021-05-17 20:51:59 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月17日11:42.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

〔まもなく大宮、大宮。お出口は、右側です。新幹線、高崎線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注意ください〕

 さいたま新都心駅を出た電車は下車駅に近づいた。

〔「まもなく大宮、大宮です。9番線に入ります。お出口は、右側です。この電車は、宇都宮線の普通列車、宇都宮行きです。終点、宇都宮まで各駅に停車致します。……」〕

 愛原:「降りる準備するか」

 私は席を立った。
 着替えなどを持って来ている為、いつもより大きなバッグを私達は持っている。
 その為、荷物は網棚の上に置いていた。
 それを取る為だ。
 しかしこの時、私はすっかり忘れていた。
 この電車は高崎線ではなく、宇都宮線であることを。
 宇都宮線で上野東京ラインからやってくる電車は、必ず9番線に入ることを。
 そしてその9番線は、大宮駅の線路配置図的に副線になることを。
 そして更に、浦和駅やさいたま新都心駅で駆け込み乗車があったことを。
 ここまで書けば、宇都宮線ユーザーならもう分かるだろう。
 場内信号を過ぎた後、ホームに差し掛かる手前のポイントを速度制限ギリギリで通過するのである。
 “電車でGo!”をプレイしたことのある人なら分かるだろう。
 ダイヤがギリギリだというのに、速度制限のキツいポイントなんかが現れて、ついつい速度オーバーして減点を食らってしまう経験を。


 愛原:「よいしょっと」

 私はヒョイと網棚から荷物を下ろそうとした。
 私は背が低いので、背伸びする形になる。

〔「……尚、ポイント通過の為、電車が大きく揺れることがあります。お立ちのお客様は、十分ご注意ください」〕

 ガクン!

 愛原:「おっと!」

 私はバランスを崩し、危うく倒れ込みそうになった。
 で、どこかに掴まろうかと手を伸ばしたのだが、その先にあったのは、同じく立ち上がったリサの胸。

 リサ:「!?」

 まだ幼さを残す胸の双丘の感触が確かに伝わる。

 愛原:「り、リサ!?ち、ちち、違うんだ!」
 リサ:「先生……。やっぱり先生、私とシたいんだぁ……」( ̄▽ ̄)

 リサはニタリと笑った。
 マスクで隠れているが、絶対その口には牙が覗いていたことだろう。

 愛原:「今のは不可抗力だ!」
 高橋:「先生、俺の胸も触ってください!」
 愛原:「アホか!」

 そして、電車が停車する。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。9番線の電車は11時42分発、宇都宮線、普通列車、宇都宮行きです。終点の宇都宮まで各駅に止まります。……」〕

 ドアが開くと、私はさっさと降りた。

 リサ:「先生、今度のホテルは部屋一緒でいいからね?」
 愛原:「だからダメだって」
 高橋:「バカ野郎。先生と同じ部屋に泊まるのはこの俺だ!」
 愛原:「いや、だからね、さっきのは電車が大きく揺れた故の不可抗力であって、別にワザと触ったわけじゃ……」
 リサ:「私は別にワザとでもいいんだよ。私は先生のお嫁さん第一候補なんだから」
 高橋:「バカ野郎。それはこの俺だ!」
 愛原:「2人とも、無茶言うなっての」

 とはいうものの、法律上、結婚OKなのは同性の高橋ではなく、BOWながら一応戸籍は持ってるリサなんだよなぁ……。
 いや、リサはまだ15歳だからNGなんだけど、あと数ヶ月経ったらね。
 それにしても、リサも大きくなったなぁ……。
 いや、胸だけじゃなくて。
 体は明らかに出会った時より大きくなった。
 背も伸びたし、肉付きも良くなったし。
 まあ、あれだけガツガツ食べればそりゃそうか。
 最終的には善場主任のような、大人の女性になるんだろうな。

 愛原:「は、早くバス停に行くぞ」
 リサ:「ちょっと待って」
 愛原:「な、何だ!?」
 リサ:「ちょっとトイレ。先生に胸掴まれたせいで、ブラがズレたから直してくる」
 愛原:「わ、悪かったよ。バスは12時ちょうど発だから急いでくれよ」
 リサ:「りょーかい」

 リサは急ぎ足でトイレに向かった。

 高橋:「あいつ、こういう時に限ってスポブラじゃないんスね。スポブラならズレないのに」
 愛原:「そのようだな。まあ、リサは運動部に入ってるわけじゃないし、今日・明日は体育の授業があるわけじゃないから、普通のブラなんだろう」

 出会った頃はまだブラを着ける歳でもなかったのにな。
 どうしても私には、リサを『娘』のように見てしまう。
 リサの本当の生年月日としては、私よりも一回り以上年上なのだが……。

[同日12:00.天候:晴 JR大宮駅西口→丸建つばさ交通『大宮西口循環線』車内]

 駅の外に出て、ロータリー内のバスプールではなく、一方通行の路地に向かう。
 ソフマップの入っているビルの前だ。
 そこにもバス停のポールが立っており、その横に1台の小型バスが停車していた。
 そのバスに乗り込む。
 この路線バスは新規参入ということもあってか、ICカードは使えない。
 乗り込むと、前扉のすぐ後ろの1人席に老人が、運転席の後ろの席に老婆が1人乗っているだけだった。
 運転席真後ろの席は、コロナ対策の為に折り畳まれて使用不可になっている。
 私達は1番後ろの席に座った。

 愛原:「ここはニコニコ現金払いだ」
 高橋:「了解です」

 時間になるとバスはエンジンが掛かり、外吊り式の前扉が閉まった。

〔「発車します。ご注意ください」〕

 そして、バスが走り出す。

〔ピンポーン♪ お待たせ致しました。毎度ご乗車ありがとうございます。このバスは与野本町先回り、大宮西口循環線でございます。次はあおぞら保育園、あおぞら保育園でございます。天理教本駿河台分教会へおいでの方は、三橋3丁目でお降りください〕

 リサ:「!」

 バスが丁字路交差点に差し掛かる。
 その時、進行方向左側の窓側に座っていたリサが、その交差点角にある“いきなりステーキ”に目が行った。

 リサ:「お、美味しそう……!」

 満面の笑みを浮かべてブロック肉を切るあの人物ではなく、リサはそのブロック肉を見て目を輝かせた。

 愛原:「まあ多分、今ここで食欲を全開にしなくても、昼食会で何がしかの肉料理は出て来ると思うぞ」

 隣に座る私は、リサの右肩に手を置いて言った。
 場合によってはこれもセクハラになるらしいが、リサは全く気にしていない。

 高橋:「激しく同意。略して禿同です」

 は、早く左折してくれ!
 リサが食欲だけで第1形態に変化してしまう!
 信号機の無い丁字路交差点では、バスが左折するのに苦労するようだが、何とか左折できた。

 愛原:「そ、それより絵恋さんにLINEしなくていいのか?」
 リサ:「あ、忘れてた。今、バスで向かってるってLINEしなくちゃ」
 愛原:「そうだろそうだろ」

 リサはスマホを取り出した。
 今度はブレザーのポケットに入れているので、片足を上げなくて良かった。
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“私立探偵 愛原学” 「避難生活の終わり」

2021-05-17 16:18:41 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月17日11:00.天候:晴 東京都台東区上野 ホテルサンルート“ステラ”上野→JR上野駅→宇都宮線1578E列車15号車内]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 何軒か目のホテルをチェックアウトすると、私達は上野駅に向かった。
 今のところ、事務所もマンションもホテルも襲撃されたことは無い。
 このまま何も無ければ、あと一泊した所で避難生活は解除される。
 今回のホテルは11時まで滞在可能だったので、ギリギリまでいた。
 ホテルの中が安全なのはもちろん、斉藤家に昼頃に着くようにする為、時間調整が必要だったからである。

 高橋:「今のところ、何も無かったですね」
 愛原:「ああ。このまま行ってもらいたいよ」

 私達は上野駅の中に入ると、改札口を通ってコンコースに入った。

 愛原:「宇都宮線で行くといいかな……」

 私は発車標を見ながら言った。
 今春のダイヤ改正で、上野始発の電車が殆ど無くなった。
 昼間に関しては宇都宮線・高崎線共に上野始発の電車が無くなった。
 時刻表で見れば、上野始発が無くなった分、減便されたことになるだろう。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の5番線の列車は、11時15分発、普通、宇都宮行きです。この列車は、15両です。グリーン車が付いております。……〕

 BSAAとの協定に基づき、先頭の15号車が停車する位置へと向かう。
 この列車も、かつては小金井止まりだったという。
 恐らくこの時間帯に発車していた上野始発の宇都宮行きが廃止になったので、その分、上野東京ラインの電車を宇都宮まで延長運転させているのだろう。
 尚、朝夕のラッシュ時には上野始発が復活するので、それまで上野始発の電車を狙って着席帰宅していた乗客が干されるということは無いようだ。
 多分、JR東日本は上野始発は全部廃止にしたいんだろうなぁ……。

〔まもなく5番線に、普通、宇都宮行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は、15両です。グリーン車が付いております。……〕

 リサは制服を着ている。
 ホテル⇔学校という往復生活を余儀なくされていた為、着替えるのが面倒になったのかもしれない。
 あるいは今日は斉藤家に行くから、スーツを着ている私の真似をしているのか。

〔「5番線、ご注意ください。11時15分発、宇都宮線の普通列車、宇都宮行き、長い15両編成で参ります」〕

 昼間でも眩いHIDの真っ白なヘッドランプを灯して、電車が到着した。
 ダイヤ設定上は『汽車(列車)』扱いらしいが、車両形式は『電車』たる京浜東北線のそれと変わらない。

〔うえの~、上野~。ご乗車、ありがとうございます。次は、尾久に止まります〕

 上野東京ラインが開通する前までは、東京駅での乗り換えを余儀無くされていたであろう乗客達がぞろぞろと降りて来た。
 そして、上野駅からは逆に東海道本線へと向かう乗客達がぞろぞろと乗り込むのである。
 この時間帯、上野駅からの乗車客は少ないようだ。
 ましてや、宇都宮線は高崎線よりも空いている傾向がある。
 何が言いたいかというと、ボックスシートに座れたということだ。

 

〔この電車は宇都宮線、普通電車、宇都宮行きです〕

 席順は前に乗った時と同じ。
 進行方向窓側にリサが座り、リサの前に私が座り、リサの隣に高橋が座るというもの。
 地方の車両のボックスシートよりは狭い。
 たった1分の停車時間で、ホームからは発車メロディが聞こえて来た。

〔5番線の宇都宮線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車を、ご利用ください〕

 都営新宿線の都営車両と同じ音色のドアチャイムが車内に響き、ドアが閉まる。
 通勤電車のホームと違い、ホームドアが無いので、車両のドアが全部ちゃんと閉まれば発車する。
 電車は静かに発車した。
 通勤電車なら迷わずスーッと発車するのに対し、中距離電車だと、まるで少し勿体ぶるかのような走り出し方だ。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は宇都宮線、普通電車、宇都宮行きです。グリーン車は、4号車と5号車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、尾久です〕

 リサ:「そうだ。サイトーにLINEしておこう」

 リサはスカートのポケットに入れていたスマホを取り出そうした。
 その際、スマホを入れていた側のポケットがある右足を少し上げた。
 中等部の時よりスカートの裾が短いせいか、太ももの内側まで見えそうになる。
 御嬢様である斉藤絵恋さんもそうしているところを見ると、やはり時代が変わっても流行りなのかもしれない。

 愛原:「新庄さんは迎えに来れるのか?来れないようなら、バスで行くけど……」
 リサ:「……ダメみたい。新庄さん、コロナ陽性だったって」
 愛原:「うわ……!」

 毎日あれだけの感染者が出ているのだ。
 そのうち身近な人物に感染者が出るだろうとは思っていたが……。

 リサ:「サイトーのお父さんのツテで、ホテル療養になっているみたいだね」
 愛原:「斉藤社長の財力を使っても、ホテル療養か……」

 今や直に病院に入れるのは重症者だけだし、地域によってはその重症者でさえも病院に入れないらしい。
 で、そういう地域では中・軽症者がホテル療養すらできず、自宅療養を余儀なくされ、急激な重症化に対応できず、死亡してしまう例が多発しているらしい。
 日本でも、それは現実では無くなっているのだ。
 私はゾンビウィルスが蔓延している所は見たが、本来そんなのはレアケース中のレアケース。
 現実にはゾンビウィルスではなく、肺炎ウィルスが蔓延しているのだ。

 リサ:「私のGウィルスを分けてあげようか?そしたら、コロナウィルスなんて簡単に死滅するよ?」
 高橋:「その代わり変な化け物になるだろうが。却下だ。ねぇ、先生?」
 愛原:「まあ、そうだな」
 リサ:「先生達、化け物になんてなってないじゃん……」

 リサは不満げにボソッと呟いた。
 善場主任曰く、私や高橋はGウィルスに対しても抗体があるのか、あるいは物の見事に適応できたのではないかという。
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“私立探偵 愛原学” 「避難生活の中心で」

2021-05-17 11:36:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月16日10:00.天候:晴 東京都墨田区江東橋 都立墨東病院]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は高橋の退院日。
 私は彼を迎えに、入院先の病院にやってきた。

 高橋:「先生、御心配をおかけしました」

 銃弾がめり込んで神経も損傷したと聞いているのだが、今の高橋は右手に数枚の大きな絆創膏を貼っているだけで、とてもそんな大怪我をしたようには思えない。

 高橋:「俺もリサのウィルスに感染してるんスかね。何だか治りが異常に早いって、医者が言ってましたよ」
 愛原:「……だろうな。それは俺も同じだよ」

 リサが私にGウィルスを意図的に移したと白状しているから、そりゃ高橋も影響を受けるだろう。
 Gウィルスは意思を持っているのか何だか分からないが、とかく仲間を増やそうという感情が強い。
 そりゃ出来損ない扱いもされるわけだ。
 制御できなきゃ殺戮を繰り返す、Gウィルスの胚を植え付けて仲間を増やす。
 この繰り返しだ。
 そういった意味では、制御できているリサは凄いのだろう。

 愛原:「退院の手続きをしたら、一旦事務所に行くぞ」
 高橋:「うっス。今、事務所に行って大丈夫なんスか?」
 愛原:「ああ。善場主任の部下が警備してくれてるよ。絶対、警備会社に頼むよりも料金換算したら高いだろうなぁ……」
 高橋:「え?俺達が払うんじゃないんですよね?」
 愛原:「それは無い。あくまでも、捜査の一環だから。ほら、よく『犯人は現場に戻って来る』なんて言うだろ?それを狙ってるんだよ」
 高橋:「つまり前回は襲撃に失敗してダサく捕まったもんで、今度は失敗しないように、また襲撃に来るかもってことですか?」
 愛原:「そういうこと。でもそこをデイライトが張っていれば、めでたく御用にできるってわけさ」
 高橋:「そう上手く行きますかね」
 愛原:「1番いいのは、俺達への襲撃は諦めてもらうってことだな」
 高橋:「ですよね」

 事務所に戻るのに、病院からタクシーに乗った。

 高橋:「運転手さん、菊川1丁目までシクヨロ」
 運転手:「菊川1丁目ですね……」
 愛原:「高橋。ちゃんと番地まで言わないとダメだよ。○-×です」
 運転手:「あ、はい。かしこまりました」

 運転手はナビに住所を打ち込むと、タクシーを走らせた。

 愛原:「但し、15時になったら事務所を閉めて移動しないといけない」
 高橋:「今度はどこのホテルですか?」
 愛原:「実際に送ってもらうまでは分からない。しかし、上野近辺であることは間違いないだろう」
 高橋:「リサに合わせてホテルが選ばれるんだから、こっちは大変っス」
 愛原:「まあ、そう言うな」

 明らかにリサを狙って襲撃してきたというのは分かっているので、なるべくリサの学校の近くのホテルが避難場所として適切ということになった。
 幸い東京中央学園は都心にあることもあって、四六時中賑やかな所に立地している。
 襲撃者達が警察の目を警戒していたということは、そういった所で目撃者が発生することを恐れているということだ。
 なので、白昼堂々、学校に襲撃してくるとは思えなかった。
 こちらも白昼の時間帯に、避難先のホテルに移動する。

 愛原:「何も無ければ、今週一杯で避難生活は解除だ」
 高橋:「つまり、今度の日曜日までってことですか」
 愛原:「そういうことだな」

[同日10:30.天候:晴 墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 愛原:「ん?入院中、着替えとかはどうしたんだ?洗濯しないといけないんなら、一旦マンションに行くか?」
 高橋:「いや、大丈夫っス。コインランドリーがあったんで、まとめて洗濯しておきました」
 愛原:「おっ、そりゃいいな」

 そして、タクシーが事務所のビルの駐車場に到着する。
 案の定、駐車場には黒塗りのアルファードが止まっていた。
 料金を払い、タクシーを降りてビルに入る前、車の方に目をやった。
 運転席には黒スーツにサングラスを掛けた、善場主任の部下が乗っていた。
 多分、私と高橋が事務所に入ったことをインカムか何かで善場主任に連絡するのだろう。

 愛原:「取りあえず、溜まっている仕事から片付けよう」
 高橋:「はい」

 事務所に入る。
 さすがに、襲撃されて散らかった事務所内は片付いていた。

 愛原:「おっ、留守電が入っている」
 高橋:「久しぶりの仕事の依頼っスか!?」
 愛原:「そんな身も蓋もないことを言わない」
 高橋:「あっ、サーセン」
 愛原:「この番号は……ボスからだな」

〔「私だ。愛原君と高橋君、まだ生きておるかね?」〕

 愛原:「はいはい。しぶとく生きてますよー」
 高橋:「ハハハッ!」

〔「仕事の依頼は……今のところ無い」〕

 愛原:「くそっ!」

〔「だが、安心したまえ。大日本製薬の斉藤社長並びにNPO法人デイライトからは、恒常的な仕事の依頼をよろしくとの挨拶が来ている」〕

 愛原:「それはありがたいことなんだけどねぇ……」

〔「今度の土曜日、斉藤社長の家に行きたまえ。仕事の依頼があるそうだ」〕

 愛原:「ええっ?」

〔「今度は昼食会を兼ねるとのこと。詳細は追って連絡する」〕

 高橋:「先生、斉藤社長からの依頼書、もうファックス来てますけど?」

〔「尚、このテープは自動的に消滅する」〕

 愛原:「何時代のスパイ映画だよ……」

〔「……と、言いたいところだが、『何時代のスパイ映画だ』という愛原君のツッコミが予想されるので、やめておく」〕

 高橋:「読まれてますね、先生?」

〔「仕方が無い。尺が余ったので、1曲歌わせて頂こう。“バイオハザード・ヴィレッジ”発売記念に伴い、人形劇“バイオ村であそぼ”のテーマ!」〕

 愛原:「いい加減、切れよ、もう!」
 高橋:「そこは吉幾三じゃないんスね……」
 愛原:「探偵協会ヒマだろ、絶対」

 で、結局……。

〔「……“バイオハザード・ヴィレッジ”買って♪皆でプレイするだぁ~♪」〕

 愛原:「何曲歌うんだ、このオッサン……」
 高橋:「これ絶対、趣味はカラオケで、コロナ禍のせいでそれが休業になってるもんで欲求不満って所ですね」
 愛原:「はーあ……」

 律儀に全部聞く私も私だがな。
 普通の人なら、呆れて途中で切ってしまうことだろう。
 しかし探偵としては、全部聞かないといけない。
 何故なら、ボスのそういったおフザケの中に、重要なキーワードが隠されていたり、おフザケの後でシリアスな話が始まるかもしれないからだ。
 因みに今回は、【お察しください】。
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