報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「BOWホテル」

2021-05-31 20:35:41 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月1日15:45.天候:雷雨 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園]

 心なしか雨足が強くなってきたような気がする。
 そして、外からはホラー演出の為か、都合の良いタイミングで雷鳴と雷光が轟いた。

 高橋:「誰だ!?」
 女将:「女将でございます。御挨拶の方、よろしいでしょうか?」

 リサが第1形態に戻ってまで警戒した相手は、このホテルの女将を名乗っているようだ。
 高橋の言によれば、確かに着物姿の楚々とした女性の姿があるという。

 愛原:「開けてくれ」
 高橋:「は、はい」
 愛原:「リサは人間の姿に戻って。多分、大丈夫だ」
 リサ:「あ……うん」

 リサは大きく息を吸い込むと、第0形態に戻った。
 現段階でこれが逆に『化けている』状態なので、1の1つ前である0に分類されている。

 女将:「失礼致します。本日はお足元が悪い中、当館をご利用頂き、ありがとうございます。従業員一同、心より歓迎申し上げます」

 女将を名乗る人物は私より多少年上と思しき、着物がよく似合う楚々とした女性であった。
 とても、リサ・トレヴァーには見えない。
 もっとも、第0形態のリサだって、知らない人が見れば正体に気づかれることはない。

 女将:「どうぞお掛けになってください。今、お茶お入れしますね」
 愛原:「あ、ああ。どうも……」

 私は座椅子に座った。
 私がそうすると、他の3人もそれに倣う。
 リサと高橋はまだ険しい表情のままだ。

 女将:「どうぞ。それでは当館の御案内をさせて頂きます」

 朝食と夕食は部屋食ではなく、最上階のレストランだそうだ。
 それと大浴場。
 天然温泉で、露天風呂もあるそうなのだが……。
 この天候が回復してくれないと、なかなか外に出られないか?

 女将:「何か御質問等はございますか?」
 愛原:「ああ……うん。ちょっと聞きたいんだが……」
 女将:「はい。何でしょう?」
 愛原:「あなたは何番だ?」
 女将:「何番?何の事でございましょう?」
 高橋:「おい、トボける……!」
 愛原:「まあまあ。例えばこのコの左腋の下には、『2』という番号が入れ墨されている。あなたの左腋の下には、何の番号が入っているのかと思ったんだ」
 女将:「そういうことですか……。私は『369』です」
 愛原:「こりゃまた凄い番号だね」
 女将:「まさか、私と同じ実験体の方が来られるとは思いませんでした。しかも、トップナンバークラスは『とても危険な存在』と伺ったのですが……」
 愛原:「確かに。『とても危険な存在』でしたよ。特に『1番』は。今はもう、この『2番』以外はこの世にいませんから」
 女将:「お客様方は『2番』の方に連れて来られたのですか?」
 愛原:「えっ?」
 リサ:「……!!」

 すると、リサが尚、女将を睨み付けた。
 この時、リサの瞳が赤くボウッと光る。

 女将:「申し訳ございません。とんだ失言を。お許しください」
 愛原:「引率者は私だが……」
 女将:「さようでございますね。失礼致しました」
 愛原:「正体が分かったところで、もう1つ聞きたい。あなたは上手く人間に化けているようだが……人間を襲って食べたことはあるのか?」
 リサ:「……!」
 女将:「……申し訳ございませんが、回答しかねます」
 高橋:「否定しないということは、食ったことがあるということか」
 愛原:「ここのホテルの従業員全員がそうなのか?」
 女将:「そういう者もいますし、今は人間に戻れた者もいます。例えば、愛原様と応対させて頂いたフロント係は後者でございます」

 人間に戻れた者もいた!?
 まるで善場主任だ。

 愛原:「あなたは人間に戻らないのか?」
 女将:「厳しい選択でございます。それでは、ごゆっくりどうぞ。失礼致します」

 女将はそう言って、部屋を出て行った。

 高橋:「先生、ヤバいんじゃないですか、このホテル?バックレるのなら今のうちでは?」
 愛原:「この雷雨ん中か?それに、そんなことしたら契約不履行で訴えられるぞ?」
 高橋:「で、ですが……」
 愛原:「まあ、そこは絵恋さんに決めてもらおう。どうだ?」
 絵恋:「わ、私は……リサさんと一緒にいられるのなら別にいいです」
 愛原:「そういうことだ。じゃあ、早速風呂に入ってこよう。BOWがスタッフを務めるホテル。なかなか面白そうじゃないか」
 高橋:「リサでさえ『人間を食ったことがないから』という理由で、辛うじて見逃されているくらいですよ?なのに、『人間を食った』ことのある女将がBSAAにブッ殺されてないっておかしいじゃないっスか!」
 愛原:「おいおい。人の話はちゃんと聞けよ。女将さんは食人行為を認めてないぞ」
 高橋:「否定もしてないじゃないスか。リサはちゃんと聞けば、『してない』ってガン否定しますよ」
 リサ:「うん。私は一切人を食べてない」
 愛原:「それでリサ、あの女将さんからは人を食べた臭いはしたか?」
 リサ:「したと言えばしたし、しないと言えばしない……」
 愛原:「何だそりゃ」
 リサ:「BOWそのものの臭いはしたけどね。それは私と同じ」

 脂汗をかくと独特の臭いを放つあれか。

 愛原:「仮にあの女将さんに悪意があるとしても、リサがいる限りは襲って来れないだろう。うちのリサはラスボスクラスだからな」
 高橋:「はあ……」
 愛原:「じゃあ、ちょっと着替えようかな」

 私はクローゼットを開けた。
 中には浴衣が入っている。

 愛原:「ほら、リサも」
 リサ:「うん」
 絵恋:「リサさん、あっちで着替えよ!」

 リサがその場でベストを脱いだのを見た絵恋さんが、慌ててリサを隣の六畳間に引っ張った。
 ベストを脱いだリサを見て分かったのだが、リサもスカートの腰の部分を負って、裾を短くしているようだ。

 高橋:「先生、何なんスかね?このホテル……」
 愛原:「最初は宗教法人天長会が経営しているホテルだと思っていたが、それだけでは無いようだな」

 私達は浴衣に着替えると、タオルを持って大浴場に向かった。

 愛原:「リサ、あの女将さん、オマエの能力に気づいたみたいだな?」
 リサ:「あの人も使えるのかな?」
 愛原:「分からん」
 絵恋:「リサさんの汗、いい匂い!お風呂に入っちゃダメ!」
 リサ:「ダメだ。私はお風呂に入ってサッパリしたい」
 絵恋:「え~?」

 もうすっかりリサの『奴隷』と化している絵恋さん。
 リサの能力は、正にこれだ。
 『1番』もこの能力を使って私を取り込もうとしたらしいが、失敗している。
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“私立探偵 愛原学” 「ホテル天長園」

2021-05-31 16:14:37 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月1日15:25.天候:雨 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園]

 降りしきる雨の中、私達を乗せた路線バスは県道を走行していた。
 温泉地に入っても何も起こらないし、そもそも車内放送がちゃんと流れている時点で、埼玉の時みたいな偽バスに乗り合わせたということは無さそうだ。

 運転手:「お待たせしました。ホテル天長園前です」

 バスはホテルの入口前で止まった。
 市郊外に行くとフリー乗降制となり、バス停でなくても乗り降りできる。
 さすがにホテルの敷地内に入ってくれるということは無かった。

 愛原:「どうもありがとう。大人4名で」
 運転手:「はい」

 連れて行くのは私なので、交通費などの費用は私が立て替えておく。

 運転手:「お帰りの時も手を挙げてくれましたら、そこで止まりますから」
 愛原:「了解です。ありがとうございます」

 私達はバスを降りた。
 雨が降っていたので、小走りでエントランスに向かう。
 エントランス前は車寄せになっていて屋根があったので、そこまで移動した。

 高橋:「先生。歓迎プレートに『愛原様』ってありませんよ?」
 愛原:「『斉藤様』ってあるだろ?それでいいんだよ」
 高橋:「あっ、そうすか……」
 愛原:「何しろ、ここを予約したのは斉藤社長なんだからな」
 高橋:「なるほど……」

 ホテルの外観は特におかしい所は無い。
 グレーの建物である部分が、リサのフラッシュバックの中にあった物と一致するかどうかだが、こういう外観ではないという。

 リサ:「もっと地味な建物。外からだと何の建物なのか分からないみたいな……」
 愛原:「そうなのか」

 このホテルの外観も、どちらかというと地味な方だが、立地的なこともあり、宿泊施設であろうことは何となく分かる。

 従業員:「いらっしゃいませー」

 自動ドアを2つくぐると、そこはロビーとフロントがあった。
 その内装も、特に変な所は無い。
 ベタな温泉ホテルの法則通りだ。

 リサ:「この臭い……!」
 愛原:「じゃあ、ちょっとフロント行ってくるから待ってて」
 高橋:「分かりました」
 リサ:「……!?」

 リサは辺りをキョロキョロと見回している。
 何か気になることでもあるのだろうか?

 愛原:「大日本製薬の斉藤で予約を取っている者ですが……」
 フロント係:「はい。斉藤様ですね。本日、4名様のご利用でお間違い無いでしょうか?」
 愛原:「はい。4名です」
 フロント係:「こちらに御記入をお願い致します」
 愛原:「はい」

 私は宿泊者カードにペンを走らせた。

 フロント係:「ありがとうございます。本日のお部屋ですが、和室二間のお部屋を御用意させて頂きました。襖で仕切れるお部屋ですので、それで男女別にできるかと思いますが……」
 愛原:「なるほど。その方がいいかもしれないな。じゃあ、それで」
 フロント係:「ありがとうございます。それではお部屋は、7階の721号室でございます。カードキーは……何枚要りますか?」
 愛原:「2枚とかでもいいんだ?」
 フロント係:「はい。グループや団体のお客様の場合、カードキーを複数枚所望される方もいらっしゃるので……」
 愛原:「なるほど。それじゃ、2枚ください」
 フロント係:「かしこまりました」

 私が1枚、リサが1枚持てばいいだろう。

 フロント係:「こちら、カードキー2枚でございます」
 愛原:「ありがと……ん!?」
 フロント係:「どうかなさいましたか?」

 そのカードキーを見て私は驚いた。
 白いプラスチックカードに、ホテルの名前が書かれている。
 だが、問題はロゴマークだ。
 リサが持っていたゴールドカードにそっくりなのである。
 ホテルの名前がプリントされていること、色が白であることを除けば、リサのゴールドカードにそっくりであった。

 愛原:「このカード……見たことある」
 フロント係:「以前にも当ホテルをご利用頂いたことがございますか」
 愛原:「いや、私達は初めてだ。……ちょっと、いいですか?」
 フロント係:「は?」

 私はカードケースの中から、リサがくれたゴールドカードを出した。

 愛原:「このカードに見覚えはありますか?」
 フロント係:「……天長会のロゴマークに似ていますね」
 愛原:「天長会?アンブレラじゃなくて?」

 リサのゴールドカードにはアンブレラのロゴマークが入っている。
 カードの色がゴールドのせいで、紅白の傘の赤い部分が臙脂色のようになっていた。
 このホテルのカードキーのロゴマークは、元々臙脂色だったが……。

 フロント係:「天長会の教えに『天の嘆きは雨なり』というものがあります。天の嘆きに当たると不幸になるという考えですので、それを避ける為に傘を差します。それで、傘は天長会にとても重要な物なので、ロゴマークも開いた傘を上から見た図になったわけです」

 やはりこのホテルは宗教法人天長会の直営か。
 でなければ、このホテルマンも詳しく説明はできまい。

 愛原:「では、かつて世界的な製薬会社として存在していたアンブレラとは……」
 フロント係:「関係無いです。そもそも、アンブレラ社のロゴマークが傘だというのも、正式ではないそうですよ」
 愛原:「正式じゃない!?」
 フロント係:「私はそのように伺っております」
 愛原:「このホテル、宗教法人天長会の経営なんだね?」
 フロント係:「さようでございます。天長会の福利厚生部が運営しております」

 福利厚生部って、会社や役所じゃないんだから……。

 愛原:「俺達、信者じゃないけど、泊まっていいの?」
 フロント係:「もちろん、一般のお客様も大歓迎です。ごゆっくり、お寛ぎくださいませ」
 愛原:「ああ。よろしく」

 私はカードキー2枚を手に、ロビーにいた3人を手招きした。

 愛原:「部屋のドアはカードキー式だ。1枚は俺が持つけど、もう1枚はリサが持って」
 リサ:「分かった」
 絵恋:「同じ部屋なんですか?」
 愛原:「そうなんだけど、中は二間になっていて、襖で仕切れるようになっているらしい。だから、布団は別々に敷いて襖を閉めればいいよ」
 リサ:「私は別に一緒にでもいいんだけど……」

 私達はエレベーターに乗り込んだ。
 エレベーターも、何の変哲も無い。
 ただ、ロビーには天長会に関するパンフレットとかが置いてあったので、それがこのホテルが天長会の経営であることを主張していた。
 7階に到着する。
 シックで落ち着いた雰囲気の廊下だが、やはりこの辺も、他のホテルとあまり変わらない。

 愛原:「えーと……ここだな」

 私はドアノブの上にあるカードキーの読取機にカードを当てた。
 中に入ると、確かに和室が二間あった。
 1つは八畳間で、もう1つは六畳間であった。

 愛原:「どっちにする?どっちでもいいよ」

 私は絵恋さんに聞いた。

 絵恋:「私は……こっちがいいですぅ!」

 絵恋さんは、あえて狭い六畳間を選んだ。

 絵恋:(狭い部屋でリサさんと密着……!萌えへへへへ……!)
 リサ:「サイトー、また変な事考えてる」
 絵恋:「ご、ごめんなさい!」
 リサ:「いいよ。私はこっちで先生達と寝る」
 絵恋:「えぇえ!?」
 愛原:「おい!」
 リサ:「冗談。分かった。サイトーと同じ部屋にする」
 絵恋:「リサさーん、よろしくねー」

 部屋の中を見渡すと、ライティングデスクがあった。
 その上には本が数冊置かれていて、どれもが天長会に関する書籍であった。
 よくホテルには聖書とか仏教典などが置いてあったりするが、ここは天長会の書籍のようだ。

 愛原:「なあ、リサ」
 リサ:「なに?」
 愛原:「さっき何か臭いを気にしてたみたいだが、何だったんだ?」
 高橋:「死体の臭いでもしたか?」
 リサ:「あー、あれ。あれは……」

 すると、リサがブルッと震えた。

 リサ:「何か来る……!」
 愛原:「なに?」
 リサ:「こ、この部屋に……何か……BOWみたいなのが来る……!」
 愛原:「何だって!?」
 高橋:「何の冗談だ!?」
 リサ:「冗談じゃない!本当に何か……BOWの臭いが近づいてくるの!」
 愛原:「BOWの何の臭いだ?ハンターか?」
 リサ:「違う!これは……私と似た臭い?」
 愛原:「リサ・トレヴァーか!」
 リサ:「こっちに近づいてくる……!」

 その時、室内にインターホンの音が響いた。
 確かにドアの外側横に、インターホンのボタンがあった。
 それが押されたのだろう。

 愛原:「BOWか?」
 リサ:「うん……!」
 絵恋:「なに?何なの?」

 もう1回、インターホンが押された。

 高橋:「先生、俺が見て来ます。ピンポイントでこっちに来たってことは、俺達がここにいると確信して来たってことでしょうから」
 愛原:「そ、そうだな」

 つまり、居留守を使っても無駄だということだ。
 高橋はバッグの中から、愛用のマグナムを取り出した。
 そして、それをリロードする。

 リサ:「ウゥウ……!」

 リサは第1形態に戻り、ドアを睨み付けながら牙と長く鋭い爪を立てた。

 愛原:「リサは絵恋さんを守ってくれ」
 リサ:「分かった」

 高橋はマグナムを構えながら、ドアに近づいた。
 いきなり開けるのではなく、まずはドアの覗き窓から外を見るようだ。

 高橋:「あっ!」

 高橋は何を見たのだろうか?

 1:ハンター
 2:タイラント
 3:ネメシス
 4:女将
 5:誰もいない
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“私立探偵 愛原学” 「雨の那須塩原」

2021-05-31 11:51:54 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月1日14:23.天候:雨 栃木県那須塩原市 JR那須塩原駅→関東自動車バス車内]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、那須塩原です。東北本線、黒磯方面はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。那須塩原の次は、新白河に止まります〕

 愛原:「おい!おぉーい!雨だで!?雨!」
 高橋:「トンモナイ話ですねぇ……。フザけてます」

 私達が想定外の雨に右往左往する中、リサは……。

 リサ:「雨あめあーめ♪雨あーめ♪」
 絵恋:「リサさん、雨好きなの?」

〔「……2番線到着、お出口は左側です。那須塩原駅では、3分停車致します。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 列車が下り副線ホームに入り、減速する。
 1番線は那須塩原止まり、那須塩原駅始発のホームである。
 本線は通過線になっており、この列車は当駅でも通過待ちをするようだ。

〔「ご乗車ありがとうございました。那須塩原、那須塩原です。お忘れ物の無いよう、お降りください」〕

 ドアが開くと、私達はホームに降り立った。

 

 愛原:「忘れ物は無いか?」
 リサ:「OK!」
 絵恋:「大丈夫です」
 愛原:「よし、それじゃ高橋の一服が終わった後、出発しよう」
 高橋:「あざっス!」

 高橋はホーム上の喫煙所に向かった。
 尚、要所要所で写真撮影することを忘れない。
 斉藤社長に提出する報告書に添付するのと、リサ達に渡す用だ。
 この時だけはスマホではなく、デジカメを使う。
 スマホだとデータ流出の恐れがあるからだ。
 デジカメの場合、これをPCに起こして、それからリサや絵恋さんに送信すれば良い。
 幸いここでは3分停車するので、例えば列車の前でポーズを取る2人の少女の写真撮影なんかができるわけだな。
 で、それから移動を開始する。

 愛原:「キップは2枚重ねて入れてくれ」

 新幹線改札口を出る。
 乗り換え改札ではないので、これでもうラチ外コンコースに出たことになる。

 高橋:「先生、バスの時間は……?」
 愛原:「ちゃんと考えてる。西口から出ることになっている」

 

 駅の外に出る。

 愛原:「なあ、リサ。この辺り、何か記憶に残っている所とか無いか?」
 リサ:「無い。全然風景が違う」
 愛原:「だよなぁ……」

 リサがフラッシュバックしたのは、那須塩原駅が、まだ東那須野駅と呼ばれていた頃だ。
 当然まだ新幹線は開通していなかったので、駅の構造なんか全く違っただろう。
 で、駅の構造が変われば、ついでに駅前も整備されるわけで、その光景も全く変わっているわけである。
 何しろ、東那須野駅時代は在来線の特急はもちろん、急行列車すら停車しない駅だったって話だからな。
 それが今や、各駅停車タイプのみとはいえ、新幹線が止まる駅になった。

 愛原:「あのバスだ」

 駅前ロータリーのバス停の中から、板室温泉方面行きのバスを探す。

 高橋:「先生、気を付けてください。また偽バスだったりしたら……」
 愛原:「そ、そうだな」

 私は行き先表示を確認した。
 オレンジ色のLED式で、『板室温泉経由那須ハイランドパーク』と書かれている。
 ちゃんと経由地も書いてあるところは、あの偽バスと違う。
 また、ラッピングはされていなかった。
 あの時はラッピングのせいでバス会社名が分からなくなっていたのだ。

 愛原:「関東自動車。間違いないな」

 尚、この辺りはかつて東武バス系列の東野(とうや)交通というバス会社が運行していたが撤退し、みちのりホールディングスの関東自動車というバス会社がそれを引き継いで運行している。
 地元では関東バスと呼ばれているそうだが、都内のバス会社や埼玉のバス会社とは全く関係は無いそうだ。
 また、中扉はあるが、ICカードが導入される前まではそこは締め切り扱いにして、前扉のみで乗降させていたとのこと。
 今はICカードがあるので、中扉から乗って前扉から降りる方式となっている。
 大型バスに乗り込むと、7~8人ほどの乗客が発車を待っていた。
 私達は一旦、空いている1番後ろの座席に座ると、私は運転席に向かった。
 客層は老若男女様々だ。
 あの偽バスのように、20代から50歳までの男が数人乗っているということはない。
 これは本物と見て良いか。

 愛原:「すいません。このバスでこのホテルに行くには、どこで降りたらいいですか?」

 最寄りのバス停自体は私も知っている。
 だが、私はあえて聞き出した。

 運転手:「ホテル天長園さんですか。それなら……これで行くとその前を通りますので、その前で停車します。近くなったら、また仰ってください」
 愛原:「?」

 私が首を傾げていると、このバスは途中の区間からフリー乗降制となるという。
 確かこの前、やまなみ温泉に行った時も、途中からフリー乗降制になっていた。

 愛原:「なるほど……」

 私は後ろの席に戻った。

 高橋:「どうでした、先生?」
 愛原:「まあ多分、大丈夫だろう」
 高橋:「そうですか」

 私が席に戻ると、バスにエンジンが掛かった。

〔「お待たせ致しました。板室温泉経由、那須ハイランドパーク行き、発車します」〕

 ふりしきる雨の中、バスは那須塩原駅西口を発車した。
 フロントガラスの上を、大きなワイパーが左右に動いている。

 愛原:「取りあえずこのバスは大丈夫だと思うが、問題は宿泊先だ」
 高橋:「何ですか?」
 愛原:「このホテルの名前、聞いたことないか?」
 高橋:「ホテル天長園ですか。都内じゃ……聞いたことないですね」
 愛原:「リサが人間だった頃過ごした、あの児童養護施設を運営していた宗教団体の名前は?」
 高橋:「確か天長会……あっ!」
 愛原:「斉藤社長、絶対何か狙ってるだろ」

 斉藤社長がただ単に娘のお守りを私達にさせるわけがない。
 社長が怪しいと思った所に私達を行かせて、ついでに調査してこいということなのだ。
 どうしてそんな回りくどいことをするのかは分からないが、報告書についでに載せてあげると、何故か報酬が追加アップされるのだから、つまりそういうことなんだろう。
 とんだおもしろホテルに泊まれそうだ。
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