[4月17日18:45.天候:晴 栃木県矢板市 東北自動車道・矢板北パーキングエリア]
私達は蓮田サービスエリアに凡そ30分ほど滞在して、そこを出発した。
ここで私は2つの違和感に気づく。
1つはリサの制服のリボンに仕掛けられているGPSが本当に機能しているのか?ということ。
もう1つは、このテロリスト達には余裕があるということだ。
前者はリサの制服のリボンを調べたいところだが、そんなことをしたら奴らにバレる。
作動していることを願う他は無い。
そして、もう1つは後者だ。
先ほど高橋は、乗り換える前までのバスは時速80キロで走行していたと言った。
東北自動車道には東北地方内の一部区間で、常に最高速度が80キロに規制されている所がある(但し、悪天候や工事による50キロ規制は別にある)。
しかし、関東地方内は基本的にバスは法定速度の100キロで走行して良い(もう1度言うが、悪天候や工事などで発生する速度規制はこの限りではない)。
私はあのバスが時速80キロで走行していたのは、バスの走行性能上仕方が無かったのだと思っていた。
多分それもあるだろう。
しかし、出そうと思えば100キロくらいは出せるのではないだろうか。
それをしなかったのは、彼らはそれだけ慎重に行動しなくてはならないのだと。
煽り運転の常習犯というイメージのある暴力団の車でさえ、上級幹部になるほど、運転はイメージとは裏腹に慎重になるのだという。
それこそ、普通車が時速100キロで走行して良い場所を80キロで走行したりとか。
それは、警察はたかがスピード違反であっても、そこから傷を広げて組事務所を捜索しようとするので、その防衛策だという。
このテロリスト達もそういうことで、このように慎重に行動しているのだと思っていた。
思っていた、のだ。
ところが、ある行動に出てからは、私はそれに疑問符を付けた。
それは蓮田サービスエリアという大規模サービスエリアに堂々と駐車し、しかも人目に付く駐車場上でバスを乗り換えさせたからである。
さすがにサービスエリアのトイレと自販機は使わせなかったが、それにしても彼らは慎重なのではなく、余裕綽々で行動しているのだと思った。
私達が絶対に抵抗しないという確信、抵抗したとしてもそれを抑え切れるという自信、そして何より、警察には絶対に捕まらないという何かのエビデンスを持っているのだと。
前者は悔しいがその通りだ。
2番目は実際その通りだ。
私達は丸腰、奴らは本物の銃で武装している。
分からないのは後者だ。
どうして警察には捕まらないという絶対的なエビデンスを持っているのだろうか。
確かにリサの制服に仕掛けられているGPSが作動し、それでBSAAが出動してくれることを期待しているのだが、そんな感じは全くしない。
そして、最大の疑問。
これは……実際に聞いてもいいのだろうか?
愛原:「ちょっといいかな?」
男A:「何だ?」
愛原:「どうして俺達が今日、あの上落合八丁目バス停からバスに乗ることを知ったんだ?しかも、わざわざ偽のバスまで用意して」
男A:「なるほど。それは疑問だな」
男Aは何回か頷いた。
男A:「今時点では全てを詳しく話すことはできないが、もちろん事前に俺達にそのような情報が入ったからだよ。そして、その情報を俺達に提供してくれた人間がいたということだ」
愛原:「それが誰なのかは話してはくれないよな?」
男A:「エイダ・ウォンという名前の女を知らないか?」
愛原:「名前だけなら一応知っている。まだアンブレラ在りし頃、ゾンビパラダイスと化したアメリカのラクーン市にFBIの捜査官を装って潜入していたり、2013年のネオ・アンブレラのテロ活動において裏で立ち回ったと聞いている」
男A:「随分と詳しいじゃねぇか。そいつによく似た顔立ちの女だよ」
愛原:「ま、まさか……!」
私は即座に高野君を思い出した。
愛原:「もしかして、“青いアンブレラ”の皆様?」
男A:「俺達は違ェよ。あの女も、どこの組織に所属しているのかまでは教えちゃくれなかった。ただ、確かにアンブレラには詳しかったがな」
高野君、何を考えてるんだ?
確かに高野君がもしもエイダ・ウォンと繋がりのある人間なら、私達の今日の行動をスパイして把握することはできたかもしれないが……。
愛原:「あんた達が何という名前の組織なのかも教えてはくれないか?」
男A:「ああ。想像に任せる」
愛原:「少なくとも、アマチュアの団体ではないな。簡単に本物の銃火器を手に入れることができ、しかも中古車ながら大型バス2台を用意できる。それなりに資金は潤沢にある組織と見た」
男A:「その推理は全て当たっている。さすがは名探偵さんだな」
愛原:「名探偵ねぇ……」
高橋:「へぇ……。オッサン、分かってんじゃねーか」
男A:「あの女がそう言ってたんだ。どうやら本当らしいな」
愛原:「高野君……」
因みに、路線バスから高速バスタイプの車両に乗り換えてから1つ困ったことが発生した。
私はこのバスは、昼行用またはエアポートリムジン用のバスの中古だと思っていた。
だが、どうやら格安夜行バスだったタイプらしい。
そう思ったのは、夜行バスに乗ったことのある人なら分かると思うが、夜間走行中は車内灯が消灯される。
で、乗降口と客席の間にカーテンがあって、それが引かれている。
このバスにはそのカーテンがあって、しっかり引かれているのだ。
つまり、路線バスタイプだった時は辛うじてフロントガラス越しに前方を見ることができたが、このバスに乗り換えてからはそれも塞がれ、前も見えなくなってしまったことである。
どうやら本当に、この連中は私達に最後まで目的地を教えるつもりは無いらしい。
だが、ここでまたもや奴らは意外な行動に出る。
このバス、左ウィンカーを出すと、『ピピン♪ピピン♪』というアラームが鳴る。
高速バスタイプになってからはスピードを出しやすくなったのか、さっきのバスよりは高速度で走行しているようだ。
で、左ウィンカーが鳴る音がして、バスは速度を落とした。
高速道路を降りたのかと思いきや……。
男A:「おい。最後の休憩だ。今度は降りていいぜ」
愛原:「ええっ!?いいの!?ここはどこ?」
男A:「それは、降りてみれば分かる」
言われて私は席を立ち、少し開いたカーテンを潜るようにしてフロントガラスの前に立った。
そこから外を見ると、矢板北パーキングエリアだった。
先ほどの蓮田サービスエリアと比べれば規模は小さい。
だが、東北地方まで行くとたまにある、トイレや自販機くらいしか無い小規模なパーキングエリアと比べれば、フードコートがあったり、売店があったりする中規模クラスと言えた。
愛原:「お、降りていいのか?」
男A:「ああ。腹減っただろ?あそこにフードコートがある。あそこで飯食ってきていいぜ。それと兄ちゃんも、そろそろタバコが吸いたいだろ。思う存分吸っていいからな」
高橋:「あ、ああ」
愛原:「俺達のことを全面的に信用してくれているみたいだな?」
男A:「勘違いしてもらいたくないのは、そこの嬢ちゃんに腹空かさせると危険なことが起きるってあの女に言われたんで、その防止の為だ。兄ちゃんは……まあ、俺達もタバコが吸いたいからだな」
愛原:「俺達がここから逃げないという確信があるのか?」
男A:「逃げられんだろう。スマホや荷物は俺達が預かる。持って行っていいのは財布だけだ。しかし、ここじゃタクシーは拾えねぇよ」
愛原:「スマホが無くても公衆電話や非常電話がある。そこから助けを呼ぶこともできるはずだが?」
男A:「センセーは分かってねぇな」
愛原:「何がだ?」
男A:「電話ボックスも非常電話も外にあるんだぜ?」
愛原:「それがどうした?」
男A:「おい、ちょっと見せてやれ」
男Aが運転席の後ろに座っていたEに言うと、Eは無言で頷き、バッグの中からライフルを取り出した。
男A:「こいつはスナイパー専門だ。これで分かるな?」
愛原:「……分かったよ」
私はBSAAの狙撃手の腕前を見たことがある。
確かにこのEがそれくらいの腕前を持っているのだとしたら、外側にある非常電話や公衆電話を使っている私に狙撃することは可能だろう。
男A:「何なら、こいつをセンセー達がいる場所に投げ込んでもいいんだぜ?」
男Aは手榴弾を取り出した。
クリーチャーの群れを一掃できるサブウェポンだ。
だが、今は爆弾テロに使われようとしている。
愛原:「分かったよ。いつまでにバスに戻ればいい?」
男A:「そこのフードコードの営業時間は19時半までだ。それまでには戻って来てもらおう。食い終わった後で何か買い物があるんなら、それを買ってもいいぜ。ヘタすりゃ、冥途の土産なんかも必要だったりしてな。はっはっはっは!」
愛原:「分かったよ。行こう」
私達はバスを降りて、建物に向かった。
こんな時でも、リサの腹からは空き腹の虫が鳴る音が聞こえた。
私達は蓮田サービスエリアに凡そ30分ほど滞在して、そこを出発した。
ここで私は2つの違和感に気づく。
1つはリサの制服のリボンに仕掛けられているGPSが本当に機能しているのか?ということ。
もう1つは、このテロリスト達には余裕があるということだ。
前者はリサの制服のリボンを調べたいところだが、そんなことをしたら奴らにバレる。
作動していることを願う他は無い。
そして、もう1つは後者だ。
先ほど高橋は、乗り換える前までのバスは時速80キロで走行していたと言った。
東北自動車道には東北地方内の一部区間で、常に最高速度が80キロに規制されている所がある(但し、悪天候や工事による50キロ規制は別にある)。
しかし、関東地方内は基本的にバスは法定速度の100キロで走行して良い(もう1度言うが、悪天候や工事などで発生する速度規制はこの限りではない)。
私はあのバスが時速80キロで走行していたのは、バスの走行性能上仕方が無かったのだと思っていた。
多分それもあるだろう。
しかし、出そうと思えば100キロくらいは出せるのではないだろうか。
それをしなかったのは、彼らはそれだけ慎重に行動しなくてはならないのだと。
煽り運転の常習犯というイメージのある暴力団の車でさえ、上級幹部になるほど、運転はイメージとは裏腹に慎重になるのだという。
それこそ、普通車が時速100キロで走行して良い場所を80キロで走行したりとか。
それは、警察はたかがスピード違反であっても、そこから傷を広げて組事務所を捜索しようとするので、その防衛策だという。
このテロリスト達もそういうことで、このように慎重に行動しているのだと思っていた。
思っていた、のだ。
ところが、ある行動に出てからは、私はそれに疑問符を付けた。
それは蓮田サービスエリアという大規模サービスエリアに堂々と駐車し、しかも人目に付く駐車場上でバスを乗り換えさせたからである。
さすがにサービスエリアのトイレと自販機は使わせなかったが、それにしても彼らは慎重なのではなく、余裕綽々で行動しているのだと思った。
私達が絶対に抵抗しないという確信、抵抗したとしてもそれを抑え切れるという自信、そして何より、警察には絶対に捕まらないという何かのエビデンスを持っているのだと。
前者は悔しいがその通りだ。
2番目は実際その通りだ。
私達は丸腰、奴らは本物の銃で武装している。
分からないのは後者だ。
どうして警察には捕まらないという絶対的なエビデンスを持っているのだろうか。
確かにリサの制服に仕掛けられているGPSが作動し、それでBSAAが出動してくれることを期待しているのだが、そんな感じは全くしない。
そして、最大の疑問。
これは……実際に聞いてもいいのだろうか?
愛原:「ちょっといいかな?」
男A:「何だ?」
愛原:「どうして俺達が今日、あの上落合八丁目バス停からバスに乗ることを知ったんだ?しかも、わざわざ偽のバスまで用意して」
男A:「なるほど。それは疑問だな」
男Aは何回か頷いた。
男A:「今時点では全てを詳しく話すことはできないが、もちろん事前に俺達にそのような情報が入ったからだよ。そして、その情報を俺達に提供してくれた人間がいたということだ」
愛原:「それが誰なのかは話してはくれないよな?」
男A:「エイダ・ウォンという名前の女を知らないか?」
愛原:「名前だけなら一応知っている。まだアンブレラ在りし頃、ゾンビパラダイスと化したアメリカのラクーン市にFBIの捜査官を装って潜入していたり、2013年のネオ・アンブレラのテロ活動において裏で立ち回ったと聞いている」
男A:「随分と詳しいじゃねぇか。そいつによく似た顔立ちの女だよ」
愛原:「ま、まさか……!」
私は即座に高野君を思い出した。
愛原:「もしかして、“青いアンブレラ”の皆様?」
男A:「俺達は違ェよ。あの女も、どこの組織に所属しているのかまでは教えちゃくれなかった。ただ、確かにアンブレラには詳しかったがな」
高野君、何を考えてるんだ?
確かに高野君がもしもエイダ・ウォンと繋がりのある人間なら、私達の今日の行動をスパイして把握することはできたかもしれないが……。
愛原:「あんた達が何という名前の組織なのかも教えてはくれないか?」
男A:「ああ。想像に任せる」
愛原:「少なくとも、アマチュアの団体ではないな。簡単に本物の銃火器を手に入れることができ、しかも中古車ながら大型バス2台を用意できる。それなりに資金は潤沢にある組織と見た」
男A:「その推理は全て当たっている。さすがは名探偵さんだな」
愛原:「名探偵ねぇ……」
高橋:「へぇ……。オッサン、分かってんじゃねーか」
男A:「あの女がそう言ってたんだ。どうやら本当らしいな」
愛原:「高野君……」
因みに、路線バスから高速バスタイプの車両に乗り換えてから1つ困ったことが発生した。
私はこのバスは、昼行用またはエアポートリムジン用のバスの中古だと思っていた。
だが、どうやら格安夜行バスだったタイプらしい。
そう思ったのは、夜行バスに乗ったことのある人なら分かると思うが、夜間走行中は車内灯が消灯される。
で、乗降口と客席の間にカーテンがあって、それが引かれている。
このバスにはそのカーテンがあって、しっかり引かれているのだ。
つまり、路線バスタイプだった時は辛うじてフロントガラス越しに前方を見ることができたが、このバスに乗り換えてからはそれも塞がれ、前も見えなくなってしまったことである。
どうやら本当に、この連中は私達に最後まで目的地を教えるつもりは無いらしい。
だが、ここでまたもや奴らは意外な行動に出る。
このバス、左ウィンカーを出すと、『ピピン♪ピピン♪』というアラームが鳴る。
高速バスタイプになってからはスピードを出しやすくなったのか、さっきのバスよりは高速度で走行しているようだ。
で、左ウィンカーが鳴る音がして、バスは速度を落とした。
高速道路を降りたのかと思いきや……。
男A:「おい。最後の休憩だ。今度は降りていいぜ」
愛原:「ええっ!?いいの!?ここはどこ?」
男A:「それは、降りてみれば分かる」
言われて私は席を立ち、少し開いたカーテンを潜るようにしてフロントガラスの前に立った。
そこから外を見ると、矢板北パーキングエリアだった。
先ほどの蓮田サービスエリアと比べれば規模は小さい。
だが、東北地方まで行くとたまにある、トイレや自販機くらいしか無い小規模なパーキングエリアと比べれば、フードコートがあったり、売店があったりする中規模クラスと言えた。
愛原:「お、降りていいのか?」
男A:「ああ。腹減っただろ?あそこにフードコートがある。あそこで飯食ってきていいぜ。それと兄ちゃんも、そろそろタバコが吸いたいだろ。思う存分吸っていいからな」
高橋:「あ、ああ」
愛原:「俺達のことを全面的に信用してくれているみたいだな?」
男A:「勘違いしてもらいたくないのは、そこの嬢ちゃんに腹空かさせると危険なことが起きるってあの女に言われたんで、その防止の為だ。兄ちゃんは……まあ、俺達もタバコが吸いたいからだな」
愛原:「俺達がここから逃げないという確信があるのか?」
男A:「逃げられんだろう。スマホや荷物は俺達が預かる。持って行っていいのは財布だけだ。しかし、ここじゃタクシーは拾えねぇよ」
愛原:「スマホが無くても公衆電話や非常電話がある。そこから助けを呼ぶこともできるはずだが?」
男A:「センセーは分かってねぇな」
愛原:「何がだ?」
男A:「電話ボックスも非常電話も外にあるんだぜ?」
愛原:「それがどうした?」
男A:「おい、ちょっと見せてやれ」
男Aが運転席の後ろに座っていたEに言うと、Eは無言で頷き、バッグの中からライフルを取り出した。
男A:「こいつはスナイパー専門だ。これで分かるな?」
愛原:「……分かったよ」
私はBSAAの狙撃手の腕前を見たことがある。
確かにこのEがそれくらいの腕前を持っているのだとしたら、外側にある非常電話や公衆電話を使っている私に狙撃することは可能だろう。
男A:「何なら、こいつをセンセー達がいる場所に投げ込んでもいいんだぜ?」
男Aは手榴弾を取り出した。
クリーチャーの群れを一掃できるサブウェポンだ。
だが、今は爆弾テロに使われようとしている。
愛原:「分かったよ。いつまでにバスに戻ればいい?」
男A:「そこのフードコードの営業時間は19時半までだ。それまでには戻って来てもらおう。食い終わった後で何か買い物があるんなら、それを買ってもいいぜ。ヘタすりゃ、冥途の土産なんかも必要だったりしてな。はっはっはっは!」
愛原:「分かったよ。行こう」
私達はバスを降りて、建物に向かった。
こんな時でも、リサの腹からは空き腹の虫が鳴る音が聞こえた。