報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「避難生活の始まり」

2021-05-16 20:48:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月12日20:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル“サン・モリシタ”3F客室]

 リサ:「…………」

 リサは避難先として、急きょ用意されたビジネスホテルの部屋にいた。
 幸いマンションには襲撃された跡は無かったが、襲撃者達の正体の判明と安全が確保できるまでは避難するように言われた。
 リサは持ち前の高いIQを駆使して学校の宿題を終わらせると、愛原が戻って来るのを待つことにした。
 部屋の窓は擦りガラスになっているが、換気の為に少し開けることができる。
 ホテルは大通りから一本入った路地にあるのだが、ホテルがある地区も菊川地区と似たような閑静な住宅街にある為、襲撃者にバレないよう、窓は絶対に開けないように言われている。
 ロールカーテンが付いていて、これも絶対開けないようにとのことだ。
 例え擦りガラスとはいえ、人影が映った時点で狙撃者は撃ってくるだろうという警戒心からである。
 このホテルに暫く滞在するわけではない。
 1週間はNPO法人デイライトの用意するホテルを転々としなくてはならないのだそうだ。

 リサ:「…………」

 リサは制服のブレザーとニットのベストを脱いでいた。
 そして何か思い当たったかのように椅子から立ち上がると、キーを持って部屋を出た。
 人けの無い廊下を歩いて、1基だけの小さなエレベーターに乗る。
 エレベーターは静かに下へと動いた。
 研究所にいた頃は、逃げる獲物を追い回す実験と称して、エレベーターのドアをこじ開けたこともある。
 今では少しだけBOWから逃げる人間の気持ちが分かるような気がする。
 特にアナウンスもブザーもチャイムも無くエレベーターが1階に到着すると、片側に開く2枚ドアだけはガラガラと音を立てて開いた。
 小さなホテルの小さなロビーのソファには、善場が座っている。

 善場:「リサ。そろそろ愛原所長が到着する頃よ。高橋助手は今週一杯入院することになったから、愛原所長としばらく2人ね」
 リサ:「私の……せいだね」
 善場:「リサ?」
 リサ:「私がBOW(生物兵器)で……なまじ1番強いから……変な組織に狙われて……そして……お兄ちゃんと先生を巻き込んで……」
 善場:「リサ。あなたが気にすることはないよ。そのことについては、私達も愛原所長達も想定内だったから」

 善場はリサの肩に手を置いた。

 善場:「今はあなたが辛いだろうけど、運が悪かったら、私があなたの立場になっていたかもしれないんだからね」

 善場もまた元リサ・トレヴァー。
 『12番』という番号を与えられ、BOWとして生まれ変わる直前、研究所がBSAAの摘発を受けた。
 その後、何とか人間に戻る算段を得たものの、未だに善場はナンバーを『0番』に変えられ、観察対象のままとなっている。

 善場:「あっ、愛原所長よ」

 その時、ホテルの前に1台のタクシーが到着した。
 外が雨だからか、タクシーは規則正しい動きでワイパーを動かしている。
 すかさず善場がホテルから飛び出して、タクシーに向かった。
 愛原の代わりにタクシー料金を払うつもりである。
 そして、愛原が先にホテルに入って来た。

 愛原:「いやー!降って来た降って来た!タクシー乗る時はまだ小降りだったのに……」
 リサ:「先生」
 愛原:「リサ。いいコにしてたか?」
 リサ:「一応……。あ、先生、夕食のお弁当はここにある」
 愛原:「弁当か。寂しいな。でもまあ、しょうがないか」

 タクシー代をチケットで払った善場もホテルに戻って来た。

 善場:「それでは愛原所長、チェックインの手続きを」
 愛原:「あ、はい」
 善場:「荷物はフロントに預けてますので……」

 愛原と善場がフロントに行く。
 ホテル代もデイライト持ちだ。
 バックに国家が付いているとはいえ、予算は潤沢にあるようだ。
 もっとも、シティホテルではなく、ビジネスホテルであるし、さっきの交通費もハイヤーではなく、ただのタクシーだ。
 これでも予算を低めに抑えている方なのかもしれない。

 愛原:「ちょっと荷物置いてきます」
 リサ:「先生の部屋、私の隣?」
 愛原:「そのようだな」
 リサ:「善場さん、どうして?どうして、先生と一緒の部屋じゃないの?」
 善場:「八丈島の旅行とは違うのよ。それに、あなたはもう高校生でしょ?いくら保護者とはいえ、大人の男性と一緒に泊まらせるわけにはいかないのよ」
 愛原:「そうそう」

 今のマンションでさえ、同居することには反対の声も多かったという。

 愛原:「マンションだって、寝る所は別々だろ?それと一緒だ。部屋自体は隣同士というのも同じだな」
 リサ:「むー……」

 愛原はエレベーターに乗って3階へと上がった。
 しばらくロビーで待っていると、また愛原が下りて来る。

 愛原:「ちょっと弁当温めますね」

 ロビー内の自販機コーナーで弁当を温める愛原。

 善場:「食べながらでいいので聞いてください。まずはこのホテルに一泊してもらいます。チェックアウト後、リサは予定通り、学校に行ってください。愛原所長は事務所に行って構いませんが、次のホテルにはリサと一緒にチェックインして頂きます」
 愛原:「はい。あの襲撃者達、どうですか?」
 善場:「警察の取り調べには、2人とも黙秘を貫いています。ただ、私共としては、ヴェルトロなどのバイオテロ組織とは直接関わりは無いものと見ています」
 愛原:「あ、そうなんですか」
 善場:「恐らくはそういった組織から依頼されて襲撃した、間接的な関係者かと」
 愛原:「どうしてそう思われるのですか?」
 善場:「襲撃方法が素人っぽいからです。普通、どこかを襲撃しようとするならば、事前の入念な下見が必要です。しかしあれは、直接的には下見をしていないように思えます。恐らく、襲撃を依頼した組織か人物か、そこから間接的な情報を得て、あとはグーグルマップのストリートビューか何かで見て下見をしたつもりになった……そう思えます。あと、私の部下が駐車場で彼らを発見しました。しかし、彼らは襲撃を中止することなく、しかも、わざわざ私の部下に直接、警察関係者かどうか聞いて来たのです。プロならばそんなことはしません。少なくとも、自分達を見張る者がいたという時点で中止します。これは恐らく、『警察関係者がいたら中止せよ』という指示は受けていて、しかし私の部下が否定したので、警察関係者はいないと思い、襲撃を実行したのでしょう」
 愛原:「確かにそう聞くと、アマチュアって感じですね。それでも、まだサバゲーの愛好者達の方がもっと上手く立ち回りそうな気がする」
 善場:「そして万が一、警察に捕まっても絶対に自供するなと言われているのでしょうね」
 愛原:「因みに、彼らの現時点での罪状は何ですか?」
 善場:「まず、本物の銃を無許可で所持していたので、銃刀法違反の現行犯です。それと、高橋助手に発砲してケガさせたので、傷害の現行犯ですね」
 愛原:「殺人未遂なんじゃないですか?」
 善場:「あいにくと高橋助手には1発しか発砲しておらず、しかも被弾したのが右手ということで、殺意があったかどうかまでは立件が難しいと思います。彼らの自供があればいいのですが、現時点では黙秘を続けていますので……。彼らがプロであればともかく、素人の可能性が高いので、『威嚇射撃のつもりで撃ったら、たまたま相手の右手に当たっただけ』とでも供述しようものなら、それを覆す証拠を示さなければなりません」
 愛原:「なるほどねぇ……」
 リサ:「お兄ちゃんはどうなの?」
 愛原:「相手が撃ったのがショットガンで、ショットガンの弾って小さな弾が弾け飛ぶんだ。だから、日本語で散弾銃って言うんだな。そんな小さな弾が何発が右手に入ったもんだから、それを取り出す手術をして、それで今週の金曜日まで入院だそうだ」
 善場:「高橋助手が一番災難でしたかね」
 愛原:「高橋のヤツ、『今度会ったら、俺のマグナム44で頭を潰れたトゥメイトにしてやる!』って言ってましたよw」
 リサ:「何でトマトの所だけ英語風の発音?」
 愛原:「つまり、それだけヤツは元気だってことさ。利き手をやられたのが、ちょっとイタいだろうがな」
 善場:「被弾の際に神経を損傷したということて、それで入院期間が今週一杯なんですね」

 右利きの人間が左手で箸は使いにくいから、病院食はしばらくフォークかスプーンで食べることになりそうだな。
 因みに善場主任は泊まらない。
コメント
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