[2月25日11:00.天候:曇 福島県耶麻郡猪苗代町 猪苗代湖遊覧船乗り場→会津バス3号車→野口英世記念館]
遊覧船が無事に接岸して、東京中央学園の生徒達はバスに戻って行った。
出発は11時なので、トイレに行ったり、湖畔で写真を撮ったりする。
国道49号線は作者が20代だった頃、トラックドライバーの時に、起点から終点まで走り通した国道の1つである。
冬場に走ると、同じ福島県でも東西で気候が違うことに驚かされたものだ。
会津地方では大雪、中通りと呼ばれる郡山市近辺では曇で積雪はややある程度、しかし浜通りと呼ばれるいわき市近辺は晴れで積雪など全く無い。
グーグルマップストリートビューで見ると分かるが、この辺りは今は晴れているものの、冬場は大雪に見舞われることもあり、吹雪で視界が無くなると通行止めになる旨の標識がある。
同じ国道でも、いわき市近辺では考えられない標識である。
リサ:「先生!」
その時、リサが血相を変えてバスから降りて来た。
愛原:「どうした?」
リサ:「これ!これが、わたしの席の上に!」
リサが手にしていたのは、1枚のメモ用紙だった。
私はそれを手にして読んでみた。
愛原:「『今は何もしないから、気にしないで』?」
赤ペンで書いてあるが、字はきれいでもなければ汚くもない。
愛原:「これは……」
私はバスの乗務員達に聞いてみた。
私達が遊覧船に乗っている間、バスの乗務員達は留守番しているはずだからである。
しかし、乗務員達は不審な人物はもちろん、学校関係者が乗り降りしているのを見ていなかった。
運転手もバスガイドも、トイレや喫煙などでバスから降りることはあったが、もし誰もいなくなる場合は乗降ドアを閉めておくという。
ただ、コロナ対策として窓は少し開けておくらしい。
それでも、普通の人は出入りできない。
私達が乗っているバスはスーパーハイデッカーと言って、通常の高速バスよりも更に一段客席が高い位置にあるタイプなのだ。
必然的に、窓の位置も地面から高い位置にあるわけである。
普通の人は、窓から出入りはできまい。
因みにこの3号車では、バスに残留した生徒はいない。
となると、やはりこれは、人外の誰かがやったということになる。
バスガイド:「皆様、遊覧船は如何だったでしょうか?猪苗代湖は有名な湖ではございますが、実際に湖の上に出るという機会はなかなかございませんので、貴重な体験をなされたと思います。それでは次は、およそ5分で野口英世記念館へと参ります。今や1000円札の顔として有名な野口英世博士は、この福島県が出身となってございます。その福島県の中でも、生家が保存されているのは、ここ猪苗代町の野口英世記念館でございます。……」
バスは時間になると、出発した。
私はリサが受け取った怪文書を写真に撮り、それを善場主任へのメールに添付した。
メールを送っている間、バスは次なる目的地に到着した。
遊覧船はオプショナルツアーのようなものだが、メインはここである。
野口英世記念館だけでなく、他にも民俗資料館やドライブインまで様々ある。
また、国道を挟んで反対側には『世界のガラス館』もあり、ここも見学できる(※現実には3月10日まで平日閉館とのこと。取材時は2月24日までだったので、その後、延長されたようである)。
その為、ここでの滞在時間は3時間も取られていた。
もちろん、昼食もここで取ることになる。
バスを降りて、リサに確認を取って見る。
バスの中では、違和感は感じないそうだ。
なので、違和感の主は1号車か2号車にいるらしい。
だが、1号車や2号車に乗っている生徒に聞いても、知らないコは乗っていないとのこと。
実際私も、それらのバスに乗っている生徒や関係者を見たが、怪しい者はいなかった。
こういう時、推理小説では、最も怪しくない者が実は真犯人というのがデフォである。
但し、最も怪しくない者を真犯人として追い詰めるのは難しい。
確たる証拠を見つけないと、まず自白しない。
但し、作品によっては、結構序盤には既に犯人が分かっている。
しかし、証拠が無い。
なので、その証拠集めをしていくというタイプもある(その証拠を集めて行くうちに、共犯者や余罪被害者を見つけることもある)。
愛原:「善場主任からだ」
私はバスを降りると、電話に出た。
愛原:「はい、愛原です」
善場:「善場です。昨夜は、ありがとうございました」
愛原:「こちらこそ、お疲れ様です。それより、今の状況なんですが……」
善場:「はい。リサが何者かの存在を感じているものの、その存在を確認できないばかりか、そこから怪文書が送られたというものですね?」
愛原:「そうです」
善場:「『今は』という枕詞が気になります。この『今』とは、どの時点の事を指すのかによって、警戒の度合いが変わってきます」
愛原:「善場主任は、リサの言葉を信じるのですね?」
善場:「リサの発言がウソだった場合、リサは愛原所長の信用を傷つけることになります。リサは頭が良いですから、そういう馬鹿な事はしないと思いますよ」
愛原:「それもそうですね」
善場:「リサが違和感を覚えたのは、どのタイミングですか?」
愛原:「今朝の朝食の時点だそうです。今朝はホテルのレストランで朝食バイキングだったのですが、そこの会場からだそうです」
善場:「それが、今でも付いて来ていると……」
愛原:「はい」
善場:「分かりました。相手の正体が分からない以上、こちらも出方を伺う必要があります。引き続き、警戒を続けてください。何か少しでも変化があったら、また連絡をお願いします」
愛原:「分かりました」
私は電話を切った。
愛原:「待てよ。1人多いのなら、名簿と照らし合わせればいいはずだ」
私は1号車に向かった。
大沢:「愛原さん、どうしました?」
1号車にいる、観光会社のツアコンである大沢さんを訪ねた。
愛原:「すいません。生徒さんがバスに戻る時、点呼を取ってますよね?」
大沢:「ええ。置き去りがあってはマズいですから、必ず名簿と照らし合わせて確認するようにしています」
愛原:「数が合わないなんてことはないですよね?」
大沢:「当たり前じゃないですか。1人でも足りなかったら、バスは出発させませんよ」
と、大沢氏は笑って答えた。
愛原:「では、1人多かったら?」
大沢:「は?」
愛原:「足りなかったらマズいですが、1人多かったらどうしますか?」
大沢:「な、何を仰るんですか、愛原さん?」
愛原:「どうやら今、このツアーは1人多い状態のようです」
大沢:「ええっ!?で、でも、1人多いってどういうことですか?いや、名簿ではちゃんと数は合ってますよ?」
愛原:「その名簿、初日の物と同じですか?」
大沢:「同じですよ?東武浅草駅を出発する時点から使用しているものです」
愛原:「ということは、初日から1人多い状態で出発してしまったのかもしれませんね」
大沢:「一体、さっきから何を仰ってるんですか?」
愛原:「いや……そんなことはないか」
もしそうなら、リサの違和感がもっと先に発生していなくてはならない。
名簿と照合した人数は合っている。
そして、生徒達は互いに顔と名前は知っていて、例えボッチの生徒でも、知らない者が乗り込んできたとあらばすぐに分かる。
愛原:「失礼しました。もしも名簿の人数と、実際の人数が合わないことがあったら、すぐに仰ってください」
大沢:「はあ……」
愛原:「ちょっと、車内の写真を撮っていいですか?できれば、生徒さん達が乗っている状態も含めて」
大沢:「今はいいとは思いますが、乗っている状態の写真は先生に聞きませんと……」
愛原:「あ、それもそうですね」
私は空車状態のバスの写真をデジカメで撮った。
そして、2号車と3号車の写真も撮った。
それから画像を確認したが、この時点では怪しい者は写っていなかった。
まあ、当たり前である。
今、このバスにリサは違和感を感じていないのだから。
問題は、生徒達全員が戻って来た時だ。
遊覧船が無事に接岸して、東京中央学園の生徒達はバスに戻って行った。
出発は11時なので、トイレに行ったり、湖畔で写真を撮ったりする。
国道49号線は作者が20代だった頃、トラックドライバーの時に、起点から終点まで走り通した国道の1つである。
冬場に走ると、同じ福島県でも東西で気候が違うことに驚かされたものだ。
会津地方では大雪、中通りと呼ばれる郡山市近辺では曇で積雪はややある程度、しかし浜通りと呼ばれるいわき市近辺は晴れで積雪など全く無い。
グーグルマップストリートビューで見ると分かるが、この辺りは今は晴れているものの、冬場は大雪に見舞われることもあり、吹雪で視界が無くなると通行止めになる旨の標識がある。
同じ国道でも、いわき市近辺では考えられない標識である。
リサ:「先生!」
その時、リサが血相を変えてバスから降りて来た。
愛原:「どうした?」
リサ:「これ!これが、わたしの席の上に!」
リサが手にしていたのは、1枚のメモ用紙だった。
私はそれを手にして読んでみた。
愛原:「『今は何もしないから、気にしないで』?」
赤ペンで書いてあるが、字はきれいでもなければ汚くもない。
愛原:「これは……」
私はバスの乗務員達に聞いてみた。
私達が遊覧船に乗っている間、バスの乗務員達は留守番しているはずだからである。
しかし、乗務員達は不審な人物はもちろん、学校関係者が乗り降りしているのを見ていなかった。
運転手もバスガイドも、トイレや喫煙などでバスから降りることはあったが、もし誰もいなくなる場合は乗降ドアを閉めておくという。
ただ、コロナ対策として窓は少し開けておくらしい。
それでも、普通の人は出入りできない。
私達が乗っているバスはスーパーハイデッカーと言って、通常の高速バスよりも更に一段客席が高い位置にあるタイプなのだ。
必然的に、窓の位置も地面から高い位置にあるわけである。
普通の人は、窓から出入りはできまい。
因みにこの3号車では、バスに残留した生徒はいない。
となると、やはりこれは、人外の誰かがやったということになる。
バスガイド:「皆様、遊覧船は如何だったでしょうか?猪苗代湖は有名な湖ではございますが、実際に湖の上に出るという機会はなかなかございませんので、貴重な体験をなされたと思います。それでは次は、およそ5分で野口英世記念館へと参ります。今や1000円札の顔として有名な野口英世博士は、この福島県が出身となってございます。その福島県の中でも、生家が保存されているのは、ここ猪苗代町の野口英世記念館でございます。……」
バスは時間になると、出発した。
私はリサが受け取った怪文書を写真に撮り、それを善場主任へのメールに添付した。
メールを送っている間、バスは次なる目的地に到着した。
遊覧船はオプショナルツアーのようなものだが、メインはここである。
野口英世記念館だけでなく、他にも民俗資料館やドライブインまで様々ある。
また、国道を挟んで反対側には『世界のガラス館』もあり、ここも見学できる(※現実には3月10日まで平日閉館とのこと。取材時は2月24日までだったので、その後、延長されたようである)。
その為、ここでの滞在時間は3時間も取られていた。
もちろん、昼食もここで取ることになる。
バスを降りて、リサに確認を取って見る。
バスの中では、違和感は感じないそうだ。
なので、違和感の主は1号車か2号車にいるらしい。
だが、1号車や2号車に乗っている生徒に聞いても、知らないコは乗っていないとのこと。
実際私も、それらのバスに乗っている生徒や関係者を見たが、怪しい者はいなかった。
こういう時、推理小説では、最も怪しくない者が実は真犯人というのがデフォである。
但し、最も怪しくない者を真犯人として追い詰めるのは難しい。
確たる証拠を見つけないと、まず自白しない。
但し、作品によっては、結構序盤には既に犯人が分かっている。
しかし、証拠が無い。
なので、その証拠集めをしていくというタイプもある(その証拠を集めて行くうちに、共犯者や余罪被害者を見つけることもある)。
愛原:「善場主任からだ」
私はバスを降りると、電話に出た。
愛原:「はい、愛原です」
善場:「善場です。昨夜は、ありがとうございました」
愛原:「こちらこそ、お疲れ様です。それより、今の状況なんですが……」
善場:「はい。リサが何者かの存在を感じているものの、その存在を確認できないばかりか、そこから怪文書が送られたというものですね?」
愛原:「そうです」
善場:「『今は』という枕詞が気になります。この『今』とは、どの時点の事を指すのかによって、警戒の度合いが変わってきます」
愛原:「善場主任は、リサの言葉を信じるのですね?」
善場:「リサの発言がウソだった場合、リサは愛原所長の信用を傷つけることになります。リサは頭が良いですから、そういう馬鹿な事はしないと思いますよ」
愛原:「それもそうですね」
善場:「リサが違和感を覚えたのは、どのタイミングですか?」
愛原:「今朝の朝食の時点だそうです。今朝はホテルのレストランで朝食バイキングだったのですが、そこの会場からだそうです」
善場:「それが、今でも付いて来ていると……」
愛原:「はい」
善場:「分かりました。相手の正体が分からない以上、こちらも出方を伺う必要があります。引き続き、警戒を続けてください。何か少しでも変化があったら、また連絡をお願いします」
愛原:「分かりました」
私は電話を切った。
愛原:「待てよ。1人多いのなら、名簿と照らし合わせればいいはずだ」
私は1号車に向かった。
大沢:「愛原さん、どうしました?」
1号車にいる、観光会社のツアコンである大沢さんを訪ねた。
愛原:「すいません。生徒さんがバスに戻る時、点呼を取ってますよね?」
大沢:「ええ。置き去りがあってはマズいですから、必ず名簿と照らし合わせて確認するようにしています」
愛原:「数が合わないなんてことはないですよね?」
大沢:「当たり前じゃないですか。1人でも足りなかったら、バスは出発させませんよ」
と、大沢氏は笑って答えた。
愛原:「では、1人多かったら?」
大沢:「は?」
愛原:「足りなかったらマズいですが、1人多かったらどうしますか?」
大沢:「な、何を仰るんですか、愛原さん?」
愛原:「どうやら今、このツアーは1人多い状態のようです」
大沢:「ええっ!?で、でも、1人多いってどういうことですか?いや、名簿ではちゃんと数は合ってますよ?」
愛原:「その名簿、初日の物と同じですか?」
大沢:「同じですよ?東武浅草駅を出発する時点から使用しているものです」
愛原:「ということは、初日から1人多い状態で出発してしまったのかもしれませんね」
大沢:「一体、さっきから何を仰ってるんですか?」
愛原:「いや……そんなことはないか」
もしそうなら、リサの違和感がもっと先に発生していなくてはならない。
名簿と照合した人数は合っている。
そして、生徒達は互いに顔と名前は知っていて、例えボッチの生徒でも、知らない者が乗り込んできたとあらばすぐに分かる。
愛原:「失礼しました。もしも名簿の人数と、実際の人数が合わないことがあったら、すぐに仰ってください」
大沢:「はあ……」
愛原:「ちょっと、車内の写真を撮っていいですか?できれば、生徒さん達が乗っている状態も含めて」
大沢:「今はいいとは思いますが、乗っている状態の写真は先生に聞きませんと……」
愛原:「あ、それもそうですね」
私は空車状態のバスの写真をデジカメで撮った。
そして、2号車と3号車の写真も撮った。
それから画像を確認したが、この時点では怪しい者は写っていなかった。
まあ、当たり前である。
今、このバスにリサは違和感を感じていないのだから。
問題は、生徒達全員が戻って来た時だ。