報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「会津下郷町物産館」

2022-03-01 20:30:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月24日10:35.天候:晴 福島県南会津郡下郷町 下郷町物産館]

 東京中央学園の修学旅行生達を乗せた3台のバスは、除雪された国道121号線を北上した。
 そして、『まちの駅』(道の駅ではない)の看板を掲げた物産館に立ち寄った。
 平日ということもあり、駐車場に止まっている車は少ない。
 それでも、私達のと同じバス会社の観光バスが1台、大型駐車場に駐車されていた。

 バスガイド:「はい、お疲れ様でした。それではですね、こちらで休憩を取りたいと思います。出発は11時です。11時までに、バスにお戻りください」

 バスが駐車場に止まり、ドアが開く。

 愛原:「よし。じゃあ、降りてみるか」
 高橋:「うっス」

 先客のバスは中型バスが1台で、同じ会津ナンバーだった。
 まあ、営業所は違うのだろう。
 それでも知っている顔なのか、乗務員達はお互いに挨拶を交わしていた。
 フロントガラスの上にあるツアー名を見ると、『本所吾妻橋シニア倶楽部』と書かれていた。
 東京から来たのか。
 そこは、私達と一緒だな。
 シニア倶楽部とあるが、要は老人会の洒落た名前のようだ。
 実際、物産館の内外には、私の両親と同じくらいの歳の高齢者達がいた。

 愛原:「ちょっとトイレ」
 高橋:「お供します!」
 愛原:「あ、そう。だが、喫煙所には付いて行かないぞ」
 高橋:「先生も喫煙者仲間になりましょうよ?幸せになれますよ?」
 愛原:「宗教の勧誘か!」

 トイレを済ませると、まだ時間があったので、館内に入ってみる。
 当然ながら、お土産が売られていた。
 それだけでなく、地元の野菜なども。
 『まちの駅』と称しているが、恐らく本当に道の駅への昇格を目指しているのだと思った。

 愛原:「ほほう……。南会津の地酒とな?」
 店員A:「これは何年も連続で金賞を受賞しているお酒ですよ?」
 愛原:「それはそれは……」
 ポテンヒット:「姉ちゃんよォ、その金賞の酒、一本くれ!ヒック!」
 店員A:「は、はい。ありがとうございます」

 既に酔っ払っている客がいた。
 何だろう?あのシニア倶楽部のメンバーなのだろうか。
 斉藤社長へのお土産は、地元の地酒がいいかな。

 愛原:「高橋は何か買うのか?」
 高橋:「アメスピ2つ」
 愛原:「タバコかい!」

 リサはというと……。

 店員B:「下郷町名物マスバーガーいかがですかー?物産館名物焼きそばいかがですかー?」
 リサ:「はーい。マスバーガーと焼きそばください」
 店員B:「はい、ありがとうございます!」

 マスバーガーとは、地元の養鱒場で取れたニジマスのフライを具材にしたハンバーガーである。

 絵恋:「り、リサさん、ランチまでもう少しだというのに……」
 リサ:「10時のおやつ」
 絵恋:「おやつ!?」

 リサ、ベンチに座って焼きそばとマスバーガーを頬張った。

 老人:「む!?鬼の気配!?」

 杖をつき、帽子にサングラスを掛けた出で立ちの老人がリサに近づいて来た。

 絵恋:「何ですか、お爺さん?」
 老人:「お嬢さん、離れなさい!そこにいるのは……鬼だ!」
 リサ:「!?」

 リサはパッと口元を隠した。
 もしかしたら、牙を見られたのかもしれないと思ったのだ。

 絵恋:「ちょ、ちょっと!い、いきなり何を言うんですか?り、り、リサさんは鬼です……い、いや、鬼じゃないですよ!」
 リサ:「サイトー、ちょっと黙ってて。……あっ!」

 リサはその老人の胸に着いているバッジを見た。
 『本所吾妻橋シニア倶楽部 栗原銀治』という名札だった。

 リサ:「栗原……!?もしかして、蓮華先輩のお祖父さんか何か?」
 栗原銀治:「なに!?何故、孫の名前を知っている!?」
 絵恋:「私達、東京中央学園の者です。この制服が証拠です」
 銀治:「む……!?確かに、孫の着ている制服と酷似しておる。……ならば何故、蓮華はワシに報告しなかったのだ?」
 リサ:「わたしが人喰いをしなかったから。蓮華先輩には、危うく首を斬られるところだったけど」
 絵恋:「もしかして、お祖父さんも?」

 すると銀治、杖から刃を抜いた。
 そう、仕込み杖だったのだ。

 銀治:「左様!孫の斬り損じ、祖父の儂が果たしてみせよう!」
 リサ:「どうしてそうなる!?」
 絵恋:「あの!リサさんは本当に人を食い殺したりしてませんよ!?」
 銀治:「問答無用!覚悟!!」

 銀治は仕込み杖を大きく振り上げた。

 ツアーコンダクター:「それではシニア倶楽部の皆様、まもなく出発の時間ですので、バスにお戻りください」
 銀治:「む!?……出発の時間か。ならば、致し方無し」

 銀治、スッと仕込み杖をしまう。
 そうすると、普通の杖にしか見えない。
 70代後半だろうに、足腰はしっかりしている。
 杖を持っていたのは、仕込み杖だったからか。

 愛原:「大丈夫か、リサ!?」

 私が駆け寄ると、リサは何事も無かったかのように焼きそばを啜り始めた。

 リサ:「うん、大丈夫」
 愛原:「偉かったな。ここで正体を現していたら、大騒ぎになるところだった」

 私はリサの頭を撫でた。

 リサ:「エヘヘ……」(∀`*ゞ)
 絵恋:「それより、栗原先輩に言っといた方がいいですよ!」
 愛原:「今しがた、メールが来た。『祖父が老人クラブの人達と一緒に、会津へ温泉旅行に行きました。まさかとは思いますが、鉢合わせにならないように注意してください』って」
 絵恋:「連絡遅すぎ!あの義足先輩!」
 愛原:「ああ。『残念ながら鉢合わせになってしまった。キミからお祖父さんに言っといてくれ』って返信しといたよ」

 シニア倶楽部を乗せたバスは、私達が来た方へと走って行った。
 あの先にも温泉があるので、そこへ向かうのだろう。

 リサ:「それにしても、油断していると鬼斬りに会うからスリリング」
 愛原:「まあ、そうそう無いだろう」

 栗原家は代々鬼斬りの家系だったという。
 かつては神道の神楽を取り入れた剣技を使っていたが、いつしかそれが法華経へと変わったそうである。
 その為、蓮華さんも年に何回かは総本山の寺院へ参詣するのだそうだ(蓮華という名前も、南無妙法蓮華経から取ったのだとか)。

 リサ:「それにしても、上手く化けてたのに、何でバレた?」
 愛原:「ベテランの成せるワザなのかもな」

 とにかく、何事も無くて良かった。
 出発の時間になり、私達は再び国道121号線を北上したのだった。
コメント (2)
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