[2月24日10:35.天候:晴 福島県南会津郡下郷町 下郷町物産館]
東京中央学園の修学旅行生達を乗せた3台のバスは、除雪された国道121号線を北上した。
そして、『まちの駅』(道の駅ではない)の看板を掲げた物産館に立ち寄った。
平日ということもあり、駐車場に止まっている車は少ない。
それでも、私達のと同じバス会社の観光バスが1台、大型駐車場に駐車されていた。
バスガイド:「はい、お疲れ様でした。それではですね、こちらで休憩を取りたいと思います。出発は11時です。11時までに、バスにお戻りください」
バスが駐車場に止まり、ドアが開く。
愛原:「よし。じゃあ、降りてみるか」
高橋:「うっス」
先客のバスは中型バスが1台で、同じ会津ナンバーだった。
まあ、営業所は違うのだろう。
それでも知っている顔なのか、乗務員達はお互いに挨拶を交わしていた。
フロントガラスの上にあるツアー名を見ると、『本所吾妻橋シニア倶楽部』と書かれていた。
東京から来たのか。
そこは、私達と一緒だな。
シニア倶楽部とあるが、要は老人会の洒落た名前のようだ。
実際、物産館の内外には、私の両親と同じくらいの歳の高齢者達がいた。
愛原:「ちょっとトイレ」
高橋:「お供します!」
愛原:「あ、そう。だが、喫煙所には付いて行かないぞ」
高橋:「先生も喫煙者仲間になりましょうよ?幸せになれますよ?」
愛原:「宗教の勧誘か!」
トイレを済ませると、まだ時間があったので、館内に入ってみる。
当然ながら、お土産が売られていた。
それだけでなく、地元の野菜なども。
『まちの駅』と称しているが、恐らく本当に道の駅への昇格を目指しているのだと思った。
愛原:「ほほう……。南会津の地酒とな?」
店員A:「これは何年も連続で金賞を受賞しているお酒ですよ?」
愛原:「それはそれは……」
ポテンヒット:「姉ちゃんよォ、その金賞の酒、一本くれ!ヒック!」
店員A:「は、はい。ありがとうございます」
既に酔っ払っている客がいた。
何だろう?あのシニア倶楽部のメンバーなのだろうか。
斉藤社長へのお土産は、地元の地酒がいいかな。
愛原:「高橋は何か買うのか?」
高橋:「アメスピ2つ」
愛原:「タバコかい!」
リサはというと……。
店員B:「下郷町名物マスバーガーいかがですかー?物産館名物焼きそばいかがですかー?」
リサ:「はーい。マスバーガーと焼きそばください」
店員B:「はい、ありがとうございます!」
マスバーガーとは、地元の養鱒場で取れたニジマスのフライを具材にしたハンバーガーである。
絵恋:「り、リサさん、ランチまでもう少しだというのに……」
リサ:「10時のおやつ」
絵恋:「おやつ!?」
リサ、ベンチに座って焼きそばとマスバーガーを頬張った。
老人:「む!?鬼の気配!?」
杖をつき、帽子にサングラスを掛けた出で立ちの老人がリサに近づいて来た。
絵恋:「何ですか、お爺さん?」
老人:「お嬢さん、離れなさい!そこにいるのは……鬼だ!」
リサ:「!?」
リサはパッと口元を隠した。
もしかしたら、牙を見られたのかもしれないと思ったのだ。
絵恋:「ちょ、ちょっと!い、いきなり何を言うんですか?り、り、リサさんは鬼です……い、いや、鬼じゃないですよ!」
リサ:「サイトー、ちょっと黙ってて。……あっ!」
リサはその老人の胸に着いているバッジを見た。
『本所吾妻橋シニア倶楽部 栗原銀治』という名札だった。
リサ:「栗原……!?もしかして、蓮華先輩のお祖父さんか何か?」
栗原銀治:「なに!?何故、孫の名前を知っている!?」
絵恋:「私達、東京中央学園の者です。この制服が証拠です」
銀治:「む……!?確かに、孫の着ている制服と酷似しておる。……ならば何故、蓮華はワシに報告しなかったのだ?」
リサ:「わたしが人喰いをしなかったから。蓮華先輩には、危うく首を斬られるところだったけど」
絵恋:「もしかして、お祖父さんも?」
すると銀治、杖から刃を抜いた。
そう、仕込み杖だったのだ。
銀治:「左様!孫の斬り損じ、祖父の儂が果たしてみせよう!」
リサ:「どうしてそうなる!?」
絵恋:「あの!リサさんは本当に人を食い殺したりしてませんよ!?」
銀治:「問答無用!覚悟!!」
銀治は仕込み杖を大きく振り上げた。
ツアーコンダクター:「それではシニア倶楽部の皆様、まもなく出発の時間ですので、バスにお戻りください」
銀治:「む!?……出発の時間か。ならば、致し方無し」
銀治、スッと仕込み杖をしまう。
そうすると、普通の杖にしか見えない。
70代後半だろうに、足腰はしっかりしている。
杖を持っていたのは、仕込み杖だったからか。
愛原:「大丈夫か、リサ!?」
私が駆け寄ると、リサは何事も無かったかのように焼きそばを啜り始めた。
リサ:「うん、大丈夫」
愛原:「偉かったな。ここで正体を現していたら、大騒ぎになるところだった」
私はリサの頭を撫でた。
リサ:「エヘヘ……」(∀`*ゞ)
絵恋:「それより、栗原先輩に言っといた方がいいですよ!」
愛原:「今しがた、メールが来た。『祖父が老人クラブの人達と一緒に、会津へ温泉旅行に行きました。まさかとは思いますが、鉢合わせにならないように注意してください』って」
絵恋:「連絡遅すぎ!あの義足先輩!」
愛原:「ああ。『残念ながら鉢合わせになってしまった。キミからお祖父さんに言っといてくれ』って返信しといたよ」
シニア倶楽部を乗せたバスは、私達が来た方へと走って行った。
あの先にも温泉があるので、そこへ向かうのだろう。
リサ:「それにしても、油断していると鬼斬りに会うからスリリング」
愛原:「まあ、そうそう無いだろう」
栗原家は代々鬼斬りの家系だったという。
かつては神道の神楽を取り入れた剣技を使っていたが、いつしかそれが法華経へと変わったそうである。
その為、蓮華さんも年に何回かは総本山の寺院へ参詣するのだそうだ(蓮華という名前も、南無妙法蓮華経から取ったのだとか)。
リサ:「それにしても、上手く化けてたのに、何でバレた?」
愛原:「ベテランの成せるワザなのかもな」
とにかく、何事も無くて良かった。
出発の時間になり、私達は再び国道121号線を北上したのだった。
東京中央学園の修学旅行生達を乗せた3台のバスは、除雪された国道121号線を北上した。
そして、『まちの駅』(道の駅ではない)の看板を掲げた物産館に立ち寄った。
平日ということもあり、駐車場に止まっている車は少ない。
それでも、私達のと同じバス会社の観光バスが1台、大型駐車場に駐車されていた。
バスガイド:「はい、お疲れ様でした。それではですね、こちらで休憩を取りたいと思います。出発は11時です。11時までに、バスにお戻りください」
バスが駐車場に止まり、ドアが開く。
愛原:「よし。じゃあ、降りてみるか」
高橋:「うっス」
先客のバスは中型バスが1台で、同じ会津ナンバーだった。
まあ、営業所は違うのだろう。
それでも知っている顔なのか、乗務員達はお互いに挨拶を交わしていた。
フロントガラスの上にあるツアー名を見ると、『本所吾妻橋シニア倶楽部』と書かれていた。
東京から来たのか。
そこは、私達と一緒だな。
シニア倶楽部とあるが、要は老人会の洒落た名前のようだ。
実際、物産館の内外には、私の両親と同じくらいの歳の高齢者達がいた。
愛原:「ちょっとトイレ」
高橋:「お供します!」
愛原:「あ、そう。だが、喫煙所には付いて行かないぞ」
高橋:「先生も喫煙者仲間になりましょうよ?幸せになれますよ?」
愛原:「宗教の勧誘か!」
トイレを済ませると、まだ時間があったので、館内に入ってみる。
当然ながら、お土産が売られていた。
それだけでなく、地元の野菜なども。
『まちの駅』と称しているが、恐らく本当に道の駅への昇格を目指しているのだと思った。
愛原:「ほほう……。南会津の地酒とな?」
店員A:「これは何年も連続で金賞を受賞しているお酒ですよ?」
愛原:「それはそれは……」
ポテンヒット:「姉ちゃんよォ、その金賞の酒、一本くれ!ヒック!」
店員A:「は、はい。ありがとうございます」
既に酔っ払っている客がいた。
何だろう?あのシニア倶楽部のメンバーなのだろうか。
斉藤社長へのお土産は、地元の地酒がいいかな。
愛原:「高橋は何か買うのか?」
高橋:「アメスピ2つ」
愛原:「タバコかい!」
リサはというと……。
店員B:「下郷町名物マスバーガーいかがですかー?物産館名物焼きそばいかがですかー?」
リサ:「はーい。マスバーガーと焼きそばください」
店員B:「はい、ありがとうございます!」
マスバーガーとは、地元の養鱒場で取れたニジマスのフライを具材にしたハンバーガーである。
絵恋:「り、リサさん、ランチまでもう少しだというのに……」
リサ:「10時のおやつ」
絵恋:「おやつ!?」
リサ、ベンチに座って焼きそばとマスバーガーを頬張った。
老人:「む!?鬼の気配!?」
杖をつき、帽子にサングラスを掛けた出で立ちの老人がリサに近づいて来た。
絵恋:「何ですか、お爺さん?」
老人:「お嬢さん、離れなさい!そこにいるのは……鬼だ!」
リサ:「!?」
リサはパッと口元を隠した。
もしかしたら、牙を見られたのかもしれないと思ったのだ。
絵恋:「ちょ、ちょっと!い、いきなり何を言うんですか?り、り、リサさんは鬼です……い、いや、鬼じゃないですよ!」
リサ:「サイトー、ちょっと黙ってて。……あっ!」
リサはその老人の胸に着いているバッジを見た。
『本所吾妻橋シニア倶楽部 栗原銀治』という名札だった。
リサ:「栗原……!?もしかして、蓮華先輩のお祖父さんか何か?」
栗原銀治:「なに!?何故、孫の名前を知っている!?」
絵恋:「私達、東京中央学園の者です。この制服が証拠です」
銀治:「む……!?確かに、孫の着ている制服と酷似しておる。……ならば何故、蓮華はワシに報告しなかったのだ?」
リサ:「わたしが人喰いをしなかったから。蓮華先輩には、危うく首を斬られるところだったけど」
絵恋:「もしかして、お祖父さんも?」
すると銀治、杖から刃を抜いた。
そう、仕込み杖だったのだ。
銀治:「左様!孫の斬り損じ、祖父の儂が果たしてみせよう!」
リサ:「どうしてそうなる!?」
絵恋:「あの!リサさんは本当に人を食い殺したりしてませんよ!?」
銀治:「問答無用!覚悟!!」
銀治は仕込み杖を大きく振り上げた。
ツアーコンダクター:「それではシニア倶楽部の皆様、まもなく出発の時間ですので、バスにお戻りください」
銀治:「む!?……出発の時間か。ならば、致し方無し」
銀治、スッと仕込み杖をしまう。
そうすると、普通の杖にしか見えない。
70代後半だろうに、足腰はしっかりしている。
杖を持っていたのは、仕込み杖だったからか。
愛原:「大丈夫か、リサ!?」
私が駆け寄ると、リサは何事も無かったかのように焼きそばを啜り始めた。
リサ:「うん、大丈夫」
愛原:「偉かったな。ここで正体を現していたら、大騒ぎになるところだった」
私はリサの頭を撫でた。
リサ:「エヘヘ……」(∀`*ゞ)
絵恋:「それより、栗原先輩に言っといた方がいいですよ!」
愛原:「今しがた、メールが来た。『祖父が老人クラブの人達と一緒に、会津へ温泉旅行に行きました。まさかとは思いますが、鉢合わせにならないように注意してください』って」
絵恋:「連絡遅すぎ!あの義足先輩!」
愛原:「ああ。『残念ながら鉢合わせになってしまった。キミからお祖父さんに言っといてくれ』って返信しといたよ」
シニア倶楽部を乗せたバスは、私達が来た方へと走って行った。
あの先にも温泉があるので、そこへ向かうのだろう。
リサ:「それにしても、油断していると鬼斬りに会うからスリリング」
愛原:「まあ、そうそう無いだろう」
栗原家は代々鬼斬りの家系だったという。
かつては神道の神楽を取り入れた剣技を使っていたが、いつしかそれが法華経へと変わったそうである。
その為、蓮華さんも年に何回かは総本山の寺院へ参詣するのだそうだ(蓮華という名前も、南無妙法蓮華経から取ったのだとか)。
リサ:「それにしても、上手く化けてたのに、何でバレた?」
愛原:「ベテランの成せるワザなのかもな」
とにかく、何事も無くて良かった。
出発の時間になり、私達は再び国道121号線を北上したのだった。