報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「いたち草」

2025-01-21 16:01:00 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月1日15時10分 天候:曇 群馬県吾妻郡東吾妻町 浅白観光自動車タクシー車内]

 群馬原町駅で電車を降りた私とリサ。
 そこから、駅前で客待ちしているタクシーに乗り換えた。
 地元のタクシー会社だし、年配の運転手も地元の人っぽいから、ペンションの名前を言うだけで分かるかなと思ったのだが……。

 運転手「ペンション『いたち草』?……あまり聞いたことないですねぇ……」
 愛原「あの、住所が東吾妻町○×……なんですけど……」
 運転手「○×?岩島駅から山の方に行ったところかな?あそこにペンションなんて……」
 愛原「洋館風の外観なんですよね」
 運転手「洋館?……もしかして、あそこかな?赤い屋根の邸宅ですよね?」
 愛原「確か、そうです」

 公式サイトで見た外観も、確か屋根の色が赤かったような気がする。

 運転手「分かりました。そこまで行ってみます」
 愛原「お願いします」

 タクシーが動き出した。
 まずは駅前の通りを進み、途中で吾妻線の踏切を渡って国道145号線に出る。

 運転手「あそこはペンションだったんですか」
 愛原「一応、そういうことです。あまり、知られてないんですか?」
 運転手「あそこは元々、企業の保養所だった建物なんですよ。ところが、その企業が倒産したことで、長らく廃墟になってたんです。それがいつの間にやら復活したようですね。そうですか。ペンションとして復活したんですか」
 愛原「どこかの企業?どこの企業ですか?」
 運転手「何て言ったかなぁ……?横文字の……」
 愛原「もしかして、日本アンブレラ製薬?正式名称はアンブレラコーポレーション・ジャパン」
 運転手「ああ、そうそう!確か、そんな名前!」
 愛原「やっぱり……」

 長らく廃墟になっていた自分の会社の保養所を、五十嵐元社長は自分で買い取ったのだろう。
 そしてペンションに改築して、今に至ると……。

 愛原「さっき岩島駅がどうと言ってましたけど、あっちの駅から行った方が良かったですか?」
 運転手「いや、あそこはタクシーがいないから、もしもタクシーで行くのでしたら、群馬原町駅からで良かったですよ」

 群馬原町駅は特急も停車しない無人駅であるが、それでも東吾妻町の中心駅である。
 バス停もあるし、タクシー乗り場もある。

 愛原「そうですか。運転手さんも知らないペンションみたいですけど、最近できたんですか?」
 運転手「多分、そうでしょうねぇ……。私も仕事柄、多くのお客さんを旅館とか民宿まで乗せたりしてますけど、あのペンションは初めて……いや、この前、乗せたかな」
 愛原「えっ!?」
 運転手「うん。夜遅くに乗せたお客さんを、その洋館まで乗せたから……。ああ、なるほど。夜だったから、あんまり建物とかよく見えなかったからか……」
 愛原「夜遅くに!?」
 運転手「ええ。多分、最終電車で来られたんでしょうね。会社に電話が入って、それで私が向かったんです」
 愛原「それ、誰でした?」
 運転手「……お客さん、警察の人?」
 愛原「いえ、探偵です」

 私は名刺を運転手に見せた。

 運転手「探偵さん!?」
 愛原「そのお客さん、斉藤と名乗っていませんでしたか?」
 運転手「斉藤?……ああ、そうだったのかも。最初、サトウさんに聞こえたんですけど」
 愛原「サトウさん?」

 だが、滑舌や聞こえ方によっては、『サイトウ』が『サトウ』に聞こえてしまうこともあるかもしれない。
 或いは、わざと偽名を名乗ったか。
 もしも『サイトウ』であるなら、斉藤元社長かもしれない。
 やはり斉藤元社長は上越新幹線を高崎駅で降り、そこから吾妻線の最終電車で群馬原町駅で降り、タクシーに乗り換えたのかもしれない。

 愛原「そのお客さん、何か特徴はありましたか?」
 運転手「特徴ねぇ……。蒸し暑いのにスーツにネクタイを付けて、帽子を深く被ってましたね。あとはコロナ対策なのか、白いマスクを着けてて……」
 愛原「ということは、顔はよく見えなかった?」
 運転手「そうですね。しかも夜でしたし」
 愛原「そうですか……」

[同日15時30分 天候:曇 同町内某所 ペンション『いたち草』]

 車は国道から山道に逸れ、どんどん登って行った。
 そして、舗装はされているものの、車が1台通れる幅の道を進む。
 そんな山道を登り切った先に、その洋館風のペンションはあった。

 運転手「ここですかね?……昼間だと少し、雰囲気が違いますね」
 愛原「……うん、ここですよ」
 リサ「…………」

 リサも目を丸くした。
 料金を払い、領収証とお釣りをもらう時に……。

 運転手「もしお帰りの時にタクシーが必要でしたら、ここに電話してもらえれば迎えに行きますから」
 愛原「ありがとう。その時はまたお願いします」

 私達はタクシーを降りた。
 鉄門は開いており、その門柱には『ペンション いたち草』と書かれた木製の看板があった。
 やはり、ここで間違いないらしい。
 私はスマホを取り出すと、ペンションの外観と看板を撮影し、善場係長に到着した旨のメールを送った。

 愛原「ん?『圏外』!?」
 リサ「本当だ……。圏外だ……」

 スマホが圏外になっていた。
 そんなバカな!?
 確かに山奥ではあるが、麓の住宅地からそんなに離れているわけでもないのに!?
 これでは善場係長に定時連絡ができない。
 まあ、群馬原町駅に到着した際にしておいたし、電話くらいは中にあるだろうから、それで連絡はできるだろう。
 実際予約は電話でしたわけだし。
 もしかしたら、今風にWiFiもあるかも。
 そう考えながら、私達は門の中に入った。

 リサ「黄色い花が咲いてる」
 愛原「そうだな。……これはレンギョウだ。……そうか!いたち草って、レンギョウの別名だ!……でも、夏に咲く花だったかなぁ……?」

 私は首を傾げた。

 愛原「漢方薬の材料にもなるんだ、あのレンギョウは」
 リサ「ふーん……。イエローハーブみたいだね」
 愛原「なるほど。もしかしたら、それに近い作用があるかもしれないな」

 ん?イエローハーブなんてあったかな?
 傷や体力を回復させるグリーンハーブや、解毒作用のあるブルーハーブ、それぞれにブースター効果をもたらすレッドハーブなら知ってるが……。

 愛原「だいぶ昔、夜に来た時も、いたち草が一杯咲いてたんだ」

 私の脳裏に、長野県の洋館を訪れた時の記憶が蘇る。
 そんないたち草こと、レンギョウが咲き乱れる庭を通過し、私達は正面玄関に向かった。
 正面玄関のドアは閉じられていたが、『御用の方は、インターホンを押してください』と書かれていた。
 インターホンと言っても、最近あるカメラ付きのそれではない。
 ただのボタン。
 それを押すと、館内からブザーが聞こえて来た。
 どうやら押している間、ブザーが鳴るボタンらしい。
 何だか、やかましそうだ。
 しばらく待っていると、玄関のドアが内側から開き、そこから現れたのは……。

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