[3月27日18:10.羽田空港・国内線第2ターミナル到着口 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
「はー……やっと東京に帰ってきた……」
到着ロビーから出て来た3人。
「2泊3日の旅行なんですけど、結構長くいた感じですね」
「まあ、そういうものよ。どうやって、埼玉帰ろうか?」
「バスで帰りましょう。さすがに荷物も大きいですし……」
「あー、そうだねぇ……」
「ただ……ここ、第2ターミナルなんですよねぇ……」
「ん?」
「ちょっと移動しましょう」
ユタは荷物を持って、取りあえずバスターミナルへ向かった。
[同日18:20.第2ターミナル・バス乗り場 上記メンバー]
「一体、ユウタ君はどこへ行こうってんだい?」
「国際線ターミナルです」
「?」
「第2ターミナルは、リムジンバスが1番最後に乗客を乗せる所なんです。だからほら、見てください」
ユタはターミナルに発着する、色々な行き先のバスを指さした。
既に車内には、多くの乗客が乗っていた。
中には、長蛇の列ができている所に到着するバスもおり、乗り切れるのかと思うくらいである。
「なるほど。ギリギリだねぃ……」
「国際線ターミナルが始発なので、そこから乗ろうと思います。別にここから乗ろうが、国際線から乗ろうが、運賃は変わらないので」
「そうかい」
そこへ1台の循環バスがやってくる。
白い塗装に青いラインが入っていた。
「あ、これは違います。これは国際線ターミナルには行きません」
一応、行き先表示機だけでなく、ボディにもそのようにペイントしてある。
「無料でリムジンバスの始発場所まで行けて、そこから乗ってもここから乗っても運賃は変わらない。さすがユウタ君、よく調べてるねぃ……」
「旅客営業規則には引っ掛からない、合法的な裏技ですよ」
国内線ターミナル専用のバスをやり過ごして、しばらく待っていると、今度は
初音ミクの髪の色エメラルドグリーンに塗装されたバスがやってきた。
今度は国際線ターミナルと書かれている。
「じゃあ、乗りましょう」
前扉が両側に開く、グライド・スライドドアが特徴のノンステップバス。
『出入口』とは書かれているが、基本的にはここから乗る。
ターミナル間をぐるぐる回るだけのバスのせいか、中央部分の車椅子スペースの座席が跳ね上げられていた。
ここが車椅子用はもちろん、荷物置き場兼立ちスペースに使用される。
収納されていない中扉横のロングシートに座る。
ダイヤはあって無いようなもので、『この時間6分間隔』としか書いていない。
つまり、国際線ターミナル用のバスは2台で回しているということだ。
乗客の乗り降りが終わると、バスはすぐに発車した。
走り出すと、日本語放送はもちろん、英語から中国語、朝……韓国語が流れてくる。
「あとは国際線ターミナルから、リムジンバスに乗って帰るだけです」
「あー、そうかい。やーっと帰れるよ〜。せっかくのリラクゼーションだったのに、宗教テロリストと下着泥棒退治で疲れたしなぁ……」
「僕にとっては、あの状態なのに飛行機が20分だか30分遅れで済んだことが奇跡です」
「ユウタ君の日頃の行いがいいってことだよ〜」
(……ってか、ブルーが女湯突っ切ってきたことはスルーでいいのか???)
と、ユタは思った。
齢1000年の大魔道師なら、そんなの気にならないのだろうか。
[同日18:30.羽田空港・国際線ターミナル 上記メンバー]
国内線ターミナルよりかは静かな国際線ターミナル。
そこで、多くの外国人旅客と共にバスを降りた。
「それでは、リムジンバスのキップを買いませんと」
「ああ、頼むよ」
ターミナルの中に入って、リムジンバスの乗車券売り場へ向かう。
「今度の便で、大宮行き、大人3枚ください」
「かしこまりました。今度の便は19時ちょうど発でございます」
(お、30分後か。いいタイミングだな)
ユタは乗車券を3枚手にした。
「あと30分後ですね」
「ありがとう。マリアはユウタ君と一緒で……って、座席番号が書いてない」
「あ、座席は自由席なんですよ」
「あー、それでね。なるほど。アメリカのグレイハウンドと一緒か」
「それじゃ、行きましょう」
3人はバスの乗り場へ向かった。
[同日18:35.国際線ターミナル2F(バスターミナルの上) 上記メンバー]
バス乗り場に向かう途中、ソバ屋を発見する。
「師匠、お腹空いたから、あそこで何か食べていい?」
「あー、そう言えば夕食がまだだったねぃ……」
「ああいう所の店なら、注文してすぐに出て来るでしょう」
「ユウタ君がそう言うなら……。旅行最後の食事がおソバってのも、オツなものだねぇ……」
「ソバ以外にもうどんやラーメンもあるようです」
というわけで、そこで麺類を食べて行くことに……。
「ちくわ天ソバになりまーす」
「あ、どうもー」
「この滑らか且つコシのある食感は、さすがの私も気後れしてしまいます。……ちゅるん」
うどんを注文したイリーナだったが、何故か水晶球に向かってグルメリポート。
「師匠、誰に向かって話してるんです?」
「ポーリン」
「……本当は仲いいんじゃ?」
「どうだかねぇ……」
「男には分からない女の事情ってヤツですか?」
と、ユタが聞いた。
するとマリアはニヤッと笑って、
「いや、『若者には分からないBBAの事情』……」
「マリア、後で特別講義するから」
「はッ!?」
[同日18:55.羽田空港・国際線ターミナル1Fバス乗り場 上記メンバー]
「大宮行きが参りまーす。埼玉の大宮行きでーす」
始発のターミナルでは、だいたい発車の5分くらい前にやってくる。
やってきたのは、オレンジ色の塗装が目立つ東京空港交通のバス。
バスが到着すると、係員が側面の荷物室のハッチを開ける。
ユタ達も荷物を預けていた。
「あれ?イリーナさん達が来ないな……。まあ、いいか。先に乗っていよう」
2人の女魔道師は待合室隣のトイレに行っていた。
乗降ドアの横にあるLED表示機には、詳しい経由地が右から左に流れている。
フロント上の行き先表示は、ただ単に『大宮』と書かれているだけなのとは対照的だ。
ユタが乗り込もうとすると、
「あっ、もうバス来てるよー!」
「待ってください、師匠!」
魔道師2人がトイレから出て来た。
「じゃあ、乗りましょう」
乗車券の右端は切り取られて、残りを渡される。

(空港リムジンバスの乗車券。右端を切り取られて、乗客の手元に残ったもの)
車内はトイレが付いていて、首都高の渋滞でも安心である。
後ろの方に座った。
無論、ユタはマリアと隣。
ここから乗り込んだのは、ユタ達を除いても乗客が僅か5人程度であった。
そういった意味では、次に止まる第1ターミナルから乗る形でも良いのかもしれない。
まあ、そこはユタのこだわりということで。
発車の直前、係員が乗り込んできて、日本語やその他数ヶ国語で書かれた注意書きのボードを持って車内を一巡してくる。
まあ、シートベルトを着用してくれとか、空いている座席に荷物を置くなとか、そんな感じだ。
バスが定刻通りに発車すると、ターミナルの係員達が一斉にバスに向かってお辞儀した。
まずは第1ターミナルへ向かう。
ユタ達の後ろに座るイリーナは、既に座席を倒して爆睡モードに入ろうとしていた。
「確かに大宮駅西口で降りるつもりですけど、そこが終点じゃないんですよねぇ……」
「まあ、私が首に縄着けてでも引き起こすから大丈夫だよ」
「それなら安心ですね」
ユタはスマホからラジオのアプリを起動させた。
もちろん、イヤホン着けて。
チャンネルを回していると、ニュースが流れて来る。
バスの窓から外を見ると、昨夜と違い、空は晴れていない。
関東は夜に雨とのことで、もしかしたら、帰る最中に雨に当たる恐れがあった。
だが、ユタにとってはそんなの些細なことだった。
何故なら、
{「……北海道の新千歳空港でテロが発生した事件で、北海道警は“ケンショーレンジャー”と称する宗教テロリストを逮捕し、厳しい取り調べを行っておりますが、容疑者達は依然として意味不明なことをまくし立てており、精神鑑定も含めて……」}
というニュースが流れていたからである。
「洗脳状態でテロしても、『責任能力が無い』とか言って、無罪になるんでしょうか?」
ユタは隣にちょこんと座る、年上ながら自分より小柄な魔道師に聞いた。
「どうだかね。どうしても許せないのなら、私と同じ方法を取ればいいよ」
「復讐、ですか……」
「そう。所詮、法律というのは人間が作ったものだから、抜け穴だらけだ。だけど、魔法は違う。抜け穴なんて、存在しない」
{「……尚、“ケンショーレンジャー”が所属すると思われる宗教法人・顕正会では、『担当者がいないので、何も申し上げることはできません』と、コメントしています」}
「……でしょうね」
ユタの言葉はニュースに対してなのか、それともマリアの言葉に対してなのか……。
バスは2つの国内線ターミナルで乗客を全て乗せると、首都高速を北に向かって走り出した。
番外編(北海道編) 完