[9月6日18:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
稲生はアンナと別れ、自分の家に向かって歩いた。
稲生:「マリアさん!」
マリア:「勇太!どうした?先に家に着いているものと思ってたけど……?」
稲生:「あー……。ちょっと、色々ありまして……」
マリア:「?」
稲生:「取りあえず、中に入りましょう。後でお話しします」
アンナの言う通り、家は元の状態に戻っていた。
家の中に入ると、普通に母親が待っていた。
思ったよりも到着時間が遅かったことを指摘されたが、
稲生:「あー、ゴメン。ちょっと色々あって……」
マリア:「オ世話ニナリマス」
マリアはあえて自動翻訳魔法を使わず、自力で覚えた日本語で挨拶した。
[同日20:00.天候:晴 稲生家2F 勇太の自室]
稲生:「実はあの時、アナスタシア組のアンナって人と会ったんだです」
マリア:「アンナと会ったの!?」
やはりマリアは知っていたようで、とても驚いた顔をしていた。
マリア:「ちっ……!あの時、ただの裏方として来てただけかと思っていたけども、しっかり勇太をチェックしていたか……」
ワンスターホテルでの戦いの時は、会場設営・撤収要員として来てたアンナだった。
稲生:「マリアさんとは仲が悪いんですか?」
マリア:「いや、別にいいとも悪いとも言えない。そもそも、そんなに面識があるわけじゃないから。ただ、あいつの噂は聞いてる」
稲生:「えっ?」
マリア:「まあ……私も含めて、魔女とされる魔道師の女全員にほぼ言えることなんだけども、敵と見なした者……特に男に対しては、かなりエグい殺し方をする。それは勇太も見てただろう?」
稲生:「ええ……」
マリア:「例外無く、アンナもそうだってことさ」
稲生:「そうですか。アンナも人間時代は……」
マリア:「どんな目に遭ったのかは知らないけども、あいつのする話からして、多分、彼氏と思っていた男にヤり捨てられたんじゃないかと見ている」
稲生:「なるほど……。それはそれで辛いですねぇ……」
マリア:「まあ、よくある話だし、私の経験と比べれば軽い。多分、他にもあるんじゃないかと思うけども、そこはあまり詮索しないのが魔女同士の暗黙のルールだから」
稲生:「へえ……」
稲生は意外に思った。
そこは女同士、色々と根掘り葉掘り聞くようなイメージがあったからだ。
稲生:「で、僕は運良く助かったんですね?」
マリア:「ここに無事でいるってことは、そういうことになるな。他の魔女に気を使うようなヤツじゃないって話だから、私に気を使ったとも思えない。だから、純粋に勇太が助かったんだと思う」
稲生:「もしあの時、僕の運が悪かったら、どうなっていたんですか?」
マリア:「もちろん、死んでたさ。思いっ切り、苦しむやり方をされてね」
稲生:「ええっ?」
マリア:「あいつは勇太にどんな話をした?」
稲生はその時の話の内容を話した。
マリア:「勇太に対しては、そんな話をしたわけか……。なるほど」
稲生:「何で僕にあんな話をしたんでしょう?」
マリア:「それがあいつの魔法だからだよ」
稲生:「えっ?」
マリア:「あいつは殺すかもしれない対象に、又聞きという形で怖い話を聞かせる。聞く方は、臨場感を持たせたアンナの話に聞き入るヤツがほとんどだ。勇太もそうだったでしょ?」
稲生:「あ、はい。まるで目の前の出来事のようでした」
マリア:「勇太が聞いた話の結末は、危うく乱暴され掛けた女が男に対して必死の抵抗の末、殺してしまったという内容だ」
稲生:「はい、そうです」
マリア:「もし対象者を殺すとなったら、女は男のどこを刺したかを具体的に言う。例えば、『左の目を突き刺した』と言えば、対象者の左目に激痛が走る。そして最後には、まるでその刺された男と同じ場所をメッタ刺しにされたかのような傷を負って死ぬというわけだ」
稲生:「えー……」
マリア:「実は私、勇太が来る前にあいつの魔法に立ち会ったことがある。もっとも、その時は別の話をしていたけどね」
稲生:「別の話?」
マリア:「年下の男に振られてしまった女の話だよ。年上の女は嫌いと言い張っていた男を、その話から侵蝕させて殺していたね」
稲生:「……!("゚д゚)」
マリア:「勇太にその話をしなかったのは、既に私がいたからだと思う。ほら、私はあなたより年上だから。どうあっても、『年上の女は嫌い』なんて言えないでしょ?」
稲生:「な、なるほど……」
稲生は今更ながら、背筋が寒くなる思いだった。
マリア:「私も魔女だから偉そうなことは言えないけど、とにかく、ダンテ一門の魔女ってそういうヤツが多いんだ。だから、勇太も気をつけてほしい。多分もうアンナは、あなたを襲うことは無いと思うけど……」
稲生:(マリアさんを泣かしたり傷つけたり、乱暴しようとしたら、どこからともなく現れて、殺されるんだろうなぁ……)
稲生はマリアの言葉に頷きながらそう考えた。
[9月7日08:00.天候:晴 稲生家1Fダイニング]
今度は夜中に起こされることも無く、稲生は朝まで眠ることができた。
実家の自分の部屋だから、安心して深く眠れたのかもしれない。
マリア:「おはよう」
稲生:「おはようございます。もう起きてたんですね?」
マリア:「ついさっき。お母様はさっき出掛けられたよ」
稲生:「母も仕事してますからね」
マリア:「今日はどうする?」
稲生:「オーソドックスですが、映画でも観て、買い物して、それから前行った所の温泉でゆっくりしますか?今日の夜行便で出発しますからね」
稲生はそう言って、夜行バスのチケットを取り出した。
本当は電車で帰りたかった稲生だったが、今は白馬までの便利な列車があまり無い。
どうしても便利に行こうとすると、高速バスになってしまうのだ。
この辺りにも、鉄道の衰退化が垣間見えるのである。
稲生:「じゃ、取りあえず食べてから行きましょうね」
マリア:「ゆっくり食べてていいよ。私は師匠と定時連絡を取ってくるから」
マリアは縁の赤い眼鏡を掛けて、水晶球と魔道書を手に、奥の客間に向かって行った。
定時連絡には、昨日、稲生とアンナがやり取りしたことも報告するのだろう。
稲生はアンナと別れ、自分の家に向かって歩いた。
稲生:「マリアさん!」
マリア:「勇太!どうした?先に家に着いているものと思ってたけど……?」
稲生:「あー……。ちょっと、色々ありまして……」
マリア:「?」
稲生:「取りあえず、中に入りましょう。後でお話しします」
アンナの言う通り、家は元の状態に戻っていた。
家の中に入ると、普通に母親が待っていた。
思ったよりも到着時間が遅かったことを指摘されたが、
稲生:「あー、ゴメン。ちょっと色々あって……」
マリア:「オ世話ニナリマス」
マリアはあえて自動翻訳魔法を使わず、自力で覚えた日本語で挨拶した。
[同日20:00.天候:晴 稲生家2F 勇太の自室]
稲生:「実はあの時、アナスタシア組のアンナって人と会ったんだです」
マリア:「アンナと会ったの!?」
やはりマリアは知っていたようで、とても驚いた顔をしていた。
マリア:「ちっ……!あの時、ただの裏方として来てただけかと思っていたけども、しっかり勇太をチェックしていたか……」
ワンスターホテルでの戦いの時は、会場設営・撤収要員として来てたアンナだった。
稲生:「マリアさんとは仲が悪いんですか?」
マリア:「いや、別にいいとも悪いとも言えない。そもそも、そんなに面識があるわけじゃないから。ただ、あいつの噂は聞いてる」
稲生:「えっ?」
マリア:「まあ……私も含めて、魔女とされる魔道師の女全員にほぼ言えることなんだけども、敵と見なした者……特に男に対しては、かなりエグい殺し方をする。それは勇太も見てただろう?」
稲生:「ええ……」
マリア:「例外無く、アンナもそうだってことさ」
稲生:「そうですか。アンナも人間時代は……」
マリア:「どんな目に遭ったのかは知らないけども、あいつのする話からして、多分、彼氏と思っていた男にヤり捨てられたんじゃないかと見ている」
稲生:「なるほど……。それはそれで辛いですねぇ……」
マリア:「まあ、よくある話だし、私の経験と比べれば軽い。多分、他にもあるんじゃないかと思うけども、そこはあまり詮索しないのが魔女同士の暗黙のルールだから」
稲生:「へえ……」
稲生は意外に思った。
そこは女同士、色々と根掘り葉掘り聞くようなイメージがあったからだ。
稲生:「で、僕は運良く助かったんですね?」
マリア:「ここに無事でいるってことは、そういうことになるな。他の魔女に気を使うようなヤツじゃないって話だから、私に気を使ったとも思えない。だから、純粋に勇太が助かったんだと思う」
稲生:「もしあの時、僕の運が悪かったら、どうなっていたんですか?」
マリア:「もちろん、死んでたさ。思いっ切り、苦しむやり方をされてね」
稲生:「ええっ?」
マリア:「あいつは勇太にどんな話をした?」
稲生はその時の話の内容を話した。
マリア:「勇太に対しては、そんな話をしたわけか……。なるほど」
稲生:「何で僕にあんな話をしたんでしょう?」
マリア:「それがあいつの魔法だからだよ」
稲生:「えっ?」
マリア:「あいつは殺すかもしれない対象に、又聞きという形で怖い話を聞かせる。聞く方は、臨場感を持たせたアンナの話に聞き入るヤツがほとんどだ。勇太もそうだったでしょ?」
稲生:「あ、はい。まるで目の前の出来事のようでした」
マリア:「勇太が聞いた話の結末は、危うく乱暴され掛けた女が男に対して必死の抵抗の末、殺してしまったという内容だ」
稲生:「はい、そうです」
マリア:「もし対象者を殺すとなったら、女は男のどこを刺したかを具体的に言う。例えば、『左の目を突き刺した』と言えば、対象者の左目に激痛が走る。そして最後には、まるでその刺された男と同じ場所をメッタ刺しにされたかのような傷を負って死ぬというわけだ」
稲生:「えー……」
マリア:「実は私、勇太が来る前にあいつの魔法に立ち会ったことがある。もっとも、その時は別の話をしていたけどね」
稲生:「別の話?」
マリア:「年下の男に振られてしまった女の話だよ。年上の女は嫌いと言い張っていた男を、その話から侵蝕させて殺していたね」
稲生:「……!("゚д゚)」
マリア:「勇太にその話をしなかったのは、既に私がいたからだと思う。ほら、私はあなたより年上だから。どうあっても、『年上の女は嫌い』なんて言えないでしょ?」
稲生:「な、なるほど……」
稲生は今更ながら、背筋が寒くなる思いだった。
マリア:「私も魔女だから偉そうなことは言えないけど、とにかく、ダンテ一門の魔女ってそういうヤツが多いんだ。だから、勇太も気をつけてほしい。多分もうアンナは、あなたを襲うことは無いと思うけど……」
稲生:(マリアさんを泣かしたり傷つけたり、乱暴しようとしたら、どこからともなく現れて、殺されるんだろうなぁ……)
稲生はマリアの言葉に頷きながらそう考えた。
[9月7日08:00.天候:晴 稲生家1Fダイニング]
今度は夜中に起こされることも無く、稲生は朝まで眠ることができた。
実家の自分の部屋だから、安心して深く眠れたのかもしれない。
マリア:「おはよう」
稲生:「おはようございます。もう起きてたんですね?」
マリア:「ついさっき。お母様はさっき出掛けられたよ」
稲生:「母も仕事してますからね」
マリア:「今日はどうする?」
稲生:「オーソドックスですが、映画でも観て、買い物して、それから前行った所の温泉でゆっくりしますか?今日の夜行便で出発しますからね」
稲生はそう言って、夜行バスのチケットを取り出した。
本当は電車で帰りたかった稲生だったが、今は白馬までの便利な列車があまり無い。
どうしても便利に行こうとすると、高速バスになってしまうのだ。
この辺りにも、鉄道の衰退化が垣間見えるのである。
稲生:「じゃ、取りあえず食べてから行きましょうね」
マリア:「ゆっくり食べてていいよ。私は師匠と定時連絡を取ってくるから」
マリアは縁の赤い眼鏡を掛けて、水晶球と魔道書を手に、奥の客間に向かって行った。
定時連絡には、昨日、稲生とアンナがやり取りしたことも報告するのだろう。