報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「アナスタシアからの手紙」

2016-09-20 19:28:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月5日10:00.長野県北部某所・マリアの屋敷 稲生勇太]

 稲生:「まだまだ暑いなぁ……っと、まだ長野は涼しい方なのか」

 稲生は自室として与えられた部屋で、パソコンの画面を見ていた。
 ネットで天気予報を見ている。

 稲生:「っと!こうしてる場合じゃないな。弟子のうちは、何でも勉強勉強」

 稲生は自分の部屋を出ると、書庫に向かった。
 稲生に与えられている今の修行は、何故か魔道書が大量に保管されている書庫の整理であった。
 大魔道師の屋敷なのだから、それに関する書物が大量に保管されているのは必然。
 それにしても、その大事な書物の管理を新入り弟子にやらせるとは……。
 恐らく、料理人の世界においては、この世界に入った者が1番最初にやる仕事が皿洗いと同じ意味を持つのだろう。
 鍵も預かっている。
 昼間でも薄暗い館内であり、その雰囲気はホラーチックなものだ。
 だが住めば都とはよく言ったもので、今ではすっかり慣れてしまっている。
 マリアが魔法で操る人形くらいしか、不思議なモノは闊歩していないので。

 稲生:「うーん……。これも修行の一環なんだろうか?」

 稲生が資料室に入る度に、書庫は本が散乱している。
 多くはアルファベットで書かれているので、それを見てその順に整理すればいいのだが、中にはロシア語やラテン語のものもあり、それをアルファベットに翻訳するのも一苦労だ。

 稲生:「タイトルの書いていないものは、『Unknown』にしておこう」

 因みに魔道書の中で、タイトルの書いていない本(または非常に読みにくいもの)は、魔道師の間では危険な本扱いとなっている。
 呪いの書といっても良い。
 それを不用意に開くことは、死亡フラグ立てのバッドエンド直行だとされている。
 本自体が低級悪魔の化けたもので、それは相手が人間だろうと魔道師だろうと、その本を開いた者に対して牙を剥く。
 最近聞いた話では、それがいつしかバージョンアップして、VHSになったり、LDになったりしているらしい。
 今のところ、DVDやBDにまで化けれるようになったという話は聞かないが、しかしそうなるのも時間の問題だろう。
 書庫はほとんど窓が無いので、時計が無いと時間が全く分からない。
 この部屋自体もまたホラーチックな雰囲気であるが、さすがの稲生ももう慣れた。

 それから2時間後……。

 稲生:「えーと……これは、Gか。G……っと」

 ジリリリリリリ!

 稲生:「おわっ!?」

 突然、電話のベルが鳴った。
 この屋敷には、要所要所に電話機が置いてある。
 ……のだが、それが洋風の古めかしい黒電話だったりするものだから、いきなりその古めかしいベルが鳴り出すとびっくりする。
 それだけは、未だに慣れない。
 稲生は急いで脚立から下りると、すぐに電話を取った。

 稲生:「も、もしもし?」
 マリア:「あー、勇太。そろそろお昼の時間だぞ」
 稲生:「あ、はい。今行きます」

 稲生は電話を切った。
 それから資料室の外に出た。

 資料室内そのものが暗い部屋だったせいか、薄暗い廊下であっても、とても眩しく感じる。
 稲生はちゃんとこの屋敷の住人という扱いのおかげか、すんなりとマップ間移動……もとい、屋敷の中を移動できるが、もしも侵入者がこの屋敷を荒らそうとしてきた暁には、それこそホラーアドベンチャーのステージと化すだろうとの説明が稲生にされている。
 隣の部屋に行こうにも、鍵が掛かっているだけというのは序の口。
 仕掛けが施されていて、どこかでその仕掛けを解かないと開かないというドアもあったり。
 最悪、この屋敷からは生きて出られないというわけである。

 稲生は大食堂に向かった。
 大食堂の大きなテーブルでは、1度に10人以上の者が並んで食事ができるようになっているが、今は稲生とマリアの2人だけである。
 一応、この屋敷のオーナーはマリアということになってはいるが、それは名ばかりで、実際の主人はイリーナであり、マリアは住み込みの管理人というのが実情である。
 ほとんどイリーナが不在である為、管理権を委託されているというもの。

 稲生:「お待たせしました」
 マリア:「ああ、勇太。ご苦労さん。だいぶ、整理のスピードが早くなったみたいだな」
 稲生:「ええ。いい運動にもなりますよ」
 マリア:「魔道書は無駄に大きいからな」

 マリアの使役しているメイド人形が昼食を運んできた。
 どうやら今日は、パスタのようだ。
 稲生はミートソース、マリアはボンゴレだった。

 稲生:「いただきます」

 稲生がモクモクと食べていると、何かを思い出した。

 マリア:「なに?何か面白い話?」
 稲生:「ええ。実はこの前、大学の友達から電話があって……。東京に残っている友達同士で、合コンをやったそうです」
 マリア:「合コン?何だそれ?」
 稲生:「あー、えーと……。欧米では、よくホームパーティーやりますよね?」
 マリア:「やるね」
 稲生:「日本では、その習慣はあまり無いんです。その代わり、それを外の店でやるんですよ。居酒屋とか」
 マリア:「あー、なるほど。アウトドアのパーティーか。勇太を誘わないとは……薄情じゃないか」
 稲生:「まあ、僕は東京から離れたここに住んでますし……。で、面白いのは、このパスタなんですよ」
 マリア:「パスタ?」
 稲生:「バイキングって言って、日本には食べ放題の店があって、食べたい物を自分で取り分ける方式があるんです」
 マリア:「ああ。確か、ホテルのレストランで、朝食の時とかそんなのあったな」
 稲生:「参加した女性の中に、その大皿パスタを取り分けてくれないコがいたって、電話をくれた友達が怒ってましてね」
 マリア:「自分で取り分ければいいだろう。女にやらせるつもりか?というか、逆に取り分けてあげないのか?」

 ダンテ一門の中には、極端なフェミニストが存在する。
 そんな魔女にあっては、男の魔道師が存在すること自体に反対なのだそうだ。
 他門からも批判されるほど男女比率が偏っているダンテ一門、その理由はそこにある。
 マリアも一時期その仲間であったが、稲生との交流を経て、それは脱している。
 ……それに関するトラブルもあったわけだが。

 稲生:「僕もそう思ったんですが、真相はこうだったそうです」
 マリア:「?」
 稲生:「自分でその大皿パスタを独り占めにして、誰にも分けなかったんだそうです」
 マリア:「何人分ものパスタを1人で食べただって?」
 稲生:「はい」
 マリア:「……あー、それならその友人は怒って良し」
 稲生:「ホームパーティーでも、大皿に盛ったパスタを出してくる家があると思うんですが……」
 マリア:「うん。あるだろうね」
 稲生:「つまりはその女の子、それを誰にも分けずに1人で食べちゃったというわけです」
 マリア:「ダンテ一門のパーティーでそんなことしたら、黒コゲになるぞ」
 稲生:「ですよねぇ……。ホテルニューオータニの時だって、高い所にあった食べ物をアナスタシア先生が取ってくれましたし……」

 欧米人の率が9割を超えるダンテ一門においては、往々にして長身である者が多い。
 イリーナもそうだし、アナスタシアもそうだった。
 共に身長は175センチ超えである。
 ロシア人だから高いのだろうか。

 その時、エントランスホールの方から、メイド人形のダニエラがやってきた。
 常に無表情かつ無口であるが、時たま感情豊かな表情も見せることがある(それでも無口ではあるが)。
 手には午前中に届いた郵便物を持っている。
 郵便物の仕分けもメイド人形達が行っているが、多くはイリーナ宛のもの。
 残りはマリアと稲生宛であるが、その中に目を引く1通の手紙があった。

 稲生:「アナスタシア先生からですよ!?」
 マリア:「……うちの師匠宛じゃないのか?」

 マリアは不快そうな顔をした。

 稲生:「いや、僕達宛のようです。ほら、もしイリーナ先生宛だったら、ロシア人同士、ロシア語で書くものでしょう?これは日本語で書かれています」
 マリア:「大師匠様との約束を破って、勇太を勧誘か?後でうちの師匠に言い付けてやる!」
 稲生:「違うかもしれませんよ。いくら何でも、大師匠様との約束を破るなんてことは……。食べ終わった後で、確認してみます」
 マリア:「私も一緒に見る。大魔道師クラスが送って来る手紙だ。どんな魔法が仕掛けられてるか、分かったものじゃない」
 稲生:「そうですね」

 取りあえずは、昼食を先に済ませることにした。
コメント (4)
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“Gynoid Multitype Cindy” 「マルチタイプ、全機修理完了」

2016-09-20 11:19:54 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月5日15:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館]

 市街地から戻ってきた敷島。
 四季エンタープライズ東北支社との打ち合わせの後だった。
 担当の佐久間常務が殺された為、企画はお流れになる覚悟であったが、本社の方から既に決まっているものについてはそのまま続けるようにというお達しがやってきた。
 新しい担当者が代理で引き継いだこともあり、こちら側での企画は何とか進みそうだった。

 平賀:「あ、敷島さん」
 敷島:「平賀先生、どうですか?」
 平賀:「先ほどシンディを再起動しました。思ったより随分行けそうだったので、あとは動作のテストを行って異常が無ければ、もう大丈夫だと思います」
 敷島:「なるほど。さすが平賀先生です」
 平賀:「いやいや。既にウィルスが浄化されていたことが、何より1番大きな原因ですよ。そうそう。自分はちょっと手伝っただけだから、あまりよく知らないんです。初音ミクのことですよ。彼女に限らず、どのボーロカイドも電気信号を歌に換える機能は持ち合わせていますが、どうも昨日の事案からして、ミクだけが何か特別なものを持っていそうなんです。改めて、彼女を調べたいと思うんですよ」
 敷島:「設計図は?確か、設計図は先生にもお渡ししているはずですが……」
 平賀:「そうなんですが、それだけでは分かりません。いつもの検査だけでは分からないものを、南里先生は何か仕込んだのかもしれません」
 敷島:「あの所長なら、やりかねないことだけど……」
 平賀:「何とかなりませんでしょうか?」
 敷島:「と、言われても、ミクもうちのトップアイドルで、スケジュールがぎっしりだからなぁ……。あ」

 そこで敷島、思いつく。

 敷島:「今度、仙台でボーカロイド達によるビッグイベントを行うんですよ。さっきも、その打ち合わせで出ていたんですけどね。イベントといっても、その前後は予備日として空けることになっているんです。その時、ミクを調べることは可能ですよ」
 平賀:「分かりました」
 敷島:「MEIKOもKAITOも、所長の設計なんですよね?」
 平賀:「ええ。本来はボーカロイドとしての用途ではなかったようですが、自分がたまたま『歌を歌わせてみたら面白いんじゃないですか』と言ってみたら、『それじゃ!』なんて……」
 敷島:「お茶目なお爺さんでしたからねぇ……。でも、MEIKOとKAITOはどうしても試作機というイメージが強いですね」
 平賀:「まあ、確かに試作機ですけどね。しかし、あの2人からはミクのような電気信号とか、そういうのは無いようです。あるのは、実際にナンバリングが行われたミク以降です」

 便宜上、MEIKOには0号機、KAITOには00号機というナンバリングがされている。

 敷島:「なるほど。リン・レンやルカには、特殊な機能は無いんでしょうか?」
 平賀:「“東京決戦”の時や昨日の事例からして、今のところミクだけですね。ただ、エミリーも言っていたように、彼女らもまた相乗効果を生み出したことは間違い無いようですが……」
 敷島:「うーん……」
 平賀:「南里先生のことですから、けして悪いようにならないようになっているはずです」
 敷島:「増えるワカメを戻し過ぎて、大騒ぎするようなお爺さんですからねぇ……。で、その後、『それでモノは相談なんだが、このワカメ、元に戻せんかね?』なんて聞いてきやがりまして……」
 平賀:「あー……そういう先生でしたねぇ……」
 敷島:「あ、ところで先生、今夜空いてますか?」
 平賀:「ええ。どうしてですか?」
 敷島:「ルディには散々っぱら先手を打たれてはしまいましたが、ジャニスを倒したのは1つの勝利だと思うんですよ。それで、その……」
 平賀:「ああ。分かりました。御一緒しましょう」
 敷島:「ところで、うちのアリスは……?」
 平賀:「DCJさんの仙台営業所さんに呼ばれて、そっちに行ってますよ。何でも、今回の調査結果について知りたいんですって」
 敷島:「ジャニスとルディのことは、既に営業停止食らったアメリカ本体のこととはいえ、今回は日本で起きたことから、気が気で無いんでしょうね」
 平賀:「でしょうねぇ……」
 敷島:「私は個人的に、とっとと鉄塊にした方が良かったと思いますよ。あんなもん売れるわけが無い」
 平賀:「テロ組織からは引く手数多らしいですよ」
 敷島:「全く。でも、何故かイスラム過激派組織からの買い手は一切無いという……w」
 平賀:「人間でないものは使えない教義なんでしょうね。ほら、偶像崇拝禁止でしょ?」

 その為、買い手の付くテロ組織というのは極左系、極右系などになる。

 敷島:「確かにそうですね」

 その後、敷島はアリスに電話した。

 敷島:「……というわけで、平賀先生とプチ打ち上げやるから、お前も来いよ。帰りの新幹線は最終だな。『走る司令室』を貸してくれたDCJ仙台営業所さんにはお礼を言っておいたし……。……ああ、それじゃ、また」

 シンディの記録映像を見たが、無線には引っ切り無しに敷島達からの発狂無線が流れて来たし、ルディの幻と何度もボス戦を繰り広げるシーンがあった。
 ルディを倒したと思ったら、また復活し、また倒したと思ったら、またまた復活し……の繰り返しであった。
 これでは完全に潰れるのも当然だろう。

[同日21:40.天候:晴 JR仙台駅]

 市街地で打ち上げを終えた敷島達は、最終の新幹線に乗るべく、仙台駅に来ていた。

 敷島:「すいません、先生。わざわざ見送りに来て頂いて……」
 平賀:「いえ。自分は地下鉄とタクシーで帰りますから。こっちでのイベントの時、ミクの件、頼みますよ」
 敷島:「ええ、もちろんです」

 人間達が別れの挨拶をしている間、ロイド達もロイド達で挨拶を交わしていたようだ。
 アルエットはエミリーにひしっと抱きついたし、エミリーは頭をなでなでしてやっていた。
 因みに彼女達が望んでいた、『3人で合奏』という望みは叶えられていた。
 今日の夕方17時の演奏は、正に彼女達で合奏したのである。

 敷島:「おーい、そろそろ行くぞ」
 シンディ:「はい。アル、行くよ」

 シンディはアルエットの肩を叩いて、エミリーから放した。

 敷島:「それじゃ」
 平賀:「気をつけて」

 敷島達は新幹線改札口から中に入り、コンコースを通って、新幹線ホームへと上がった。

〔まもなく13番線に、“やまびこ”60号、東京行きが10両編成で参ります。この電車は途中、福島、郡山、宇都宮、大宮、上野に止まります。グリーン車は9号車、自由席は1号車から5号車です。13番線に、“やまびこ”60号、東京行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 アリス:「久しぶりにハイボール飲んだわ」
 敷島:「お前、何杯飲んだよ?」
 アリス:「覚えてナーイ」
 敷島:「あー、そうかよ」

〔「13番線、ご注意ください。21時47分発、“やまびこ”60号、東京行きの到着です。お下がりください。本日、東京行きの最終列車です。ご利用のお客様は、お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 今や東北新幹線では古参車両となったE2系が入線してきた。
 1番後ろの10号車の指定席特急券を持った敷島達にとっては、列車が巻き起こす風をまともに受けることになる。
 シンディはポニーテールの金髪がなびいたし、アルエットは裾の短いスカートを気にした。

〔「ご乗車ありがとうございました。仙台、仙台です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。13番線に到着の列車は……」〕

 盛岡始発の為、ここで下車する乗客もいるのだろう。
 だが夜の上り列車ということもあってか、列車全体が空いていて、特に10号車はほぼガラガラの状態で走っており、敷島達が乗車しようとするドアからは、誰も降りて来なかった。
 敷島達は列車に乗り込んだ。

 敷島:「俺とアリスで乗るから、お前達はそっちに乗ったらどうだ?」
 シンディ:「ええ」

 2人席を前後して指定されていた。
 もっとも、これは敷島が指定席券売機で指名買いしたものだ。
 シンディは重い荷物をヒョイと持ち上げて、それを荷棚の上に乗せた。
 そんなことしている間に、発車時間が迫る。
 発車メロディは『青葉場恋唄』をアレンジしたものだ。

 https://www.youtube.com/watch?v=9C-di_-jAak

〔「13番線、発車致します。お見送りのお客様、黄色い線までお下がりください。ドアが閉まります」〕

 ピー!という客終合図のアラームの音と共に、最終列車のドアが閉まる。
 加速と共に鳴り響くインバータの音は、どことなくボーカロイドの歌に聴こえなくもない……か?

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日も東北新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は“やまびこ”号、東京行きです。次は、福島に止まります。……〕

 敷島:「明日からやっと会社に行けそうだ。いい加減、そろそろ行かないと矢沢常務にブッ飛ばされる」
 アリス:「別に遊びで行ってたんじゃないんだから、いいじゃないの。社長自ら、東北のボカロイベントの取りまとめをしに行ってる体で通ってるんでしょう?」
 敷島:「その担当の1人が、理不尽に死んでんだ。向こうとしては、矛先が『もう1つの仕事』をしている俺に向けやすいってことさ」
 アリス:「それも理不尽ねぇ……」
 敷島:「そんなもんさ。もちろん、叔父さん……四季エンタープライズ本社の敷島社長はよくご存知だから、笑って許してくれるけどな。ボカロの売り上げで、ちゃんと親会社へは貢献してるんだから」
 アリス:「だからこそ余計に、急に不在になって、その尻拭いさせられる矢沢常務の矛先が……ね」
 敷島:「土産は常務の好きなニッカウヰスキーに、笹かまぼこでキマリだな」

 もちろん、敷島の頭上の荷物の中にそれは入っている。

〔「……大宮には23時18分、上野には23時38分、終点東京には23時44分の到着です。途中の大宮で、上越新幹線の最終列車“Maxたにがわ”475号、高崎行きに接続しております。……」〕

 アリス:「ねえ、もしかして、このまま科学館まで行くの?」
 敷島:「なワケないだろ。アルエットは、今日は家に泊めるさ。明日、オマエも科学館へ出勤だろ?その時、アルエットを連れて行けばいいだろう」
 アリス:「矢沢常務より、うちの西山館長の方がキレそうだよ」
 敷島:「ん?」
 アリス:「アルエットは科学館の人気者だから、それがしばらく不在だってことで、かなりストレスが溜まってるみたいだよ。そろそろ、タカオにクレームが行くかもね」
 敷島:「……!す、すいません!」
 車販嬢:「はい」(←たまたま通り掛かった)
 敷島:「笹かまぼこありますか!?」
 車販嬢:「お土産品ですね?こちらになります」
 敷島:「それ1つください」

 明らかに、西山館長に対するお詫びの品にする気マックスであった。
 で、

 アリス:「アタシ、牛タンジャーキーとハイボール」
 敷島:「まだ飲み食いするのかよ!?」
 アリス:「いいじゃない」
 敷島:「……牛タンジャーキーとハイボールもください」
 車販嬢:「ありがとうございます」
 敷島:「それとあなたもテイクアウト」
 車販嬢:「は?」

 スパーン!

 敷島:「ぶっ!」(←アリスに丸めた英字新聞で引っ叩かれた)
 アリス:「支払いは(当然、タカオの)Suicaで」
 車販嬢:「か、かしこまりました。ありがとうございます」
 敷島:「おまっ、本気で引っ叩くなよ……。冗談だよ!」
 アリス:「アタシにJapanese Jokeは通用しないから!」
 シンディ:「帰りは楽しい旅になるね」
 アルエット:「うん!」

 最終列車は夜の帳の中を、一路関東に向かって突き進む。
コメント (1)
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