報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「新型ウィルス」 2

2016-09-06 22:11:07 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月30日20:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 ホテル東横イン仙台西口広瀬通・客室]

 敷島は客室でアリスに電話をしていた。

 敷島:「……ああ。アルエット、だいぶやられたみたいで、修理に1週間掛かるらしいんだ。外側の損傷なんて、ほとんど無いのにな。体の中がやられたらしいんだ」
 アリス:「空気感染するコンピューターウィルスなんて、聞いたことないわ」
 敷島:「マーティの方はどうだ?転売したのはうちの会社だが、定期メンテはDCJでやってるわけだろう?臨時のメンテという名目でやらなかったのか?」
 アリス:「そりゃ、店側の都合もあるから、急には無理よ。でも、遠隔監視している分には、マーティには何も異常は出ていないわね。試しに店に電話して聞いてみたけど、マーティはちゃんと水槽の中で客に愛想を振り撒いていたってよ」
 敷島:「そうか」
 アリス:「ねぇ、本当にそのセキュリティトークンが犯人なの?」
 敷島:「って、佐久間教授が言ってる。佐久間夫妻のケガは大したことは無いんだが、精神的ショックが強かったんで、今そっち系の病棟で入院中だ」
 アリス:「そう……」
 敷島:「東京の方はどうだ?感染経路や原因が分からない以上、うちのボカロ達が心配だ」
 アリス:「今のところ何の異常も出ていないし、誰も不調を訴えていないわ。妖精ロイドの萌も、芋掘りロボットのゴンスケも通常稼働している」
 敷島:「ゴンスケの場合、どこまで正常なのか分からない所があるけどな。幸い、俺はこっち側のテレビ局や制作会社さんと打ち合わせがあるから、もうしばらく仙台に滞在する。こっち側で何か分かったら、サポート頼むよ」
 アリス:「分かったわ」

 因みにシンディも、敷島とアリスの会話を聞いている。

 アリス:「シンディ、タカオの“護衛”よろしくね?」
 シンディ:「かしこまりました。マスター」

 ここで電話を切る敷島。

 敷島:「今のところマルチタイプで感染していないのはお前だけだが、本当に大丈夫か?」
 シンディ:「ええ。さっきも試しに自己診断してみたけど、何の異常も無かったわ。姉さんとアルの共通の症状が、体が熱くなる所だっけ?別に今、そんな感じは無いしね」
 敷島:「いいか?すぐに体の具合がおかしいと思ったら、すぐに言うんだぞ?」
 シンディ:「ええ、もちろん」
 敷島:「よし、じゃ俺は仕事するから、お前は適当にその変にいてくれ」
 シンディ:「了解」

 因みに部屋はエコノミーダブル。
 といっても1つのベッドに同衾するのではなく、今は敷島の後ろに控えているだけだし、敷島が寝る時は充電しながら、椅子に座るだけである。
 今は警戒時であるから、横になっているよりは、椅子に座っていた方が何かあった時に動けやすいというわけだ。

[同日21:00.天候:晴 同ホテル・同客室]

 台風も過ぎ去り、仙台市上空には月も出ている。
 シンディがカーテンの隙間から、その月を見ていた。

 シンディ:「きれい……」
 敷島:「シンディ。ちょっとトイレだ」
 シンディ:「はい」

 敷島は席を立って、バスルームに入った。
 その後、しばらく月を眺めていたシンディだったが、机の上の敷島のスマホが鳴り出した。
 シンディはそのスマホに近づいた。
 ナンバーは全く知らぬ番号になっている。
 テレビ局や制作会社の関係者だろうか?
 シンディはそのスマホを取り、電話に出ようとした。
 が!

 シンディ:「!?」

 客室内の固定電話も鳴り出した。
 あいにくとこちらはナンバーディスプレイになっていないので、どこから掛かってきたものなのかは分からない。
 シンディ、一瞬フリーズする。
 どちらを取るべきなのか?

 1:スマホを取る。
 2:固定電話を取る。
 3:どちらも取らない。

 社長秘書としての役割も与えられているシンディとしては、社長離席中に社長のケータイに着信があったら、代わりにそれを取るのも任務であろう。
 だが何故かシンディはそれをせずに、固定電話の方を取った。

 シンディ:「はい、もしもし」
 フロント係:「夜分に恐れ入ります。こちらフロントでございます。東北工科大学の平賀太一様よりお電話がございまして、お繋ぎしてもよろしいでしょうか?」
 シンディ:「平賀博士から、ですか?……はい、お願いします」

 平賀からのようである。
 敷島のことだから、親しい平賀に宿泊先のホテルを伝えていたことは別に不自然ではない。
 しかしその平賀は敷島のケータイも知っているはずなのに、どうしてホテルの方に掛けて来たのだろう?

 平賀:「敷島さん!大変です!もしこれから、スマホに着信があっても絶対に出ないでください!」
 シンディ:「平賀博士、落ち着いて。一体、どうしたっていうの?」
 平賀:「シンディか!?今、敷島さんのスマホに着信があったよな!?」
 シンディ:「え、ええ。今は、切れたみたいだけど……」
 平賀:「しばらくの間、お前は出るんじゃないぞ!?」
 シンディ:「一体、どうしたっていうの?」
 平賀:「感染経路が分かったんだ。エミリーのヤツ、感染した時に電話に出てたんだ」
 シンディ:「電話?誰から?」
 平賀:「無言電話だったらしいんだ。どうやら、感染経路は空気感染というよりは、電話による通信感染かもしれん」
 シンディ:「電話に出て、どうやって?」
 平賀:「それは今後調査するが、どうやら佐久間博士の事件の際、千早というロイドも帰宅間際にどこかに電話していたらしいんだ。もしかしたら、電話が感染経路かもしれない」
 シンディ:「そうだったの……!確かに私、変な電話は受けていないわ。それでまだ感染していなかったのね。でも、アルはどうして感染しちゃったの?」
 平賀:「アルエットの場合は症状が違うから、別の感染経路または違うウィルスかもしれない。あと、タイプが違うというのもある」
 シンディ:「タイプ?」
 平賀:「千早と千夏はメイドロイドをベースにしたものだが、エミリーやアルエットはマルチタイプだ。そもそも体内の造りからして違う」
 シンディ:「ああ!」
 平賀:「アルエットの感染経路を調べる必要があるが、電話の受話器越しに何かウィルスを植え付ける方法があるみたいだから、お前はしばらく出ない方がいい。後で敷島さんにも、メールで送っておくから」
 シンディ:「了解よ。分かった。気をつける」

 シンディはそう言って、固定電話の受話器を置いた。

 シンディ:「とんでもない感染経路だったね。でも、参ったね。電話応対も、私の任務の1つだってのに」
 敷島:「何がだ?」

 やっとトイレから出て来た敷島。
 シンディは今、平賀からあった話をした。
 敷島は最初、信じられないといった顔をしていたが、その後に敷島のPCに送られて来たメールを見て、やっと信じたのだった。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「新型ウィルス」

2016-09-06 12:43:18 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月30日10:00.天候:暴風雨 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・新研究棟]

 台風が東北地方に直撃し、各地で混乱が起きている中、平賀の研究室は騒然となっていた。
 で、交通機関も乱れに乱れている中、何故かここに到着できた男がいた。
 敷島孝夫である。

 敷島:「うちのアルエットが故障だと聞いて、急いで駆け付けてきましたよ」
 平賀:「東北新幹線が止まっているというのに、どんな手段で来たのかはあえて聞きませんが、大変申し訳無いことをしてしまいました。まさか、あんなことになるとは……」
 敷島:「佐久間博士の実質的な損害としては、窓ガラスが破られたのと、あとは一部焼損ですかな?」
 平賀:「そうですね」
 敷島:「アルエットは何が悪いんですか?」
 平賀:「佐久間先生のレポートによると、あのセキュリティトークンは新型ウィルスの詰め物だったようですね」
 敷島:「人魚型ロイド、マーティの体の中から出て来たものですよ?」
 平賀:「そのマーティは?」
 敷島:「都内のシーフードレストランに転売しました。今頃は店内の大きな水槽で泳いでいると思います」
 平賀:「後で様子を調べてみてもらっていいですか?」
 敷島:「分かりました。それで、アルエットは?」
 平賀:「ソフトウェアがメチャクチャになってます。履歴を調べてみたら、前の設計だった頃に設定された人格が出て来たようで……」
 敷島:「前の設計?」
 平賀:「十条達夫博士は、どうやらアルエットを女の子としてではなく、男の子として作るつもりだったようです。ビリーという名前でね。だけど、重大な欠陥が見つかった為に、性別から作り変えたとのことです」
 敷島:「へえ……」
 平賀:「どうやら、ルディとはまた違った凶暴な性格になってしまったようです。それで、変えたのでしょう」
 敷島:「それで、アルエットは直るんですか?」
 平賀:「取りあえず、ソフトウェアから何から全て一新する必要があります。起動テストも含めて、1週間ほどお預かりすることになりそうです」
 敷島:「1週間!どうしよう?科学館さんに何て言えば……」
 平賀:「ウィルスに感染させたまま返すわけにもいかないでしょう。しかもこのウィルス、とんでもないヤツらしいです」
 敷島:「とんでもないヤツ?」
 平賀:「佐久間先生の解析によると、空気感染するらしいです」
 敷島:「空気感染!?だって、コンピューターウィルスでしょ!?私らも感染するんですか?」
 平賀:「いや、そんなことはありませんよ。問題なのはロイドは感染しても、普通のPCには感染しないということです。恐らく、ロイドの使う人工知能に何か影響を出すものなのだろうと思われるが、それにしたって『空気感染』する理由が分からない」
 敷島:「ジャニスとルディの行方も分からないままですし、何だか真相が分かりませんね」
 平賀:「そこですよ。感染した原因が分からないと、そもそも今感染しているウィルスを駆除しても、また感染してしまう」
 敷島:「分かりました。取りあえず、大元のマーティを調べてみましょう。そもそもどうして彼女があのセキュリティートークンを持っていたのかが、そもそも謎なわけですから」
 平賀:「お願いします」
 敷島:「その前に、この台風が過ぎ去ってからですが……」

 敷島は窓の外を見て言った。

 平賀:「よくここまで来れましたねぇ……」
 敷島:「いえ、何の何の」
 平賀:「あ、エミリーは直りましたので大丈夫です。……エミリーも、ウィルスに感染していたようです」
 敷島:「ええっ?」
 平賀:「おかしい話です。あいつは今、記念館暮らしで、あまり外に出ないのに……。しかも、症状は軽かったんですよ」
 敷島:「エミリーは調べなかったんですか?どこで感染したとか……」
 平賀:「感染したと思われる日時は分かったんですが、どこをどう調べても何も無いんですよ」
 敷島:「えっ?」
 平賀:「感染したと思われる時、あいつは普通に記念館内の掃除をしていたんです。……ね?とても感染しそうな状況じゃないでしょう?」
 敷島:「その時、来客とかは?」
 平賀:「ありません。ソフトウェアの更新もありませんでした」
 敷島:「怖い話ですね。それじゃ、うちのシンディもいつ感染することやら……」
 平賀:「そういうことになります」

[同日17:00.天候:雨 東北工科大学・南里志郎記念館]

 台風が去って行き、ようやく周辺は普通の雨くらいになった。
 帰る前にせっかくなので、記念館内でエミリーとシンディが合奏を行う。
 エミリーがピアノで副旋律を弾き、シンディがフルートで主旋律を吹く。
 そして1曲演奏が終わると、敷島と平賀は拍手を送った。

 エミリー:「ありがとう・ございます。シンディと・演奏できて・うれしいです」
 シンディ:「私もだよ。だけど、アルエットととも一緒にやりたかったね」
 敷島:「いずれ、『マルチタイプの演奏会』なんてやってみようかと思うよ」
 平賀:「いいですねぇ……」
 敷島:「それにはまず、アルエットが直らないと……ですが」
 平賀:「頑張って直します」

 最後に敷島は、アルエットが修理されている研究棟新館に戻った。
 シンディは感染防止の観点から、アルエットと会うことはできない。
 敷島だけが中に入ることができた。

 敷島:「まるで、病院のICUですな」
 平賀:「エミリーもそうですが、アルエットも感染の経路が分からない以上、徹底的に調べる必要がありますので……」
 敷島:「なるほど。差し当たり、その危険な人格というのは……?」
 平賀:「はい。それは完全に消去しました。しかし、変なのは、今までちゃんと消去されていたのに、どうして今になって復元されたかなんですよ。それもウィルスのせいだって言ってしまえばそれまでですが、本当によく分かりません」
 敷島:「困ったものですね。時系列的に、ジャニスとルディがDCJの研究所を脱走した時からですから、あいつらを取っ捕まえて、吐かせれば何か出て来そうなものですね」
 平賀:「ええ。自分を襲った後、一体どこへ消えたのやら……」

 2人の人間は、すっかり首を傾げてしまった。
コメント (6)
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