[8月30日20:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 ホテル東横イン仙台西口広瀬通・客室]
敷島は客室でアリスに電話をしていた。
敷島:「……ああ。アルエット、だいぶやられたみたいで、修理に1週間掛かるらしいんだ。外側の損傷なんて、ほとんど無いのにな。体の中がやられたらしいんだ」
アリス:「空気感染するコンピューターウィルスなんて、聞いたことないわ」
敷島:「マーティの方はどうだ?転売したのはうちの会社だが、定期メンテはDCJでやってるわけだろう?臨時のメンテという名目でやらなかったのか?」
アリス:「そりゃ、店側の都合もあるから、急には無理よ。でも、遠隔監視している分には、マーティには何も異常は出ていないわね。試しに店に電話して聞いてみたけど、マーティはちゃんと水槽の中で客に愛想を振り撒いていたってよ」
敷島:「そうか」
アリス:「ねぇ、本当にそのセキュリティトークンが犯人なの?」
敷島:「って、佐久間教授が言ってる。佐久間夫妻のケガは大したことは無いんだが、精神的ショックが強かったんで、今そっち系の病棟で入院中だ」
アリス:「そう……」
敷島:「東京の方はどうだ?感染経路や原因が分からない以上、うちのボカロ達が心配だ」
アリス:「今のところ何の異常も出ていないし、誰も不調を訴えていないわ。妖精ロイドの萌も、芋掘りロボットのゴンスケも通常稼働している」
敷島:「ゴンスケの場合、どこまで正常なのか分からない所があるけどな。幸い、俺はこっち側のテレビ局や制作会社さんと打ち合わせがあるから、もうしばらく仙台に滞在する。こっち側で何か分かったら、サポート頼むよ」
アリス:「分かったわ」
因みにシンディも、敷島とアリスの会話を聞いている。
アリス:「シンディ、タカオの“護衛”よろしくね?」
シンディ:「かしこまりました。マスター」
ここで電話を切る敷島。
敷島:「今のところマルチタイプで感染していないのはお前だけだが、本当に大丈夫か?」
シンディ:「ええ。さっきも試しに自己診断してみたけど、何の異常も無かったわ。姉さんとアルの共通の症状が、体が熱くなる所だっけ?別に今、そんな感じは無いしね」
敷島:「いいか?すぐに体の具合がおかしいと思ったら、すぐに言うんだぞ?」
シンディ:「ええ、もちろん」
敷島:「よし、じゃ俺は仕事するから、お前は適当にその変にいてくれ」
シンディ:「了解」
因みに部屋はエコノミーダブル。
といっても1つのベッドに同衾するのではなく、今は敷島の後ろに控えているだけだし、敷島が寝る時は充電しながら、椅子に座るだけである。
今は警戒時であるから、横になっているよりは、椅子に座っていた方が何かあった時に動けやすいというわけだ。
[同日21:00.天候:晴 同ホテル・同客室]
台風も過ぎ去り、仙台市上空には月も出ている。
シンディがカーテンの隙間から、その月を見ていた。
シンディ:「きれい……」
敷島:「シンディ。ちょっとトイレだ」
シンディ:「はい」
敷島は席を立って、バスルームに入った。
その後、しばらく月を眺めていたシンディだったが、机の上の敷島のスマホが鳴り出した。
シンディはそのスマホに近づいた。
ナンバーは全く知らぬ番号になっている。
テレビ局や制作会社の関係者だろうか?
シンディはそのスマホを取り、電話に出ようとした。
が!
シンディ:「!?」
客室内の固定電話も鳴り出した。
あいにくとこちらはナンバーディスプレイになっていないので、どこから掛かってきたものなのかは分からない。
シンディ、一瞬フリーズする。
どちらを取るべきなのか?
1:スマホを取る。
2:固定電話を取る。
3:どちらも取らない。
社長秘書としての役割も与えられているシンディとしては、社長離席中に社長のケータイに着信があったら、代わりにそれを取るのも任務であろう。
だが何故かシンディはそれをせずに、固定電話の方を取った。
シンディ:「はい、もしもし」
フロント係:「夜分に恐れ入ります。こちらフロントでございます。東北工科大学の平賀太一様よりお電話がございまして、お繋ぎしてもよろしいでしょうか?」
シンディ:「平賀博士から、ですか?……はい、お願いします」
平賀からのようである。
敷島のことだから、親しい平賀に宿泊先のホテルを伝えていたことは別に不自然ではない。
しかしその平賀は敷島のケータイも知っているはずなのに、どうしてホテルの方に掛けて来たのだろう?
平賀:「敷島さん!大変です!もしこれから、スマホに着信があっても絶対に出ないでください!」
シンディ:「平賀博士、落ち着いて。一体、どうしたっていうの?」
平賀:「シンディか!?今、敷島さんのスマホに着信があったよな!?」
シンディ:「え、ええ。今は、切れたみたいだけど……」
平賀:「しばらくの間、お前は出るんじゃないぞ!?」
シンディ:「一体、どうしたっていうの?」
平賀:「感染経路が分かったんだ。エミリーのヤツ、感染した時に電話に出てたんだ」
シンディ:「電話?誰から?」
平賀:「無言電話だったらしいんだ。どうやら、感染経路は空気感染というよりは、電話による通信感染かもしれん」
シンディ:「電話に出て、どうやって?」
平賀:「それは今後調査するが、どうやら佐久間博士の事件の際、千早というロイドも帰宅間際にどこかに電話していたらしいんだ。もしかしたら、電話が感染経路かもしれない」
シンディ:「そうだったの……!確かに私、変な電話は受けていないわ。それでまだ感染していなかったのね。でも、アルはどうして感染しちゃったの?」
平賀:「アルエットの場合は症状が違うから、別の感染経路または違うウィルスかもしれない。あと、タイプが違うというのもある」
シンディ:「タイプ?」
平賀:「千早と千夏はメイドロイドをベースにしたものだが、エミリーやアルエットはマルチタイプだ。そもそも体内の造りからして違う」
シンディ:「ああ!」
平賀:「アルエットの感染経路を調べる必要があるが、電話の受話器越しに何かウィルスを植え付ける方法があるみたいだから、お前はしばらく出ない方がいい。後で敷島さんにも、メールで送っておくから」
シンディ:「了解よ。分かった。気をつける」
シンディはそう言って、固定電話の受話器を置いた。
シンディ:「とんでもない感染経路だったね。でも、参ったね。電話応対も、私の任務の1つだってのに」
敷島:「何がだ?」
やっとトイレから出て来た敷島。
シンディは今、平賀からあった話をした。
敷島は最初、信じられないといった顔をしていたが、その後に敷島のPCに送られて来たメールを見て、やっと信じたのだった。
敷島は客室でアリスに電話をしていた。
敷島:「……ああ。アルエット、だいぶやられたみたいで、修理に1週間掛かるらしいんだ。外側の損傷なんて、ほとんど無いのにな。体の中がやられたらしいんだ」
アリス:「空気感染するコンピューターウィルスなんて、聞いたことないわ」
敷島:「マーティの方はどうだ?転売したのはうちの会社だが、定期メンテはDCJでやってるわけだろう?臨時のメンテという名目でやらなかったのか?」
アリス:「そりゃ、店側の都合もあるから、急には無理よ。でも、遠隔監視している分には、マーティには何も異常は出ていないわね。試しに店に電話して聞いてみたけど、マーティはちゃんと水槽の中で客に愛想を振り撒いていたってよ」
敷島:「そうか」
アリス:「ねぇ、本当にそのセキュリティトークンが犯人なの?」
敷島:「って、佐久間教授が言ってる。佐久間夫妻のケガは大したことは無いんだが、精神的ショックが強かったんで、今そっち系の病棟で入院中だ」
アリス:「そう……」
敷島:「東京の方はどうだ?感染経路や原因が分からない以上、うちのボカロ達が心配だ」
アリス:「今のところ何の異常も出ていないし、誰も不調を訴えていないわ。妖精ロイドの萌も、芋掘りロボットのゴンスケも通常稼働している」
敷島:「ゴンスケの場合、どこまで正常なのか分からない所があるけどな。幸い、俺はこっち側のテレビ局や制作会社さんと打ち合わせがあるから、もうしばらく仙台に滞在する。こっち側で何か分かったら、サポート頼むよ」
アリス:「分かったわ」
因みにシンディも、敷島とアリスの会話を聞いている。
アリス:「シンディ、タカオの“護衛”よろしくね?」
シンディ:「かしこまりました。マスター」
ここで電話を切る敷島。
敷島:「今のところマルチタイプで感染していないのはお前だけだが、本当に大丈夫か?」
シンディ:「ええ。さっきも試しに自己診断してみたけど、何の異常も無かったわ。姉さんとアルの共通の症状が、体が熱くなる所だっけ?別に今、そんな感じは無いしね」
敷島:「いいか?すぐに体の具合がおかしいと思ったら、すぐに言うんだぞ?」
シンディ:「ええ、もちろん」
敷島:「よし、じゃ俺は仕事するから、お前は適当にその変にいてくれ」
シンディ:「了解」
因みに部屋はエコノミーダブル。
といっても1つのベッドに同衾するのではなく、今は敷島の後ろに控えているだけだし、敷島が寝る時は充電しながら、椅子に座るだけである。
今は警戒時であるから、横になっているよりは、椅子に座っていた方が何かあった時に動けやすいというわけだ。
[同日21:00.天候:晴 同ホテル・同客室]
台風も過ぎ去り、仙台市上空には月も出ている。
シンディがカーテンの隙間から、その月を見ていた。
シンディ:「きれい……」
敷島:「シンディ。ちょっとトイレだ」
シンディ:「はい」
敷島は席を立って、バスルームに入った。
その後、しばらく月を眺めていたシンディだったが、机の上の敷島のスマホが鳴り出した。
シンディはそのスマホに近づいた。
ナンバーは全く知らぬ番号になっている。
テレビ局や制作会社の関係者だろうか?
シンディはそのスマホを取り、電話に出ようとした。
が!
シンディ:「!?」
客室内の固定電話も鳴り出した。
あいにくとこちらはナンバーディスプレイになっていないので、どこから掛かってきたものなのかは分からない。
シンディ、一瞬フリーズする。
どちらを取るべきなのか?
1:スマホを取る。
2:固定電話を取る。
3:どちらも取らない。
社長秘書としての役割も与えられているシンディとしては、社長離席中に社長のケータイに着信があったら、代わりにそれを取るのも任務であろう。
だが何故かシンディはそれをせずに、固定電話の方を取った。
シンディ:「はい、もしもし」
フロント係:「夜分に恐れ入ります。こちらフロントでございます。東北工科大学の平賀太一様よりお電話がございまして、お繋ぎしてもよろしいでしょうか?」
シンディ:「平賀博士から、ですか?……はい、お願いします」
平賀からのようである。
敷島のことだから、親しい平賀に宿泊先のホテルを伝えていたことは別に不自然ではない。
しかしその平賀は敷島のケータイも知っているはずなのに、どうしてホテルの方に掛けて来たのだろう?
平賀:「敷島さん!大変です!もしこれから、スマホに着信があっても絶対に出ないでください!」
シンディ:「平賀博士、落ち着いて。一体、どうしたっていうの?」
平賀:「シンディか!?今、敷島さんのスマホに着信があったよな!?」
シンディ:「え、ええ。今は、切れたみたいだけど……」
平賀:「しばらくの間、お前は出るんじゃないぞ!?」
シンディ:「一体、どうしたっていうの?」
平賀:「感染経路が分かったんだ。エミリーのヤツ、感染した時に電話に出てたんだ」
シンディ:「電話?誰から?」
平賀:「無言電話だったらしいんだ。どうやら、感染経路は空気感染というよりは、電話による通信感染かもしれん」
シンディ:「電話に出て、どうやって?」
平賀:「それは今後調査するが、どうやら佐久間博士の事件の際、千早というロイドも帰宅間際にどこかに電話していたらしいんだ。もしかしたら、電話が感染経路かもしれない」
シンディ:「そうだったの……!確かに私、変な電話は受けていないわ。それでまだ感染していなかったのね。でも、アルはどうして感染しちゃったの?」
平賀:「アルエットの場合は症状が違うから、別の感染経路または違うウィルスかもしれない。あと、タイプが違うというのもある」
シンディ:「タイプ?」
平賀:「千早と千夏はメイドロイドをベースにしたものだが、エミリーやアルエットはマルチタイプだ。そもそも体内の造りからして違う」
シンディ:「ああ!」
平賀:「アルエットの感染経路を調べる必要があるが、電話の受話器越しに何かウィルスを植え付ける方法があるみたいだから、お前はしばらく出ない方がいい。後で敷島さんにも、メールで送っておくから」
シンディ:「了解よ。分かった。気をつける」
シンディはそう言って、固定電話の受話器を置いた。
シンディ:「とんでもない感染経路だったね。でも、参ったね。電話応対も、私の任務の1つだってのに」
敷島:「何がだ?」
やっとトイレから出て来た敷島。
シンディは今、平賀からあった話をした。
敷島は最初、信じられないといった顔をしていたが、その後に敷島のPCに送られて来たメールを見て、やっと信じたのだった。