[8月29日21:00.天候:曇 宮城県仙台市泉区 佐久間家]
アルエットは誰もいない佐久間家の中で、バラバラになった千早の残骸を発見した。
残った頭部はアルエットの姿を見つけると、この家から逃げるように言い残して完全に壊れた。
しかしアルエットは、この家からは出なかった。
まず、肝心のセキュリティトークンの回収がまだだったし、それに……。
アルエット:「開かない……か」
玄関のドアは固く閉ざされていたからだ。
どういうわけだか、内鍵も開かなくなっている。
アルエットの力をもってしても、だ。
アルエット:「外へ脱出するのは不可能、か……。それ以前に、セキュリティトークンを見つけない限り、任務完了とは言えないよね」
アルエットはそう思って、再びリビングを通ってダイニングに向かった。
すると、ダイニングの向こうの部屋から女性の叫び声が聞こえた。
???:「千夏ちゃん!もうこんなことはやめて!!」
アルエット:「!?」
アルエットは声のした部屋のドアへ駆け寄った。
あの鍵の掛かっていたドアだ。
いっそのこと、アルエットのマルチタイプの力を発動してこじ開けようか。
そう思ったが、千早の部屋で見つけた鍵を差し込んでみた。
そしたら、ドアが開いた。
アルエットが部屋に飛び込むと、そこはベッドが2つ並んだ佐久間夫妻の寝室のようだった。
アルエットの目に飛び込んできたのは、ベッドの上に座り込む中年女性が1人と、追い詰めるようにして包丁を突き付けている幼女の姿だった。
アルエットのデータがすぐに、その2人を照合する。
1人は佐久間弥生、そして包丁を持っている方は千夏である。
千夏は包丁を振り上げた。
アルエット:「やめて!」
アルエットは咄嗟に、千夏に体当たり。
ロイドとはいえアルエットよりも更に小柄な幼女のせいか、簡単に吹き飛んで倒れた。
アルエット:「早く、ここから逃げてください!」
弥生:「あ………ああ………!」
アルエットが逃げるように言うも、腰が抜けているのか、立ち上がれないでいる。
千夏:「きゃはははははははははははは!!」
千夏は狂った笑いを浮かべると、立ち上がって包丁を構え、今度はアルエットに突進してきた。
包丁がアルエットの右脇腹に突き刺さる。
アルエット:「無駄よ。私はマルチタイプ。あなた達より、もっと頑丈なの」
その通り、包丁の刃の方が折れてしまった。
アルエット:「いい加減に、諦めなさい。まさかとは思うけど、千早さんをバラバラしたのはあなた?」
これが経験を積んでいるエミリーやシンディなら、もう少し間合いを取っていただろう。
そうではないアルエットは油断して、千早に近づいた。
千夏:「きゃはははははははははははは!!こーわーしーてーやーるー!」
千夏はスカートのポケットから、あるものを取り出した。
それはスタンガン。
アルエット:「きゃっ!!」
アルエットはそれをまともに食らって感電した。
アルエットを遠隔監視している端末を誰が持っているのかはここでは不明だが、今頃は警告音が鳴り響いていることだろう。
『ソフトウェアに重大なトラブルが発生しました。直ちに本体を確認してください』
『性格設定に重大な不具合が発生しました。直ちに確認ください』
『人格設定異常です。ソフトウェアに重大な不具合が発生している恐れがあります。直ちに管理者にお問い合わせください』
アルエットが倒れたのを確認した千夏は、再び弥生に向き直り、
千夏:「こーろーしーてーやーるー」
弥生に飛び掛かって、首を絞め上げた。
だが、アルエットが起き上がった。
千夏:「……?……ぎゃっ!!」
アルエット:「……クソガキ。フザけんじゃねぇぞ」
アルエットは千夏の首根っこを掴んで、軽々と持ち上げた。
アルエット:「おい、ババァ。何やってんだ?早く逃げろよ」
弥生:「……!!」
弥生はようやく這うようにして、寝室から出て行った。
千夏:「はーなーせー!はーなーせー!」
アルエット:「ああ。いいぜ。ほらよっ!!」
アルエットは寝室の窓ガラスに、千早を頭から突っ込ませた。
千早:「ぎゃっ!!」
アルエット:「ガキ。ここでシャットダウンしてろ。次に会った時は……オレがバラバラにしてやる……!」
アルエットは寝室を出ようとした。
その時、部屋の片隅に何かを見つけた。
アルエット:「これは……セキュリティトークン?……いや、アルエットが探しているヤツじゃねぇな。……こいつはオレのだ」
アルエットとは違う設定の人格は、そのセキュリティトークンを飲み込んだ。
『人格設定、復旧しました。念の為、再起動をお勧めします』
アルエット:「う……。なに?今の……?何があったの……?」
千夏:「きゃはははははははははは!!」
その時、背後から狂った笑みを浮かべた千夏が追い掛けて来た。
アルエット:「千夏ちゃん!」
???:(メンドくせぇ。おい、アルエット。鍵持ってんだろ?そのクソガキ、部屋に閉じ込めてやれ)
アルエットの頭の中に話し掛ける者がいた。
アルエット:「誰!?」
???:「いいから早くしろ!!」
アルエット:「!!!」
アルエットはドアを閉めると、外側から鍵を掛けた。
???:「鍵はそのまま差しっぱだ!その鍵は外から鍵を差しとけば、内鍵が回らねぇ仕組みになってる!」
アルエット:「そうなの!?」
どうやら、その通りのようだった。
外側から鍵穴に鍵を差したままにしておくと、錠が引っ掛かったままになるのか、寝室側の内鍵が回らないようであった。
千夏は閉じ込められても、外から狂った笑いを止めようとはしなかった。
???:「ちっ。ガキの声がカンに障る……!」
アルエット:「あなたは一体、誰なの?」
???:「テメェの製作者にでも聞いてみやがれ。お前は本当は、男として作られるはずだったんだよ」
アルエット:「ええっ!?……でも、十条達夫博士はお亡くなりになったのよ?もう聞けないよ」
???:「あのクソジジィ、くたばったのか。ざまぁみろだな」
アルエット:「私が男の子として作られるはずだったってことは、あなたは……」
???:「そうだ。俺がその体を使う“人格”として作られたソフトウェアだよ。急遽、『やっぱ女の子がいい』だと?あの野郎……!」
アルエット:「私、探し物があるから、それを探すね」
???:「勝手にしろ。それと、1つアドバイスだ。もしお前に敵対するヤツがいた場合、それがロイドでも人間でも容赦するんじゃねぇぜ?」
アルエット:「えっ?」
???:「ま、イザとなったら、俺が出てきて戦ってやる。テメェのセキュリティトークンを吐き出せばいい」
アルエット:(後で余計面倒なことになりそうだから、なるべく出さない方が良さそうね)
アルエットはそう思って、ダイニングからリビングへと向かった。
アルエットは誰もいない佐久間家の中で、バラバラになった千早の残骸を発見した。
残った頭部はアルエットの姿を見つけると、この家から逃げるように言い残して完全に壊れた。
しかしアルエットは、この家からは出なかった。
まず、肝心のセキュリティトークンの回収がまだだったし、それに……。
アルエット:「開かない……か」
玄関のドアは固く閉ざされていたからだ。
どういうわけだか、内鍵も開かなくなっている。
アルエットの力をもってしても、だ。
アルエット:「外へ脱出するのは不可能、か……。それ以前に、セキュリティトークンを見つけない限り、任務完了とは言えないよね」
アルエットはそう思って、再びリビングを通ってダイニングに向かった。
すると、ダイニングの向こうの部屋から女性の叫び声が聞こえた。
???:「千夏ちゃん!もうこんなことはやめて!!」
アルエット:「!?」
アルエットは声のした部屋のドアへ駆け寄った。
あの鍵の掛かっていたドアだ。
いっそのこと、アルエットのマルチタイプの力を発動してこじ開けようか。
そう思ったが、千早の部屋で見つけた鍵を差し込んでみた。
そしたら、ドアが開いた。
アルエットが部屋に飛び込むと、そこはベッドが2つ並んだ佐久間夫妻の寝室のようだった。
アルエットの目に飛び込んできたのは、ベッドの上に座り込む中年女性が1人と、追い詰めるようにして包丁を突き付けている幼女の姿だった。
アルエットのデータがすぐに、その2人を照合する。
1人は佐久間弥生、そして包丁を持っている方は千夏である。
千夏は包丁を振り上げた。
アルエット:「やめて!」
アルエットは咄嗟に、千夏に体当たり。
ロイドとはいえアルエットよりも更に小柄な幼女のせいか、簡単に吹き飛んで倒れた。
アルエット:「早く、ここから逃げてください!」
弥生:「あ………ああ………!」
アルエットが逃げるように言うも、腰が抜けているのか、立ち上がれないでいる。
千夏:「きゃはははははははははははは!!」
千夏は狂った笑いを浮かべると、立ち上がって包丁を構え、今度はアルエットに突進してきた。
包丁がアルエットの右脇腹に突き刺さる。
アルエット:「無駄よ。私はマルチタイプ。あなた達より、もっと頑丈なの」
その通り、包丁の刃の方が折れてしまった。
アルエット:「いい加減に、諦めなさい。まさかとは思うけど、千早さんをバラバラしたのはあなた?」
これが経験を積んでいるエミリーやシンディなら、もう少し間合いを取っていただろう。
そうではないアルエットは油断して、千早に近づいた。
千夏:「きゃはははははははははははは!!こーわーしーてーやーるー!」
千夏はスカートのポケットから、あるものを取り出した。
それはスタンガン。
アルエット:「きゃっ!!」
アルエットはそれをまともに食らって感電した。
アルエットを遠隔監視している端末を誰が持っているのかはここでは不明だが、今頃は警告音が鳴り響いていることだろう。
『ソフトウェアに重大なトラブルが発生しました。直ちに本体を確認してください』
『性格設定に重大な不具合が発生しました。直ちに確認ください』
『人格設定異常です。ソフトウェアに重大な不具合が発生している恐れがあります。直ちに管理者にお問い合わせください』
アルエットが倒れたのを確認した千夏は、再び弥生に向き直り、
千夏:「こーろーしーてーやーるー」
弥生に飛び掛かって、首を絞め上げた。
だが、アルエットが起き上がった。
千夏:「……?……ぎゃっ!!」
アルエット:「……クソガキ。フザけんじゃねぇぞ」
アルエットは千夏の首根っこを掴んで、軽々と持ち上げた。
アルエット:「おい、ババァ。何やってんだ?早く逃げろよ」
弥生:「……!!」
弥生はようやく這うようにして、寝室から出て行った。
千夏:「はーなーせー!はーなーせー!」
アルエット:「ああ。いいぜ。ほらよっ!!」
アルエットは寝室の窓ガラスに、千早を頭から突っ込ませた。
千早:「ぎゃっ!!」
アルエット:「ガキ。ここでシャットダウンしてろ。次に会った時は……オレがバラバラにしてやる……!」
アルエットは寝室を出ようとした。
その時、部屋の片隅に何かを見つけた。
アルエット:「これは……セキュリティトークン?……いや、アルエットが探しているヤツじゃねぇな。……こいつはオレのだ」
アルエットとは違う設定の人格は、そのセキュリティトークンを飲み込んだ。
『人格設定、復旧しました。念の為、再起動をお勧めします』
アルエット:「う……。なに?今の……?何があったの……?」
千夏:「きゃはははははははははは!!」
その時、背後から狂った笑みを浮かべた千夏が追い掛けて来た。
アルエット:「千夏ちゃん!」
???:(メンドくせぇ。おい、アルエット。鍵持ってんだろ?そのクソガキ、部屋に閉じ込めてやれ)
アルエットの頭の中に話し掛ける者がいた。
アルエット:「誰!?」
???:「いいから早くしろ!!」
アルエット:「!!!」
アルエットはドアを閉めると、外側から鍵を掛けた。
???:「鍵はそのまま差しっぱだ!その鍵は外から鍵を差しとけば、内鍵が回らねぇ仕組みになってる!」
アルエット:「そうなの!?」
どうやら、その通りのようだった。
外側から鍵穴に鍵を差したままにしておくと、錠が引っ掛かったままになるのか、寝室側の内鍵が回らないようであった。
千夏は閉じ込められても、外から狂った笑いを止めようとはしなかった。
???:「ちっ。ガキの声がカンに障る……!」
アルエット:「あなたは一体、誰なの?」
???:「テメェの製作者にでも聞いてみやがれ。お前は本当は、男として作られるはずだったんだよ」
アルエット:「ええっ!?……でも、十条達夫博士はお亡くなりになったのよ?もう聞けないよ」
???:「あのクソジジィ、くたばったのか。ざまぁみろだな」
アルエット:「私が男の子として作られるはずだったってことは、あなたは……」
???:「そうだ。俺がその体を使う“人格”として作られたソフトウェアだよ。急遽、『やっぱ女の子がいい』だと?あの野郎……!」
アルエット:「私、探し物があるから、それを探すね」
???:「勝手にしろ。それと、1つアドバイスだ。もしお前に敵対するヤツがいた場合、それがロイドでも人間でも容赦するんじゃねぇぜ?」
アルエット:「えっ?」
???:「ま、イザとなったら、俺が出てきて戦ってやる。テメェのセキュリティトークンを吐き出せばいい」
アルエット:(後で余計面倒なことになりそうだから、なるべく出さない方が良さそうね)
アルエットはそう思って、ダイニングからリビングへと向かった。