報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「呪いの家」 2

2016-09-04 23:21:08 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月29日21:00.天候:曇 宮城県仙台市泉区 佐久間家]

 アルエットは誰もいない佐久間家の中で、バラバラになった千早の残骸を発見した。
 残った頭部はアルエットの姿を見つけると、この家から逃げるように言い残して完全に壊れた。
 しかしアルエットは、この家からは出なかった。
 まず、肝心のセキュリティトークンの回収がまだだったし、それに……。

 アルエット:「開かない……か」

 玄関のドアは固く閉ざされていたからだ。
 どういうわけだか、内鍵も開かなくなっている。
 アルエットの力をもってしても、だ。

 アルエット:「外へ脱出するのは不可能、か……。それ以前に、セキュリティトークンを見つけない限り、任務完了とは言えないよね」

 アルエットはそう思って、再びリビングを通ってダイニングに向かった。
 すると、ダイニングの向こうの部屋から女性の叫び声が聞こえた。

 ???:「千夏ちゃん!もうこんなことはやめて!!」
 アルエット:「!?」

 アルエットは声のした部屋のドアへ駆け寄った。
 あの鍵の掛かっていたドアだ。
 いっそのこと、アルエットのマルチタイプの力を発動してこじ開けようか。
 そう思ったが、千早の部屋で見つけた鍵を差し込んでみた。
 そしたら、ドアが開いた。
 アルエットが部屋に飛び込むと、そこはベッドが2つ並んだ佐久間夫妻の寝室のようだった。
 アルエットの目に飛び込んできたのは、ベッドの上に座り込む中年女性が1人と、追い詰めるようにして包丁を突き付けている幼女の姿だった。
 アルエットのデータがすぐに、その2人を照合する。
 1人は佐久間弥生、そして包丁を持っている方は千夏である。
 千夏は包丁を振り上げた。

 アルエット:「やめて!」

 アルエットは咄嗟に、千夏に体当たり。
 ロイドとはいえアルエットよりも更に小柄な幼女のせいか、簡単に吹き飛んで倒れた。

 アルエット:「早く、ここから逃げてください!」
 弥生:「あ………ああ………!」

 アルエットが逃げるように言うも、腰が抜けているのか、立ち上がれないでいる。

 千夏:「きゃはははははははははははは!!」

 千夏は狂った笑いを浮かべると、立ち上がって包丁を構え、今度はアルエットに突進してきた。
 包丁がアルエットの右脇腹に突き刺さる。

 アルエット:「無駄よ。私はマルチタイプ。あなた達より、もっと頑丈なの」

 その通り、包丁の刃の方が折れてしまった。

 アルエット:「いい加減に、諦めなさい。まさかとは思うけど、千早さんをバラバラしたのはあなた?」

 これが経験を積んでいるエミリーやシンディなら、もう少し間合いを取っていただろう。
 そうではないアルエットは油断して、千早に近づいた。

 千夏:「きゃはははははははははははは!!こーわーしーてーやーるー!」

 千夏はスカートのポケットから、あるものを取り出した。
 それはスタンガン。

 アルエット:「きゃっ!!」

 アルエットはそれをまともに食らって感電した。
 アルエットを遠隔監視している端末を誰が持っているのかはここでは不明だが、今頃は警告音が鳴り響いていることだろう。

『ソフトウェアに重大なトラブルが発生しました。直ちに本体を確認してください』
『性格設定に重大な不具合が発生しました。直ちに確認ください』
『人格設定異常です。ソフトウェアに重大な不具合が発生している恐れがあります。直ちに管理者にお問い合わせください』

 アルエットが倒れたのを確認した千夏は、再び弥生に向き直り、

 千夏:「こーろーしーてーやーるー」

 弥生に飛び掛かって、首を絞め上げた。
 だが、アルエットが起き上がった。

 千夏:「……?……ぎゃっ!!」
 アルエット:「……クソガキ。フザけんじゃねぇぞ」

 アルエットは千夏の首根っこを掴んで、軽々と持ち上げた。

 アルエット:「おい、ババァ。何やってんだ?早く逃げろよ」
 弥生:「……!!」

 弥生はようやく這うようにして、寝室から出て行った。

 千夏:「はーなーせー!はーなーせー!」
 アルエット:「ああ。いいぜ。ほらよっ!!」

 アルエットは寝室の窓ガラスに、千早を頭から突っ込ませた。

 千早:「ぎゃっ!!」
 アルエット:「ガキ。ここでシャットダウンしてろ。次に会った時は……オレがバラバラにしてやる……!」

 アルエットは寝室を出ようとした。
 その時、部屋の片隅に何かを見つけた。

 アルエット:「これは……セキュリティトークン?……いや、アルエットが探しているヤツじゃねぇな。……こいつはオレのだ」

 アルエットとは違う設定の人格は、そのセキュリティトークンを飲み込んだ。

『人格設定、復旧しました。念の為、再起動をお勧めします』

 アルエット:「う……。なに?今の……?何があったの……?」
 千夏:「きゃはははははははははは!!」

 その時、背後から狂った笑みを浮かべた千夏が追い掛けて来た。

 アルエット:「千夏ちゃん!」
 ???:(メンドくせぇ。おい、アルエット。鍵持ってんだろ?そのクソガキ、部屋に閉じ込めてやれ)

 アルエットの頭の中に話し掛ける者がいた。

 アルエット:「誰!?」
 ???:「いいから早くしろ!!」
 アルエット:「!!!」

 アルエットはドアを閉めると、外側から鍵を掛けた。

 ???:「鍵はそのまま差しっぱだ!その鍵は外から鍵を差しとけば、内鍵が回らねぇ仕組みになってる!」
 アルエット:「そうなの!?」

 どうやら、その通りのようだった。
 外側から鍵穴に鍵を差したままにしておくと、錠が引っ掛かったままになるのか、寝室側の内鍵が回らないようであった。
 千夏は閉じ込められても、外から狂った笑いを止めようとはしなかった。

 ???:「ちっ。ガキの声がカンに障る……!」
 アルエット:「あなたは一体、誰なの?」
 ???:「テメェの製作者にでも聞いてみやがれ。お前は本当は、男として作られるはずだったんだよ」
 アルエット:「ええっ!?……でも、十条達夫博士はお亡くなりになったのよ?もう聞けないよ」
 ???:「あのクソジジィ、くたばったのか。ざまぁみろだな」
 アルエット:「私が男の子として作られるはずだったってことは、あなたは……」
 ???:「そうだ。俺がその体を使う“人格”として作られたソフトウェアだよ。急遽、『やっぱ女の子がいい』だと?あの野郎……!」
 アルエット:「私、探し物があるから、それを探すね」
 ???:「勝手にしろ。それと、1つアドバイスだ。もしお前に敵対するヤツがいた場合、それがロイドでも人間でも容赦するんじゃねぇぜ?」
 アルエット:「えっ?」
 ???:「ま、イザとなったら、俺が出てきて戦ってやる。テメェのセキュリティトークンを吐き出せばいい」
 アルエット:(後で余計面倒なことになりそうだから、なるべく出さない方が良さそうね)

 アルエットはそう思って、ダイニングからリビングへと向かった。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「呪いの家」

2016-09-04 10:14:35 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月29日20:00.天候:曇 佐久間家]

 アルエット:「えーと……住所だとこの家だね」

 アルエットは自ら入力された住所を元に、佐久間家へと向かった。
 実際、表札には『佐久間』と書かれている。

 アルエット:「結構、大きな家ね……。社長さんや平賀教授のお家もこんな感じなのかなー?」

 因みに敷島は、さいたま市内のマンションである。
 といっても、タワーマンションではない。

 アルエット:「えーと……」

 アルエットは門扉脇のインターホンを押した。
 ……だが、全く応答が無い。

 アルエット:「……?変ね。ちゃんと20時だって言ってたのに……」

 いくら夜でも、こんな時間ではまだ誰も寝ていないだろう。
 だいいち、家の中から明かりが漏れている。
 ちゃんと人の気配があるのだ。
 アルエットは、もう1度インターホンを押した。
 だが、やっぱり応答が無い。
 アルエットは門扉を開けた。
 門扉に鍵は掛かっていない。
 と、同時に周囲をスキャンした。
 すると、目(カメラ)には防犯センサーのようなものが映り込んだ。
 これだけ用心しているのだから、インターホンに応答してくれても良いものだが……。
 因みにあえてアルエットがそのセンサーに触れてみたが、特に何か反応するということは無かった。
 アルエットは侵入者扱いではないらしい。
 そりゃそうだ。
 ちゃんとこの時間に来るとアポ取って来ているのだから。
 アルエットは玄関まで行き、ドアをノックした。
 しかし、中からは何の反応も無い。
 玄関のドアを開けた。
 鍵は掛かっておらず、鍵は開いた。
 中を覗いてみると、やはり家の中は電気が点いていた。

 アルエット:「こんばんはー!8号機のアルエットです!佐久間博士、いらっしゃいますかー!?」

 だが、アルエットに返事をする者はいなかった。

 アルエット:「!?」

 気のせいか、一瞬子供の笑い声が聞こえたような気がした。

 アルエット:「お邪魔しますよー」

 アルエットが中に入ると、まあ玄関のドアは自然に閉まる。
 オートロックになっているのか、自動で鍵が掛かる音が聞こえた。
 ……これが戦闘データを蓄積しているエミリーやシンディなら、すぐに罠だと気づいただろう。
 戦闘データの蓄積、経験と言ってもいい。
 入る時は鍵が掛かっていなかったのに、自分が入ったら鍵が掛かるとはこれ如何に?……罠しか無いだろう、と。
 しかしそこまでデータが揃っていないアルエットは、ただ単にオートロックが掛かったとしか思わなかったのである。
 アルエットは靴を脱いで家に上がった。
 そして、スキャンを始める。
 7号機までのオリジナルタイプは、大まかに金属反応があるか生物反応があるかまでしか出ないが、アルエットは最新モデルの為か、もっと細かくスキャンできる。
 例えば……。

 アルエット:「? 千早さん?そこにいるの?」

 玄関からすぐのドア。
 その向こう側に、千早の反応があった。
 このように、既にデータとして保存されている人物と照合率の高いものであれば、そうだと分かるまでに性能が良くなっている。
 アルエットはそのドアを開けた。
 そこはトイレになっているようだった。
 ここの照明は切れていたが、アルエットは気にせず中に入る。
 暗視機能が付いているからだ。
 ただ、スキャンの時は緑色、暗視機能使用時は目が赤く光るので、知らない人間が見たら不気味である。
 その辺の改善が望まれているのだが、アルエット製作の時点では改善されなかったようだ。

 アルエット:「!!!」

 ロイドがどうしてトイレにいるのか、それがそもそも不思議だ。
 洋式便器の周りには赤黒いオイルがぶちまけられており、便器には右足だけが突っ込んだ状態になっていた。

 アルエット:「な、何これ!?」

 アルエットは急いでトイレを飛び出した。
 そして、すぐ隣の部屋に入る。
 トイレの隣ってのは、大抵浴室になっているもの。
 水回りが集約できるからだ。
 この家も例外ではなかった。
 脱衣所内をスキャンしてみると、洗剤とかが入っている棚に金属反応があった。
 そこを開けてみると、鍵が入っていた。

 アルエット:「鍵?何の鍵かな?」

 それを持って、次は浴室内をスキャンしてみる。
 またもや、千早の反応があった。
 中に入ってみると、今度は夥しい赤黒いオイルが飛び散っている状態であり、浴槽内には千早の首無し胴体が放置されていた。
 右足は既にトイレにある為、左足と右手が付いている状態である。

 アルエット:「な、なに!?何があったの!?」

 浴室から飛び出したアルエット。
 今度は1階の奥へ向かう。
 そこはリビングになっていた。
 部屋の隅にはデスクトップ型のPCが置かれていて、それは電源が入っていた。

 アルエット:「……?『セキュリティトークンを挿入してください』?セキュリティトークンって、あの……?まだ解析が終わってなかったのかな?」

 今度は更に隣の部屋に行く。
 そこはダイニングになっているようだった。

 アルエット:「!!!」

 そのテーブルの上にはオイル塗れの左手が置かれていた。
 しかもアルエットが入って来ると、ピクピクと動いている。

 アルエット:「千早さん!?」

 1:腕に駆け寄る
 2:腕を持ち上げる
 3:しばらく様子を見る

 しばらく様子を見ていると、腕は動かなくなった。

 アルエット:「千早さん……何があったの?」

 アルエットは更に隣へ続くドアを開けようとしたが、鍵が掛かっていた。
 浴室から持ち出した鍵を合わせてみようとしたが、合わない。
 どこか、別の鍵なのだろうか。
 1階の探索はここまでらしいので、今度は2階に上がってみることにした。

 2階に上がってみる。

 アルエット:「う……」

 スキャンしてみると、ある部屋から千早の反応があった。
 ドアを開けようとするが、鍵が掛かっている。
 浴室から持ち出した鍵、これを使うとドアが開いた。
 中に入ると、こちらは照明が点いているが……。
 机の椅子から反応がある上、その周辺にもオイルが……。

 アルエット:「千早さん……」

 椅子の上には案の定、千早の頭部が乗っていた。

 アルエット:「きゃっ!?」

 アルエットがびっくりしたのは、その頭部が動いて口をパクパク動かしたからだ。

 千早:「ニ……ゲテ……!コ……コ……カ……ら………ニ………ゲ……………テ…………………」

 プシューと煙と火花を散らして、千早は本当に壊れてしまった。

 アルエット:「何で、こんなことに……」

 その時、机の下からまた別の鍵を見つけた。
 形状からして、どこかの部屋の鍵のようだ。
 この家には、まだ鍵の掛かっている部屋がある。
 少なくとも、この家で何か緊急事態が起きた。
 佐久間公男や弥生がどうなったのかは分からない。
 家の外に避難したのかもしれないし、最悪どこかの部屋に隠れているかもしれない。
 それに、家の中に入った直後の笑い声。
 人間であれば気のせいとすることができるが、アルエットの場合はちゃんとメモリーに保存されてしまっているから気のせいではない。
 この家にいる子供と言えば、千夏しかいない。
 きっと、この家のどこかに隠れているのだろう。
 探し出して、見つけなければ。
 アルエットが回収するセキュリティトークンの場所も分からない。

 アルエットは鍵を持って、他の部屋を探索することにした。
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